第十三話 港町
港町パール。
町の入口にしては門も柵もない。
こちらは海岸沿いなので正規の入り口ではないのだろう。
なにせ、無人島から飛んできたんだからな。
辺りを見回しながら、町を散策する。
行き交う人々は多く、とても活気がある。
魚を運ぶ者、壺を頭に乗せて水を運ぶ女性や子供達。
ペルシャ人、中東のアラブ系のような、濃い顔をした人たちが多い。
皆軽装だ。男や子供は、上半身裸の者も多く見かける。
二人一組で巡回する、武器を持った軽装の兵士がいる。
恐らく衛兵だろう。
その衛兵を、周りの住民は怖がっている様子はない。
これならば、治安に問題はないだろう。
道のあちこちに露天の店が大量に並び、食料など様々な物を売っている。
見慣れた野菜や果物もあるな……が、時より初めて見る巨大な野菜や、カラフルな色の果物らしきものもある。
魚は元々あまり詳しくないので、見た目では判断できないが、どれもこれも立派で大きい……熱帯魚のような派手な色の種類も露天に立ち並んでいる。
店主が大声で値段を連呼しているので、金の単位と通貨を知ることができた。
どうやら通貨の単位は『ボロ』で、使用しているのは銅貨と銀貨。
圧倒的に使用されているのが銅貨で、十枚単位で使われている。
単位は『ボロ』だが、実際は殆どが銅五枚、銅貨十枚というような使い方をしている。
金貨は見かけなかったが、銅と銀があるのだから、恐らく存在するだろう。
露天のような店では、使われないだけかもな。
次は町並みを詳しく観察することにした。
建物は大抵が木製だ。
海風が強いせいか、窓ガラスらしきものはない。
窓があっても木製の扉か、布で塞いでいるだけ。
足元は特に舗装されているわけではなく、所々丸太や石を埋めて、ある程度のぬかるみを防いでいるようだ。
町を歩くと嫌でも目につくモノ、それは文字。
町に最初に入った時、店名や看板なのですぐに目に飛び込んできたが、大方予想していたことだったので驚きはなかった。
使用されている文字は、恐らくアルファベット。
恐らくと言ったのは、文字も勝手に頭で変換されている可能性もあるからだ。
それに、全く読めない文字もあった。
少なくとも、俺には大抵がアルファベットに見える。
……む、かなり日が落ちてきたな。
町の外か、人気のない町の端で野宿する場所を探そうと思っていた所に、イン子から『念会話』が届く。
【そろそろ合流いたすぞ、そこにおれ】
【急に直接頭に話しかけるなっての……了解だ】
「……そういうわけで金がいる。明日、港の仕事に行くつもりだ」
周囲に人がいないのを確認し、小声で話す。
イン子の方も、最初は町の様子を調べたらしい。だが、細かいことは俺に任せるつもりだったらしく、町を調べるのを早々に切り上げ、上空から周辺の地理や規模、構造等を調べていたとのことだ。
上手く役割分担ができているようだ。
この辺りは、特に見るべき所はないという。
町の治安も問題ないし、近くに驚異となる魔物の気配も感じないとの事。
北に、大きい都市と城があるので、この世界を知るためにも、早々に北に向かうべきとの提案をうけた。
「とりあえずは、それくらいかの」
「今日の所は野宿だな。暗くなる前に探さねぇと」
本当は久々にベットで寝たいが仕方ない。
金を手に入れるまでの辛抱だ。
軽くため息をつきながら、寝床を探すため、辺りを見回してみる。
ここは比較的町の端に位置し、辺りに木材やら壺等が大量に置いてあるため、
イザという時に隠れられる場所が多い。
上手く探せば、この辺りで十分野宿ができそうだ。
「……ここかな。ま、一日だけの我慢だ」
イン子がそれを遮るように目の前に、ひょいっと移動してきた。
「ん? もっと良い場所でも見つけたか?」
「まぁ待て、それよりこれを」
イン子は翼を広げると、爪の生えた足で翼の間を弄り、何かを取り出した。
それはキラリと光る銀色のコイン。
イン子は俺にコインを差し出す。
俺は驚き、それを受け取る……意外と重い。
日本の五百円硬化よりも一回り大きい感じ。
それに見事な細工と装飾だ。アルファベットの文字もある。
やはりこれは……いや間違いない。
「これは……この世界の銀貨だ!」
驚く俺の顔を見て、イン子はニヤリとし、何度か頷いた。
「やはりの。上空から町を調べておる時、ある建物の屋根にキラリと光るものが目に入ってな。稀に……稀にじゃが、光るモノを集める鳥がいるらしいが……その銀貨も鳥の仕業じゃろうて。拝借しても問題なかろう」
成る程、妙に納得してしまった。
光るものを集めてきた鳥が目の前にいる時点で……もうね。
しかも、自分は無関係なフリをしているところがポイントだ。
クールに対応しようと思ったが、コインを持つ手が震える。
これでうまい飯や、酒が飲める。
……まさかの野宿も回避可能か?
駄目だ、嬉しさが勝ってしまってきた。
俺は喜びの余り、プルプル震える両手の二本の指でコインを握りしめ叫ぶ!
「うっひょぉお! イン子さんマジ天狗! じゃなくてマジ天使!」
「妾のおかげだの、ホホ」
イン子は口元に翼をあて、高笑いしている
イン子は褒められると伸びるタイプの子だな。
「のう? その銀貨一枚しかないが、食事代くらいにはなりそうかの?」
「確かに一枚しかないが、店での使われ方をみるに、銀貨は高額なはず」
「安宿ならば十分に泊まれると思うが……宿が無理でも、食事をとるだけなら余裕だろう……それによ、久々に酒も飲めるぜ?」
俺は軽くウインクしてみせる。
「良さげな感じの店があったから、そこに行ってみようぜ。食事と酒を提供してる、宿屋みたいな店だった」
「よかろう、では案内を頼む」
イン子は、ひょいと左肩に乗ってきた。
少し爪が痛いが……我慢だ。
今日はいい仕事したしな、コイツ。
俺達は意気揚々と宿屋を目指すのだった。
ボロって馬のフンですが、この世界ではなんと通貨の単位です




