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英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
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到達、あるいは終着

「入国早々不快な思いをさせてしまい申し訳ない。国民の代表として深く謝罪を……」

「ああ、もう気にしてないって。城まで送ってくれるってだけでも十分だから」


 騒動を聞きつけて現れた自警団員に頭を下げられ、ヨミは複雑な表情を浮かべる。

 盗人を自警団に引き渡したヨミはそのお詫びと礼に、彼らの馬車に乗せられ目的地である城の前へと案内されていた。

 馬車が軽く揺れるたびに、自警団の鎧が小さく音を立てる。


「人も国土もこれだけの規模なんだ。期待してないって言うと失礼かもしれないが、それでも自分の身くらいは自分で守れるようにしているつもりだよ」


 問題は無いと軽い口調で擁護するヨミ。

 だがそれに対して、自警団員の声はどこまでも厳しく自身を律するものだ。

 その声に従うように、馬車の中の空気がどこか張り詰めたものへ固定されていく。


「失礼ながらその通りだ。正式な国の兵士だけではとても追いつかないので我々自警団がこうしてに働いているのだが、それでもこの時期は他国からの入国希望者や隣国からの商人が多く、彼らを被害者とする事件があちこちで頻発している。我らと同じこの国の民としてはまったくもって嘆かわしいことなのだが、決して油断をしないようにしていただきたい」


 その言葉と同時に目的地に着いたようで、馬車の動きがゆっくりと止まる。

 完全に停止したのを確認し、ヨミと自警団員は揃って馬車の外へと歩き出した。


 外へ出て三歩ほど歩いたところで生真面目な自警団員はヨミへ向き直る。

 そして再度深く頭を下げると、それぞれが別々の方向へと歩いていった。


 どこまでも真面目な連中だと、ヨミは軽くため息を吐いた。

 活気があり、人の多い場所ではこうした事件はどうしても数が増える。

 絶対数が増えるだけではなく、人が多いということは同時に正義の目が届かない死角も増えるということだからだ。


「……油断、いや浮き足立ってるのか? 俺があんな素人に金を盗られるまで気づかないなんて。まったく、余計なことを考えてるからこんなことになるんだ」

 一人で言い訳をするように呟くヨミの目の前には、この国で最大の建造物がその存在を王国全土に誇示するかのように立っている。


 王城クロノス。

 その存在はこの国だけではなく、他国においても特別視されていた。


 その城は特別大きな城ではない。

 むしろこの国の広い国土を考えると小規模といってもいいほどだ。

 外観も豪華絢爛という言葉からは程遠い、無骨な灰色の石を中心に作られている。


 ではなぜこの城が大陸中で特別なものとして扱われているのか。

 それはここでしか感じることのない異常の数々が、この城に点在しているためである。


「なるほど、噂通りだ。この城に住むお姫様はよっぽどな変わり者か、それとも……」

 その城の異常は入り口から既に感じることができていた。


 当然のように入り口が開け放たれ、見張りの兵士は一人もいない。

 この国の頂点に立つものが住む場所として、その静かな光景は百万の兵士が守るよりも硬く侵入者の存在を拒んでいた。


 その光景に圧倒されていたヨミの手に握られた手紙が、ヒュウという音と共に風に揺れる。

 小さな音を立てて揺れる手紙を見て、ヨミの心は平静を取り戻していた。


「いくら考えても待ってるだけじゃあ事態は変わらないか。ああそうだ、こっちは呼ばれて来てるんだから堂々としてればいいんだよ」

 やけになったような振り切った考えを無理やりに作り出すと、ヨミの足はようやく前へと進みだした。

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