6話 グレイス帝国
しかしそれから1週間程してペガサスで一人の騎士が急いでやって来た。
グリーシアの向こう側、飛び地のグレイス王国の領土とした地の城代の使者だった。
「偵察の者からの報告ですが、シャングールから膨大な兵が向かってきています。恐らく50万程かと」
階段を駆け上がってきたのだろう、肩で息をしている。
「戦を仕掛けてきたということか?」
オサムは使者に尋ねると
「このままでは恐らくあと1週間ほどで領土に入られます。途中の小国を攻め落としながら向かって来ています」
使者は必死だった。
砂漠周辺の城塞都市程度なら力任せに落とされてしまうだろう。
仮に全ての都市から兵を集めたところで50万もの兵に勝てるはずはない。
オサムは何のための進軍かは考えず
「わかった、我々がなんとかしよう」と言って使者を一旦帰らせた。
そしてクイードとタキトス、ハンビィを呼び出し
「グリーシアの向こうの領土が攻められそうだ、俺は先に行っておく、5日程時間を置いて2名来い」
「1名はこの国に残ってグレイス国を必ず守れ。2人と俺でシャングールを落とすことになるかもしれん」
と言ってオサムはグレートドラゴンで飛んでいった。
地上から見えないようにかなりの上空から見たが50万人は超えているようだった。
更に東に飛ぶと城塞都市が滅ぼされていた。いくつか見たが恐らく全滅したのだろう人の気配はない。
オサムは怒りを覚えたが、領土に入られる前の攻撃は控えた。
城の守備兵は守りに徹するように言い付け門は固く閉じるよう命じた。
全ての支配下の城塞都市から城代として赴任させている黒狼騎士団のメンバーを最前線になるであろう都市に集めた。
「奴らの進撃後の都市を見てきたが全てが滅ぼされていた。全滅させながら進んできている」
オサムは見てきたことをありのまま言うと
「ではこの周辺の都市もそうなるのですか?陛下」
キスカ・アイルハワーと言う騎士が訊いてきた。
「そうはさせん、もうすぐ我が最強の家臣の内2人がやって来る、3人で全滅させてみせる」
オサムが答えると
「伯爵様達ですか?陛下と3人だけで50万の兵を?あ、いえ、陛下のお力を疑っているわけではありません、しかし」
アイルハワーがそう言うので
「ではペガサスかグリフォンで我々の戦闘を見ておけ、我が領土に踏み込んだ敵がどうなるのかをな、必ず見に来い、黒狼騎士団の城代や責任者皆だ」
オサムが命じると「わかりました」と答えた。
アイルハワーを含め20名以上の城代や大使は騎士の50~65レベルである、黒狼の装備を着けているとは言え通常の騎士だ。
「まあ見ていろ、グレイス王国の初めての戦争だ。我が国の恐ろしさを思い知らせてやらねばな」
オサムの言葉には少しの怒りが含まれていた。
都市を全滅させるような軍は絶対に許すことが出来ない。
皆殺しになることは確実だったが、その時点では黒狼騎士団の者達は半信半疑で緊張していた。
それから5日が経つ頃クイードとハンビィがやって来た。
「来たか、城代達を連れて行くぞ。戦うのは俺達3人だけだ。見物させておくので張り切って戦えよ」
オサムはそれからすぐに飛び立った。
高空から見下ろしていると、どうやら領土に入ったようだった。
このまま1日進めば最初の城塞都市に当たる。
「クイード、ハンビィ、奴らは幾つもの城塞を焼き払った殺人鬼達だ、遠慮はいらぬ、全滅させよ!」
「他の者は見ていろ、絶対に手出しはするな、わかったな」
念を押してからオサムは急降下して敵兵をブレスで焼き払った。
それを数回3人が繰り返すと敵はパニックになっていた。
そこからドラゴンを地上に降ろし、3方向から囲んでブレスを浴びせかけた。
数千人が炭になって転がっていく。オサムはドラゴンから降りて上空で旋回させた。
地上に立ち、ナイトメアに乗り換え混乱する敵軍を全て切り捨てていった。
クイードとハンビィも同様に剣の一振りで数千人が切り倒され、吹き飛んだ。
ものの30分も掛からず侵攻軍は一人残らず全滅した。
オサムは上空で見ている城代達に合図をして降りてこさせた。
「これがグレイスの力だ、わかったか?お前達はそのグレイスの選ばれた騎士である、もう少し見たいなら着いてこい」
黒狼騎士団の者達にそう言い、シャングールまで付いてこさせることにした。
砂漠の都市はもう安全である。
グレートドラゴンに騎乗し
「このままシャングールを攻めるぞ、城を落とす、国も落とす。二度とこんなことが出来ないように国を取る。わかったか?」
オサムが言うと2人は
「わかりました」といいグレートドラゴンに騎乗しシャングール帝国の帝都にドラゴンで降り立った。
上空では数十騎のペガサスやグリフォンが旋回していた。
「クイード!ハンビィ!向かってくる敵は斬れ!俺は皇帝と話をしてくる」
と言って歩いて皇宮に向かった。
途中数百人が攻撃してきたが剣撃だけで全て切った
「皇帝を出せ!」と叫ぶとまたぞろぞろと兵達が出てきたので全て斬った
「皇帝を出せ!」更に叫び今度は「アースクラッシュ!」と皇宮を真っ二つに叩き斬った。
「出さぬならこの国を滅ぼすぞ!」と叫ぶと
皇帝がうろたえながら家臣に引きずられてやって来た。
「私はこの国の宰相にして大将軍である、皇帝陛下をお連れしてきた」とその将軍は言った
「お前がシャングール皇帝か?」とオサムが言うと
何も言わず頭をカクカク揺らすだけだった。
「何故攻めてきた?」と訊くと
将軍が「領土拡大のため、それで我が方の兵はどうなった?」と訊き返してきた。
「30分も掛けず一人残らず殺した。信じられぬなら見に行けば良い」とオサムは答えた。
「途中我が領土ではない都市国家が滅ぼされ焼かれていたが?それがお前らの戦か?」
オサムは怒りを抑えて問い質した。
「それが我が帝国の戦のやり方なのでな、後方で反乱が起きるのを防ぐためだ」と言うので
「クイード!ハンビィ!この城を焼き払え!」と命じた。
途端に2人はグレートドラゴンに騎乗し兵が居そうな砦を焼き払っていった。
「ではこれが俺の戦のやり方で良いのか?どうだ?国中を灰にするぞ!」とオサムが言うと
皇帝を持ち上げ「陛下、どうなさいますか?このままではこの国は滅びます」と将軍が言った。
オサムはその様子を剣を担いだまま冷静に見ていた。
「何が望みだ?」と皇帝が震えながら尋ねてきた。
「そうだな、ではこの国を貰おうか。確か禅譲と言う儀式が有ったな?それで良いが?」
と皇帝に言うと
「いきなり攻めてきてそれか」というので
オサムは激昂し
「攻めてきたのは貴様らの方だろうが!」と叫んだ
「で、どうする?この国を灰にするか俺に譲るか、選べ」
「禅譲ならば生かしておいてやる。そうでなければ貴様も一緒に灰となれ!」
オサムは怒りを爆発させた。
皇帝は
「お前などに譲る位ならこの国と共に灰になってやるわ!」と言ったので瞬間真っ二つに切り捨てた。
強く振りすぎたので地割れが起きた。
「民を思わぬ皇帝など死んでしまえ!」
オサムは次に将軍を見て
「どうする?」と訊くと後ろを向いて兵達に
「皇帝に連なる者全て斬ってこい!全員だ!女子供も容赦するな!我が親戚もだ、遠慮は要らぬ!」
と指示した。
そして
「降伏する」と言った。
「クイード!ハンビィ!もう良い、降りてこっちへ来い!」と呼んだ。
「お前達もここに降りてこい!」上空の城代達も呼んだ。
数十人のグレイス王国騎士がオサムの周囲に並んでいた。全員剣を抜いている。
シャングールの将軍は一人静かに目を閉じていた。
それを見てオサムも
「様子を見る」
黙って立っていた。
暫くすると何百と言う数の死体が皇宮の庭に運び出されてきた。
「皇帝一族、親戚、外戚、皇帝直属の文官全て斬った。私の親戚も居るが例外はない」将軍は後ろを指差し
「並べてある、ついてきてくれ」と歩き出した。
その後ろをオサム以外全員剣を抜いたまま付いて行った。
そこには女子供老人を含めた身なりの良い者達が全員絶命したまま寝かされていた。
「これで信用してもらえるか?お前はまだ民に手出しをしていない。恐らく民を手に掛けることは無いのだろう、というのが俺の見立てだが?」
将軍はあの一瞬で何を捨て、何を残すかを決めたのだろう。
「その通りだ、民とともに灰になることを選ぶような皇帝など要らぬ、なので斬った」
オサムは正直な気持ちを話した。
「それでどうする?お前がこの国の皇帝になるか?俺はそれでも構わんが。戦って勝てる相手ではないのは分かった」
将軍も自分の思いを正直に話した。
「俺が皇帝になろう。しかし将軍よ、名はなんという?俺はアキバ・オサム・グレイスだ」
それに将軍が答えて
「ロウ・ウェンという」
「ではロウ・ウェンにこの国を任せる。旧皇帝派は滅ぼせ。
今よりシャングール帝国はグレイス王国の属国とする。いいな?ロウ」
そのやり取りを皆が聞いていたが、オサムの言っていることしか分からない。
しかしオサムがこのシャングールの新たな皇帝になるということを聞いてクイードとハンビィ以外の全員が驚いていた。
「期間を与えるのでこの国をまとめておいてくれ」
「無用な内乱は避けたい、ロウよ、お前に敵対する勢力は有るか?」
オサムが訊くと
「北の辺境に2箇所合計で20万程、あとは北方に敵がいる」とロウは答えた
「騎馬民族か?地図があれば片付けてくるが?」オサムは簡単に言った。
ロウは地図を持ってこさせて
「この砦とこの砦が旧皇帝派の軍だ、あとは全軍この私が掌握している」
「それで、北方の敵というのはどの辺りに?」とオサムが訊くと
ロウが指を指して
「恐らくこの一帯だろう、総戦力は30万程と考えている。精強な者達だ」
「オサムはわかった、3日くれ、全滅させてくる。すぐ戻る」
そして
「皇帝一族か?全員丁重に葬ってやってくれ」
と言い残しクイードとハンビィ達の他全員を連れて北に向かった。
「まずは騎馬民族の方から叩く、女子供に被害を出すなよ?クイードとハンビィ以外は上空で待機だ、わかったな?遠くから見ておけ」
下を見ていると北から騎馬の大群が押し寄せてきていた。
「丁度いい、まずはあの騎馬隊を全滅させるぞ!」と急降下した
ドラゴンのブレスで先頭を焼き払い、ナイトメアに騎乗した。
そしてクイードとハンビィを引き連れて騎馬軍団を少しだけ残し殲滅した。
「お前達の王のところに連れていけ」と言って向かわせた。
「前の世界で匈奴とか言う奴らだな?」と言い、大きな簡易王宮の前で待っていた。
「お前は誰だ?」と訊かれたので「アキバ・オサム・グレイスという。お前が王か?」
「いかにも、ライル・カンだ、何故戦の邪魔をした?」と訊かれたので
「戦が嫌いだからだ、あと何人兵が居る?」とオサムが言うと
「20万以上は居るが?」とライル・カンが鼻で笑って答えた
「俺は新しくシャングールの皇帝になった、戦を仕掛けることは許さん」
オサムははっきりと敵対の意志を示した。
「新しい皇帝?シャングールを滅ぼしたか?」と言われ
「滅ぼした、そして俺が皇帝になった。俺はお前の敵か?」と問うた
「それならば敵となるな」
ライル・カンにそう言われたので
「では戦おう。どちらかが全滅するまで。2日後この南にお前達の兵の死体が転がっている場所で、待っているぞ」
と言ってグレートドラゴンで北から砦を目指した
近づくと矢が飛んできたのでよくわかった。
しかしオサムは一旦上空に上がり地図をよく見て正しいか確認した。
間違いなかったので砦と城をを焼き払い兵を外に出した。
オサム達はナイトメアに騎乗して10万の敵を30分程で片付け、城も跡形もなく破壊した。
「次は、ナイトメアの足なら2時間程度か、このまま行くぞ、クイード、ハンビィ」
と普通の馬では走れないような荒れ地を苦もなく駆けていった。
城代達はこの一連の戦いを見ながら恐怖していたが、低空を飛んで付いて行った。
「見えた、あれだな」と言い、まずは砦を真っ二つに切り崩した。
兵がわらわらと出てきたので順に斬っていった。
将軍らしき人物が見えたので止まって
「俺はこの国の新皇帝となったアキバ・オサム・グレイスだ。お前が将軍か?」
と訊くと
「なんだと?皇帝陛下は?」と訊かれ
「俺が斬った!」と言うと
「貴様、たった数十騎で10万の兵に勝てるとでも思ってるのか?」
そう言われたので
「試してみろ、何万人でも出してこい」と誘った。
「バカモノめが!」と全軍を出してきたので
オサム達3騎で全滅させた。城を壊し全てを焼き払った。
「では、あの壁の上で休むか」と10mは有る壁に3人が飛び乗った。
城代達も壁の上に降りた。
「陛下、あのような戦は初めて見ます、我々ごとき騎士が名誉ある黒狼騎士団の団員で良いのでしょうか?」
誰かが訊いてきたが
「俺は能力と人格で国家騎士団の最強戦力としてお前達を選んだ、お前達は十分に強い、己を蔑むな」
そしてマジックバッグからパンを出し
「お前達、食い物は持ってきているか?無いなら俺がお前達の分も持ってきているが」
と返事を聞かずに全員にパンを渡していった。
オサムやクイード達は数週間分の食べ物を常にバッグに入れている。さすがに料理は無理なためパンと水だけだが。
オサムは夕食になるそのパンをかじりながら
「あと1日半か。待つしか無いな」と言って全員で待っていた。
暇つぶしに、と城壁の上で皆と話をすることにした。
やはり黒狼達は能力も忠誠心も高い、城代や大使、領事としてはうってつけだ。
約束の日になったので、例の平原上空でグレートドラゴンに乗って待っていた。
城代達は城壁の上でペガサスやグリフォンに騎乗して待機していた。
北の方から約20万の騎馬隊が来るのが見えたので暫く待つと
馬や人が倒れているところで急に止まった。
「さて、始めるぞ」と急降下し地上スレスレでナイトメアに乗り換えた。
「約束通りやって来たな!ライル・カンの軍か!」
と確認した。
「いかにも!」と言われたので
「では戦おう!」とオサムは斬り込んだ。
瞬間に人や馬が吹き飛んだ。
何千という矢が飛んでくるがくるがビーツの甲冑は矢を通さない。
ナイトメアもその程度の矢では傷もつかない。
オサム達は騎乗してスキルで斬りまくった。
クイードとハンビィも両側から切り崩していき1時間も掛からず残り100騎ほどになった。
「ライル・カンはどこだ!」と言うと
「ここだ、降伏する!」と言ったが
「どちらかの全滅が条件だったはずだが?」
と言ってオサムはライル・カンを残して全てを斬り捨てた。
グレートドラゴンを呼び、ライル・カンを持たせてシャングールの帝都に戻った。
「ロウ・ウェンは居るか!」と呼ぶと走ってきた。
「そいつは?」と訊かれ「ライル・カンだ、北方の敵の王を捕まえてきた、煮るなり焼くなりどうとでもして良い」
「20万以上の騎馬兵を全て斬り伏せてきた、あと北の要塞2つ20万も全滅させた」
「約束は守ったぞ?お前も守れ、今から俺は皇帝として即位する、準備を始めろ今日中だ」
ロウ・ウェンは儀式を始めた。
「これが玉璽です、皇帝の証。アキバ・オサム・グレイス陛下をシャングールの新たな皇帝として迎えます」
と言われたが
「国名はグレイス帝国とする、良いな?西の国の俺では人心の掌握はまだ難しいだろう、お前の力を借りる。
ロウ・ウェンを引き続き宰相及び大将軍に任じ、グレイス帝国の皇帝代理とし治世をしばらく任せる」
「それと北方に攻め込み兵が残っていれば滅ぼせ、そして女子供をこの国に住まわせろ、いいな?これは保護だ」
「決して女を辱めたり殺したりするな、子供も剣や弓を持てない者は生かしてこの国で育てさせろ」
とロウ・ウェンに言った。
「わかりました陛下、あとは1年以内に私が平定致します」
ロウ・ウェンはかしこまって拝命した。
「では、任せたぞ。1年の間に数回来ることになると思うが」
と言ってオサム達は飛んでいった。
途中、砂漠の都市の一つに降り立ち
「グレイス王国の戦はどうだった?」
とオサムが城代たちに訊くと
「考えられません、あれが戦を捨てた武王グレイス陛下とはとても思えません、大陸全土を統一出来るのでは?」
しかしオサムはその質問に
「それで何百万人が不幸になる?俺はそんなことはしたくない。お前達は戦をするために騎士になったのか?俺は守るために強さを極めようとしている」
「どう思う?」と問うと
「騎士とは守るために力を使う者、黒狼騎士団の入団式でそう教え込まれました」
そう言うと、気がついたようで
「わかりました、陛下。私が間違っていました」と膝をついた。
「わかればよい、お前達黒狼騎士団は間違いなく王国最強の騎士団だ。忠誠心も高く人格者と私が認めた者達だ。これからも我が国民を守ってくれ」
オサムが目の前の全員に言うと
「は!」と膝をつき、右拳を心臓の位置に置いた。これはグレイス王国の最敬礼だ。
「砂漠は辛いと思うが2年勤めればまた2年王都配置に変わる、それまで頼んだ。では全員自分の城へ戻り、引き続き任に当たってくれ」
オサムはそのままクイードとハンビィを連れて王都へと帰っていった。




