表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

第十九話 駆け引き

交渉のシーン、加筆しました。

 

 未開の地の果物。

 この言葉に、二人は狼狽しているようだ。

 半信半疑と言った表情。

 だが、現実に見たことのない果物があるのだ。


 マルタポーレは、真剣な目で俺を見ている。



「カジュウさん、貴方の鋭い目付きと体つきを見れば、只者じゃないのはすぐにわかります。その発音に日焼け一つない体……もしや、最北の地から来たのでは?」


「…………」

「失礼……ながら申し上げますぞ。その神聖な形の果物……私の知る限り、このガイア大陸に存在しないものだ。先程、未開の地の果物と仰っしゃりましたが、最北の地……魔大陸(またいりく)の物ではありませんかな?」


「この神聖な形の果物が、あの穢れた地に?」

 ハッシがその言葉に反応し、議論しあっている。


「まぁ二人共聞けよ、俺は日焼けしない体質なんだ。だから寒い場所から来たってわけじゃねぇのよ」


 マルタポーレから、カットしてある一粒を返してもらうと、それを手の上で転がしながら更に聞いてみる。


「その最北の地ってのは、そんなに寒いのかい?」


「ええ、常に気温はマイナスです。ここから遥か北……このガイア大陸に仇なす、穢れた極寒の地ですぞ」


 マルタポーレは実に丁寧に教えてくれた。


「この実は魔大陸の物じゃないぜ。コイツはな、温暖な環境でないと育たないのさ……さて、今日は貴重な情報をありがとな、助かったぜ」


 そう言って全部の実を袋に詰めようとした。


「ま、待って下さい! 私は敬虔な信徒でして、その……アリーナ様の信仰の証を知らないと仰られたので、ついぞ失礼な態度を! このマルタポーレの無礼を、どうかお許しくだされ!」


 おっさんが汗だくで、しかも鼻水を出しながら俺にしがみついて謝罪してくる。

 うお! 鼻水がズボンに付いちまった。


「そ、そんなに気にするな、別に怒っちゃいねぇよ」


「しかも! 貴方が悪人顔で恐ろしいなどと失礼な事も! 今朝など怖さの余り、ついつい寝たふりをしてしまいましたよ、ええ!」


 ん? 悪人顔で恐ろしいなんて言ってたか?

 さては心に思っていたことを口にしたな、コイツ。

 しかし……ここまで謝られると逆に困るな。

 そんなことよりも、ズボンに付いた鼻水の件を謝罪してほしい。



 空気が微妙になったので、あらためて乾杯し直した。

 マルタポーレが、何気ない感じで話を切り出してくる。


「カジュウさん。その果物、宜しければ買い取りますよ」



 ついに来たぜ……ずっと待ち望んでいた言葉がな。



「……こいつを?」


「確か港の仕事をしているとか。それならば、お金にお困りでしょう? 私で宜しければ、お役に立てますよ?」


 俺は腕を組んで両目を瞑り、思案しているかのように見せる。


 さてさて、どうしたもんかね。

 今の俺は圧倒的に有利。

 わざともったいぶるのも、駆け引きの一つだ。


 一旦目を開け、マルタポーレを見つめるが、おっさんは笑顔を見せている。

 ……やはり、このおっさんは根っからの商人だな。

 少しでも安く買い取ろうとしているのだから。



【中々の狸だな、このおっさん】


【フッ、商人(あきんど)とは、そういうものよ。先程の見事なまでの狼狽ぶり、アレも芝居じゃろう……それにこの感じ……妾の知っておる商人になんとなく似ておるわ】


【へぇ、なんていう名の商人なんだ?】


【確か『二郎三郎』――む? あやつは影か……おお! 『四郎次郎』とか名乗っておったの。ソヤツに雰囲気がそっくりじゃ』


 なんだ? 太郎次郎みたいな繋がった変な名前は……双子か?

 まぁいいか、トル○コの名前が出なくて少し安心した。



 気がつくと、マルタポーレが様子を伺う風の表情を見せている。

 俺の言葉を、今か今かと待っていたようだ。


 イン子としていた『念会話』が、良い感じの()になったようだ。

 表情には出さないが、マルタポーレのおっさんは、少し焦ってみえた。


 別に狙ってやったわけじゃないが……結果オーライだな。


 俺はわざと口元を緩め、ニヤリとしてみせると、袋に入っているスターフルーツの実を取り出す。


 青い色のまだ熟していない実を二つ、熟して黄色くなった実を五つ。

 袋から出してテーブルに置いた。

 そして、数十個のカットした星型のドライフルーツ。

 これは数が多いので、袋から出さずに広げてみせる。


「ふむ、これで全部ですかな?」


「そう、全部で七つだ。後は乾燥させたものが一握りって所か」


 ズイッとマルタポーレがにじり寄ってくる……顔が近い。


「この果物はとても珍しいので、一つ銀貨一枚、乾燥した物が銀貨一枚。全部で銀貨八枚ですが……オマケで銀二枚追加しまして、全部で銀貨十枚……ようするに金貨一枚ですな。その果物、金貨一枚で買い取りましょう。どうでしょうか?」


 金貨はやはり存在し、銀貨十枚で金貨一枚の計算か、成る程な。

 ……泥さらいを一日やって、通常の賃金が確か銅貨七十枚。

 銅貨は百枚で銀貨一枚分だから、泥さらいの仕事以上の額だ。

 果物一つに銀貨一枚。確かに高額なんだろう……が。


 俺は袋から、ドライフルーツの一つを指でつまむと、手招きする。


 マルタポーレのおっさんは、更に顔を近づけてくる。

 ついでにハッシも顔を近づけてくる……まぁいいが。


「なぁ、この中央に……種があるのがわかるか?」


 真ん中を爪でこすると、小さな種が何個か出てきた。


「確かに……種ですね」

 二人は何度も頷いている。


「……つまり?」

 俺は首を傾げて言葉を促す。


「つまり?」

 ハッシが俺の言葉をくり返して首を傾げる。


「……これを植えれば、ですな?」

 マルタポーレがそれに答えると、意味を察したのかハッシが息を呑む。


「実がなるまで、四、五年かかるだろうが……ま、仮に植えたらの話だが」


 マルタポーレは大きく溜息をつくと、意を決したように表情を切り替える。


「参りました……カジュウさん、私の負けです。是非それを私に売って下さい!」


 ……勝った。

 心の中で激しくガッツポーズをとる。

 しかし、思ったよりも諦めが早かったな。

 マルタポーレは懐を探ると、綺麗な刺繍が入った袋を取り出して、辺りを確認してから、袋の口を少し開けてみせる。

 中には、金色に輝くコイン……この世界の金貨だ。


「今お渡しできるのは金貨五十枚です。明日からの商いに必要ですからな。帰る日を入れて……そうですね、十日後以降に王都に来てくだされば、更に金貨五十枚。……全部で金貨百枚! 必ずお支払いします。私は王都の商人ギルドに登録しているのでご安心を」


 マルタポーレは、自分の左胸に付けている黄色のバッジを指指す。

 ま……見たところでわからんが。


「なんと……き、きき金百枚とは!」


 俺の代わりにハッシが驚いている。

 絞り出すような声で、マルタポーレが質問を投げかけてきた。


「……カジュウさん、一応聞いておきますが、この果物を既に他の商人に見せたり、売ったりはしてませんよね?」


「ああ、他人に見せたのも初めてだ。当然、売るのも初めてってことになるが――だが、マルタのおっさんよ。俺が誰にも売っていない、と言った所で嘘かもしれないぜ? それでも買うのか?」


「勿論、買わせていただきます。この果物が市場に出回っていないのは事実ですからな。リスクは承知の上。もし嘘だとしても、成功時の儲けを考えれば……これも投資ですよ」


「果物に金貨百枚とはね。交渉してる俺が言うのもなんだが」


「……正直に申し上げますと、もっと高値で買う商人もいるかもしれません。それほどの可能性を秘めているのですよ、その果物は」


「それなら、おっさんに売らないほうが得ということになるな」


「最初、足元を見て値切った事を後悔しています。貴方は自分の事を田舎者だと言っていましたが……どこかで高等な教育を受けましたな? お許しを、少しでも安く買い、高く売るのが商売の基本……ですが思ったのです。神聖な果物を、騙すような形で手に入れて良いのだろうかとね」


「…………」


「確かに他の商人に売るのも手ですが……金貨百枚は決して安くないと考えています。是非、私に売って下さい! この果物を栽培して、世に広めたいのです!」


 マルタポーレが頭を下げている。

 金貨百枚、確かに高額だ。

 他の商人に売ってもいいが……正直に話した、おっさんが気に入った。

 それに、最初は売るつもりなんてなかった、ただの果物が金貨百枚。

 既に答えは出ているが……俺はイン子に目を向ける。


【上出来じゃ】


 イン子のお褒めの言葉をいただき、俺は立ち上がって右手を指し出す。


「いいだろう、取引成立だ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 俺とマルタポーレはガッチリと握手をした。



「一つだけ言っておく。あんたら、この星型果物(スターフルーツ)を見たことないと言ったな?」


 突然の俺の言葉に、マルタポーレのおっさんが真顔になって頷く。


「それを裏付けるってわけじゃないが、この大陸に存在しない果物……聞くが、この大陸の外……あの赤い海の先は、どうなっている?」


「死の海の先ですか? どうなっているも何も。ご存知の通り、世界は我等が住む『ガイア大陸』と、北の異界の『魔大陸』だけですよ。あの海を渡る事は不可能です、死の瘴気もありますしな」


 成る程、やはりそうか。


「人は確かに海を超えられない。そこでだ、この白い鷹……コイツがある日、見知らぬ実を、口と足に持って『瘴気』を越えてきたと言ったら……信じるか?」


 ハッシとマルタポーレは、イン子から目を離せなくなっていた。


「こいつは俺の相棒と説明したはず。俺が、ただの鷹を相棒にすると思うか?」


 二人はブツブツと相談しながら唸っている。


【御主――】

【――まあ聞け。大金払って買ってくれるんだ。多少、真実味のある話をしてやってもいいだろう?】

【……まったく】


「マルタポーレ。今の話が真実なのか? と、コイツに直接聞いてみたらどうだ? それで何か頼んでみるといいぜ」


「……面白い、良いでしょう。では、今の話が真実ならば……今から出す私の手のひらを、思いっきり突いてください」


 マルタポーレは、間髪入れずに右の手のひらを、ずいっとイン子の前に晒す。

 その瞬間――イン子の鋭い嘴が、マルタポーレの手の真ん中に突き刺さった。


「ぎょえええええ」





「ではこれを。金貨五十枚、是非数えて下さい」


 マルタのおっさんは、ずっしりと重い上質の袋を俺に手渡す。

 確認のため金貨を手にとって見る……見事な細工だ。


「……確かに。これで本当に取引成立だ」


 俺達は取引成立の乾杯をする。



「黄色い方が食べ頃だ。星型の尖った角だけは皮が硬い、これをナイフで切ってから、真ん中の種のある場所は食べずに周りを食べるんだ……まだ青い実のやつはサラダに入れたら見栄えも良い。砂糖漬けも良いだろう」


「……それはもうお前の物だ。乾燥している方でも味見してみるんだな」

 マルタポーレは、一粒食べてから何度も頷いていた。


「味も悪くないです……だが、何よりこの形、それだけで価値があります。これは私の一大事業になるでしょう! ガハハハハハ!」


 偉い盛り上がってるな……。


「確か……イン子殿でしたな。他の人には、この実を渡さない約束……どうかくれぐれも、お願い致します!」


 マルタポーレの言葉に、イン子が一声鳴いた。


「わかったってよ」


 確実に通じたと思うが、一応、お墨付きを与えてやった。 


 飲んでいる最中、ハッシがこの町の近くの村に果樹園を持っていること、今は暇な時期なので、女房に任せて出稼ぎに来ている事を話す。

 それを知ったマルタポーレは、なにやら俺そっちのけで真剣に話をしている。


「では、私が果樹園の土地の一部を買い上げ、貴方を雇うことにしましょう」


「はい、是非とも! このような神聖な形の果物に関われて光栄ですよ」

 二人がガッチリ握手している。


「いやいやいや! 今日は素晴らしい日ですな!」


「ええ、これも女神アリーナ様の導きでしょう」


 二人はスターフルーツに手をやり、祈っている……それ果物だよ?


 マルタポーレは明日にも出立するため、今日中にハッシと色々と話しておきたいらしい。

 二人に挨拶をして、先に切り上げることにした。




 部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 ふぅ、思いかげずに大金が手に入ったが……明日の泥さらいはどうするか。

 大金が手に入った以上、行く意味がなくなってしまった。

 そうだな、さっさと王都に……冒険者ギルドに行くとしよう。


「……では、この町を出るのは明日じゃな?」

「ああ。朝早く支度して、駅馬車ってやつで行こうと思う」

「了解じゃ。では今夜も安心して寝るがよい」


 その言葉に安堵し、あっという間に眠りについた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ