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英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
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解説、あるいは解析

「順を追って説明しましょう。まずこの国では、古来より続く文化が存在します」

「人材の引き抜き、か」

 ヨミの言葉に、少女はその通りと笑顔で頷いた。


「そこが疑問だった。あんたも俺たちと同じような異能を持っている。ならどうして自分が出向かない。王族が前に出るものではない、なんて戯言を抜かすなよ」

「これはご冗談を。こんな小娘の細腕に何ができると?」

 クスリと笑う少女にも、ヨミは固い表情を崩さない。


「できるだろう。少なくとも俺やカルラよりも、お前はこの異能を使いこなしている。細腕がどうした、これはそんな常識が通用する力じゃない」

 この力を持つことの意味を強く知るヨミだからこそ、目の前の少女が国の命運を他者に預けることに強い違和感を感じてしまう。


「人には向き不向きがあるということですよ。そうですね、貴方はこの机を素手で壊せますか?」

 ヨミはその言葉を聞くと、机の上に置いた手に力を込める。

 傍目には軽く力を入れただけにしか見えないその動きで、バキリと音を立てて机は半壊した。


「これでいいか?」

「素晴らしい。今、貴方は異能で腕力を強化しましたね? 強大な力をイメージし、それを現実に作り出した。物質の生成と並ぶ、異能の基本利用法です」

 ですが、と少女は数瞬の間を置いて。


「ではこの壊した机、貴方は直せますか?」

 その問いに、ヨミは首を振る。


「時間を掛ければ直せるかもしれないが、新しい机を作り出したほうが早い」

「そうですか。では私が直しましょう」

 少女が砕けた机の破片を一つ拾って軽く投げると、バラバラになっていた机は新品のように元通りになった。


「先に言っておきますが、私は直せるだけで壊せません。貴方とは逆に、肉体の強化は不得手なもので」

 その言葉で、ヨミは少女の言いたいことを理解した。

 ため息混じりに、その回答を口にする。


「得手不得手、ね。そもそも前線に立てない体だってことか」

「理解していただけたようでなによりです」


 この少女はまだ何かを隠している。

 ヨミはそう直感したが、問い詰めても望む答えが返ってこないということも分かっていた。


「確かに、この拳銃とやらも俺には作れそうにない。物質の生成なら、俺よりもカルラの方が一枚上手だ」

 ヨミがカルラに拳銃を投げ渡すと、カルラはそれを受け止め、くるりと手元で回す。


「カルラ、お前は肉体の強化はできるのか?」

 そう聞いたヨミに、カルラは小さく首を振る。


「ごく小さな変化を起こすのが限界。あなたのように人を超える力は出せない」

 だけど、と言葉を続けて。

「物質の生成。それなら得意」


 手元で回していた拳銃を真上に投げると、その拳銃は小さな短剣へと姿を変えた。

 短剣は空中でクルクルと数回転して、再びカルラの手元へと吸い込まれる。


「では、納得いただけたようで話の続きです。先ほど言った通り、この国では人材の引き抜きを行って他国から貴方たちのような能力者――ヨミさんの言葉を借りれば、異能の化け物を集めているわけですね」

 躊躇無く自分を、そして他人を化け物扱いする少女。


 しかしヨミもカルラも反応しない。

 この女はそういうモノだと、既に十分すぎるほどに認識しているのだ。


「では、どうしてそんなことをするのか。それはこの国ではどうしても解決できない事件に立ち向かうため。これは極論ですが、戦争のために傭兵を雇うのとそう変わりはないことです」


 その理屈は、一見綺麗に通っているように見える。

 自分で解決できない事態には、他者の手を借りるのが最も確実で手早い解決法だ。


「だから、それがおかしい。私の国には手に余りますどうかお願い助けて下さいって、そんな国家は一瞬のうちに滅ぶのが当たり前だろうが」

 だが、ヨミはその言葉を一気に切り捨てた。


「傭兵は金を貰って雇い主のために戦う。ああ確かにそれはお互いが得をする取引だ。だがそれは言ってしまえば別の奴でも問題が無いから。その傭兵じゃなくても成立するからこそ取引が成り立つんだろう。あなたしかいませんどうか助けてくださいって、そんな直球に弱みを見せるのは馬鹿のやることだ」


 弱み、弱点。

 それを一度見せればたとえ個人の小さな付き合いであろうとも、その瞬間に上下関係は決定する。


 国家ほどの規模ならばそれはより顕著に現れるだろう。

 問題解決の引き換えに国の全てを奪われたところで、文句など言えるわけがない。


「ええ、その通り。だからこそ、貴方たちなのですよ」

 ヨミの指摘に、少女は含みを持たせて言葉を繋ぐ。


 その瞳は、まるで童女のように輝いていた。

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