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第二十五話 勝利


 一匹だけ撃ち漏らしたか……こいつは攻撃範囲の外にいたのか。

 閃光だけは避けられなかった様だ。

 視界をやられ顔を抑えながら、甲高い悲鳴のような声をあげているゴブリンに、俺は左手の甲を上にしたまま人差し指を向ける。

 そして、親指を引き金を引くような感覚で動かすと、人差し指から放たれた、一点に凝縮された雷撃が、乾いた音を放ちながらゴブリンに命中した。


「ふぅ、しかし……威力を抑えたつもりだったんだが」


 襲撃される直前に感じた違和感。

 恐らく、あれがゴブリンが放つ『邪気』というものなのだろう。


 その邪気を、多少なりとも感じとれるのが先の戦闘でわかったので、煙を出して目の前で転がっているゴブリン達の『邪気』を探ってみる。

 うん、全部死んでしまっているようだ。


 先程の広範囲で放った雷の攻撃。

 まずは威力を抑えて、敵を感電させる。

 視界も奪い身動き出来なくなくなった所を、指から放つ雷撃で一匹づつ倒す練習をするつもりだったのだが。


 その過程でもう一つ、試したい雷撃もあったってのにな……どうやら最初の一撃が、俺の予想以上に効いてしまったらしい。

 ……雷の力が通りやすいのか? 会心の一撃のような感覚だった。

 まだまだ力の加減の練習が必要だ。これでは、殺したくない相手がいる場面で力が使えなくなってしまう。


 色々考えていると、イン子が優雅に俺の左肩に飛び乗ってきた。


【実に見事】

【ああ、だが視界を奪って敵を気絶させるか、動けなくするだけのつもりだったんだけどな……まだまだ威力の調整が必要だ】


【もっと素直に喜ぶがよい。結果を大事にせよ。敵意ある魔物相手の初の実践だったのじゃ。逃げ惑う『だいあ虫』とは違うのだからの。それに、威力が弱くて倒せなかったのでなく、御主の力が強すぎたのじゃ。逆なら落ち込むのも構わぬが】


 結果を大事にせよ、か……そうだな。

 俺は感謝の意味も込めて、イン子の翼を指で軽く撫でる。


【雷力の回復も問題ないようじゃな】


【今の威力なら何発撃っても平気そうだ】


【やはり体内で雷力を即座に生成してるの、たいしたものじゃ】


【そうか……やっぱり太陽光でか?】


【それもあるが、飯を食うて寝ても、息を吸うて吐いてもよ。全ての行為が雷力を生みだす体になっておる……それにくれべて妾は……ほんに情けないが羨ましい限りじゃて】


【霊力が殆ど回復しない呪いだったっけか……それもいずれ解決しないとな。まぁ元気出せって】


 落ち込んでるな……よし、そうだ。


【そういえば今の技、まだ名前がないな】


【の……のぅ、先程のあの技の名前を決めてないのじゃな? ならば妾に任せるがよいぞ、うむ! 楽しみにしておれ】


 別に楽しみじゃないが……まぁ少し元気がでたなら、それでいいか。


 俺は踵を返し、ゆっくりと坂を歩いて登っていく。

 ん? 坂の上でダラクのおっさんが、目をしかめて片膝をついている。

 あの距離でも閃光が影響したのか?

 急いで駆け寄り、声をかける。


「お、おいおっさん、大丈夫か?」


 駆け寄る俺に心配するなという意味合いで手で制し、何度も頷いている。


「だ、大丈夫だ……だが、こういうことは先に言ってくれ!」


「す、すまねぇなおっさん。この距離なら昼間だし、平気だと思ったんだが」


「人間には平気かもしれねぇが、俺達ドワーフには『暗視能力』があるんだよ……この距離で、あの眩しさはあり得ねぇ……あの眩しさはあり得ねぇぞ」


 ダラクのおっさんは目頭を抑えて、顔をしかめながら目をシバシバさせている。

 悪いことをしちまったな。しかし、ドワーフには暗視能力があるのか……。


「本当にすまねぇ。おっさんに暗視能力があるなんて知らなかったんでな」


「そんなことより、あの光は一体なんなんだ? お前が群れの真ん中に飛び込んでった後……なにやら打ち付けるような激しい音がしたと思ったら、急に眩しくなりやがって……そこから先は何も見えなかったぞ」


 別に隠すつもりはなかったが、幸運にも雷能力を悟られずに済んだようだ。


「だがあれを……全部小僧が倒しだんだよな? あの一瞬で」


 ダラクのおっさんは、目を凝らしながら、動かないゴブリン達を見つめている。


「ま、俺の隠し玉の一つだ。凄えだろ?」


 とりあえずは、適当に誤魔化ておこう。


「隠し玉? 言葉の意味がわからんぞ? ケッ、その発音といい、本当に謎だらけの小僧だな……謎だらけの小僧だが、凄えってことだけはわかった」


「そいつはどうも。王都じゃ武器はおっさんの世話になるからな、そのうち俺の謎なんぞ、すぐに無くなるさ」


「一応、生命の恩人ってことになるな。俺でも何匹かはやれただろうが、無傷で済んだかどうかは別だ。礼を言わしてもらう。それに最後の高度な駄洒落……最高だったぞ、謎なんぞってよ……クッ、ダハハハハ!」


 ゲラゲラと笑いながら、差し出してきた手を力強く握る。

 俺達は二度目の握手を力強く交わした。

 勝手に駄洒落認定されて、しかも大ウケなのが予想外なんだが。

 笑いの沸点が実に低いおっさんだ……。


 暫く俺達の様子を見ていた赤毛の女が、恐る恐る声をかけながら近寄ってきた。


「あ、あのー? ゴブリン達は逃げ出したんですか? あそこからだと坂下が良く見えなくて……あの光は一体って――えっ?」


 赤毛の女は、坂の途中で全滅しているゴブリンを見て呆然としている。


「え? あれ? でも……え?」


 呆然としながらも、俺の顔やダラクのおっさんの顔を交互に見てくる。

 この光景を見て、驚いているのは私だけなの? と言わんばかりの表情だ。


「み、見てきても?」

「どうぞ、死んでるから安心しな」


 赤毛の女は小走りに坂を降りていく。


「小僧――いや、カジュウ。お前さん冒険者になるんだろ?」


 坂を降りていく赤毛の女を見ながら、ダラクのおっさんの口が動く。


「ああ、そうするつもりだが」


「なら、耳が要るぜ。討伐証明部位なんだが……知ってたか?」


「知らなかった……証明に耳が要るのか?」


「……やっぱり知らないと思ったぜ。ナイフも持ってないようだし、ちょいとここで待ってな。ついでだ、俺がやってきてやる」


 ダラクのおっさんは自分の両手斧を、重いぞ? と言ってから俺に渡し、自分は腰から小型ナイフを取り出すと、赤毛の女に続いて坂をゆっくりと降りていった。


 おっさんは、死んでいるゴブリン共から、耳をナイフて削いで袋に入れている。

 赤毛の女、はゴブリンの死体をつぶさに観察していたが……途中からは、自分のナイフで耳集めを手伝ってくれている。


 その間、ダラクのおっさんから渡された斧に興味が湧き、少しいじってみる。


 柄も含め、全体が黒く輝く金属で出来ており、飾り気がなくシンプル。

 それなのに、とても高そうに感じる。

 重厚感があるといえばいいのだろうか。

 武器の良し悪しは詳しくないが、これは一目で良い物だとわかる。

 重さは……先程使っていた槍よりも、数倍以上は重い。

 重いといっても、あの槍が軽すぎたので、むしろこれくらいが丁度いい。

 左右に斧がついているタイプだ……切れ味も凄そうだな。

 長さはやや短い。百センチ……ないな、八十センチ位だろうか。

 ドワーフのおっさんは背が低いためか両手で持っていたが、俺だと重さ的にも長さ的にも片手で持つ方が良いだろう。


 右手に持ち、軽く振ってみる。

 向きを変え、切る方向を変え、色々試す。

 お? こう振ると……手首に力をもっと入れないと……こうか?

 おお! 今のは良い感じだったな……振る速度を上げてみる。

 斧を振る度に空気を裂く音がし、それが耳に心地いい。


 最後に思いっきり斜めに振るう。

 ……我ながら見事に決まった。


 武器を振るう間は、離れて見ていたイン子が側に近づき、そして褒めくれた。


【やはり御主は剣筋がよい。少し励めば更に良くなろう】


【そいつはどうも……なぁイン子、今度女天狗になった時に剣でも槍でも……何かの稽古をしてくれないか?】


【ん? 妾と? 別に構わぬぞ】

【へへ、悪いな。楽しみにしておく】


【雷力が溜まっておる『だいあ石』、今は一つだけじゃったか?】


【ああ。今、他の石に力を充電中だ】


【何があるかわからぬ。暫くそれは温存しておくとして……稽古は予備の分が溜まってからじゃの】


 斧を振り終えて満足していた俺の肩に、イン子が戻ってくる。

 二人も戻ってきていたのか、ダラクのおっさんが驚きの声をあげた。


「……カジュウ、お前その斧を片手で……あんな音出して振ってやがったのか?」


「おう、良い斧だな。一目でわかったぜ」


「そいつは『ドワーフ鋼』だぜ……俺達でさえ両手で扱うんだがな」


「そうなのか? だが、片手で丁度しっくりきたんだが……」


「お前の武器を見繕うのが楽しみになってきたってもんだ――っとほれ、ゴブリンの耳だ。持っていきな」


 ダラクのおっさんが、ゴブリンの耳が詰まった布袋を俺に手渡してくる。


「わざわざすまねぇな、おっさん。それと赤毛の姉ちゃん、あんたも手伝ってくれていたな。ありがとな」


「あ、いや! 私はその……こちらこそゴブリンを退治し、皆を助けてくれて感謝しています。本当にありがとう!」


 赤毛の女が手を出してくる。

 俺はその手をしっかりと握り返す。

 やや長めの赤毛の若い女性。

 鼻筋が通っており、よく見ると端正な顔立ちをしている。

 ふーん、結構綺麗じゃないの。

 だが、握ったその右手は、女性にしては多少硬くなっている。

 ……やはり、何かの使い手だろうな。


「貴方……お名前を伺っても?」

 赤毛の女が探るように聞いてくる。


「……そういう場合、まずは自分から名乗るものだぜ、覚えておきな嬢ちゃん」


「……それは失礼。コホン、私は冒険者の『グローリア』よ。こう見えて、王都じゃ若手のホープとして結構有名なのよ? 是非覚えておいてね」

 ……成る程。


「俺は、冒険者予定のカジュウだ、そのうち超有名になるから覚えておきな」


 その言葉に、グローリアは目をまん丸くして驚きの表情をする。


「フフッ、貴方面白いのね。それに冒険者になるなら私の後輩よ? 忘れないように」

 

 グローリアは悪戯っ子のように、軽く下を出した。


「……ま、一応覚えておいてやるよ」


 三人で健闘を称えた後、襲われた時の状況等を話しながら馬車に戻っていく。


 道が丁度広く開けた場所に、二台の駅馬車が集まり、怪我人を看病したり、話し合ったりしているようだ。

 そんな中、俺達が乗っていた馬車の乗客達が不安そうにこちらを凝視している。


「てめぇら! もう安心だぁあ!」


 その不安と沈黙を、ダラクのおっさんのしゃがれ声が、皆を大歓声に導いた。



 やはりというか、当然の如く被害が出ているようだ。

 転がるゴブリンに混じり……人間の死体も確認出来る。

 少し強くなったからって、自惚れないようにしなくては。

 ……俺だって全員を助け出せるわけじゃねぇんだ。

 精一杯やった結果だ、今は自分の出来ることをすればいい。

 俺は死んでいった者に手を合わせる。



サロの町を最初に出た一台は、どうやら馬もやられており、車体の損害激しい。

 助けに現れた騎士らしき人達も、動ける乗客と一緒に色々と手伝っている。

 死んでしまった馬車の馬や、破損した車体、ゴブリンの死体等を片付け、道を開けようとしているようだ。


 さてさて、早く王都に行きたいが……その前に後始末だな。

 俺達は再度馬車で出発するためにも、復旧作業に手を貸すのだった。



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