真意と真理
「さて、話を戻そう。世界を救う、その詳細をぜひとも聞きたい」
襲撃から数分後。
ヨミはカルラと共に、改めて目の前の少女へと向き直る。
「まあ十中八九、コレ絡みだろうとは思ってるが」
その手には先ほどカルラが使った武器がある。
ヨミはその構造を解析し器用に分解、検査を行っていた。
拳銃。
旧世紀の遺物として扱われるそれをカルラは少なくとも二丁所持し、それを使い捨てるように使用していた。
「ええ、その通りです。ヨミさんもカルラさんも、そしてこの私も。この場の全員が所持する力がある。それは既に説明するまでもないでしょう」
少女の肯定に、ヨミの予想は確信へと変わる。
「こんな力、自分以外に使える奴がいたとはね……」
ヨミは目を閉じると、何も持っていない右手を握りしめる。
もう一度その手を開くと、その手には小さな十字架が握られていた。
「心に描いたものを現実にする異能。人には持ち得ない、人ではない化け物の力」
ヨミはそう呟くと右手を再び握り締め、そして開く。
すると手の中の十字架は幻のように消え去り、代わりに黒曜石のように刀身の黒い短刀が現れた。
「こんなの、自分だけだと思ってた。自分がおかしくて、間違ってるんだって。でも、違うんだな。間違ってるのは自分だけじゃなかった」
言外に自分は人ではないのだと吐き捨てるヨミに、しかし少女は首を横に振った。
「二つ、訂正しましょうか。この力は貴方が言うほど特別なものではありません。数は確かに少ないですが、世界には私たち以外にも使用者は存在します」
パチン、と少女が指を鳴らすと、少女の目の前に小さな人形が現れる。
パチン、パチン、パチンと、少女が繰り返し指を鳴らすたびに、その人形は姿を変えた。
チェスの駒に、宝石に、パンに、ワインに、そして最後に、世界を記す地図へと変わる。
「地域によって呼び名も使用法も変わります。異能、エフェクト、神戯、クリエイト……」
少女の指先が、テーブルに広げられた地図の中を動き回る。
「あなたたちは己の武器を作り出して戦闘へと使用していましたが、他にも平和的な使用法は無数に存在するのですよ」
少女の指が地図の一点を指した。
「例えばここ。この国ではこの力を使える国民を集めて旧時代の文化や歴史を研究しています」
少女の指がまた別の一点を指す。
「この集落では力を使えるのは神の加護だと崇め、力を持つ者を神の子とする新たな宗教を作り出しています」
少女の指がまた別の場所を指そうとしたとき、割り込むようにヨミがその動きを遮った。
「御託はいい。で、あんたの国ではどう使うんだ? 平和的にか、暴力的にか」
その問いは端的にこう言っている。
“お前は俺たちをどう使う気だ”と。
「カルラだったか、あんたはどうなんだ。気になることとか、言いたいことはないのかよ」
「別に」
カルラは素っ気無く返す。
「わたしを使いたいなら好きにすればいい。わたしが従うかは別だけど」
自分のことだというのにまるで意に介さないカルラのそんな言葉に、ヨミは呆れたように息を吐いて少女に向き直った。
「そうですね、まずはそこからですか」
授業のお時間です、と無邪気に微笑む少女。
だが、二人は無言で次の言葉を待つだけだ。
「簡潔に言ってしまえば全てに使います。この国のために、あらゆることに。今回貴方たちを呼んだのはどちらかといえば暴力的に分類されるでしょうか」
暴力的に。
その言葉はどうしようもなく正しい意味で使われているのだろうと、この場の息苦しいほどの空気が物語っていた。