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わたしの……

 放課後、わたしは机の上にべたーっとなった。ぐたーっでも可。

 今日はテストだった。そして終わった。いろんな意味で。特に英語とかホント意味分かんない。なんで同じ動詞で、その後に付くやつ――inとかatとか――が変わるだけで意味が全然まるっきり変わっちゃうんだか。もっとシンプルにしてほしい。


「おーい、さきー。大丈夫かー」

「ぜったい海外なんて行かない。行くときは通訳連れてく」

「そんなこと出来るくらいビッグになるほうがよっぽど難しいと思うけど?」

「じゃー、ちーちゃん連れてく」


 ちーちゃん英語の成績いいし、発音も先生によく褒められてるし。


「えー、やだ」

「なして?」

「海外ってなんか怖い、ってイメージがあるから。だからあたしは一生、日本から出ない!」

「おー」


 ぱちぱち。ちーちゃんが行かないなら、わたしも海外には一生行けないかな。

 ちーちゃんの様子からするにテストはまぁまぁできた方――わたしからすれば十分すぎるくらい高得点――なのだろう。わたしはとても疲れたので、どっか寄り道とかして行きたい。というかなんか食べたい。


「帰りになんか食べてかない? アイスとか!」

「うん、いいよ。じゃ、ちょっと待ってて」

「? ちーちゃん、なんか用事? 委員会とか?」

「まぁ……そんな感じ」


 ……なんだろう。歯切れが悪いというか、なんかあやしい。なにか隠してる、みたいな?


「とにかく! すぐ終わると思うから、教室で待ってて!」


 それだけ言うと、ちーちゃんは慌てて教室の前のとびらから飛び出していった。

 なんだろう……。なんとなく、いやな予感がする。


「ごめん、ちーちゃん」


 聞こえないだろうけど、一応言っておく。わたしは「教室で待ってて」というちーちゃんの言葉を、裏切ろうとしているから。ちーちゃんの後をつけようとしているから。

 まず廊下に出る。右に行くと、昇降口や職員室なんかがあって放課後でも人がそれなりいる。左は図書室や特別教室――理科室とか音楽室――があって人気は、右より少ない。ちーちゃんは左に行った。よってちーちゃんは人目を避けた?

 ますます、いやな予感がする。

 わたしは少し早足で廊下を進んだ。渡り廊下を通って特別棟――特別教室が集中する建物――へ、部活で使われる教室のない一階の廊下に一歩ふみ出そうとしたところで、声が聞こえた。


「――と、――あっ―くれ――かな?」

「……――ん―さい」


 廊下の突きあたりで話しているようで、わたしのいる所からだと完璧には聞き取れなかった。けれど、どうやら誰かがふたりで話しているということは分かった。男女ひとりずつ、女子の方はちーちゃんで間違いない。男子のほうは、たぶん知らない。


「……理―を――てもい――な?」

「まだ――君の――、よく――ないし、あんま――ういうのも、よく分――ないし」


 耳をすましても完全には聞き取れない。声の調子からして、ケンカとかいじめとか、そういう険悪なふんいきではなさそう。


「――じゃ、――行くね」


 会話が終わって、足音がこっちへ近づいてきた。これはちーちゃんの足音だ。見つからないように、急いで教室に戻った。

 教室で息をととのえていると、ちーちゃんが帰ってきた。


「ごめん、お待たせ」

「ううん、ぜんぜん」


 そのままちーちゃんといっしょに学校から帰った。途中、アイスを買って食べた。わたしはストロベリーのコーンで、ちーちゃんはチョコのカップだった。わたしたちがアイスを食べるときはいつもこの組み合わせだった。おいしかった。

 それから、ちーちゃんはあのとき何をしていたのか、何を話していたのかについて一言も言わなかった。だからわたしも何事もなかったと思うことにして、普通におしゃべりした。


 ……そのときわたしはなんてしゃべったのか、あとから思い出せなかった。



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