朝の淡い光
淡い光に照らされたユキサギが、朝靄の中をシラカネ山脈に向かって飛んでいく。
ありきたりな新春の描写だが、旅立ちの朝にこれほどふさわしい光景もないだろう。
アルムがそんなことを思いながら居間におりると、すでに母親が朝食の仕度をすませ、笑顔でテーブルについていた。
「おはようアルム。いい朝だね」
「おはよう」
アルムは調子を合わせて返事をし、母親の心を覗いてみる。
息子の門出を祝い悲しむ母の心情そのものであった。
アルムはうんざりした。なぜなら、母親が自分の読心の能力を気味悪く思っていること、罪悪感からその感情を押し殺していることを知っていたからだ。
アルムのことを露骨に遠ざける父親の方がまだましだとさえ思った。
母親の心を深く覗くことはアルムにとって恐怖であった。
「⋯おはよう兄さん」
妹のセラが入ってきた。アルムが挨拶を返すと、セラはむすっとした態度でアルムの隣に腰をおろした。
この町の心残りは、この純粋な妹だけかもしれないと、アルムはつくづく思った。
セラがアルムの出発を悲しんでいることなど、心を読むまでもなく明らかであった。
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父親が起床し、アルム達は町のはずれまで移動した。レーベに続く道が一本長くのびていた。
アルムは、彼の身長と比べると幾らか大きすぎるカゼウマに跨り、心まで浮ついている様であった。
読心スキルのせいで散々な目にあったが、いま思い返すとなかなか幸福だったように感じる。ただの錯覚だろうか。
「また帰っておいでなさい。いつでも待ってるからね」(また会えるのかしら)(また会えるのかしら)
「十分に気をつけるんだぞ」(これでまた遊べるようになる)(まずは宿屋の娘さんを⋯)
「⋯いってらっしゃい」(行かないで)(お願い、行かないで)
三者三様の心持ちで見送っていた。
(もう二度と会うこともないだろう)
アルムが振り返ることはなかった。
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