12話 世界の大陸
オサムはふと、この世界がどうなっているのかが気になった。
『普通のMMORPGだと世界は平坦で果てがあるよな?ここはどうなってる?』
気になったらオサムは止まらない。
家令のハロルドやクイード達、ロウやジャグアに「ちょっと世界の果てまで行ってくる。後は頼んだ」
そう言って飛び出した。
グレートドラゴンに乗ってまずは南の大陸からだ。
まず島々が見え、最南端のさして大きくない島の上空から更に南に大陸が見える。地上の島からは見えないだろう。
そのまま南に進むと崖が見えてきた。かなり波に侵食されており、船を着けることは出来ない。
まずはその大陸の周囲と大陸全体を見ることにした。
大体の大きさはロムドール大陸の半分以下というところだった。東に流れる大河の周辺を中心にして建造物が見える。
その他はほとんど無人だった。
大陸北東に大きくえぐられた湾があり、港を作れそうだった。
そこから南と東へ行くとその大陸の東の方に大陸があるのが見えた。
海岸線に沿って1周したが、ロムドールより少し大きい。
かなり乾燥した大陸のようで、沿岸部以外は赤茶けた大地になっていた。
恐らく大量の鉄鉱石が採取出来るだろう。
更に東へ進路を取ると今度は南北に長い大陸が見えた。
その大陸の南端は前の大陸と近かった。
そのまま北へ海岸沿いに飛んだが、かなり長い大陸の様だ。
グレートドラゴンで一周するのに数日掛かった。
更に東へ飛ぶとロムドールの南の大陸が見えた。
「球体だな、上空から見ても水平線は地球と同じだし」
オサムはこれが星であることが分かった。
ただし、オサムの世界の宇宙ではないだろう。毎夜見える星座の形が全く違う。
一度帝都に帰り大体の図を書くと、そのまままた北へ飛んだ。
海がずっと続き、ロムドール南の大陸が見えた。
「やっぱ球体で間違いねーな。しかしあと3つも大陸があるのかぁ、どうすっかねぇ」
オサムの冒険心が疼き出した。
だが4つの大陸の間に交流は無いようだった。遥か昔に極少数が移住したのだろう。人類発祥はロムドール大陸だと思われる。
地球儀のような物を作らせ、大体の大陸の形と場所を書き込んだ。
「こうやって見るとロムドールは小さいな、いや小さくはないけど、大きくもないな」
オサムはどうしようもなく暇になった時に調査しようと考えていた。
今回の調査には1ヶ月半を要している。簡単に行ける場所ではないとは言えあまり国を空けていたくない。
何かが起きてもハンビィが判断し、対処はするだろう。しかし家臣に大きな負担は掛けられない。
帰ってきた時にわかったのだが、どうやらムールラントがグレイスに接触してきたらしい。
「南の大国ついに動く、かぁ」オサムはまだ答えを出していなかった。
ムールラントは大陸東の南側の中央部、3方向を大河と峻険な山脈に囲まれている。
一つの大国ムールラント王国と小国が乱立していたが、かなり前にすべての国を征服し、ムールラント帝国になっていた。
その後暫くの間、滅ぼされた小国家の軍が最南端に集結して内乱状態にあったのだがついに抵抗勢力を排除したのだろう。
国の規模はグリーシアより少し小さいが人口が多い。ジャグアのルアムール王国もだが旧シャングール地域と同程度の人口規模である。
そこから使者がやって来たらしいが、オサムが不在だったためすぐに帰ったようだ。
国境不可侵となるか、戦うか、使者は何も言わず挨拶に来ただけだった。
「ムールラントが内乱を鎮め、一つの国になった」それだけだ。
敵意とも取れるし、そうではないとも取れる。
東西のグリーシア帝国とルアムール帝国とは戦力が拮抗している。
国力で言うと、内乱を治めたばかりのムールラント帝国には攻める程の体力は無いだろう。
恐らくは友好の使者だったのだろう。オサムは折を見て話に行くことにした。
オサムは造船所を大きくし、400メルト級の船を作れるようにした。
鋼鉄製の船でディーゼル機関のオサムの世界でも余り見ない程の巨大船だ。
ムールラントが海軍を持っていてもグレートドラゴンのブレスで焼けるが、海軍を作るか思案していた。
どうであれいずれ船は必要になってくるだろう。準備をしていて悪いことはない。
そしてジャグアやロウ、クイード達に警戒しておくよう伝えて待った。
内乱が治まったということはまだ国内は緊張状態だろう。
ルアムールや山脈を超えて北の砂漠地帯、南北ミトワを攻めることは出来ないはずだ。
ただ、ムールラントの将軍の中にロードナイト以上の者が多数居れば話は変わってくる。
一人で一軍に匹敵することはオサム自身がよく知っていた。
しばらく待っても何の動きもなかったので
ムールラントの皇帝に会っておくか。とオサムは儀礼用の甲冑で出かけた。
ただし、何が起きるか分からないため、剣は装飾された大剣だ。
この頃になると、オサムの使う大剣は有名になっていた。
ハンビィとレオン以外は全員が使っている。2人は両手で剣を操るため、軽めの剣を使っていた。
ムールラントの帝都に付くとオサムは城塞の門の衛兵に話を通すように頼んだ。
話が付けられていたのか、すぐにオサムは通され、正面に見える宮殿へ歩いていった。
途中、店や民を見ると皆楽しそうにしていた。
『んー、これは期待出来るかもなぁ会ってみないとわかんないけど』
オサムは考えながら宮殿に向かった。
門に到着するとすぐに通された。
そして皇帝の部屋まで案内されると
「遠路はるばるよくぞいらっしゃいました、グレイス皇帝陛下。兵には伝えて居たのですが止められることは無かったでしょうか?」
ムールラントの皇帝は挨拶もそこそこにオサムに訊いてきた。
「門兵に話すとすぐに通されました、お心遣い感謝いたします」オサムは頭を下げた。
「それにしても敵か味方かわからぬ国の帝都に単身で来られるとは噂通りの豪気なお方のようですな」
皇帝は椅子から立ち上がり「こちらへどうぞ」と隣の部屋に案内された。
「今日はどういったご用件で?大体は想像が付きますが、使者とは行き違いになったようで」
「まだ国内で少々混乱が続いておりまして、私が行くことが出来ませぬゆえ使者を遣わせました、グレイス皇帝陛下直々に来ていただけるとは名誉なことです」
ムールラント皇帝は微笑んで言った。
「正直に言いましょう。ムールラントはこれ以上版図を拡大しません。それを伝えようと使者を送りました」
「恐らくその件でしょう?」皇帝はオサムの聞きたいことが分かったようだった。
「そうです、それを確かめに来ました。我が帝国も貴国と争う意志はありませぬゆえ」
オサムは正直に言ったが、ジャグアの国は西の防備を固めている。
「グレイス皇帝陛下のお噂は色々と聞いております。戦を嫌うとか城を切り崩すとか。50万の兵を半時間で皆殺しにするとか」
「そのようなお方の治める国に手出しは出来ませぬ。ご安心してください」
ムールラント皇帝は騎士の80レベルだった。
「しばらくは内政に専念したく思っておりますので」と続けた。
「それでしたら、いずれ国境の不可侵条約を結びましょう」
そうオサムが言うと
「こちらからお願いしたいくらいです。是非」
皇帝は乗り気のようだった。
「では正式な文書を作成しますので、またこちらに伺ってもよろしいですか?」
オサムが訊くと
「用意ができましたらいつでも。歓待致しますのでいらっしゃって下さい」
オサムは皇帝を観察していたがどうやら嘘ではないらしい。
「わかりました。短い時間ですが有意義な会話ができました」
「所用がありますゆえ、今日のところはこれで失礼してもよろしいでしょうか?」
用は無いが、安心できたのでオサムは帰ることにした。
「わざわざのご足労ありがとうございます」
ムールラント皇帝はオサムを見送った。
オサムは宮殿近くの開けた場所でグリフォンを呼び、飛んで帰った。
「どうやら敵意は無さそうだな、注意と監視だけはしておくか」オサムは独り言を呟いた。
オサムは帝都の城に帰って平服に着替えた。
「またお一人で、しかもムールラントの皇帝にお会いになりに行かれたとか」
リムルと部屋でくつろぐロレーヌに言われた。
「どんな国かだけは知っておきたくてね、単身で行けば警戒されないと思って」
オサムはそう言うが
「陛下はお一人で国を取れる方。100万の兵より恐ろしいのですよ?」
「事前に相手方に連絡もなさらず突然来られても皇帝とて会わざるを得ません」
ロレーヌに呆れたように言われ
「そっかなぁ?悪い人には見えなかったけど、とりあえず確認だけね」
オサムは他国との交渉にもいつも単身で行くのでそれが当たり前になっていた。
しかし南方は西方に比較すると戦が起きないであろうため重要性が低い。
大国ムールラントとも友好関係を結んでいる方が良かった。
それに前後して、グリーシア帝国のアトロがタウールに攻め込み、ほぼ無血開城で征服した。
60万の大群で攻め込まれたタウール王国は殆ど抵抗せずグリーシアに下った。
それを知ったオサムは
「次は北ミトラか南ミトラか、このまま南ミトラなら半年、北ミトラもなら1年ってとこか」
しかしグリーシアは100万の兵を動員できる大国である。
内乱で疲弊し、南北に別れた今のミトラは弱体化している。
「アトロなら両国共征服してしまうだろうなぁ」
オサムはロレーヌの膝を枕にしてソファーに寝転びながら言った。
オサムの思惑通り、アトロはタウールの兵を吸収してそのまま南ミトラを襲った。
弱っていた南ミトラは半年もせずにグリーシアに降伏した。
残るのは北ミトラ王国だけである。その向こうは大河を越えてムールラント。
さすがのグリーシア帝国でも手は出せない。
北ミトラはライツェンより領土の狭い国である、簡単に落とせるだろう。
そして、約3ヶ月を掛けてアトロは北ミトラ王国も征服した。
これによりグリーシアの版図はムールラントより5割程大きくなり、人口も同程度になった。
国境の河沿いに城塞や要塞を幾つか作り50万の兵を駐留させて征服事業は終わった。
最初20カ国以上あった南方はジャグアのルアムール王国。実質的にはグレイスの王国だが。
それにムールラント帝国とグリーシア帝国の3国にまとめられた。
この3国の軍はそれぞれ100万を超える規模がある。暫くはこの3国のにらみ合いになるだろう。
ただわかっているのはグリーシアもムールラントも戦を起こさないということだ。
内政を充実させることに尽力するだろう。
グレイスでも変化があった。エスカニアとグリオンが属国をやめて国土の譲渡を伝えてきた。
正式にグレイス帝国から領土を預かる王になりたいというのだ。
オサムは今のままでも問題は無いだろうと両国王に言ったのだが、
グレイス帝国の属国の王とグレイス帝国から領土を与えられた王では立場が違う。
オサムは両国王の意を汲み、一旦併合した後に旧グリオン及び旧エスカニアの領土をそのまま与えた。
時を同じくしてライツェンとレギオーラが合併した。
そしてクライツ帝国となり両国に持っていたオサムやクイード達の領土はグレイス帝国の隣接地にまとめられ割譲された。
オサムはその礼としてクライツ帝国に鉄や宝物、絹等を大量に贈った。
流刑の島に行った時にクイードは異変を感じた。永年流刑の島である。
刑務官を置かずに開発させていたのだが、一種の王国化のような体制が作られていた。
実力者とその側近が他の流刑者に命令を下し、かなりの開発が進んでいた。
女性が居ないため人口は新規流刑者によって増えるだけだが、城塞都市が出来上がり住み良い土地に仕上がっていた。
早速オサムに報告したが、オサムは
「放っておけ」と言っただけだった。
「船を作ろうとしているなら別だが自分達で生活しているのなら構わん」という事だ。
オサムにとっては犯罪者のために銀貨1枚ですら本当は使いたくない。
最初こそある程度の用意はしたが、その後は放置していた。
上手くやって行けているのなら手も口も出さない。それがオサムの方針だ。
しかし、その話で思い出したことが有る。例の他の大陸のことだった。
オサムは思い立ったらすぐに行動する。
早速装備を整え、まずは南の大陸に飛んだ。
今回は1つ前の黒騎士装備と全く同じだが
色は白をベースに所々に金を取り入れた白い騎士装備にした。
黒や銀よりも神の守護者らしく見えるだろうからだが、威嚇の色ではないからだ。
暫く上空から眺めて人の住んでいそうな場所を探した後、北に降りた。
最速で周りたかったため今回はナイトメア、スレイプニル、ヒポグリフを試してみた。
ナイトメアは力強いが戦場向きである。
スレイプニルは飛ぶように走る。しかしヒポグリフはグリフォンと同等の速度で空も飛べ、ナイトメア以上の強さがある。
結局オサムはヒポグリフを使うことにした。
どこかに国らしきものは無いかと低空で見回っていくとジャングルの中に巨大な石造りの建築物があった。
「これは見逃してたな」と暫く旋回しその後建物の上に舞い降りて周りを見渡した。
その時、周囲から数百人の人々が現れ一斉に建物の上に居るオサムにひれ伏した。
金で全身を装飾した王か神官らしき者が居たのでオサムはその人物に近寄った。
「北より参ったが、この大陸にある国はここだけか?」と訊くと
「神の御使いよ、他に8つの国があります、我が国はそれらを束ねるミオの国です」
ひれ伏したままその男が答えた。
『神の御使い?俺が神聖視されているな、都合がいいっちゃあいいか、理由が分からないけど』オサムは考えて
「ではすべての国に伝えよ、この土地の果てまで我が領土である、と」そう言うと
「元よりそうです。700年の歳月を超えてよくぞ来て下さいました。白き神の御使い様」
その男はまたオサムの聞き覚えのある”700年”という言葉を使った。
「そうか、無事国は繁栄しているようだな、また来る。その時まで国を頼んだぞ」
オサムはハッタリを使い、服従させてから空高く飛んでいった。
『多分また俺が700年過去に行くんだな?他の大陸も調べておこう』
とグレートドラゴンに乗り換えて次の大陸に行った。
そこは赤茶けた大地が中央にあり、木々が生い茂るのは海沿いだけだ。
オサムはヒポグリフに乗り換え海沿いを低空でゆっくりと飛んだ。
ここには貧相な集落が点在するだけだ。人口もさっきの大陸より少ないかもしれない。
一応各集落を歩いたが、いきなり槍が飛んできた。
オサムは避けることもなく鎧で弾き返したり、飛んで来る槍を手で受け止めたりしていると、長老らしき者が近寄ってきた。
「お前は何者だ?」と尋ねてくるので
「神々の守護者と呼ばれている」とオサムは答えた。
その人物はいきなり短剣を取り出し、甲冑のつなぎ目、関節部分を刺してきた。
ヒュージワイバーンの革で補強してあるためその程度は痛くも痒くもない
「失礼しました。700年前から伝わる聖なるナイフを受け付けない、伝説の神の化身ですな」と言ってひれ伏した。
それを見て回りの者もひれ伏した。しかしここでもまた”700年”という言葉が出た。
「他に民は?」オサムが尋ねると
「多く居ます。昔とは比較にならぬほど。私がその長となっております」と言われたので。
オサムは
「では来たことを伝えておいてくれ、また来る、と」
「それで、この土地は全て私のものだったはずだが、変わってはおらぬな?」と言うと
「もちろんでございます、西の果てから東の果まで全て貴方様の土地と伝えられております」長老が答えたので
「では頼んだ。他にも行く所があるのでな」オサムは飛び、そのまま次の大陸を目指した」
『多分あの2つの大陸にはこの先何かしらで時間を越えて行くことになるのだろうな』
オサムは考えながら暫く飛び最後の大陸の最南端辺りに着いた。
「かなり神聖視されているけど、なんだろう?700年前に戻ったときには振る舞いに気をつけないと」
そう呟きながら飛んでいた。
次の大陸は西寄り中央近くに山脈が続いている。さながら南米大陸である。密林はないが南の方は砂漠で誰も住んでいない。
グレートドラゴンでは大きすぎるため、ヒポグリフの上昇限度で見下ろしていた。
「ここはかなり人が多く住めるな、大きな国があると戦いになるかもな」しかし剣は使いたくない。
オサムは木を斬り倒し、丈夫で長い棍棒のようなものを短剣で作った。
「まずはゆっくり見ていくか」と集落を見つけて近くに降りていった。
途端に数十人の簡素な鎧を着た兵士らしき者達が出てきて防御柵越しに矢を放ってきた。
オサムは気にせず、棍にエンチャンテッドストーンの魔法を掛けて防御柵を叩き崩した。
数十メルトの防御柵が吹き飛んだ。そのまま集落へ入り。
「いきなり攻撃してきたな?理由が聞きたい、長は居るか?」と聞いて集落のすぐ内側に立って待っていた。
「屈強そうな男が出てきて、我が城に何か用か?」と威嚇してきた。
オサムは
「そうだ、用がある。お前はこの辺りで何番目に強い?」オサムが尋ねると
その男は
「数百人の兵が居る、この辺りでは俺に敵う者は居らん」睨みながら言ってきた。
オサムは
「そうか、では俺と戦え。何人が相手でも構わん」と棍を向けた。
男の合図で200人ほどの兵が出てきた。石斧や簡素な弓を持つ者が多い。
エンチャンテッドストーンで強化した棍を使い、ものの5分で全員を蹴散らした。
しかし大した怪我人は出していない。
「そら、お前の番だ」とオサムは言いゆっくり歩いていった。
男は「何が目的だ?近くの国に雇われたか?」と訊いてきたが
「お前に全ての近隣の国を取ってもらう。お前の力を知りたいだけだ」と答えた。
「全ての国を俺に?それだけか?お前は何者だ?」と言われて
「神々の守護者」と答えた。
「なるほど、では俺は選ばれたのか?」とまた訊ねてきた
「そうだな、で名は?俺はアキバ・オサム・グレイスだ」オサムが訊くと
「ヤモマニだ。ヤモマニ・ランチャレコ・ドグワヒ」と答えた。
「では戦闘の準備をせよ、近隣の国を平らげる。ただし、兵士は見せるだけだ、戦うな」
オサム一人で戦うつもりだった。
早速ヤモマニは準備を整え、周囲に点在する数百人単位の集落にオサムを連れて行った。
そしてオサムは何も言わずに出来るだけ力を入れずに各集落をヤモマニの支配下に入れていった。
「これでお前はこの周辺全ての王だ。他にも国があるなら平定しておくように」
オサムはそう言ってヒポグリフで北へ向かった。
しかしロムドール大陸を離れて1ヶ月が経とうとしていた。
一旦城に戻り、執務室で今回のすべての事柄をまとめ上げた。
そして1ヶ月後にまた最後の大陸に行った。
大陸中央にはまた砂漠地帯が横たわり、徒歩なら山を越えて西側の海沿いを迂回するしか無い。
砂漠の北側に出ると、かなりの規模の王国があった。
周辺をまとめ上げ、グレーシア帝国程度の領土を持つようだ。しかし人は少ない。
此処は後回しにしようとオサムは更に北に向かった。
小都市がかなり多くあり、1つの都市が1つの国家のようである。いわゆる都市国家、ポリスのようなものだろう。
オサムはその一つ一つを武力で制圧していった。しかし死者は出していない。
とうとう北の果てまで辿り着いたため、中央にあった王国へ向かった。
『これはある程度叩いとかないとダメかなぁ』と考えて、1番大きな都市の門を殴り壊した。
そしてそのまま少し歩いて待っていると、兵が集まってきた。
オサムはその全員を棍によるウィンドショックで吹き飛ばした。
そのまま1番大きな建物に歩いていくと、また兵士が集まってきたが同じように撃退した。
手も足も出ないとわかったのだろう。王らしき者が100人程度の兵を連れて王宮の庭に出てきた。
「敵意はないが、実力を見せに来た」オサムが言うと
「私はこの国の王だ。兵の死者は出ておらぬようだが、何をしにきた?」と言われた。
「東の大陸より、我が帝国の力を示しに」と言うと
「この土地以外に陸地があるというのか!?」王は驚いたようだった。
「ここ以外にあと3つ、同じような陸地がある、私はその3つの帝王だ」
オサムは続けて
「この土地も貰い受けたい。支配はそなたに任せる」と言った。
そして
「この国の南と北全ては私のものとなった。あとはそなたの国だけだ」
「戦うか?そなたが望むならそれでも良いが」
とオサムが言うと
「全兵士を集めろ、此奴を殺せ!」と命令を下した。
オサムは城壁まで下がり、広い庭を前に暫く待っていた。
5千人程がオサムの前に集まった。
『殺したくないが』と考えたが、背中の剣を抜き
「セイバースラッシュ!」一瞬でほぼ全員が倒れた。
やはり兵士と言えど人を殺すと気分が悪くなる。もう避けたい。
オサムはもう一度王に詰め寄った。
「まだ兵を死なせるか?私は神の使者と呼ばれているが、それでも歯向かうか?」
王を脅した。
「わかった歯向かわぬ、この国を差し出そう。今兵の殆どを失った」王は肩を落としてそう言ったので。
「国を貰おうとは考えていない。お前は王のままで良い。我が帝国の家臣となれ」
オサムは真意を伝えた。
敵わないとわかったのだろう、そこからの話は楽だった。
「それならばあなたの帝国の家臣となりましょう。戦えば国が滅びる」
オサムはその言葉を聞くと
「そうか、では引き続きこの国を支配せよ、ただし私の命令は聞け、それだけで良い」
そう言い残してオサムは敢えてグレートドラゴンを呼び出し飛んで帰っていった。
各大陸を支配しようとは考えていなかった。
ただ自分の力を示して今後のスムースな進行の一助になればとやっただけだ。
南と南東の大陸はともかく、最後の大陸は人が多すぎるため今後ゆっくりと交渉すれば良い。
性急に事を成そうとすれば人心は付いてこないだろう。
10年20年の年月を掛けて徐々に開拓することに決めた。
オサムが考えていたのは、他国による支配。つまりは大航海時代のような悲惨な歴史にしないためだ。
グレイス帝国が押さえているとなれば他国が手を出すことはないだろう。
帰った時にビーツに「誰でも使えるが刃こぼれもせず錆びずなんでも切れる短剣を頼む。デザインは」
そう言って思い出しながらサラサラと書き「これで頼む」と言って城へ帰っていった。
『あの短剣は700年前に戻り、恐らく俺が渡すのだろう』とオサムは考え、常に携帯しようと考えた。
これでロムドール大陸以外の大陸は全て制覇したことになる。
オサムはその後も定期的に各大陸を回り、支配を確実なものに変えていくことにした。
グレイス帝国の継子であるスウェン、それにミシュルはそれぞれ7歳と6歳になった。
リューゼはまだ3歳、ゼイノンは1歳半だ。
オサムもこの世界に来てから11年が過ぎた。
リムルとロレーヌは29才、オサムは30才、クイード達3人は27才、クラウド達5人はは25才となる。
「まだまだ皆働き盛りだなぁ」しかしオサムは異変を感じていた。
老いを感じないのだ、インペリアルセイヴァーでありグランチューナーなので老化が遅いのだろうか?
魔法の力を得ているため若い体のままなのかもしれない。
別段不便を感じないのでオサムは考えないようにした。
それに、リムルとロレーヌがまた出産だ。今回は殆ど同時になりそうだった。
すっかり慣れて慌てることのなくなったオサムは準備を整えて生まれるのを待った。
「また使者とかが来るのかなぁ・・・」
国の数が減ったため、そんなに多くは来ないだろうとオサムは考えた。
リムルには長女となるラリエル・オルトリア・グレイス
ロレーヌには次女となるシャレム・オルトリア・グレイス
今回は女児が2人だった。
「大家族だなぁ、侍女や侍従、召使いが居るから面倒を見れるけどさ」
リムルとロレーヌにまたオサムが言った。
さすがに6人を同時に見ているのは無理だと言うことで
元々の侍女に加えて
育児専門の召使いを10名新たに選び、5階の部屋を割り当てていた。
スウェンは小さいながら、クイード達を相手に木の剣を振っている。
「剣筋がいいですね殿下、そう、休まず打ち込むのです。足元と後ろも確認しながらです」
一番熱心に指導しているのはハンビィだった。
スウェンは帝国の第一帝位継承者であることを既に自覚しており鍛錬を嫌がらない
しかし、リムルに似たのか大人しく優しい性格で、妹のミシュルをとても大切に扱っている。
反対にミシュルは自由奔放過ぎるため、スウェンがいつも気を使う。
今は木剣での対人訓練だが、ノービスレベルが5になっている。
オサムはそんなクラスがあることは知らなかったので「なんだそりゃ?」と言ったが、普通らしい。
もう7、8年もすればスウェンは冒険に出かけるだろう。
師匠全てがインペリアルセイヴァーなのでとんでもない教育だが。
グレイス帝国が他国の属国化を断リ続けるため、クイント王国とデレル王国、ルマリア王国がクライツ帝国の属国となった。
クライツ帝国は旧ライツェン王国が主流となるため、間接的にグレイスの庇護下に入ることになる。
クイントやデレル、ルマリアはレギオーラと姻戚関係を持っており、血筋をたどると元は一つの家系になる。
元々はゴーダー王国という大国だったが、兄弟で分割して4カ国に分かれた。
しかし西グレイシス帝国のみに隣接する南西のミスリル大公国、カトル王国、トムル王国は悩んでいた。
オサムは各国に出向き、グレイスを恐れる必要はないと説得して回ったのだが大陸の情勢として税が低く、耕作地や都市開発の進む西グレイス帝国に人が流入している。
本来農奴は土地の移動が制約されているのだが、オサムは奴隷制や農奴制を嫌い、自国では労働者として雇っている。
これは農地を持たない民でも豊作凶作に関わらず、年間一定の銀貨、生活物資が手に入り、困窮せずに済ませるための施策だ。
家屋も集合住宅だが清潔で設備が整っている。貧しい者達は特に西グレイス帝国へ流入してきた。
そして一旦グレイスに入った者は国家により保護され、追い返されることはない。
オサムの政策により、大陸から戦はほぼ消滅していた。傭兵団は生活に困り各国特にグレイス帝国に入った。
ならず者集団だが戦に関しては強い。
西グレイスはまだ人口が回復していないため、幾つもの傭兵団をそのまま受け入れ、正規兵とした。
また、小集団に別れたり単独となって冒険者になるものもかなりの数居た。
殆どが兵士や冒険者となったが、やはり一部は野盗集団になっていった。
戦争は無くなったが、犯罪が増えるという副作用が出始め各国の兵は盗賊団討伐に忙しくなった。
西グレイス帝国でもそれは同じだったが、城塞の中は安全であり問題はない。
しかし村や小さな町は危険だ。
多くの兵士、騎士を動員して徹底的に殲滅していった。
通常は捕縛して流刑だが、盗賊と言えど戦闘に長けた者達である。
「見つけ次第斬ってよし」ということとなった。
オサムは
「せっかく戦争が収まったのにタチの悪い奴らが荒らしやがる」
そう言って
黒狼騎士団をはじめとする、帝国の中でも比較的レベルの高い騎士はペガサスやグリフォンを貸し出され、
部隊長を務める者にナイトウォーカーの目を装備させて昼夜に渡って空から探させた。
また皇帝であるオサムや大陸屈指の大貴族であるクイード達も全員が参加していた。
皇帝自ら盗賊の討伐を行っているという事で、グレイスだけではなく各国家が全力で対応するようになった。
数ヶ月かかったが大陸から元傭兵の大規模な盗賊団はほとんど居なくなった。
20万人以上居た傭兵は全て兵となるか、冒険者となるか、盗賊になるか。
大陸から傭兵団は消え、その名残の盗賊団も数を減らしていった。
しかし血の気の多い者はまだまだ多い。
オサムはクエストを発注し、冒険者達に盗賊団の討伐を引き受けさせた。
自分たちの首に賞金が掛けられ、盗賊はますます追いつめられた。
しかもボスクラスのモンスターを狩るより危険は低く高額である。
仲間が首領の首を斬り、届ける事も増えた。
これでほとんどの盗賊は消えることとなった。
「やっとかぁ」オサムはクイード達9人と妻達を呼んで食事をしていた。
「この9人だけで100以上は壊滅したからねぇ、もう盗賊稼業は怖くて出来ないだろ?」
オサムが言うと
「戦争が消えた副産物がこんなに厄介とは、考えてなかったですね。しかしもう無いでしょう」
ハンビィが答えた。
「陛下までが動き出したので各国や城塞都市の騎士や兵が必死になっていましたし」
タキトスが続けた。
オサムは
「やっぱり犯罪は無くならないなぁ、けど減ってるのは確かだし、こればっかりはしょうがないよなぁ」
と食べながら言うとロレーヌが少し反応したので
「いや、ロレーヌ、わかってるよ?口に物を入れながら喋っちゃいけないってのは」
ロレーヌが言う前に自分で言った。
「私は何も申しませんよ、陛下。特にこのような楽しむべき席では良いではありませんか」
ロレーヌはそんなことはもうどうでも良かった。オサムはもっと大事なことを行っている。
些細なことに気を遣わせるとオサムが疲れてしまうのが分かっていた。
今回の永年流刑者は1000人を超える。
殆どが盗賊団の生き残りで気の荒い連中だ。
クイードだけに任せずオサムとギルビィ、アンカールも同行することにした。
グレートドラゴンが降りてくると流刑者達は怯えた。
オサムとクイード達は構わず流刑者をマジックボックスから島に連れ出した。
簡素な町程度だった場所が立派な城塞になっている。
オサムはゆっくりと歩いて
「良く出来てるな、指導者は誰だ?」と問うた。
すると
「俺だよ、皆を働かせている。この島は生きていくには十分だな、ありがとよ」
傷だらけの男に言われた。
オサムはクイードに島全体を調べて船があれば焼き払うように命じた。
「今回の流刑者は元傭兵の盗賊ばかりだ。お前に統率できるか?」
オサムが言うと
「どうせ俺達は皆死人と一緒だ、500人以上はもう死んでるがな」
その男が答えた。
「脱走しないなら、ここで何をしようと何があろうと知ったことか、好きにやってろ」
オサムはグレートドラゴンに乗って島の周囲を見て回った。
筏のような物を見つけたので燃やした。
更に小さな船を見つけたので焼いた。
オサムはもう一度島の中央に戻り
「船があったが?責任者は誰だ?」と訊いた。
「魚を捕るための船だよ、筏もな、たまには魚もくいてーし」
さっきの男が悪びれずに言った。
「そうか、5艘程燃やしたが悪かったな、また作れ。せいぜい楽しく暮らせよ」
と言い残してクイード達と合流し、帰って行った。
城の庭に戻り
「脱走に使えそうな船はあったか?」クイードに尋ねると
「何艘か小さな船があったので燃やしました。あの程度の船で脱走出来るとは思えませんが、念のため」
と答えた。
「しかし、今回の1000人がどう動くかだな、知ったことじゃねーけど」
オサムはそう言って城に帰っていった。
城に入り、家令のハロルドに
「何か変わったことは?」と訊くと
「ロレーヌ様のところに公爵様と伯爵様の夫人が来られております」
と言うのでオサムは自分の部屋に戻った。
子供達は育児係の召使いの部屋に居るようだったので、鎧を脱いで部屋着に着替えた。
「皆楽しくやってるみたいだなぁ、俺は何しようか、本でも読むか」
オサムは書斎に行き、まだ頭に入れていない本を数冊読み出した。




