14話 神の呪いと星を継ぐ者
スウェンはまだ10歳だが、既に騎士に転職して更にレベルを上げていっていた。
ビーツの作る強力な装備とスウェンが持つ何らかの力のためだろうか?
既に剣士用や騎士用の魔剣程度ならビーツはかなり強力なスキルを選択して付けられるようになっていた。
そのスキルを上手く使い、スウェンはボスモンスターも倒してしまう。
オサムがそうであったようにメラススの塔に行っていた。
もちろんオサムの直属の家臣であるクイード達8人の内2人は同行したが、既に自分でペガサスを手に入れている。
そして帰ってくるとオサムに
「今日は25階まで行けました、父上」と嬉しそうに報告する。
オサムは「頑張ってるな、このまま鍛錬を続けなさい」というが
正直驚いていた。大人用の剣を軽々と扱ってしまう。
さすがにオサムが持つような大剣は無理だが、城の倉庫へ入っては自分で剣を選んでいた。
しかしスウェンはオサム達のように楽しんでいるわけではない。
皇太子の義務として、弟達に負担の掛からないように積極的に自分を磨いていた。
そして11歳になるとロードナイトになっていた。
護衛役のクイード達もオサムも
「こんな事信じられない」と言い合っていた。
自分達は数年掛けてやっとロードナイトに成れたのである。
幾らビーツの腕が上がり、強力な剣を打つことが出来たとしても成長が早すぎる。
「成人前にインペリアルセイヴァーになるかも?」と言う話もでたが、きっと実現するだろう。
スウェンは戦うことをやめない。城で学ぶこともやめない。
一般の学習には優秀な家庭教師を選抜して付けているが、異世界の文明、オサムの世界の技術も少しずつ教えていた。
スウェンは不思議に思ってオサムのことを訊いてきたが、オサムが異世界から来たことはまだ教えていない。
スウェンは同年代の子供と比べると遥かに背が高い、成長期だろうがもう1.6メルトは超えていた。
オサムは自分が居なくなってもこの子は自分のように帝国を統治出来るだろうと確信していた。
勤勉で優しく強い。本来の性格はリムルに似ておっとりとしている。猛々しさはないので良い皇帝になるだろう。
オサムの執務室にある特別な翻訳本はまだ自由に読ませていないが、時期が来れば出入り自由にしようと考えていた。
ロードナイトのレベル50になると護衛なしで勝手にペガサスに乗り塔に行くようになった。
このレベルならば護衛無しでもある程度の深さまで潜ることが出来る。
それにスウェンの装備はビーツの研究の最終形態であり、防御力、攻撃力共に最高傑作ばかりを身に着けていた。
念のためリジェネリターンの魔石を持たせているが、スウェンの戦いぶりを見たくて後をつけた事がある。
30階層までは楽にクリアしてしまった。
そして回復薬も使いどんどん降りていく。その時は40階層まで降りると帰って行った。
どうやらその日その日で時間に従いどこまで降りるか自分で決めているようだ。
帰るとすぐに城の図書館に行き、数冊の本を持って自分たちの部屋へと上がり、続き部屋になっているオサムの書斎で読んでいた。
その内ドラゴンも簡単に倒せるようになってしまった。
スウェンのレベルは通常の倍以上の早さで上がっていく。
その内シルバードラゴンやゴールドドラゴンも苦戦したらしいが倒してしまった。
連日連夜、深い階層に行くときはクイード達の内1名は護衛に付いていたが戦い続けていた。
まるでそうすることが当たり前のように戦い、書物で学んだ。
のんびりと過ごしているゼイノンやリューゼ、弟達の代わりを全て行っているようだった。
そしてロードナイトになってから半年も経たずインペリアルセイヴァーになった。
11歳の子供がである。
オサムとスウェンはペガサスでグランパープルに飛んだ。
「守護者様、この子は一体何者でしょうか?」オサムが訊くと
「ふむ、この子はグランチューナーだ、その定めの下に神々に祝福された存在」
という返事が帰ってきた。
オサムは
「では、このスウェンもまた魔法の儀式を?」
自分がやったように4つの神殿を回り、帰ってくる儀式を行わねばならない。
「そうだ、今から始めよ」と言われた。
オサムがスウェンに
「では今から神殿を4つ回って戻っておいで」
そう言ってスウェンを行かせた。
1週間程するとスウェンが帰ってきた。
どうやら神殿に興味を持ち、色々と見てきたようだ。
「あとはこの神殿だけだ」
オサムはスウェンに入るよう促した。
暫くして出てきた息子の手にはリーファの笛が握られていた。
「リーファの笛も貰ったのか?」
とオサムが訊くと
「はい、父上」と嬉しそうに答えた。
「では帰るぞ、ここで呼べるのはリーファだけだ」
オサムとスウェンは笛を吹いた。
空から優雅にリーファが舞い降り
「この者は私の友となるリーファですね?」そう言ってから
「よろしく頼むね、リーファ、僕も精一杯頑張るから」
と言ってリーファの背に乗った。
オサムとスウェンはそのまま帝都へ向かったが、途中少し足を伸ばしてメラススの塔に立ち寄った
オサムはスウェンに
「いいか、魔法が使えるとはどういうことか教える」
そう言って塔に入り、一通りの魔法や、剣にまとわせた魔法を見せた。
「父上はすごいですね」と興奮気味にその光景を見ていたが
オサムは
「これが出来る様になるには少しコツが必要でな、そのうち分かる」
と言ってスウェンを連れて帝都へ戻った。
晶石の換金とスウェン用の魔法書の購入のために換金所へ入った。
換金を終えてから
「最上等の魔法書を5種類欲しい」と1冊銀貨2000枚の魔法書を買った。
スウェンはそれを渡され、マジックバッグに入れた。
「魔法の使い方は今度教える、まずはその本を読めるようになりなさい」
そう言って城へ帰った。
オサムは緊急にクイード達を執務室に呼んだ。
何事か!と皆が慌てて駆けつけると
「スウェンがグランチューナーになった」
と言って皆を驚かせた。
「グランチューナーですか?では殿下も魔法を?」
クイードが聞いてきたので
「そうだな、しかしまだ魔法書は読めんだろう、俺でも苦労したからな。少し先になる」
と、答えた。
皆は唖然としていた。
「陛下の御子ですから、グレイスを継ぐ者として殿下は神々に選ばれたのでしょう」
ハンビィが言った。
「グランパープルの守護者も同じようなことを言っていた、しかしわからん」
オサムが考え込んでしまったので
「しかしまだ殿下がモンスターの群れと戦うのは早いでしょう、しばらくは我々だけで」
ジンが言ったが、8人の総意のようだった。
他国には内密にするということで解散した。
この世界の成人の儀式の日、つまり15歳の誕生日に発表することに決めた。
オサムはハイドステータスの指輪をスウェンに渡し
「いつも付けておくように」と固く言い付けた。
そしてオサムはもう一つの謎に直面していた。
もう30代の半ばに差し掛かっているはずなのだが25歳の頃から全く容姿が変わらない、若いままなのだ。
体力の衰えを感じるどころかますます強靭になっていく。
クイード達もほとんど同じなのでインペリアルセイヴァーの性質だと考えることにした。
体が頑強ならそのほうが良い。しばらくは考えないようにすることにした。
その頃、オサムが計画した各大陸への移民は徐々に規模を拡大していた。
ロムドール大陸では建築作業が少なくなり、職人や労働者が余り出していた。
とは言え、西グレイス帝国では少ないがまだ仕事はある。元のグレイス王国やグリオン、エスカニアが開発され尽くしてしまったのだ。
特に東の旧シャングール地域では、元々整備されていたためその傾向が強い。
一部は北方森林地帯に作られた各都市へ自主的に移動した。グレイス帝国内の移動は自由である。
それにまだ手付かずの膨大な資源が眠っており、新大陸ほどでは無いにせよ開発者や労働者の賃金が高い。
ルアムール王国はジャグアに任せているが、人口と比較すると耕作地や鉱物、石油資源はまだ開発しきれていない。
大陸西部部分の人口が急増したために、オサムは失業を無くすための方策を考える必要があった。
数百万人が移民を希望していた。農民や商人、騎士階級の家を継げない者達が多い。
毎年100万人が移住していくこととなった。
オサム達は都市の建築材料の切り出しや運搬などを行い、移住者が困らないようにしていった。
それと同時に各大陸の資源を確認し、開発を行っては余剰品を本国に持ち帰っていた。
同時にオサム自身が翻訳者を連れて元の住民達の言葉を書物にし、移住者に教育も施した。
各大陸の文化や文明は保護され、貴重な書物がアステカ帝国のように焚書されることは無い。
グレイス帝国は世界帝国となり、皇帝であるオサムは西側ででも神聖視されるようになった。
元々敬意を払われていたが、神と同列の扱いを受けだした。だがオサムはそれを否定した。
自分は神ではなく只の人間である。たとえ異世界から来て神に選ばれた存在だとしても。
クライン、グリーシア、ルームラントの各皇帝もこの急激な社会変革に揺れていた。
グレイス帝国は戦を仕掛けない。クライン帝国は事実上グレイス帝国の傘下に有る。
グリーシア帝国は国内の整備と内政をしっかりと固めていった。
しかしムールラントは内政が行き詰まっていた。
元々人口の多い地域だったが、国内が安定したことで人口が急激に増えていたのだ。
しかしどうすることも出来ない。
一部はグレイスの移民船で他の大陸へと移ったが、人口が増えたからと言って領土が増えるわけではない。
ムールラント皇帝は国内情勢を考えてグレイス帝国の傘下に入ることにした。
オサムはそれを快諾し、グレイス帝国の往来自由を与え、ムールラントの国民は3割が東側各地へ出ていった。
グレイスは資源開発や公共工事を頻繁に行っており常に労働者を必要とする。
移民になる者も多かった。
移民船も数を増やし、ロムドールから大量の人間が出ていった。
全人口のおよそ3割、殆どが貧しい者達だが新天地での生活にあこがれて大陸を目指した。
そして着実に新大陸の移民は増えてゆき、大陸の都市も繁栄していった。
しかし、一番西に有る大陸だけはオサムが力で奪った国である。
他と比べて元々の人口も多い。
いつ戦乱が始まるかわからないため兵士もかなりの数を送った。
ロムドールではもう戦が無いので兵士も余っている、それらの内興味を持つものを送り込んだ。
緊迫した状況ではないが、備えておくべき事は怠りなくオサムは進めていった。
カオスキーパーの襲来以外に対応すべきことが殆ど無くなった。
移民先の街が襲われたという話も聞かない。
他の大陸にはモンスターの居るダンジョンや塔は無い。荒野を徘徊するモンスターも存在しない安全な土地だった。
オサムは他の大陸の事は一旦文官達に任せ、スウェンに同行したり、自分だけで行ったりと各地のダンジョンを再度回っていた。
安全性を考えると旧シャングールの様にいずれ封印を施すことになるだろう。
インペリアルセイヴァーのレベル200を超えてからはレベルが簡単に上がるので
オサムはどこまでが限界なのかを調べようとしていた。
1年程が過ぎた時に995と言うレベルになっていた。
「上限は無さそうだな、HPもそんなに上がらないし」
とオサムが言ったが500万は超えていた。
「まぁ良いか、とりあえずレベル1000にしとくか」
そう言ってから数週間。
インペリアルセイヴァーのレベルが999になったときにそれは起きた。
オサムは儀式もなしにいきなり上位転職した。
ステータスを見ると”Gods”レベルは無かった。
HPもSPも無限大となっていた。
グランパープルの守護者に尋ねると
「お前は神々の一人となった」と言われた。
そう言われてもオサム自身は自分で変わった事を感じない。
一番歴史のあるグりーシア帝国に行き、古文書で調べてくれと皇帝に頼むと
皇帝は何も言わずに床に這いつくばって頭を床に付けただけだった。
ムールラント皇帝やクライツ皇帝も同じように何も言わなかった。
そして突然この3帝国が一斉に領土を譲ってきた。
オサムはわけが分からず慌てたが、
”Gods”は古代から予言されていた世界全ての支配者であると言われただけである。
昔からの伝説だということだった。
詳細を聞き出そうとしても、伝承であるため書物にはなっていない。
領土を返還しようとしても断られ、家臣の一人に加えてくれという。
オサムはこの世界全てを手に入れ
「星帝」と呼ばれるようになった。
皇帝でさえ家臣なのである。領土はそのまま与えたが立場は変わる。
この星の全てをその手に握る者となった。
しかしオサムはオサムである。中身は変わらない。
相変わらず国土の整備を行ったり、リムルやロレーヌ、クイード達とも普通に会話していた。
そこからピタリとカオスキーパーが現れなくなった。
そのまま10年が過ぎ、スウェンにグレイス皇帝の座を譲位した。
自分は屋敷に移りリムルやロレーヌと楽しく過ごしていた。
しかし、自分だけが年を取らない。
リムルやロレーヌ、クイード達は既に50歳の手前だ
それなりに年をとっている。
オサムだけが25歳程度のままだった。
ここまで来ると不自然である。傷を負ってもみるみるうちに治癒する。
オサムは考えた。
これは不老不死になってしまっている。と
もしそうならば自分の大切な者達が先に逝ってしまう。
これ以上の恐怖は今まで感じたことがない。
”死ねない”ことに対する恐怖。
リムルやロレーヌ、クイード達は
「陛下はいつまでもお若いですね」と言って笑うが笑い事ではない。
そしてそれから20年してリムルが居なくなった。
続くかのようにロレーヌも。
クイード達も自分を残して居なくなってゆく。
スウェンは健在だが、自分のように不老不死では無いようだ。
だが老化は他の者達と比較して遅い。
孫や曾孫達も出来たが、孫ですらオサムより年上に見える。
オサムはこれからの事に恐ろしさを感じ、誰もいない山の頂上で自分の首をかき切った。
リムル達のところへ行くのだ。
無責任だと言われようが構わない。最愛の者達は去ってしまった。
首から血を吹き出し、オサムは意識を失った。
しかし生きていた。何十年も前の自分の部屋だ。
そして、いつもどおりの「あの日」だった。
「死ねねぇ・・・何故だ!」オサムは錯乱した。
向こうの世界で死んでも元の世界の同じ時間に戻ってしまう。
やっと自分を取り戻した後、オサムはもう飛行機に乗らない事に決めた。
元の世界に戻れば傷が治った自分が居るはずだ、戻りたくない。
あれは夢だったんだ、そうに違いない。
そう自分に言い聞かせて普段通りの生活を送った。
事故当日の朝になっても飛行機には乗らず普通に暮らしていた。
しかし夜に道を歩いていた時、事故に巻き込まれてオサムは死んだ。
気がつくと右手に短刀を持っている。
戻ってきてしまった。
「なぜ死なせてくれねーんだ!」オサムは号泣しながら叫んだ。
そして次は剣で自分の心臓を貫いた。
意識が遠くなり自分が死んでいくことを感じた。
そして、また自分の部屋で目覚めた。
今度は一月後の「その時」は自分の部屋に居ることにした。
おさむは椅子に座ってネットを見ていると突然頭痛がして倒れた。
気がつくと今度は手に剣を持っていた。
「なぜだよ!なぜこうなる!」と叫びその場に倒れたまま夜空を見上げていた。
オサムは何回も死んだ、自分の首をはねてもみた。
しかし気がつくとその瞬間の前に戻っている。
オサムには、まさに地獄の日々が続いた。
そしてまた心臓を貫き死ぬことにした。
「次はこのくだらねぇ輪廻から解脱してやる!」
オサムはナイフを買い、バイクで人気のない山に入った。
「あの時が来る前に死んでやる」
そう言って自分の首をナイフでかき切った。
「まだ時間じゃねぇだろ?」と言って意識を失った。
しかしまた剣を持って起き上がった。
「くそ!まだ”あの時”じゃ無かったじゃねぇか!」
そう言って1本木を斬り倒し、切り株の上に座った。
しばらくそのままで過ごし、朝に城へ帰った。
移民の様子でも見てくるか。と白い甲冑を着て装備を整えた。
南へグリフォンで向かった。
最初はロムドール大陸の南だな、と飛んでいると見えてきた。
耳がキーンと鳴って『気圧の関係か?慣れてるはずなのにな』
と思いながら例の巨大な石造りの建築物を見つけてその上に降りた。
その建物から飛び降り「誰かいないか!」と言うと
ぞろぞろと人が集まって来てオサムにひれ伏した。
金で装飾された例の長老に近づいて
「神の使いだ、顔をあげよ」と言って顔を見ると以前の長老ではなかった。
「前の長老はどうなった?」と尋ねると
「しばらく前に天へ。今はワシが長老です。神の御使い様」と答えた。
オサムは
『そりゃそうだな、あれから何十年も経つ』と考えて。
「今のところ用件は無いが、また来るのでそれまで待つように」
と言ってグリフォンで飛び去った。
「次はこの東だな」
オサムは場所を覚えていたのでそこまでグリフォンで飛び集落近くに降りた。
集落に近づくと長老が出てきた。やはり代が変わっている。
「神の国から来た、皆元気そうで何よりだな。前の長老は召されたか?」
と訊くと
「はい、神の御使い様」と言ってひれ伏した。
「そんなにしなくてもいいよ」と言った時
「うわぁ!」と子供の声がした
どうやら自分達で仕掛けていた罠にかかったらしい、木に逆さにぶら下がっている。
かなり高いのでオサムがひょいと木に登り、短剣でその木の蔦を切ってゆっくりと降ろした。
「もう大丈夫、やんちゃだな」と言って足に絡まった罠も切った。
「すごい、それは何?」と子供が訊いてきたので
オサムは短剣を鞘に入れて
「すごくよく切れるよ、欲しいか?」と笑顔で言うと
「欲しいです!」と元気よく返事をしたので
「じゃあげよう、人に向けちゃいけないよ?」と言って
「ここなんかだと刺さると危ないからね?」オサムは鎧の関節部分を刺してみた。
しかしヒュージワイバーンの革は貫けない。
「この鎧は特注だから平気だけどね、はい」
そう言って子供に短剣を渡した。
そしてグリフォンを呼び東へ飛んだ。
「んー、なんか今日は死んだり蘇ったりで疲れたな、一度屋敷を戻ろう」
そう言って進路を北西に変えた。
途中でまた耳鳴りがしたが、気にせず屋敷へ戻った。
リムルもロレーヌも居らずクイード達も来ない屋敷だが眠ることは出来る。
オサムは鎧を脱ぎ、ベッドで眠った。




