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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第二章 国王と神
32/43

7話 グレイス帝国の運営

 夕方に3人はグレイス王国に帰ってきた。

 

 ドラゴンから降り、オサムはクイードとハンビィに

 「嫌なことをやらせてしまったな、すまん」

 と頭を下げた。


 「おやめください陛下、我等3人グリオン王国との戦での一騎駆けを見ております」

 「陛下が心を傷めながら人を斬り、悩むことも知っております。今回はああするしか無いとご判断なされたのでしょう?」

 ハンビィがオサムの気持ちを汲んでくれた。


 「そうだな、あの帝国は巨大だ。ああする他無かった・・・怒っていたのも有るか、冷静ではなかった」

 帰路の途中オサムはずっと考えていた。怒りからやったのかそうではないのか。


 「皇帝一族は陛下が手を下されたわけではありません、ロウ・ウェンの指示です」

 クイードはそう言って

 「北方の残された女子供のこともお考えになったではありませんか」

 「苦しむのはおやめください」と言ってくれた。


 「そうだな・・・うん、すまぬ、助かった。もう少しで夕食の時間だな、もしよければ今日も城でどうだ?」

 オサムは2人に居てほしかった。

 こういう時、心理的にオサムはかなり弱くなっている。何度やっても人に手を下す事には慣れることはないだろう。

 だが、やらねばならない時がある。自国民や自領の者達は優先的に守らねばならない。


 「わかりました、タキトスにも声を掛けて城へお伺い致します。3階の方の食事室ですね」

 と言い、走って帰っていった。


 オサムは城に戻り、ハロルドに

 「今日もあの3人と夫人が来る、リムルとロレーヌと俺9人で食事するので円卓の準備と料理の手配を頼む。ロレーヌにも伝えてくれ」

 と言って階段を上がっていった。


 何故か迷わずに部屋へ戻れたので甲冑と剣をリビングに脱ぎ散らかしたまま平服に着替えた。


 「おかえりなさいませ陛下」

 リムルが来たので

 「今日はクイード達と食事にするから食事室に行くよ、いいかな?」

 オサムは疲れながらも元気なフリをしてリムルを誘った。


 リムルが

 「なんだかお疲れのようですが、平気ですか?」と訊いてきたが


 「うん、少し疲れたけど大丈夫だよ、リムル。今日のメニューはなんだろうね?」

 オサムはうわの空だった。目に焼き付いた光景が離れない。気分転換が必要だ。


 「行けばわかりますよ、ロレーヌもご一緒ですよね?」

 楽しそうなリムルの声だけでオサムは癒やされた。


 食事室の円卓で待っていると、クイード達がやって来た。

 「陛下、お呼び頂きありがとうございます」

 タキトスが言った。

 「俺たちが居ない間問題なかったか?」とタキトスに訊いて

 「何も無かったですね、ご安心ください」と言われて安心した。


 「そうか、では頼む」と侍女に言うと食事が運ばれてきた。

 「今日は酒も頼めるかな?カッシュに選ばせてくれ」

 オサムは少し飲むことにした。

 常々カッシュは料理に合う酒を薦めてくるのだが、19歳でこの世界に来たオサムは酒の味を知らなかった。

 この大陸では国や産地で違う多くの酒が作られており、オサム以外は食事時に飲んでいることが多い。


 「今回は少し気が疲れたので皆の顔が見たかった、急ですまぬな」

 とオサムが言うと

 「いえいえ、私共3名も陛下にお会いしたかったので」

 ファシリアが答えた。


 「そうか、ハンビィにもクイードにも今回は苦労を掛けた、ねぎらってやってくれると助かる」

 オサムは二人を見て、自分程は疲れていないことを知って安心した。

 恐らく戦乱の続く世界で生まれ育ったからだろう。それにオサムの命令でもある。

 クイードは特にオサムの言いつけをそのまま守る。その体の大きさに比べて性格は温和なのだが命令次第で鬼神にもなる。

 

 「陛下こそ今回一番働いたではありませぬか」

 ハンビィはそう言うが

 「俺は王なのでな、こういうときは一番に働かねばならない、二人共ご苦労だった」

 と言って考え直した。

 自分が行ったことは自領の民、そしてシャングールの民を助けたことになる。

 

 「そういえば陛下、こやつら3人揃って何やら茶会などをしているらしいです」

 タキトスが言うと


 「お前達もメラススの塔のことで競争しているじゃねーかよ」と笑った。


 「出来ればリムルやロレーヌにも声を掛けてやってくれないか?俺もこの3人も戦いや冒険ばかりで話が合わんのだ、不満は言わないが楽しく過ごさせてやりたい」

 オサムがそう言うと


 「陛下は本当にいつもお優しいですね」ヴィオラが言った。


 「陛下、ヴィオラを私から取り上げないでくださいよ?」タキトスが冗談か本気かわからないことを言って皆を笑わせた。


 オサムはこの食事会で心がほぐれた。やはり自分には過ぎた家臣だと改めて思えた。

 今回のことを記憶の片隅に追いやることが出来た



 次の日から例の茶会はロレーヌの部屋で行われていた。


 身重であるため3人が気を遣ってのことだが、ロレーヌもリムルも楽しく過ごせていた。

 夫人たちは以前の生活とは一変した。ミーシャですらその生活は変わった。

 ロレーヌやファシリアなどは冒険から遠ざかり、貴族然とした生活だ。

 だが全員が幸福であった。

 

 リムルは時々幼いスウェンを茶会に連れていき、子供の事を話す。

 初めこそ王妃陛下と呼ばれていたが、途中からリムル様と呼ばれるようになっていた。


 庶民出身のリムルとヴィオラは偶然の幸運を手に入れただけだと今でも思っていたようで

 貴族令嬢から宮廷の事や夜会のことなどを熱心に聞いていた。


 ロレーヌも子供のことを話し、自分たちがどれだけ幸せかと毎日感じていた。



 一方クイード達3人はまだ塔での競走を続けていた。

 今のところトップはハンビィだが、気を抜けない競争だった。

 

 最強のダンジョンで有るはずなのだが3人にとってはもはや遊び場と化していた。

 そこにオサムも加わると言うと「不公平です」や「ハンデが必要です」と言われる。


 何も無い日の男連中は腕比べの毎日を過ごしていた。


 3ヶ月もするといよいよ換金所の国庫分が100億枚を越えてしまった。



 丁度良い機会だ、ということでオサムが5億枚を持って旧シャングール帝国

 今のグレイス帝国に向かった。


 グレイス帝国は元々豊かな国で、周囲の敵が居なければ内政は安定する。

 オサムはロウに会って国内情勢の事を尋ねた。

 一部問題は有るが、概ね順調に国内は以前の皇帝時代から回復していた。

 労役や徴兵は無くなり、2年間の間無税としたのでオサムとロウは民に慕われるようになっていた。


 しかし王宮ではまだやるべきことがある。組織の構築だ。

 それにオサムの気に入らない無用な飾りも多い。

 漆黒の甲冑姿で宮中を歩くオサムを見て皆が驚いていた。


 「国内の情勢は安定したか?何かあるなら出来る限り手を貸すが」

 オサムがロウに尋ねると

 「そうですね、大体は収まりつつありますが、抵抗勢力が1つ

  そこに数万人が集まって睨み合いの状態にあります」とロウが答えた。


 「案内してもらえるか?どうにか出来るかも知れぬ」

 オサムには数万人程度は関係ない。


 ロウは軍を動かして籠城戦にしていたようだったが反乱の長期戦は国内情勢にとって良くない事である。

 その反乱分子に追従する者が出てくるかもしれない、それだけは避けたい。

 「それがかなり強固な要塞で、城壁も2重になっていますが、まずはご案内しましょう、陛下」


 「では飛んでいこう」と言ってグリフォンを呼んだ。


 上空から探せばすぐ見つかる。

 「大体で良いので教えてくれるか?」とロウに訊くと

 

 「この先の・・・あ、あの要塞です、我が軍10万が囲んでいます。物資を運び入れることも出来ませんし降伏すると思うのですが」

 ロウが言った場所に降り立った。


 「あの、陛下、先程の鳥は?」と訊かれ

 「グリフォンと言うもので2人乗るには丁度良いので呼んだ」

 オサムは答えて、要塞の前に陣取った。


 「ロウよ、あの要塞には女子供は居らぬのだな?」

 オサムが尋ねると

 「旧皇帝派の残存兵のみです」

 そう聞いてオサムは安心した


 「グレイス帝国に歯向かう愚か者達よ!今なら赦す!1時間待つので出てこい!」

 と大きく響く声で

 「グレイス帝国皇帝からの最後の通達だ!今より1時間どうするか考えよ!」


 とは言ったが

 「どうせ出て来ぬわ、1時間見張っておけ、ロウ」

 と言って岩を背に座って待っていた。

 オサムは待つことに慣れている。1時間有るなら仮眠が取れる。


 「陛下、1時間経ちました」とロウに呼ばれたので起き上がり

 「この反対側、要塞の向こうの兵を避難させろ。俺の力を見せてやる」

 と言い、西側を空けさせた。


 「貴様達の心意気に免じてグレイス帝国皇帝の力を見せてやろう!」

 そう言って要塞に歩いていった。


 また矢が雨のように降り注いだが、気にせず背中の大剣を軽く肩に担ぎ

 炎系の最強呪文の1つフレイムスパークを剣に込めて一閃、エクススラッシュを使った。

 インペリアルセイヴァーの高位剣技でグレートドラゴンでも真っ二つに出来る。


 巨大な炎と剣撃が城壁と要塞を真っ二つに引き裂き炎に包んだ。


 更に容赦なく魔法を乗せた剣撃を打ち込むと城壁と要塞はただの瓦礫と化していた。

 炎の勢いは止まらず城壁内に居たものをすべて焼き尽くした。

 その要塞は跡形もなく崩れ去った。


 「簡単なんだよ、この程度のことは」と呆然とするロウの肩をひとつ叩いた。


 「陛下・・・貴方は一体何者なのですか?」とロウは震えた。

 周囲を囲む兵達も自分の目を疑っているようだった。


 「よし、では帰ろう。他に何か案件はあるか?」

 とオサムは言ったが、ロウの耳に届かなかったらしい。


 「終わったなら帰るぞ、ロウ」と言われ

 「はい!少々お待ちを」と答えて


 「全軍戦闘態勢解除!戻るぞ!」と指令した。


 

 未だに自分の見たものが信じられないロウはオサムに対して畏敬を覚えていた。

 「陛下は神ですか?」とロウに訊かれたが

 「わからぬ、自分ではな。どう思おうがお前の勝手だ」とだけ答えた。

 自分は神ではない、しかし神々の守護者と呼ばれている。しかしオサムはオサムだ、何も変わらない。


 「で、この国の年間の国費はどの程度か分かるか?」

 「金貨や銀貨の蔵があるなら見せよ」と宮廷内に案内された。

 シャングール程の帝国になるとそれなりに税収は多いだろう、しかし前の皇帝は暗愚で浪費家だったらしい。

 後宮もかなり大きいと聞く、無駄が多すぎる。国家は王や皇帝のためのものではない、民衆のものだ。


 「この蔵には銀貨の小山しか無いが、他には?」と聞き

 「蓄えは前の皇帝が使い果たしました、租税が入るのは秋となります。その間は兵士に給料を払うことも出来ないでしょう」

 ロウが途方に暮れたように言うので


 「では丁度良い、我が国の租税から少し持ってきたので」とマジックバッグを腰から外し

 じゃらじゃらと永遠につづくかのように銀貨を吐き出し、まずはその蔵を埋めた。


 「こっちは金貨の蔵か?銀貨で良いだろう、銀貨しか持ってきていないしな」と言いながら

 部屋いっぱいに銀貨を入れた。

 「まだ有る、他に蔵はないのか?」と案内させていき

 結局20の蔵を銀貨で埋めた。


 「これで当面は足りるか?ロウ」と言うと


 「陛下の国の租税の一部がこの量ですか・・・」

 「5年以上は保ちますが」とまた呆然としていた。


 「あと、後宮を見たい。有るんだろう?」と言って案内させた


 宮殿の奥、かなりの面積を使って豪華な後宮が作られていた。オサムはそれが気に入らなかった。

 「ここが後宮となります、1000人の女が居りますが、選びますか?陛下」

 とロウが言ったが。

 「うむ、これは必要ないな、取り壊す。明日の夜まで待つ。全員避難させろ、俺が燃やす」

 と言って宮中を土足で歩き回り、気に入らない奢侈な建造物を破壊していった。


 翌日の夜、ロウに

 「誰も居らぬな?」と確認してからフレイムスパークを連発して後宮を燃やし尽くした。


 「女どもは家に返せ、俺に愛妾は要らぬ。帰れぬ者が居るのなら宮中で働かせろ」

 「身分は新しく作り直す、この国の貴族のような者や皇帝に媚びて財を成した商人を一月後までに全員集めておけ。

  来ない者は領地や資産没収で構わん。容赦はするな、わかったな?」

 と言い残してオサムは飛んで帰った。


 

 一ヶ月後、オサムはグレイス帝国にグレートドラゴンに乗って現れた。


 宮殿前に集まる貴族や豪商達は巨大なドラゴンを見て恐れおののいたが

 「よく集まってくれた、お前達に悪い知らせが有る。財産を没収する。銀貨1000枚は残すので当面は問題なかろう?」

 とオサムが言うと、ザワザワと騒ぎ出した。


 オサムが背中の剣に手を持っていくのを見てロウは

 「黙れ!死にたいか!」と一喝した。

 ロウの脳裏には要塞粉砕の記憶が色濃く残っていた。こんな場所で使わせる訳にはいかない。


 「すまんなロウ、少しイラついたんで半分程殺そうかと思った」

 とオサムは冗談で言ったがロウは必死だった。


 「グレイス陛下の御前である、控えよ!」と言ったがロウもどうすれば良いのかわからない。

 オサムは

 「全財産か命かどちらかを差し出せ」と言った


 またザワついたのでオサムは素早く縦一閃ウィンドソードを軽く打ち込んだ。

 オサムの目の前にいた全員が最後尾まで倒れた。


 「死にたいやつは喋っても良い!遠慮なく話せ!」とオサムが言った。

 そうすると誰も一言たりとて話さなくなった。


 「ロウ、こいつらの資産内容は分かるか?」とオサムが聞いた


 「調べればわかりますが、時間はかかります」というので

 オサムは

 「分かった、全員砂漠に連れて行くのでその間に調べろ」

 と言ってグレートドラゴンを地上に降ろした


 「全員ドラゴンの首に下げられた箱に入れ」と言って全員を箱に納めた。


 「一ヶ月以内に調べよ、ロウ」

 「そして財産没収は済ませておけ、食客や私兵がいるのなら追い出して構わん。逆らうようなら殺せ」

 と言ってオサムは飛び立った。


 到着したのは砂漠の城塞都市だった。オサムは箱を開けて

 「皆出てこい」というと500人ほどが出てきた。


 「1ヶ月ここで暮らしてもらう、良いな?」

 と言い、待っていたクイードに預けた。死なない程度にこき使って構わん。とオサムは指示した。


 オサムはグレイス帝国に戻りロウの手腕を観察していた。

 官吏と兵士を使い財産と領地を没収した上で

 城下に用意した小さな屋敷に家族を移住させ銀貨1000枚を置いていった。

 予定より早く半月ほどで終わったので、

 クイードに全員を連れてグレイス帝国に戻るよう指示をして待っていた。


 帰ってきたときは全員がくたびれ果てていた。


 「皆の屋敷を城下に用意したのでそこに移り住むように」

 ロウが手際よく官吏を使い札を配って城下の新しい屋敷に戻した。


 皆諦めたように与えられた屋敷に散っていく。

 恐らくクイードが相当な恐怖を与えたのだろう、

 オサムが命じればクイードは何者に対しても容赦などしなくなるのを知っていた。


 「で、没収した財産はどれくらいになった?」

 オサムがロウに訊くと

 「陛下のおっしゃられた国家運営のやり方ならば30年分になるかと」と言った。


 「少数の欲深い者が身に余る財を持つと国が荒れる。覚えておけ」

 「ではまた来るのでそれまでに国内を整えろ、ロウ」

 「金貨があるなら持って帰る、半分で良い。今大陸貨幣を作っているのでな」


 金貨も蔵3つ分は有ったので「半分はいらんな」そう言って「そうだな、蔵一つでいい」

 オサムはマジックバッグに詰め込むと「よろしく頼む」言い残して帰っていった。


 ロウは

 「あの方は一体何者か、誰か教えてくれ」と飛んでゆくドラゴンを見ながら呟いた。



 ロレーヌが心配だったが、帰ってきたときも元気だった。

 「ロレーヌ、もうすぐだな」オサムが言うと

 「陛下の御子を授かり幸せです」と言って抱きついてきた。

 

 「寂しかったのか?」と訊くと


 「それはそうですが、リムル様やファシリア達が居ますので楽しく過ごしておりました」

 「少しだけ寂しくなる日もありましたが、陛下のご苦労と比べれば大したことではありません」

 と言ってオサムから離れて

 「あと二月程で産まれます、陛下の御子ですよ?」と嬉しそうに話した


 「実はな、グランパープルに行って守護者からもう名を貰っている」

 それとこれが、と言ってバッグから取り出し

 「守護の腕輪だ、付けておくといいよ」とロレーヌに渡した。


 「もう名を頂いているのですか?どのような?」と訊いてきたが

 「生まれる日まで言ってはならんらしい、聖なる名らしいからな」

 そういってロレーヌを納得させたが、それは真実だった。


 「もう暫くの間だけ忙しいが、出産には必ず立ち会うので辛抱してくれ、ロレーヌ」

 オサムがそう言うと

 「陛下のお気遣いだけで十分です」と言ってベッドに入って眠った。


 疲れていない、心配していないと言うが、気が疲れたのだろうな。と静かにオサムは部屋を出た。


 しばらくの間グレイス王国に居よう。

 オサムはそう考えた。


 帝国の方はロウに任せておけば問題無い。

 一月程ゆったりと過ごし、さて。とオサムは重くなった腰を上げた。



 翌日朝すぐにオサムはグレイス帝国に飛んだ。


 グレートドラゴンで5時間程だが途中の焼き尽くされた城塞が気になっていた。

 オサムは一旦降りて街の中を歩いた。


 完全に破壊されている。

 ここに街が作られた理由を知ろうと歩いて気付いた。

 「オアシスか」しかも水量が多い。砂漠の中だがかなりの人数が住んでいたのだろう。

 オサムは時間を掛けて火炎魔法フレイムナパームで全てを焼き尽くした後徹底的に破壊した。

 遺体や残骸があると新たな街が作りにくい、そのために超高温で全てを無かったことにしたのだった。


 同じように他のオアシス都市も破壊した。


 「これでいい、新しく街を作って人が住めるようにすりゃいいか」

 と言ってグレイス帝国に舞い降りた。

 実際にはこれからロウに言いつけて、兵士によって作らせる。帝国はまだ多くの兵士を抱えているが、周囲の脅威を取り除けば減らそうと考えていた。


 「ロウは居るか!」と言うと、官吏がやって来て宮中に案内した。

 皇宮はオサムが割っていたが修繕されていた。同じように皇宮前の広大な広場の石畳もきれいに修復されている。


 元皇帝の部屋の玉座や机等を撤去して簡易の大広間にしていた。

 その奥、皇帝の部屋でロウは執務を行っていた。

 これはオサムが許し、皇宮を使える状態にしておくためだ。

 ロウの屋敷は少し離れた場所にあるが、歩いて少しの場所である。


 「陛下がお越しなさいました」と扉を開けた。


 ロウはうやうやしく礼をして、オサムはグレイス本国から運ばせたソファーに座った。

 「皇宮は本来陛下の居ますところなのですが、言いつけどおりにしております」

 広い皇宮を維持するためには誰かが居なければならない。その役目が出来るのはロウしか居なかった。


 オサムが

 「その後どうなっている?」と訊くと

 「国内は安定しております、国庫も潤沢な資金があり50年は問題ないでしょう」

 とロウは答えた。

 オサムはクイードを遣わせてさらに10億枚の銀貨とマジックバッグ、マジックボックスを渡していた。


 事前にマジックバッグのことも教えていたので10個程マジックボックスを持ってきていた。

 十人程度では持てない重さのものをクライアンに作らせておき、蔵に設置できるサイズの箱の形にしていた。

 マジックアイテムで十分に補強し素材アイテムも使っている。

 重要なものや金貨や銀貨、穀物を蓄えさせていた。

 更に各都市の城を改装し、そこにもマジックボックスを設置して黒狼騎士団員を配置していた。


 オサムの城の倉庫と同じく殆ど無限に入るので蓄えておくには丁度良い。

 もちろんインペリアルセイヴァーのクイードなら楽に持てる。


 「そうか、やっと安定したか。ご苦労だった、ロウ」

 オサムが言うと

 「陛下あってこそのグレイス帝国です。破綻しかけていた国が豊かな国に戻りました」

 と言って頭を下げた。

 「皇帝として常に居続ける事が出来ぬが、民が幸福になるならそれで良い」

 「ロウ、今後も頼んでよいか?」オサムは頭を下げた。


 「おやめください陛下、前の皇帝なぞとうに見限っておりました。陛下こそが民を幸福に出来るお方だと確信しております、有難く存じます」

 ロウは両膝と手を床につき深々と頭を下げた。


 『土下座?作法か、やはりこの国は似ている』とオサムは考えた。


 「奢侈は控えよ、行事は質素に、国家の官吏を世襲にするな、今は貴族を作るな、まずはそこからだ」

 オサムは続けて

 「今後、法の整備と国体の構築を行う。それまでは任せた」

 「あとこの笛を渡すが使えるか試しに行こうか、外へ」オサムがロウを庭に連れ出した。


 「笛を吹け」とオサムに言われロウは吹いてみた。

 ペガサスが現れた。

 「これは天馬ですか!?」ロウは驚いた。

 

 「そうだ、これなら我が国まで一日も掛からぬ、乗りこなせるようになっておけ」

 「何かあればまず砂漠の我が領土へ。そこに城代が居るので頼め、すぐ駆けつける」

 「しかしペガサスでも一定以上のレベルの騎士ではないと使いこなせないのだが、ロウ、お前は何者になる?」

 オサムはロウを見てもジャッジマスターのレベル50と見える。そんなクラスは聞いたことが無い。


 「まあいいか、先の話わかったか?ロウ」オサムは念を押した。


 「仔細承知致しました、陛下。またいらしてください。」

 ロウはオサムを救世主か神と考えるようになっていた。



 長いようで短かかったが、いよいよロレーヌの出産が始まった。

 オサムはリムルのときのように万全の準備を整えて臨んだ。

 ロレーヌの手を握り、痛みに耐える姿を見ているしか無いのが恨めしかった。


 2時間程で産まれた。グランパープルで聞いていた通り女児だった。


 「陛下、抱いてやってください」とロレーヌから渡された。

 「お、とと」とオサムは慌てた。「首が座ってないんだろ?確か」オサムが抱いていると


 「この子はなんと名付けられましたか?」笑顔でロレーヌが訊いてきた。


 「ミシュル・オルトリア・グレイス。神々の娘という意味らしい」

 オサムが教えられた名を呼んだ。

 「ミシュルですか、良い名ですね」とロレーヌは微笑んだ。


 「そうだな、響きが良い」オサムも貰った時から思っていた。


 「しばらくは安静に、わかってるな?」と言うと

 「はい」とロレーヌは答えた。

 幸福な時間に包まれてオサムとロレーヌは穏やかな気持になっていた。



 それから一月ほどし、城の庭にペガサスが降りてきた。

 オサムはテラスから飛び降り、走り寄ると、ロウと城代の使者だった。


 「どうした、ロウ?何かあったか?」オサムは少し慌てて訊いたが


 「いえ、グレイス帝国もほぼ安定しましたので陛下の本国にと案内を頼みました。」

 ロウは城を見て「このような高い建物にお住みだったのですね、美しい城です」と眺めていた。

 

 クイードやタキトス、ハンビィも出てきていたが、タキトス以外の2人は

 「ロウか、何事かと思ったぞ」と安心した。


 「なんだぁ?話がわからんぞ?」とタキトスが言うと


 「シャングール帝国がグレイス帝国になったんだよ」とクイードに教えられた。


 「え?シャングール帝国が?わけがわからん」とタキトスは混乱した。


 「よい、あとで紹介する」

 「ロウよ、国を離れて良いのか?」と訊くと

 「2、3日程度なら問題ありません、陛下」と答えた。


 「では客間で話を聞こうか」と城の中へ招き入れた。



 「で、あっちはどうなっている?あと、オアシス都市もだが」

 オサムがロウに尋ねた。

 「帝国は問題ありません、外敵も居らず内乱もなく静かなものです」

 「オアシス都市に関しては10万人の兵を動員して再構築させています」

 ロウは初めて飲む紅茶に戸惑っていた。


 「そうか、順調だな。よくやってくれているな、ロウ」

 オサムとロウの会話を聞きながらタキトス達は理解しようとしていた。


 「そうだ、紹介しよう。コイツはロウ・ウェン。元シャングール帝国の宰相兼大将軍で今はグレイス帝国となった国の宰相であり大将軍、帝国での俺の右腕だ」

 オサムは続けて

 「俺は元シャングール帝国の新たな皇帝になった。しかし今はこのロウに皇帝代理として働いてもらっている。」

 「そしてこの3人は古い家臣のクイード、タキトス、ハンビィだ。クイードは何度か会っているだろうが、他の者を帝国に派遣した際はよろしく頼む」

 「主要な都市には我が騎士団より人を置いているが外国人が街を支配するのは良くない。早急に優秀な者を都市の管理者として赴任させよ」

 西の国の者が城代であるよりも旧シャングールの者に任せるほうが良い。ただし黒狼は領事や武官として常駐させる。


 「今日は泊まって行くだろう?夕食も食っていくと良いぞ。口に合うかはわからんが」

 オサムが言うと

 「ありがとうございます陛下、御厚情感謝いたします」ロウは頭を下げた。


 オサムは気がついて

 「そう言えば東の薬は発達していたな?あとスパイスも有ったか?交易品の中にそういうものが?」

 中国のスパイスは余り思い出せないが、少しは有ったはずだ。

 するとロウは

 「スパイスは交易品の中にありますが、薬はほぼ出ていきません。絹や陶磁器、漆器等が主ですね。それが何でしょうか?」と訊き返してきた。

 オサムは「やはりスパイスは南方の国々か、絹の増産を頼む。増産分は直接我が国に、今まで通りの分は通常の交易路に」

 交易商人が職を無くすと困る。だが絹は必要である、それでもグレイス王国が独占するわけにも行かない。

 故に増産させてそれをグレイス王国で使うことにした。通常の交易路で運ばれてくる分は他国で売れば良い。それで価格も暴落しない。

 「あとはそうだな、南の国々からスパイスを買っておいてくれないか?そんなに大量じゃなくてもいい、この城で使うだけだ」

 オサムは今の料理に足りないものを手に入れたがっていたが、シャングールの南方は小国家が乱立しているため面倒だった。

 ロウならばその手腕で買い付けを行えるだろう。



 『領土は増えたが飛び地が多いなぁ、つなぎ合わせないといけないけど、どうするか』

 オサムは書斎に篭り地図を見ながら考えていた。


 「チンギス・ハンか、けどあんな征服の仕方は好みじゃないし、被害が多すぎる。

  なんとか東側だけでも統一しておくか、南方や島はまだ無理だなぁ」

 独り言を言いながら地図に線を引いていった。



 「やっぱり長く掛かりそうだ」と言い、ロウの泊まる客間まで降りていった。ロレーヌの部屋近くだ。


 侍女に確認させたあと「ロウ、入ってもよいか?」オサムが訊くと、すぐにドアが開いた。

 「二人で話がしたい」というと、侍女は部屋を出ていった。


 「皇帝陛下、昨晩の料理は素晴らしかったです、御用でしょうか?」ロウは慣れないらしくガウンを来ていた。


 「この服は部屋着として使うもので良いのでしょうか、なにぶん全く文化が違うもので」

 ロウは用意された服から一番着やすいものを選んだのだろう。


 「その内理解出来るようになるとは思う、こちらの真似をする必要はないからな」

 「あと言葉だが、俺にしか通じていない、皆には何を言っているのかわからんだろう。それも今は良い」

 オサムはクイード達が自分の言葉しか聞いていないことでわかった。


 「皇帝陛下の言葉は何故わかるのでしょう?」ロウが尋ねてきたが


 「わからんな、俺は異世界から来たので殆どの言葉は通じるようだ、文字はわからぬが」

 オサムも不思議に思っていたが気にしないことにしていた、通じればそれでいい。


 「異世界?」とロウは気になったようなので訊いてきた。

 「そうだ、極少数しか知る者は居ないが、俺はこの世界の人間ではない。お前は俺を神か何かだと思っているだろう?恐らくその答えになる」

 ロウはしばらく黙っていたが

 「そうでしたか、陛下が特別な理由がわかりました。このことは伏せておきます」

 なんとなく理由が分かって、ロウは胸のつかえが取れたようだった。異世界からの使者、もしくは神か。ロウには神に思えた。


 「今日発つのだろう?その前に俺の考えを伝えておきたいと思って直接来た」

 「これはかなり重要だが、お前にとっては不思議な話に思えるだろう」オサムはロウと今後の話を詰めることにした。



 「つまり皇帝陛下は、東側を統一したいとお考えに?」地図を見ながらロウが言った。

 

 「そうだが、力で征服しては民達に被害が出る、それだけは避けたい」

 オサムは良い案が無いか探していた。

 「グレイス帝国の正規軍は徴兵すれば100万を超えます、小規模な国家ならば降伏させられますが」

 ロウもオサムに言われて考えていた。

 「徴兵はしたくない、志願兵を募ってくれ。今の帝国には100万も要らぬだろう?今後必要になってくるが、農村から徴兵した者は家に帰しておいてくれ」

 オサムはその後自分の考えをロウに話した。

 兵士は警察機構として各都市に振り分ける。その上で未だ未知数の南方からの守備として兵を配置と言った具合だ。


 「まずは北方の辺境、帝国の北からオアシス地帯の北にまで伸びる部分だな」

 オサムが言うと


 「領土としてはあまり価値が無いと考えますが、必要ですか?草原や森林地帯ばかりですが、作物もとれません」ロウが尋ねてきた。

 オサムは

 「作物は作れぬが地下に資源がかなりあるはずだ、俺も調査するが、北方に敵が少ない今の間に取っておきたい」

 「山を超えての南側はまだかまわぬ、所々に大国もあるしな。武力を極力使わないのが我が国の有り様だ」

 ロウは将軍であると同時に宰相、軍師だ。良い手を考えると期待していた。


 

 夕方までロウと戦略を確認しあい、夕食の後にロウはペガサスで飛んで帰っていった。

 まずは帝国北方の騎馬民族を完全に無力化し、その後ほぼ無人の土地を全て領土に納めることとした。

 出来るだけ死者を出さないようにと頼んだが、北の兵は精強だ、かなり削り取ったとは言え、ある程度の被害は仕方がない。 

 オサムは王国から黒狼騎士団の派遣も検討していた。数百名の強力な騎士が居れば被害は減らせるだろう。

 黒狼騎士団には全員にリジェネリターンのペンダントを渡しているため、被害は出ないはずである。

 ただ、団員には”黒狼の証”と言い、金で作った団章の形にしているため、生き返られるアイテムだとは知らない。


 来週はミシュルのお披露目の祝いがある。ハロルドが全てを準備してくれているので問題ないが、

 これから大事業が控えている。喜びに酔いしれる時期では無かった。



 グレイス国王第二子の誕生に王国は湧いていた。国民は喜び、そこかしこで宴が開かれていた。

 各国からまたもや国使や国王がやって来たが、シャングールの異変に気付いている国も有った。

 特にグリーシア帝国は交易の中心となる国である、確かな情報として持っているようだった。


 「時期を見て公表するか、その前に道路の整備や都市の改造や建造が必要だな」

 オサムの頭には大体の構想が出来上がっていた。

 帝国の人口は1億数千万程度だが、領土の中でも平野部分に都市が多い。

 資源の有る西方や南方に新規で城塞都市を作り、道路を通し新たに作り直さねばならない。


 しかし、暫くの間は王国の方で過ごすと決めていた。1年程はロウに任せれば良い。

 「俺の世界で言うロシアだな、地下資源が豊富なはずだ。まずは無人の土地の開拓か」

 オサムは執務室で考えていた。


 重化学工業はこの世界ではまだ早い。石油より石炭や鉄鉱石のほうが重要だった。

 資源が見つかればその土地を移住可能な都市にしなければならない。


 オサムはロウの力を借りてオアシスの城塞都市群を全て道路で繋げた。

 城塞はより堅固にし、大量の鉄をグレートドラゴンで運び防御を完璧にさせた。

 周辺の遊牧民のうち資産の無い者を都市に住まわせた。


 同時に石炭と鉄鉱石の出る場所を探して新たに都市を作った。

 それらを全て道路で繋げ、大陸東側を北方も含めて人の住める土地に変えていった。


 事業は着実に実を結び、グレイス帝国から移民を募り人口1万から5万人程度の都市を複数作った。

 地下資源の枯渇後も人が暮らせるよう周囲の森を切り払い燃やし、品種改良した作物を作らせていた。

 全ての都市を国家騎士団である黒狼騎士団の者に治めさせ、権力を持たせすぎないように2年毎に転地させることとした。

 月に1度全ての都市をクイード達に交代で廻らせ、都市機能を確認させて報告させた。


 オサムはグレイス王国建国3年目にして大陸の4割以上を支配する大帝国の皇帝となっていた。

 そしてグリーシア帝国の皇帝と直接会い、国境の規定条約を交わした。

 これは不可侵条約だが同盟ではない。グリーシアはエスカニアと共にグレイス帝国側と国境を接している。

 エスカニア王国はグリーシア帝国程の国力は無いため、放置していても問題はない。


 「ふぅ、できることは全てやったつもりだけど」オサムは疲れていた。

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