15話 輪廻~終りの始まり~
オサムは起きた。そして黒騎士装備に着替えた。
もう一度グランパープルに行ってやるべきことがある。
剣も全て現在持っている最強の黒騎士装備で乗り込んだ。
守護者に会い説明してもらわねばならない、この地獄のような状況が何なのかを。
「守護者は居るかぁ!」と抜剣したまま肩に担いで祭壇まで登った。
「俺は神に裏切られた、この国が神の国ってんならぶっ壊す!」
そう叫んで柱を斬ろうとした、しかし跳ね返された。
「Godsよ、この国は時が止まっておる、傷も付けられぬぞ?」
守護者は平然と言った。
「涼しい顔か、それが気に食わねぇ!」と叫んで守護者に大剣を振り下ろしたが跳ね返された。
「我が身も時が止まっておる、斬れぬ」
守護者は平然と答えた。
「あぁ、そうかよ、てめーらは人の人生で遊んでやがるんだな?」
「気に入らねぇ!全部ぶっ壊してやる!全て俺が作ったんだからな、文句はねーな?」
オサムは外に出てリーファを呼んだ。
空から舞い降り、音もなくオサムの目の前に立った。
「すまぬが、我が城へ」
何故かオサムの怒りは静まっていた。破壊衝動も無い、リーファには何らかの精神を安定させる作用が有るのだろうか?
青白く輝く光に鎮静作用が有るのかもしれない。
それとも守護者が何かを行ったのか?
城に着くとスウェンに「関係する奴ら全て集めろ」と言って中庭で待っていた。
全身黒ずくめの甲冑姿、完全装備でバイザーだけを上げている。
「どうなさいました?星帝様」
半時間程でスウェンを筆頭にクイードたちの子孫や子供、孫が集まってきた。
クライツやグリーシア等各国に嫁いだ者を除いても40名以上がまだ元のグレイス帝都に住んでいる。
「突然だが、俺は旅に出る。期限は無いが俺無しでもやっていけるな?」
オサムがそう言うとスウェンは
「ご安心下さい父上、全て父上の道を踏み外さずやり遂げてみせます」
そう言うので
「そうか、たのむぞ、スウェン。皆も手伝ってやってくれ」と言って、城の倉庫に向かった。
倉庫で1億枚の金貨、30億枚の銀貨と白銅貨、黄銅貨と青銅貨を無限マジックポーチに入れ東へ向かった。
既にグレイスの貨幣は全ての国家の貨幣となっており、例外としてモンスター晶石を換金した時の銀貨だけは依然として基軸通貨として使われていた。
オサムが最初に向かったのは東だった。
副都には日本式の屋敷を建て、庭も整備されており落ち着ける。
暫くの間はそこで暮らして考えを纏めることにした。
「ロウは居るか?」とグリフォンで降り立ってすぐに訊いた。
ロウに代わり大公となっている息子ロウ・ファンが出てきた。
ウェンはまだ生きているが、100歳を越えた高齢である。
息子の内、長男グンと次男トウは既に死んでいた。ファンが継嗣に選ばれたのは清廉で聡明なジャッジマスターであるからだ。
ファンは末子であるがとうに60を超えている。
高レベルのジャッジマスターはインペリアルセイヴァーの様に老化が遅い、ウェンもファンも実年齢とは程遠い姿である。
「星帝様、どうかなされましたか?」と訊かれ
「すまぬが当面の間世話になる」そう言って自分のために作られた屋敷に向かった。
オサムはマジックバッグから持ってきた本を取り出して読み始めた。
まずは人生を無為に過ごすことにする。
確か老子の思想が無為自然であったはずだ。道教やオサムの好むストア哲学の生活とは程遠いが。
数日後、屋敷に大勢の人間がやって来た。
「星帝様の世話をするものを集めてまいりました。側女も3名美しい者を」とファンが庭にずらりと並べた。
オサムは「俺一人に世話係はこんなには要らぬだろう」と、その中から10人選んだ。
家事や給仕だけをして貰えれば良い。
「他は要らぬ、ロウの屋敷に戻してくれ」
「あと、側女か?確かに美しいな。その3名の実家に銀貨1万枚ずつ届けてくれ。少し待て」
とバッグから3万枚の銀貨袋を出して「これを」ロウの息子に渡した。
マジックバッグの中には小さなマジックポーチがいくつも入れてあり、1万枚から1000万枚までの複数の銀貨がすぐに取り出せる。
ロウ・ファンは「副都にも陛下の個人資産は銀貨にして数百億枚ありますが?」と言ったがオサムは
「良い。銀貨は30億枚持ってきている。俺の資産は国庫にでも入れておけ、帝都にはもっとある」
オサムにはもう銀貨は要らない。欲しいのは死だけだ。
3人の娘はそのやり取りを見ていて驚いていた。臨時で決められた側女なのだろう。
「お前達3人はいつも何をしている?俺の相手をするために雇われたのではなかろう?」
オサムは尋ねた。もしそうであるなら全員還すつもりだ。
「いつもはロウ大公様のお屋敷で働かせていただいております。今回は陛下がいらっしゃったとのことで選ばれました」
そう言われ、オサムは「そうか、ならば良い」とだけ言ってまた本を読み出した。
ロウの屋敷で働いているのならば無理に連れてこられたわけでは無いだろう。
そして常に皇帝不在だが手入れの行き届いた屋敷でくつろいだ。
オサムは3人に「自由にしていいぞ、暫くの間で良い、俺といてくれ」
とだけ言うと扉を開け放ったまま布団に寝た。
3人の娘はどうしていいかわからず眠るオサムの傍に居た。
2時間程するとオサムは起き上がり「何か食いに行くぞ」と3人を連れて城下に降りた。
「美味い店を知ってるか?」と訊くと
「行ったことはありませんが、この先の店が評判が良いらしいです」
と一人の娘が言った。
どうやら高級過ぎて庶民には無理な店のようだ。
東側にも領地を持つ貴族は大公であるロウ家しか無い。
騎士階級や法術士階級の者は多数居るが、年俸は銀貨で直接支払っている。
そしてグレイス帝国では9家の例外を除き地位の世襲は行われない。あくまでも実力や働きに応じて年俸が決まる1代限りの家格である。
家臣となっている各国皇帝や王達には強制はしていない。あくまでも皇帝領である直轄地、とは言えほぼ帝国全土だがそこでの話だ。
3人の娘達は下級の騎士家か法術士家、それか庶民出身なのだろう。
「じゃあそこにしよう、案内してくれ」オサムが言うとその店まですぐに着いた。
「食いたいものを注文しておけ、俺の酒もな。遠慮はするなよ?」と言ってオサムは席を外した。
帰ってきた時には酒とちょっとした肴が置いてあった。
「料理はまだか、では少し待つとしよう、膝を借りるぞ?」と言って左横の娘の膝に頭を預けた。
しかしその膝はカタカタと揺れていた「リムルやロレーヌと違う」
「緊張してるか、そうかもしれんな」
当たり前の事だが、オサムは帝位をスウェンに譲ったとはいえ、この星の実質の支配者である。
変わらぬ容姿もあり、殆どの者達から”神”と崇められていた。だがオサムはオサムである、何も変わっては居ない。
出された料理を片っ端から食い
「どうした?お前達も食え、美味いぞ?」と言ったが遠慮なのか緊張なのか殆ど食べない。
望んでも会うことすら叶わない存在を前にして娘達は萎縮していた。
命じる必要も無いだろう、とオサムは放っておいた。
オサムは3人の娘を屋敷に連れて戻り
「当面自由にしておけ」と外に出てグリフォンを呼んだ。
『星帝?グランチューナー?Gods?しらねーよ!』半ば自暴自棄になっていた。
「壊すか?この世界の鍵となるダンジョン全部・・・ぶっ壊してみるか」オサムは決めた。
「神々の一人だってんなら俺を止めてみやがれ!」
最初に壊したのはこの世界に来て初めて見たピラミッドダンジョンだった。
剣にホワイトダスト、フレイムキャノンとストームグラスト、アースシャフトを込めて一振りすると
ダンジョンは崩れ落ち、大きな穴が開いた。
オサムはフレイムナパームで岩を溶かしそのダンジョンを”無かったこと”にした。
同じように数カ所を除き、他の全てのダンジョンを破壊するのに半年も掛からなかった。
そして大陸からモンスターはほとんど消えた。
人々はこれで安全になるが、騎士以上に成れるものは少なくなるだろう。
近代文明に近づいたこの世界にはもうモンスターは不要である。そろそろ中世世界から近代世界へと移行する時期だとオサムは考えていた。
しかし、オサムは自分からリムルやロレーヌ、クイード達を奪った神々を赦すつもりはなかった。
「俺はテメーらの盤上の駒だろうがな、好き勝手やらせてもらうぜ」
そう言ってグレートドラゴンで東の大陸に向かった。
「よく発展してるな、この大陸にはダンジョンは無かったし・・・」
オサムは荒れ地に降りて少し考えていた。
「不老不死を望むやつは馬鹿だ。失うだけじゃねーか」
「俺を死なせろ!神々よ!見てるだけか!」
オサムは”死”だけを欲していた。不可能なことであろうとも。
「この世界を壊すぞ・・・」
本気ではなかったがオサムにはその力はある。
オサムは一度帝都の屋敷に戻り古い甲冑を取り出して着替えた。
自分用の殆どの装備をグレートドラゴンの首から下げたマジックボックスに入れているが、騎士やロードナイトの時期に使っていた装備は屋敷にある。
そして誰にも知られないように荒れ地に行きナパームウォールを使い業火の道を作りその中を歩いた。
甲冑が溶け、異様な姿になっていた。
『スウェンなら俺を完全に殺せるかもしれない』オサムはそう考え、帝都の外に降りた。
その手に持つのはスウェンも知らないはずの昔に封印した極普通の剣に見える魔剣だ。
オサムは城塞の分厚い鉄の扉を簡単に切り裂き、中へ入った。
全身に魔法で炎を纏い街の中を城まで歩いて行く。城の丘まで幅100メルト以上、20キロの道のりには城壁が3重になっている。
その時スウェンが現れた。
「何だお前は、悪魔か?」
しかしオサムは答えない。剣の一振りで広い道がかなり崩れた。
「何をする!」とスウェンは凄まじい攻撃をしてきた。
オサムは避けずそれらを全て体で受け止めた。
「なんだと?」全力を込めた攻撃だったはずだ、スウェンは一撃でグレートドラゴンも倒せる。
その攻撃が全く通用しない。
スウェンはもう老人のはずだが、その見た目は40歳にも見えない。
オサムの家系、特に息子や娘はその濃い血のためか老化がひどく遅い。
皇帝であるスウェンはオサムと同様行動する皇帝だ。
オサムは立っているだけだった。
やはり無駄か。と考えていた時、目の前のスウェンが魔法をまとわせた剣を振るとオサムが巨大な火柱に包まれた。
ぼやっとした空間に包まれてオサムは闇の中に居るようだった。初めての感覚だ。
遠くに火を噴く山があり、暗闇を真っ赤な溶岩が照らしている。
「地獄か?煉獄か?魔界か?なんでも良い。死ねたのかもしれない」
オサムは歩き出した。
「デーモン・・・?」オサムの目の前に見慣れた異形の生き物が並んでいた、いや、囲まれていた。
オサムはそれらを切り払った。
「弱い」一言呟いた。
次は巨大なグレートデーモンが数匹現れた。それも一撃で切った。
「何がしたいんだ?ここは何処だ?俺はどうなったんだ?」
それでもオサムは歩き続けた。
向かってくるもの全て切った。
「虚しい・・・」オサムはそこで何十万ものモンスターを倒した。
その強さはもはや何者であろうとオサムを倒すことは出来ない。
幾つかの見える城へ行くとサタン、ルシフェル、ベルゼブブが居た。
最強の魔族である。地上のダンジョンでは見たことがない。
オサムは「どうでもいい」と言いながらそれらと戦った。
数分もせず片付けた。
いつもの癖で晶石を拾い、グランパープルのバッグに入れた。
オサムは傷も受けたが、瞬く間に治癒した。
「ここも現実世界かよ。死ねねぇよぉ」
剣を片手に近くの岩に座った。
モンスター達がまた現れたので立ち上がったが、敵意は無いようだ。
オサムは魔界を征服したようだった。
「今度は魔界の王かよ・・・興味がねぇよ・・・」
ルシフェルを倒した時に妙なマジックアイテムらしきものを手に入れたので使ってみることにした。
溶けた甲冑や剣も置き、城にローブが有ったためそれを着た。
マジックアイテムを使うとロムドール大陸に出た。
オサムの後ろには暗黒の穴が開いていた。
そこからぞろぞろと大量にモンスターが出てくる。数万ものモンスターである。
魔界のモンスター達ではない。ダンジョンや塔でよく見かけるモンスターばかりだ。
「これは?」とローブを見たオサムは「俺がカオスキーパーだったのか?」
状況と姿を見る限りそうとしか考えられない。
どうすべきか考えていると黒騎士がモンスター達と戦っていた。
時間を置いてダークドラゴンも数十匹出てきた。
オサムは傍観していた。
そうしてる内にモンスターを倒し尽くした黒騎士、以前のオサムが自分を切ってきた。
血が流れ、オサムは暗闇へと引き戻された。
気がつくとオサムの斬られた傷は治っており、魔界に倒れていた。
オサムはローブを着替え、またアイテムを使った。
空間に穴が空きロムドール大陸の何処かが見えていた。
オサムはその穴から出た。
モンスターがまた大量に暗闇の穴から現れた。
そしてまた黒騎士が現れ、モンスターを全て片付けた後
「いい加減にやめろ!」とオサムを剣で貫き、暗闇の穴へ押し戻した。
オサムは起き上がり、気がついた。
過去を見ることが出来る。またリムルやロレーヌ、クイード達に会える。
オサムはアイテムを使い続け、リムルを探した。
しかしローブを切られて顔を見せる訳にはいかない。
カオスキーパーは敵だったためだ。自分に自分の顔を見られれば混乱するだろう。
オサムは持ってきた短剣のスキル”シャドウ”を使うことにした。
これなら物理攻撃も魔法も効かない、実体のない影だからだ。
オサムは色々と見て回った。
オサムが居た。
クイードも居た。
タキトスやハンビィ、クラウド達も。
懐かしい顔ぶれ。自分が彼らの敵であろうとモンスターは簡単に片付けてしまうだろう。
その点に関しては知っている。憂慮はしていなかった。
時間と場所は大体でしか決められないようだ。
もう一度だけでいい、リムルやロレーヌの顔が見たい。
そう思って何度も何度も探した。
窓は不安定で、空中に開くこともある。
一度に見られる場所も1箇所だった。
違う場所を見ようとしたりモンスターが全滅してしまうと窓が閉じてしまう。
結局オサムはリムルやロレーヌを見つけることが出来なかった。
クイード達やオサム自身が窓を閉じてしまうのだ。
その内オサムは諦めた。
記憶を辿っても、カオスキーパーがリムルやロレーヌと会ったことはない。
クイード達の姿を見られただけでも十分だった。
だが、あの時代の世界を乱してしまう。あの幸せだった時を。
オサムは二度とそのアイテムを使わなかった。
また鎧を着て剣を背中に装備した。
「俺は神々の一人か。では万能なんだな?」オサムは誰かに言うように話した。
魔界の出口をアークデーモンに教えさせた。このレベルのモンスターは知能が高い。
牙をカチカチ鳴らすだけなので言葉なのかどうかはわからないが、洞窟を案内させ、オサムは外の世界へ出た。
オサムは甲冑を脱ぎ捨て、剣だけを持って夜中にグレイス帝都の屋敷へ帰った。
暫くの間その屋敷で過ごしていると、スウェンが来た。
「父上、城に攻め込もうとする者が居たのですが、突然消えました」
「このことに何か心当たりは無いでしょうか?」
そう訊かれたが
「被害はないのか?皆無事か?」と訊き返し「ほぼ被害はありません」とスウェンは答えた。
「ならばよいではないか、また来るようなら斬り殺せ」
オサムはそう言ってベッドに寝転んだ。
「俺はもう隠居している。世界は任せたぞ、スウェン」
オサムは寝てしまった。
自分自身にすら何も出来ないオサムはこの世界の記憶を消し去ることにした。
”忘却の香”という極めてレアなマジックアイテムだ。
オサムはまた誰もいない山の中で”忘却の香”を吸いながら記憶が消えていくのを感じていた。
殆どの出来事を忘れた時に自ら首を落とした。
これでこの世界のことを忘れて向こうの世界で秋葉オサムとして暮らせる。
オサムは起きた。いつものように。
「ん、なんか変な夢だったような。まぁいいや。」
オサムはプロジェクトが終了したため無職になっていた。
ほとんど外に出ず、遊びといえばオンラインゲーム。
たまにレンタルDVDを借りに行ったりマンガを買うくらいで
給料のほとんどは余っていた。
残業や休日出勤を繰り返してほとんど休んでいなかったので使う暇が無かったし
ファッションや外食にも興味がない。
食事会ではその容姿のため女性に興味は持たれるが、話題が偏っているので当然彼女が出来たためしもない。
まだ若いし貯金もかなりあるので1年程海外を回ろうと考えていた。
『バックパッカーで世界を回るのが良いなフランスならモテたりして?』とか考えていた。




