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異世界に鷹、さんだぁバード!  作者: 赤塚ハシラ
一章 無人島編
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第十話 顕現


 それから数日後の晴れた日の朝。

 俺は、雷力(らいりょく)が溜まったイエローダイヤの原石を二つ、右手と左手にそれぞれ握りしめ、イン子と向かい合うような形になっていた。


「では武藤加重(むとうかじゅう)よ、準備はよいか?」


「カジュウで良いって言ったろ。氏名で呼ばれるのは、あまり好きじゃないんだ」


 多分コイツにはわからないと思うが、苗字と名前を続けると……そのなんだ、飲み物っていうか……な?


「フム……武藤の名が嫌な訳でもあるのかの?」


「別に嫌ってわけじゃねぇが、説明が難しいな……それに元々の苗字は新発田(しばた)って言ってね。両親が飛行機事故に遭って亡くなった後、俺は養子に入ったんだよ」


「成る程、そういう事情であったか」


「これからも下の名前で頼む」


「了解じゃ。話が少々それたが加重よ、いよいよこの島を出るわけだが」


「ああ、準備は万端だせ!」


 トレーナーを加工して作った袋の中に、スターフルーツの実や、それを加工したドライフルーツと栄養価の高いアボカド、それに雷力を溜めていないほうの四個のダイヤの原石を入れて、落ちないようにしっかりと体に巻き付けている。

 そして腰には、例の見た目よりも大量に水を入れた瓢箪をぶら下げていた。


 イン子が俺の全身をくまなく見つめた後……再度、マジマジと見つめてきた。

 なんだ? ジロジロ見やがって。


「フム、しかし御主……随分とゴツい体になったのう。顔も精悍さが増したというか、そのイカツイ顔は……フフ、まぁなんというか、頼もしいの」


「……語尾だけ褒めて取り繕うな。そしてイカツイ顔ってのは余計だ」


 イン子は軽く笑みを浮かべて満足そうに頷いた後、俺が両手に持っている雷力の溜まっている二個のダイヤの原石を、地面に置くように言ってきた。


 言われるまま、ダイヤの原石を地面に置く。


「さすがじゃの。僅か数ヶ月でこれ程の力を溜められるとは! 妾が二百年かけて溜めた量には及ばぬが、それでも天狗の姿になるだけならば、十分すぎる量じゃ」


「そいつはどうも」


「フム……石一つ分で十分そうじゃ……残りの一つは、いざという時のために温存しておくべきじゃな。いつでも取り出せるようにしておくのじゃぞ」


 イン子は地面にある原石を、鋭い爪で掴み、目を閉じて集中し始める。


「……妾の真の姿である天狗、女天狗(めてんぐ)の真の姿を拝ませてやろう」


 威圧的に言い放った後、イン子が石の力を吸収し始めた。

 瞬時に、周囲の空気が一気に張り詰める。

 肌にビリビリとした感覚。

 

 周りの空気が、そして大地が振動している。

 肌がゾワっとする……恐怖を感じているのか俺は。

 規格外、人外の力を見てしまった恐ろしさ故か? 全身の毛が逆立っている。


 イン子の周りから一瞬、爆風が巻き起こり、粉塵が舞い上がった。

 そして、一閃。

 

 空間が――いや、雷の弾ける大音量が、辺り一面に響き渡る。

 同時に一気に視界が白くなる……ホワイトアウトの比じゃない眩しさ。


「くっ!」

 おもわず目を手で庇って必死に堪える。


 耐えきれずに目を完全に閉じて顔を背ける。激しい衝撃が襲い、バランスを崩した体勢を懸命に立て直す……圧倒されて声も出せない。



 数秒後。

 

 バチバチという音が響き渡る中、余りの眩しさに白くなっていた視界を取り戻すため、徐々に目を開けて慣らす。


 目の前は、立ちこめる噴煙と行き場の失った雷が周囲をバチバチと声をあげながら暴れている。


 圧倒的な力……人ならざるものが目の前にいる!

 鳥肌の上に、更に鳥肌が全身に沸き立つ感覚。


 自分が人外の強さを手に入れたなどと、喜んでいたのが恥ずかしいくらいだ。



「「(ワレ)女天狗(めてんぐ)…………顕現也(けんげんなり)!」」

 

 エコーがかかったような、人ならざるモノの声が、周りに響き渡った。


 この声は――確かに、間違いなくイン子の声だ。

 これが本来の姿……これが女天狗か!


 頭じゃわかってはいたんだが……実際に目にすると、驚きが隠せない。


 俺と同じか――いや、俺より背が高い。

 恐らく、二メートル以上はある。

 そして出るところは出ているいわゆる、ボン・キュッ・ボンの抜群のスタイル。


 服は全身が基本、白。

 所々に黒のアクセントがついており、材質は光沢のあるレザーの様に見える。

 

 背には漆黒の外套(がいとう)、いやマントというべきか。

 そのマントが、イン子自身が発する気のような風圧を受け、ひらひらと風を浴びて華麗に舞っていた。


 服装の見た目はボティコンというか……完全に女王様系のスタイルだ。

 足元はハイヒールかと思いきや、花魁の履いている下駄のようにも見える。

 超高下駄かよ! ……ここらへんが、絶妙に和風なんだね、ちょっと感心。


 顔の上半分は、赤い仮面風になっており、それが頬の辺りまで隠している。

 絹のように美しい漆黒の髪の毛は、その赤い仮面の下から伸びていた。

 仮面の眉間と目の辺りから、鼻先にかけて、鷹の(くちばし)型に伸びており、それがあたかも鼻のように、赤く尖っていた。


 まるで天狗の鼻のようだ。

 成る程、あれが天狗の象徴……赤い鼻の代わりなのだろう。


 女天狗の姿を見て、俺は即座に感じたことがある。

 何に例えれば……わかりやすい? 簡単だ。



「ドロンジョ様だろ!!」


 俺は実写版の深キョンファンなんだ! 

 

 これはやばいぞ、マジイン子さん最高。

 セクシーすぎるぜぇ……ずっと、できればずっとこの姿のままでいて欲しい。


「「ドロンジョ? なんのことじゃ。だが加重、やっと吾の姿を見せられたの」」


 イン子は圧倒的な視線で俺を見つめる。

 高身長の俺が女性を見上げて見つめるのは、多分初めての経験だ。

 

 それにしても……なんだ? この凄い眼力は。

 顔半分が赤い仮面で隠れてはいるが、そこから覗きみえる鋭い眼は、俺を十二分に萎縮させる力を放っている。

 

 そして、イン子の周りからは全ての生物を追い払える程の霊力があふれ、俺の肌を刺激する。

 肌と背筋、そして全身がゾワっとする感覚。

 ただ向かい合っているだけで、全身の神経が逆立ち、そして肌がヒリヒリする。

 この姿のままでいて欲しい、などと脳天気に考えていたことを反省する。

 

 訂正。平常時は鷹の姿でお願いします。

 

 緊張で乾いた口をツバを飲むことで潤し、そして思ったことを正直に話した。


「ああ、正直驚いてる。見た目の衝撃も、体から醸し出す凄え力も……全部に……圧倒されちまった」

 

 俺は圧倒的な存在感を放つイン子から、目を離せないでいた。


「「フッ、吾の力はまだこんなものではない。だが空を駆け、この島を出る程度ならばこの程度の霊力で十分よ。それとの、地面のだいあ石を忘れるでないぞ」」


 これでも、フルパワーじゃねぇってことか。

 

 驚きながらも、雷力が空になってしまったダイヤの原石を地面から拾い、トレーナーの袋にしっかりとしまった。


 こいつと一緒ならば……例えどんな敵が現れても、なんとかなるかもしれない。

 そう思わせるほどの、圧倒的な力……やはり天狗とは、規格外の存在だ。

 いくら規格外とはいえ……元鳥相手に、俺が鳥肌をたててしまうとは無念。


「「では参るか。吾に掴まることを許す」」

 

 そう言ってイン子が両手を広げて俺を迎え入れようとする。


「? お、おいちょっと待て! まさか……だ、抱きつくのか?」

 

 やばいぞ。ナイスバディに正面から抱きついたら俺の理性が崩壊しかねない。


「「不服か? 吾が特別に認めたのだぞ?」」

 

 いや、不服とかそういう訳じゃないんだ……これは、非常にまずいですぞ!


「抱きつくんじゃなくて、背中に乗るんじゃ駄目か? 俺はそっちのほうが――」


「「たわけ、それは無理よ。この背の外套(がいとう)は翼なのじゃぞ」」


「「……それにの、吾の背にまたがる(・・・・)など、決して許されぬ」」


 イン子が俺を睨みつける。ゾワッとしたものが俺の背中を支配する。

 ……怖い! 目がマジだった!

 

 女天狗の姿の時は、多少気が荒ぶるのだろうか? ……気をつけねば。


「じ、じゃあ……正面から……失礼します」

 あまり怒らせないほうが良い。大人しく従いましょう……戦略的撤退だ。


 イン子の正面に立ち、手を回してイン子に抱きつく格好になる。

 ……くぅ、この感触は……顔が赤くならなければいいが。


「「ほう? 御主、顔が赤いぞ。ククッ、もしや照れておるのか」」

 

 クソが! 速攻、赤くなってしまいやがりましたか。


「仕方ねぇのよ。それより、手はこの位置で平気か? 飛ぶ時に支障はないか?」

 背中が翼になると聞いたので、手の位置が多少気になった。


「「もそっと下じゃ……そうそうその辺りよ。よいか、飛び立ったら足も吾に絡めるのじゃぞ」」


「……お、おう」

 

 イン子の体が俺よりも大きい故、どうしても、お腹と腰近くにしがみつく様な形になってしまうので、どうしても顔が……胸の辺りにきてしまう。

 気恥ずかしさから、顔を少し横に背けたまま、返事をした。

 ああ……ヘタレな俺を許してくれ。


「「よいか? 時折『雷力(らいりょく)』を流すのを忘れるでないぞ」」


「……飛んでる最中にもか?」


「「そうじゃ」」

 即答するイン子。


「それは構わねぇが……なるだけやってみるよ」


「「正直、思っていたよりも天狗の()姿を保つのが大変でな……飛ぶとなると尚更、力の消耗が激しい。……先の大法術、過去に戻る禁忌を犯した影響は大きいようじゃ」」

 

 そう言って悔しげな表情をみせるイン子。


「「御主の尽力があれば、吾は天狗の姿を保ったまま、北の方角にある大地に確実に辿り着けるというわけよ、それではしっかり頼むぞ」」


「任せな。それよりそうか……こっちの方角の先に……新しい大陸があるんだな」


「「御主が最初に倒れていた、この砂浜の海の先じゃ。先程、千里眼を発動し、巨大陸の気配を感じ取った。この先には、確実に大地が存在する」」

 

 イン子は赤い海の先をじっと見つめている。


「「問題は、この赤い海の瘴気よ……これは呪いに近い。コヤツのせいで視界も悪く、軟弱な生物など即死。多少、強き力を持つ生物でも、ジワジワと生命力を削られ、いずれは朽ちよう。だが、あの程度の瘴気なんぞ……吾の体を侵す力はないので安心せい。御主は吾に密着しておれば平気じゃ」」


「そうか、そういうことなら問題なさそうだな……よし、いつでも行ってくれ」

 

 気合を入れてグッとイン子にしがみつく。

 そして目を瞑り、『雷力』を直接イン子に流すべく集中する。



「「では参るぞ!」」 

 

その声と同時に、イン子が少し膝を曲げ、両足で地面を軽く蹴る。

 

 それだけで大跳躍。

 それに呼応したかのように、マントが光り輝き、力強く風になびく。

 

 マジで空を飛んでる!

 体が横向きになるので、足をイン子の太もも辺りに絡める。

 ……なんつースピードだ!


 暫く呆然としてしまったが……イカン、雷力を流さねば!


 集中しろ。

 イン子の体の力の源流を捉える。

 

 最初に感じたイメージは宇宙だ。

 圧倒的な空間……どこまでも続く深い闇。

 そして、全てを吸い込むような恐ろしい――これはまるでブラックホールだ。 


 さすが人ならざるモノ。

 だが、この三ヶ月のことを忘れるな。

 俺の体も、既に人ならざるモノに……片足だけでも突っ込んでいるのだから。


 自分のやれることをやる、それだけだ。

 

 目を閉じて集中する……この天狗という『強大な器』に雷力を流し込む。

 流しても流しても焼け石に水のように感じるが、黙々と流し続ける。


 すると、体に何かが――なんだ暖かい力は……あ、これはイン子の雷力だ。 その暖かくて不思議な力が、俺の方にも少し流れ込んできた。


「「んフフ、よいぞ加重! ……じつに心地よいちかラじゃ!」」

 

 イン子はプルプルと小刻みに震えている。


「なあ……俺にも雷力を流してるのか?」

 

 その質問にイン子は荒い呼吸で答えてくる。


「「ウム。お互いの雷力を循環させておる。そうすることにより、ただ力を吸い取るよりも効率が良いのじゃ……ウフ! 実に心地よい力が返ってくるのう!……うフん……調子に乗って吸い過ぎぬようにせねば……本気で吸えば御主が干物になる恐れがあるからの……ン!」」


「俺が干からびぬよう、イン子が力を少し返し、それを素に俺が雷力をまた生み出す……そして、それをまたイン子に流す。そうすることにより、俺が干物にならないで済んでいるってことか?」

 

「「安心せい。しかし……御主は一度に放出できる量と威力に限度はあるが、瞬時に、いとも容易く雷力を生み出す異能の持ち主。これは何気に凄いことなのじゃが……吾と――んむぅ、しかし! なんとも心地よい力じゃ……全部吸い尽くしてくなるの」」


「頼むからやめてくれ……乾燥果物になるのだけは簡便だ」


「「フフ、しかし――ン」」

 

 なるほどな。……しかし、なんとも悩ましい……声だ。

 イカンぞ、このペースで抱きついたまま何時間もいればイカンぞ。



「イン子さんよ、もっと速度を出しても俺は平気だ。できるなら頼む!」

 

 キツくしがみつく……が、顔が更に胸に少し埋まる。

 ……俺頑張れ! そして理性よ、暫く持ちこたえてくれ。


「「んふ……よい覚悟じゃ。ではいくぞ」」

 その瞬間、インコの白いマントが、先程よりも強烈に光と雷を帯びる。


「「しっかり捕まれい」」

 それと同時に、まるで落雷の時のような雷鳴が辺りに響き渡った。


 ――ぐッ、こりゃ凄いスピードだ!


 目も開けるのが大変な速さで飛んでいる。


「「加重、しっかり流せ」」


「す、すまん」

 驚きのあまり、中断していたイン子に雷力を流すため集中する。


「「ソ、そうじゃ……んフフ」」


 震えながら、悩ましげな声を出すイン子。

 仮面の下から覗く顔は圧倒的な美貌……それに抜群のスタイル。 



 風のようなスピードで飛ぶ中、俺は雷力を流す。


 集中だ、そう……集中。

 俺は……顔が胸の谷間にある状態で、集中しなければならないのだ。



 ……し、静まれ俺の――。


読んでいただきありがとうございます。ついに女天狗様登場です。

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