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第二十六話 そして……

 

 ゴブリンを撃退してから暫く後。

 皆の協力もあり、なんとか馬車が再出発しようとしていた。

 最初に出発する馬車には、子供や老人、怪我人と看護する人が乗っている。


「トーニとカルロ、先導を頼む。それと御者(ぎょしゃ)よ、怪我人が沢山乗っているのでな、難しいとは思うが、急ぎつつも慎重に馬車を動かしてくれ」


 凛とした声でその場を仕切っているのは、驚いたことに女性の騎士であった。

 全部で五人の騎士がいるが、女性は彼女だけのようだ。

 板金のかなりの重装備で固めた鎧のせいか、下馬し兜を外すまでは女性だと気が付かなかったほど、体格も身のこなしも屈強な男の騎士に見劣りしていない。

 整った顔立ちに栗色の綺麗なショートヘアーがとても印象的だ。

 隙のない佇まいは正に武人のそれだ……女性ながら上官なのも頷ける。


 先程までこの場を、先頭に立って指揮っていたのは彼女だ。

 その適切で、きめ細やかな指示のおかげで再出発がかなり早まった。


「それでは隊長、先に出発します」


 二名の騎士が馬を翻して馬車の前と後ろにそれぞれに移動すると、怪我人を乗せた最初の馬車が出発していった。


「よし、次の馬車には全員が乗ってもらうぞ。荷物は全部、先程通りかかった臨時で徴収した荷馬車で運ぶ。その荷は我々が責任を持って王都まで護衛するので安心してくれ」


 女騎士の指示の元、全ての荷物を荷馬車へ全員で積み込んでから、二台目の馬車に手ぶらになった皆が乗り込む。

 ゴブリンの襲撃で、一台の馬車が大破したため、定員オーバーだ。この馬車には、二十名以上が乗り込んでいる。


 戦いの前、俺に少し絡んできた威勢の良かった二人組の男。

 随分と立場を悪くしたのか、一番居心地の悪い、端の方に追いやられて窮屈そうに乗っていた。

 肝心な時に戦わず、しかも逃げ出したからな……自業自得だろう。


 しかし……俺は乗れそうにないな。

 皆を優先的に乗せた結果、俺とダラクのおっさんと赤毛の冒険者のグローリアの三人は、乗る機会を失ってしまったらしい。

 どうしようかと思案している所、騎士同士の会話が耳に入ってきた。


「私はここに残る。これから派遣されてくる王都からの調査団との連絡や、後始末などを誰かがしなくてはならないのでな」


 その女騎士の言葉に、騎士の中では一番年上と思われる壮年の男が異を唱えた。


「いや、私が残ろう。このことは将軍と……直接、あの御方のお耳に入れねば……大佐のこともある。このゴブリン共の組織だった動き……例の件と関係があるのかもしれん。それに、この付近の警備が必要だろう? 街道警備のプランを応援部隊と詰めておくさ」


「……貴方の言うとおりです、ザット。私の口から直接、御二方にお伝え致します。それに大佐にも戻って来てもらわないとなりませんし……ではタリル――」


「いや、ここは私だけで良い。道中まだ何があるか分からん。まずは王国民の安全を優先せねばならんぞ?」


 女騎士はその壮年の騎士の言葉に頷いた。 恐らく、女騎士の方が階級は上の立場なのだろうが……単純にそれだけでは測れない、特別な関係性のようなものを感じとれる場面であった。


 馬車からあぶれる俺達を見て、全員が乗れないと判断したのだろう。

 女性の騎士が、自分達の馬の背に乗るように提案してきた。


「気持ちはありがてぇが、俺はパスだ! ポニーやロバならまだなんとかなるが、デカイ馬は、またがるだけで一苦労だ。しょうがねぇ、乗り心地は最悪だろうが、少しの辛抱だと思ってアレに乗ってくぜ」


 ダラクのおっさんは、笑いながらその場で臨時徴収した、荷馬車に乗り込んだ。


「……ドワーフは体の重心とバランス、体格等が乗馬に適していない事を失念していたな。特に大きな軍用馬なら尚更か。なら荷馬車で我慢してくれ。それでは……赤毛の彼女と白い髪の君は我等の馬に。それで良い?」


「ええ、私は馬に乗れるので問題ないです」

 グローリアは、笑って軽く頭を下げると、男の騎士の馬に、騎士の手も少し借りつつ、なんとか後ろに飛び乗った。


 壮年の騎士の一人は残る……ってことは、俺はこの女騎士様の後ろに乗るのか。


 どうする? と言った表情で、女騎士が俺を見つめているが、断る道理もない。

 しかも綺麗な女騎士の後ろだぜ?

 それに……あの荷馬車は乗り心地が悪そうだしな。


「乗馬は初めてに近いが……いいのか?」


「心配無用だ。しっかり鞍と私に掴まっていれば問題ない」


 サラブレッドよりも随分と体高があるな……その馬に手をやり、軽く勢いをつけると、意外と華麗に飛び乗ることが出来た。

 瞬間、女騎士から感嘆の声が漏れる。 

 だが、すぐに気を取り直しかのように凛とした声で叫んだ。


「では出立する! タリルは前を頼む」


 その声を合図に、赤毛の女を乗せた騎士タリルが先導し、全員を乗せた寿司詰め状態の馬車が、後を付いて行くように出立する。

 その後に、ガコガコと明らかに乗り心地の悪そうな荷物だけを積載した荷馬車が付いて行く。

 失敬、ダラクのおっさんも乗っていたんだったな……そのあまりの揺れに、おっさんの顔が後悔の色に変わっていくがわかる……。

 そして俺を後ろに乗せた女騎士が、最後尾を守るように続いていく。

 出立してすぐ、女騎士が俺に背を向けたまま話しかけてきた。


「ああ、名乗るのが遅れたね。私はテレシス王国騎士の『パメラ=フラーキ』だ」


「カジュウだ。それで肩に乗ってんのが俺の相棒のイン子だ」


「カジュウ、そして君の肩に停まっている猛禽類……その君の白い相棒だけど、遠目からだが、ゴブリン相手に戦っていたのを私は見ていたぞ。……その鷹は君の使い魔なのか? 残念ながら、私は魔道士ではないので、教えてくれると有り難い」


「いや、使い魔じゃないが、只の鷹ではないのは確かだ。まぁなんだ、説明が難しいんだが、決して悪い存在じゃないから安心してくれ、騎士フラーキ」


 俺の言葉に続き、イン子が肯定の旨を伝えるが如く甲高い鷹の声をあげる。

 その声に少し驚いたような表情を見せるが、暫くしてから彼女の質問が続いた。


「馬を乗る時にも思ったのだが、その身体能力……嘘は言わずに君の事を道中、色々話してくれると私としては有り難いのだが。それに報告も兼ねていてね。しかも君が王都に入るとなれば、尚更聞かねばならんのだ」


 一見質問のようだが……ある意味、強制的に話せって言ってる様なものだ。……仕方がない、俺は真摯に応えることにした。


「嘘は言わずに……か。別に隠すようなことは一つしか無いから安心しな」

「ほう? 一つあるのか?」

「ああ」


「……では聞こう、カジュウ……君はどこから来たのだ?」

「それが内緒なのさ」



 俺の言葉に彼女に緊張が走るのがわかる。

「……まぁ内緒というか、嘘を言わないで説明するとなると、逆に信用してもらえないんでね。だからといっちゃなんだが、それ以外なら全て真摯に答えるぜ」



 それから王都に着くまでの小一時間。質問攻めだったのは言うまでもない。

 最初は多少うんざりしたが、得るものも非常に多かった。

 パメラは騎士という立場もあるのであろう、最初はお硬い感じがしたが、打ち解けて行く内に、段々と会話の空気が変わっていったのがわかった。

 本来、彼女は優しい性格なのだろう。

 意外といっては失礼だが、お話好きらしく、俺が世界の常識に疎いと察したのか、王国のことを色々と説明してくれた。


 気がつけば逆にこちらが質問攻めをしている有様だった。


 テレシス王国。

 ガイア大陸の最南端に位置する国。

 そして、大陸一の小国らしい。

 小さな国だが、地理的に魔大陸から一番遠く、温暖な気候で食料も豊富。

 それに、大陸でも有数の鉱山を持ち、資源大国なのだそうだ。

 『オーク』の侵入を、一度も許していない国だとも言っていた。


 ここまでの話だけで驚きが色々あった。

 しかもオークか、実に嫌な単語だ。

 そして現在、ここテレシス王国は他の二つの王国と同盟を組み、三国同盟の一角として帝国軍と戦争中だということだ。

 同盟と結んでいる二国の王国の名前と帝国の名前は当然耳にしたが、色々と驚きながら聞いていたので失念してしまった。

 細かい地名等を覚えるのは、テレシス王国で世界地図を買ってからの話だ。

 それに当面、テレシス王国内での活動に限定したいってのもある。


「気になることはまだあるが……とりあえず君が冒険者になることをテレシス王国の騎士としても歓迎しよう、カジュウ」


「……ま、死なない程度にやっていくさ」



 気がつくと、大きな川が見えてきて、その川に沿って街道が伸びている。

 川には沢山の小舟が賑わっている、人もいっぱいだ。


「王都に沿って流れる、この川と良質の土のお陰で良質の泥が作れる。それをドワーフの技術で、安くて丈夫で南国の気候に適した、通気性の良い最良の煉瓦(れんが)が作れるのだ。だから王都の壁や建物は、大半は煉瓦造りなのだぞ」


「……へぇ、あそこにある煙の沢山出ている建物が煉瓦精製場……工場か?」


「そうだ、煉瓦作りには一部、沢山の子供達も仕事に関わっているのでな、その横に教会が出資して作った、月学校(つきがっこう)もある」


「子供たちも働いているのか? それなのに学校が?」


「ああ、アリーナ教会が作った表向きは学校だが、実際は宿舎みたいなものさ。普段は格安で最低限の食事と寝床を提供している。煉瓦工場で働く、主に親のいない子供達の最後の駆け込み場所だ」


「戦争を避けて北から流入してきた土地を持たない難民達が多くてね。壁の外は危険なのだが……税を納める金も惜しむのだろう」


 黙って聞いている俺を見て、更にパメラが説明してくれる。


「難民だけの問題でもないのだ。王都からあの場所まで通う子供も多い。単純だが、意外ときつい作業には、よく働き、しかも安く使える子供が欠かせないようでな……親の意向もあり、国も黙認状態といったところだ」


「……騎士フラーキ、義務教育という言葉をどこかで聞いたことがあるか?」


「そのような言葉は初めて聞いたが?」


 ま、仕方ないんだろうな。




 順調に王都に進む中、俺の背中から何やら音がする。

 壊れていたはずのスマートフォン。

 先程から聞こえる電子的なその音は、スマートフォンの着信音。


 恐る恐る、画面を見る……が、ノイズが走っているだけだ。


 なんだ……嫌な予感がする。

 だが、勇気を出して俺は電話に出る。


「……もしもし?」


 ギギギギと不快な音が流れる。

 その後に聞こえる……恐ろしい声。




「ツイニ……ミツケタゾ! 雷一族!」



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