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英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
31/36

無自覚と無理解

「終わった、な」


 もはやこの場に立つのはただ一人。

 英雄譚は終わらない。


 これからも、『英雄』は走り続けるのだろう。

 存在しない果てを目指して、どこまでも。


 しかし。


「なにを、しているの」


 意識を失ったヨミへと、声が届いた。

 朦朧とする意識の中へ、不思議とその声だけが明瞭に届く。


「勝手に暴走して、こんなにボロボロになって。あなたらしくもない」


 それはカルラの声だった。


 偶然にも、ヨミの体は倒れていたカルラの元へと吹き飛んでいたのだ。

 瀕死の重傷を負いながらも瀬戸際で命を繋いでいたカルラが、異能によって不慣れな自己修復を行っていたところに。


「いったい、どうして」

 どうして、ヨミはあれだけ激昂したのか。

 カルラには理解ができない。

 もしや自分がやられたからかと思ったが、出会ったばかりのわたしへそんな感情が芽生えるはずがないと正解を切り捨てる。


「……馬鹿」


 だが、カルラの胸の中には未知の感情が芽生えていた。

 その感情の正体がわからないままに、優しくヨミの体を抱きしめる。


「――泣くなよ、カルラ」


 ヨミの目が、薄く開かれる。

 それは奇跡。

 意識どころか命が残っていることさえ異常な状態で、ヨミはカルラの手を取った。


 その力は弱々しく、今にも崩れそうだ。

 だが、繋いだ手からは確かに命の鼓動が伝わっている。


「……ああ、今ようやくわかった。俺はお前のことが好きなんだ」


 突然の告白。

 涙を止めたカルラの顔が、きょとんとした表情へと変化する。


「……な、にが、えぇ?」


 素っ頓狂な声を出して動揺するカルラを見て、そんなお前は初めて見ると笑うヨミ。

 本人は自覚していないが、自然な笑顔をヨミが見せるのも中々に貴重な光景である。


「お前が初めてだったんだよ、俺と同じ境遇の奴に会うのは」


 ――初めて出会った、わたしの同類――


 それは、出会ったばかりのころにカルラが口にした言葉。

 異能の力を持ち、戦う力があり。


「そして、故郷に居場所がない」


 その言葉に、カルラの喉が詰まる。


「……俺も、お前と同じだ。故郷で居場所がなくなって、せめて誰かの役に立とうと思って。でも、俺はお前と違って導いてくれる人がいなかったから。だから俺が先頭に立って、走って。振り向いたらもう、誰もいなかったんだ」


 綴られる言葉はまるで懺悔のようで。

 しかしヨミの瞳は故郷を懐かしむような色だった。 


 それはカルラにとっての忌むべき過去。

 そして脳裏に浮かんだ、かつての記憶。

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