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英雄殺しの英雄譚  作者: セイラム
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相互理解

 それが、カルラの過去。

 初めて人に話した、彼女の心の中。


「わたしは、自分で行動するのが怖い」

 それはカルラの本心だった。

 誰よりも臆病で、誰よりも小心者で。

 だからこそひた隠しにしていた、彼女の心。


 だから、誰かを求めてここまで来た。

 そんなカルラの胸の奥を見たことで、ヨミの心にはある感情が生まれていた。

 その感情の正体には、まだヨミ自身も気づいていない。


「なら、言われたことならできるんだな?」

 それ故に、飛び出た言葉はある種の確認だった。


 カルラはコクリと頷いて肯定する。

 言われなければできないが、命じられればなんでもできるのがカルラという女である。


「ならいいんだ、俺が指示する。カルラは指示に従えばそれでいい」

「――それは」

 ただ、命ずるままに動け。

 そんな高圧的な言葉の内容とは裏腹に、ヨミの声には暖かな優しさが込められている。


「責任も、重圧も俺が背負う」

 だから好きなようにすればいいと、ヨミは諭す。

 指示に従って行動するのが楽で幸せなら、それを否定しないと。


「だから、俺を手伝ってくれ。これは命令じゃなく、お願いだ」

 どうか手を貸してくれないかと、ヨミは右手を差し出した。


 その目は純粋な期待と希望の色に染まっている。

 カルラは呆然とその手を見つめると、恐る恐るといった様子でその手にすがりつくように両手で包み込んだ。


「──わたしは、自分では動けない」

 それは改めて口にした宣誓。

 神に祈るように、一言一句を確かめるように言葉を紡ぐ。


「だから、わたしの進むべき道を示してほしい」

 それが唯一の願いだと、カルラは祈る。


 どうか前を歩いてほしい。

 そしてその背を追いかけることを許してほしい。

 それだけが、わたしの望みなのだと。


 どちらからともなく、相手の手を強く握った。

 離れないように、簡単に解けてしまわないように。


「ああ、任された」

 触れ合った手から、お互いの体温が伝わる。

 そうして離れた後でも、お互いの手には奇妙な温もりが残っていた。


「そうだ、今度はこっちも話さないとな」

 ふと顔を上げてそう言ったヨミに対して、しかしカルラは必要ないと首を振る。


「わたしを導いてくれるならそれでいい」

 それはカルラなりの気遣いだったのだろう。

 辛いことをわざわざ口にしなくてもいいと、カルラは言ったのだ。

 表情は変わらないが、ヨミには心なしかその声色が柔らかくなったように感じられた。


「不器用なんだな」

 笑いながらそう口にして、それは自分もかとヨミは自嘲する。


 これだけのきっかけがなければ、他人と正面から向き合うことすらできなかったのだから。

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