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英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
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ある少年の過去

 異能の力に目覚めたヨミは、当然のように迫害された。


 化け物の子だと、両親にも見捨てられた。

 その瞬間、ヨミは孤独となったのだ。


 そして当然、独りでは生きてはいけない。

 本能でそう理解した瞬間、ヨミは動き出す。


 生きていくために、力を使って人々の役に立った。

 己の有用性を示すために。


 獣を狩り、雑用をこなし。

 そうすれば、外れの僻地に住むことを許された。

 毎日毎日働き続けて、そうしてなんとか居場所を作っていた。


 だけど周囲の恐れと敵意は、日増しに膨れ上がる。

 人は異物を排除する生き物だから。


 石を投げられた。

 道具を壊された。

 家を荒らされた。

 心無き言葉を浴びせられた。


 異物を排除する為に、要求はどんどん理不尽になっていく。

 子供一人では到底成し遂げられない量の仕事を押し付けられる。


 必死に毎日を生きていったが、いつしか限界が訪れる。

 ついに肉体の限界を迎えたヨミの体は、満足に動かなくなった。


 そして十五歳の誕生日に、ヨミは故郷を失った。

 大義名分を手にしたとたんに、周囲の人々は笑顔でヨミを追い出したのだ。


 まだ子供だったヨミには、生きていくだけで必死だった。

 独りで生きるには、なにもかもが足りなかった。


 山の奥深くに家を建てた。

 誰もいない世界で、何度も死にかけながら命を繋いだ。

 誰もいないから、自分が先頭に立った。

 ただひたすらに、生きていくために戦った。


 独立して、生きていった。

 故郷も捨てて、一人で生きて。


 そうしていつしか、生きる意味がわからなくなった。

 誰もいない世界で、ただ毎日を生きて。

 いったいなんの意味があるのかと、唐突に思い至った。


 振り向いた後ろには、誰もいなくて。

 周りを見れば、なにも残っていなかった。


 だけど、死ぬ理由も見つからなくて。

 死ぬ勇気も生きる度胸もなく、ただ毎日を過ごした。


 そんな死人の人生が何年か続いて。

 そんな時、ヨミの元に一通の手紙が届いた。


 そしてヨミは動き出した。

 自分の居場所を見つけるために。

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