表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/29

第二十一話 馬車の旅

 

 サロの町へ向かう馬車は、順調に進んでいる。

 車体が木製のため、多少ガタガタするが仕方ない。

 街道といっても舗装されておらず、突き固めた土の道だ。

 港町周辺は道の状態が悪く、揺れが酷かったが大分マシになってきた。

 以外にスピードがあり、歩いてる人や荷馬車等をどんどん抜いていく。


 いずれ自分の馬を買って旅をすることもあるのだろうか。

 立派な馬を見ていると、つい欲しくなってしまう。

 よし……決めた。王都で乗馬の練習をするぞ。


 二十人近く乗れる馬車、今の乗客は全部で十二名だ。

 壮年の男二名と老齢の男女四名。

 上流階級を思わせる、小奇麗な老夫婦二名。

 若い夫婦と幼い娘の三名、そして俺だ。

 乗務員は二名。

 馬車を動かしているおっさんの横に、若い手伝いの青年が座っている

 今日はとても気温が高く、皆は暑そうにしている。

 壮年の男二人なんかは、上半身裸になって涼んでいた。


 腰にくくり付けてある瓢箪(ひょうたん)を取り出し、水を口に運ぶ。

 ……ふぅ、冷たくて美味い。

 井戸水から汲んだ時の冷たさを、今も不思議と保っている。

 しかも、永遠に満杯にならないとか、どんだけ高性能なんだ。

 宝具と言ってたが……この瓢箪、本当によいものだ。


【妾にも水を】


 イン子が俺の肩に掴まりながら、器用に水を飲んだ。

 それを見ていた、五歳位の栗毛の少女から驚きの声があがる。


「わぁ! とりさんが、おみずをおいしそうにのんでる!」


 無垢な瞳で少女が質問してくる。


「おじさんのおともだちなの?」

「……な」


 ぐっ、おじさん……二十四歳でおじさんとは。

 子供からしたら、大人の男はオジサンなんだろうが……。

 子供は純粋……悪意がないからこそ突き刺さるぜぇ。

 頑張れ俺、笑顔で対応だ。


「……ああ、お、おじさんのお友達なんだ」


「へぇー! やっぱりおともだちなんだ!」


 少女は目を輝かせ、下まで届かない足をパタパタさせている。

 両親が大慌てで、すみませんを連発しているが、俺は目線と手の仕草で問題ない旨を伝える。

 意図が伝わったらしく、両親もホッとしているようだ。


 両親が予想以上に恐縮しまくってたが……なんでだ?

 別に何かしたわけではないはずだが。


【ぷっ! くく、 お、御主の悪人顔が問題じゃ】


 念会話で、イン子がケラケラと笑っている! クソが!

 ……だが、冷静に考えるとその通りだ。

 筋骨隆々の悪人顔が、猛禽類を肩に乗せてるんだ……そりゃ、幼い子供連れの親なら警戒するか。

 ……悲しい自己分析だ。


 それから暫く過ぎた頃、休憩地点と思われる場所で馬車は停まる。

 そこには馬小屋らしきものがあり、馬はそちらに運ばれていく。

 乗客は降りて休んだり、備え付けのトイレを使用したりしている。


 木陰にある椅子に腰掛け、干し肉とトマトを口に運ぶ。

 イン子にもトマトを渡す。

 いつも美味そうに食うな……相当トマトはお気に入りらしい。

 次の町でも見かけたら買っておくか。


 暫くして再出発……よく見ると、馬の毛色が変わっている。

 どうやら、先程の休憩場所で馬が交代したようだ。

 銀貨一枚の乗車賃は高いと思ったが、馬を変えるコスト等を考えると妥当なところだろう。


 運転手助手の話では、日の暮れる頃にはサロの町に着くとの事だ。

 サロの町から、王都に向かう夜の便は出ていないので、最低でもサロに一泊しないと駄目らしい。

 急ぎなら町で早馬を雇い、夜道を駆けることも可能らしいが……。

 別に急ぎじゃないしな、サロで一泊してから王都に向かうまでさ。

 特にやることがないので目を閉じる。



【加重、町が近いぞ】


 馬車から少し身を乗り出すと、町の明かりが見えてきた。

 辺りは暗いが、馬車はサロの町に到着した。



 サロの町。王都と繋がる中継地点、どうやら宿場町のようだ。

 港町パールより随分と小さいな。

 小さいなりには、町の守りは確保できている。

 町の中は宿屋が乱立していて、店の人間が旅人に声をかける。


「ウチに泊まっていってくれよ旦那! 素泊まりだけだがお得だよ!」


 俺にも何人もの声がかかるが、建物がボロボロなので無視。

 町の中心付近に、とても立派で清潔そうな宿屋を見つける。

 どうやら宿泊専門の宿屋のようだ。


【イン子、ここに決めた】


【ウム、部屋が決まれば窓から顔を出すがよい】


 話が早くて助かるぜ。

 俺はイン子に感謝をしてから靴の泥を落とし、宿屋に入る。


「個室で一泊したい。馬はいない」

「個室一泊で銅貨五十枚です。朝にパンとチーズ、ミルクをサービスさせて頂いております」

 銅貨五十枚か、問題ないな。


「窓の外に、花壇が置いてある部屋が空いてれば嬉しい」


 色々な説明を受け、部屋に通される。

 六畳位のスペースに、清潔なフカフカのベッド。

 そして、鍵付きの貴重品入れのチェストがある。

 窓を開けて体を乗り出すと、イン子が窓にある花壇のスペースに停まる。

 早速、外の井戸水で汗を流し、店の主人から聞いたオススメの酒場へ向かう。


 酒場は大盛況のようで、店内は人だらけだ。

 辛うじて確保出来たカウンター席に座り、エールを二杯注文して、この町までの無事を祝い、乾杯した。

 店内はメニューが見にくいので、俺は大きく書いてある店のオススメ料理の『ドードーのスパイス揚げ』を、イン子にはチーズとトマトのオリーブオイル掛けを注文する。

 そしてパンを一個頼み、二人で分け合う。


 驚くことに『ドードー』とは、あの『ドードー鳥』のことらしい。


 馬車の旅の途中、飛べそうもない体型の鳥を通りかかった時に見かけてはいた。

 だが、それがあのドードー鳥とは思わなかった。

 ……みたことのない鳥だとは思ったが。


 隣のおっさんと仲良くなり、怪しまれずに聞き出してみたが、鳥といえば、ドードー鳥が一番有名らしい。

 生命力に溢れ、飼育も簡単。

 安くて美味い上に、繁殖力も優れているとのこと。

 羽も骨も活用出来る、正に捨てるところのない完全無欠の存在。

 ……繁殖力が優れているとは驚きだ。

 俺達の世界では全滅した鳥なんだが……皮肉なもんだ。

 味はニワトリよりも野性味溢れる感じはしたが、スパイスが塗り込んであるせいか十分美味しかった。


 酒と食事を十分満喫し、店を後にした。

 慣れない馬車の旅のせいか、宿に戻るとすぐ寝てしまった。



  聞き慣れた鐘の音が耳に響き渡り、目を覚ます。

 鐘の音は、港町パールと同じようだ。

 一階に降りてトイレや洗顔を済ませ、お茶を頼む。

 暫くすると、お茶と朝食が運ばれてきた。

 さっさと食事を済ませ、急いで宿を出ることにした。


 道中、露天の店でトマトとリンゴを二個ずつ購入し、駅馬車の待つ町の正門前に向かう。


 正門前には駅馬車が何台も停まっていた。

 他の町に向かう馬車もあるのだ、間違えないようにしないとな。

 王都方面へ向かう馬車は一番人気らしく、既に馬車は満員だ。


 出遅れたか?――お、あれも王都行きだ。

 王都方面に向かう馬車は、朝の便だけで三台あるらしい。

 二台目の馬車に駆け寄るが、こちらも既に満員だ、ヤバイぞ。

 慌てて三台目の馬車を探す……おお、あれは乗れそうだ!


 乗り込む前に金を払う……この区間も銀貨一枚だった。

 向かいの席には昨日同様、見知った上品な老夫婦が乗っていた。

 昨日は特に話すことはなかったが、お互い軽く挨拶をし、相変わらず座り心地の悪い長椅子に座って、出発を待つことにする。


 席も全部埋まり、いよいよ出発という時、どうやら乗れなかった若い男二人が、馬車の運転手に詰め寄っているようだ。


「おい、乗せてくれ! これに乗れなかったら午後の便になっちまうよ!」

「なぁ、頼むぜ! 詰めれば、後二人くらい乗れるだろ?」


 強引な交渉の結果、屋根の荷物置き場に乗せてもらえることになったようだ。

 だが、男達二人は屋根には登らず、気の弱そうな二人組の客を席から追い出し、自分たちはその席につく。

 席を取られた二人組は、渋々屋根に上がっていった。


 ……やれやれ、どこの世界にも胸くそ悪い奴は存在するらしい。

 軽く気分を害したので、周りの様子を眺めることにする。

 見ると、どうやら先に二台目の馬車が出発するみたいだ。

 その馬車から、少女が俺の方に向けて手を降っている。

 あれは……昨日馬車で一緒だった少女か。

 若夫婦も乗っているな、やはりあの家族も王都に向かうようだ。


 照れくさいが、軽く手を上げて応える……俺は紳士だからな。

 少女は満面の笑顔を見せ、更に勢い良く両手をブンブンと振ってきた。

 ……荒んだ心に一服の清涼剤とは、このことだな。


 少女の乗る馬車が動き出し、早速町を後にした。


 お、続けてこちらも、すぐに出発するようだ。



 次はいよいよ王都……楽しみだぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ