表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
28/36

英雄退治

「ではこれならどうだ?」


 『英雄』の周囲に、鉄の塊が現れた。

 異能の力により生み出されたそれは、手のひらに収まるほどの大きさだ。

 だが、その数が尋常ではない。


「これは……」

「おいおい、冗談じゃねえぞ……」


 天の光を覆い隠すほどに大量の鉄塊が、『英雄』の周りを漂っている。

 異能による物質の生成は基本技能だ。

 ヨミもカルラも、自身の武器を生成している。

 

 だがこれは、その規模が桁違いだ。


「――舞い散るは桜花の如く!」


 限界まで短縮された詠唱を合図に、全ての鉄塊がヨミとカルラの元へと襲い掛かる。


 単純明快な物量による攻撃。

 一撃一撃が骨を砕く威力のそれを、ヨミは正面から迎え撃った。


 手にした短刀を迷い無く投擲。

 すると空中で短刀は無数に分裂し、鉄塊を一つ一つ迎撃する。


「足りん、な」


 この程度かと、目を伏せて『英雄』は落胆する。

 迎撃できた鉄塊はおよそ七割程度。

 残りの三割がそのままの勢いでヨミの体を粉砕しようと襲い掛かる。


「カルラァ!」


 しかし、ヨミは半数を削れればそれでよかった。

 ヨミの背後には、すでに新たな武器の生成を終えたカルラが立っている。


「全弾、装填完了」


 その両手には、身の丈を超える長さの銃器が握られている。


「──発射」


 引き金を引いた瞬間、銃口から飛び出したのは比喩ではない弾丸の雨だ。

 絶え間なく放たれる弾丸は、残った鉄塊を一つ残らず塵へと変える。


「なるほど、素晴らしい。それが貴様らの力か」

「一人じゃどうやったって勝ち目が無いからな、全力で支えあってやるさ」


 ヨミとカルラは全力を出して『英雄』の一撃を凌ぎきった。


「ならば、次はこれだ」


 だが、『英雄』はもっと力を出せと、異能の力を発揮する。

 まるで物語の主人公に試練を与える作者のように。


「――唸り轟くは火竜の如く!」


 それは再びの詠唱。

 『英雄』が剣を天へかざすと、周囲の炎が意志を持ったように『英雄』が持つ剣へと吸い寄せられる。


「さあ、乗り超えて見せろ!」


 剣を振るう『英雄』の叫びに呼応して、炎がヨミを焼き尽くさんと襲い掛かる。

 それは炎の竜。

 燃え盛る炎の音が、竜の叫びのように耳を打つ。


「──ふっ、ざけんなぁ!」


 ヨミの叫びは『英雄』には届かない。

 襲い来る業火は、周囲の炎を飲み込みながらその規模を増大させていく。

 全てを燃やし尽くす炎の竜には、いかなる物理攻撃も通用しない。


「装填完了」


 だから、ヨミは黙ってカルラに託した。

 それは彼女への信頼であり、両者が納得した役割分担。

 自分にはできないことでも、きっと奴ならやってみせるという確信しているからこその行動だ。


「──概念付与完了、発射」


 炎を打ち消すためだけに作られた弾丸を、カルラは作成した。

 そうして放たれた弾丸は、一筋の光と化して竜を討つ。


 鎮火という概念を付与した弾丸は、まさしく竜殺しの一撃と化して炎の竜を消滅させる。

 ジュゥという竜の悲鳴のような爆音と共に、大量の煙が周囲を覆い隠した。


「ッ!」


 背後からの殺気に『英雄』が振り返ると、そこには短刀を振りかぶるヨミの姿があった。


「チィッ!」


 心臓を狙った一撃は、紙一重で弾かれる。

 だが、あと一歩で『英雄』の命へと届いた。

 その現実は、両者の感情をかき乱すには十分なものだった。


「――わが身は一振りの剣の如く!」


 詠唱によって強化される肉体。

 人間の限界を超えた反動か、ミシリという音を立てて『英雄』の筋肉が悲鳴を上げる。

 そしてその代償を支払った結果として、『英雄』の剣は音速を超えた。


「ッガァ!」


 反射的に、ヨミは手にした短刀で斬撃を受け止める。

 それは正確に首を狙った一撃だったからこそ可能だった奇跡の防御。

 もしも『英雄』が一撃必殺を狙っていなかったなら、今頃ヨミの腕か足は綺麗に両断されていただろう。


「悪いが、それは得意分野でね!」


 だが食らいつく。

 身体能力の強化はヨミが最も得意としていることだ。

 相手の万能性を生かさせない、自身の得意分野である接近戦こそがヨミの狙いであった。


「化け物め……」


 それでも、現状は圧倒的にヨミ達の劣勢だ。

 純粋な力量差が、単純明快に圧倒的な壁となって立ちふさがる。


「守ってばかりでは永遠に勝てぬぞ!」

「無茶言ってんじゃねえ!」


 得意分野に引きずり込み、守りに徹して。

 そうしてようやく、戦況を膠着させることが可能になっている。

 一瞬でも気を抜けば容易く崩れ去る膠着状態をヨミが維持する理由はただ一つ。


「装填、完了」


 『英雄』とは違い、ヨミは一人ではない。

 頼れる仲間が、必殺の一撃を準備していた。


「発射」


 カルラが弾丸に込めた概念は純粋な破壊の集合体。

 そして誕生した一撃必殺の魔弾が『英雄』へと放たれた。


「これ、は」


 その一撃に本能で危機を感じ取った『英雄』は躊躇わず回避を選択する。

 だが、下がろうとした足を止めるようにヨミが己の足を絡ませた。


「逃が、さん!」

「――貴様ァ!」


 銃弾に意識を向けていた『英雄』に一瞬の硬直が生まれ。


「ッ!」


 銃弾は『英雄』の右肩を打ち抜いた。


「あ、アアアアアアアアアアアアアァァ!」


 獣のような叫び声が天に響く。

 弾丸は体内に残留し、内側から『英雄』の肉体を破壊する。


 一秒ごとに崩壊する肉体と蝕まれる精神。

 それは、永劫走り続けてきた『英雄』がついに足を止めた瞬間であった。


「そしてようやく、さよならだ」


 そして油断などしない。

 確実に命を絶つために、ヨミが短刀を『英雄』の心臓に突き立てる。

 振り下ろした刃は肋骨の隙間を縫うように心臓に吸い込まれ、『英雄』の胸から紅い血液が噴水のように流れ出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ