3話 異世界の剣士になって
オサムは疑問に思ったことは直ぐに解決したいタチだった。
「あのー聞き忘れてたのですが、その拳銃はどうやって入手されましたか?」
『他にも誰かが迷い込んだんだ、きっと。自分一人ではない誰かが居る』
確信にも似た何かがオサムの頭の中に芽生えていた。
フルグリフ伯爵は
「知りたいか?骸が握っておったのだよ。オサムと同じような服装の白骨死体がな」
オサムは得心を得た
「フルグリフ伯爵はそれを見ていたから俺の言うことを聞いてくれるのですね?」
『過去に同じような人間?を見ているのなら最初からわかっていて当然だ、あとは安全確認だけで済む』
オサムは考えたが、自分と同じ服装で銃を持っているのなら日本人ではない、しかも白骨死体というならかなり前になる。
どこと繋がっているのか、いつと繋がっているのか、自分のような人間が今どこかに居るのか、知りたくなった。
しかし、何もわからない世界を単独で動くのは危険だ。
幸いフルグリフ伯爵の軍は規模が大きいので様子を見ることにした。
フルグリフ伯爵はオサムの疑問に対して
「そうだ、精霊界、神の世界が有るのなら、もういくつか世界があっても構わないと思ってな。
骸が有ったのは、確かここからだと南の土地で半年ほど前になるか、巡察の最中に家臣が見つけた」
そう答えた。
そして付け加えるように
「しかし、異世界か、他の大多数の者は頭が固くて困る。オサムが我が軍に居る間オサムの世界の事を教えてくれるか?」
フルグリフ伯爵は好奇心が旺盛らしい。
願ったり叶ったりである。オサムは安心して
「分かりました。俺は今のところこの世界のことに関しては全く知りませんし、軍隊と一緒なら心強いです」
「俺の元居た世界のことが役に立つかはわかりませんが、何なりとお聞きください」
と本心を打ち明けた。
『戦闘になったら別だけどね、でもあの飛行機事故で俺は終わってるしまた始めればいいじゃないか』
オサムの第二の人生が今始まった。
「それで、俺は何をすれば良いのでしょうか?戦いでしょうか?」
と若干不安を覚えながら尋ねると、伯爵は
「そうだな、私の身の回りの世話でもしてもらおうか。従者ということになるな、服や甲冑も用意させよう。ところで剣は扱えるか?従者は剣士か騎士である必要がある」
予想外の言葉にオサムは
『きた!剣を持てる!』と喜んで
「向こうの世界ではおおっぴらに剣を持つことは出来ませんでしたので扱いには慣れてませんが、練習します」
そう答えて心のなかで『よっしゃ!』となった。
すると伯爵は
「では、クリューズに言いつけておく。革の軽装で良いな?鉄の甲冑はまだ無理だろう?」
正直オサムには軽装がどの程度のものかもわからない上に、クリューズという知らない人物の名前を出されて困惑したが
「そうですね、革の鎧が動けるギリギリだと思います」
『RPGの初期装備だぜ!これからステップアップだ!』と気分はゲーム状態だった。やはりゲーム脳である。
ある程度の話が終わり、伯爵の軍に同行させてもらえることになった。
弱いとは言えど装備も与えられる上に伯爵の従者という立場も貰った。
第二の人生のスタートとしては上々である。
問題はオサム自身が伯爵の役に立てるかどうかということだ。恩には報いなければならない。
そうと決まれば腑抜けている場合ではない。
この世界が何なのかは後回しにして現実を現実として考えねば自分の立場が危うくなる。
従者というものがどういうものなのかも理解し、様々な異様な事柄も受け入れなければならない。
誰に聞けば良いのかは分からないが、そのうち分かるだろう。
幸いというか、不思議にもと言うべきか言葉は通じるようだ。
意思疎通が出来ればどうとでもなる。
オサムはこの世界で生きることに決めた。
困難なことがあろうとも、それは以前の世界でも望んでいたことである。問題は殆ど無い。
「それにしても剣士か、全くの素人だけどどうにかなるものなのか?モンスターもどういうものなんだろう?」
ゲームの世界のモンスターのようなものなのだろうか?それとも全く別の?強いのか弱いのか?
オサムは考えたが、そのうち分かるだろうということで先延ばしにした。
問題は対人戦闘の有無である。剣と盾を持っての殺し合いなどオサムには想像も出来ないことだ。
もしそれに巻き込まれれば自分はどうすればよいのだろうか?それが今のオサムの一番の問題だった。
「考えても仕方がない。従者ってんならやれと言われればやるしか無いな。けど人と戦うのはいやだな」
どうせ一度失った命である、戦闘で失うのも仕方がないかとオサムは諦めたが、殺すとなると別の問題である。
その時が来ればその時に判断すれば良いだけのことだ。
オサムはクリューズとかいう、恐らく貴族階級らしき人物から装備一式を渡された。
分厚く重そうな、それでいて美しく装飾された動きやすそうなクリューズのプレートアーマーと比較すると貧弱ではあるが、立派な革鎧である。
「すっげぇ、本物だよこれ、元の世界のと比べるとゲームの方に近い、かっこいい」とはしゃいだが
クリューズは
「早く着替えておけよ」とだけ言うと、とっとと部隊に戻っていってしまった。
オサムは
「いや、これどうやって着るんだ?」と試行錯誤しながらそれなりの形にした。
そして革ベルトで腰に吊り下げた剣を抜き、まじまじと眺め
「やっべ、マジで剣だコレ。ソードってやつだな、鋼の剣か」あとは短剣だが侍のように2本刺しには出来ない。
しばらく悩んで左胸に柄を下に向けて固定した。
「確かアメリカの特殊部隊がこうやってナイフをつけてたな」という朧げな知識だ。
「しっかし、戦争かー、命懸けってことだよなぁ、ま、いいけどね」
オサムがぼそぼそと呟いていると
「ほう、なかなかの剣士っぷりだな?皆に紹介するからこちらに来い、オサム」
フルグリフ伯爵がオサムの肩をポンと叩いた。
「皆の者、こやつはアキバ・オサムという者だ。
野盗に襲われた旅の者らしいが我が領土内での出来事ゆえ私が責任を取り従者とする。まだ戦闘は出来ぬため雑用を行ってもらうことにした」
『戦闘無しか、そりゃ人を殺せって言われても出来ないもんな』
「秋葉オサムです。よろしくおねがいします」
『多分お辞儀じゃないな』と考えて頭は下げなかった。
目が醒めた時に入ってきた女性剣士が腹立たしそうな顔をしたが放っておくことにした。
それより派手なリュックはこの姿に似合わない、中身だけ何かに入れとこう。と考え
「フルグリフ伯爵、荷物を持ち歩きたいのですが、何か入れ物はありませんか?この革のポーチだけでは入り切らないのですが」
オサムが脱いだ服とリュックをみせた。
「ん、背嚢があるのでそれを使え。クリューズ、クリューズ!」と先ほどの貴族らしき人が革で出来たリュックを持ってきてくれた。かなり大きめだ。
「えーと、まずズボンにシャツと上着か、ボロボロだけど持ってたほうが良いな。あとはパスポートに財布、携帯、カギ・・・要るのか?こんなもん」
オサムは次々に入れていき「ん?何だこのペンダント?」と言いながら首に下げた。
「フルグリフ伯爵、ありがとうございます。準備が整いました」
『何の準備かわからんが、とにかくこの世界で生きるしか無いか』
オサムは腹を決めた。
「さぁ、そろそろ場所を変えるぞ、一箇所に長居はできん。荷物をまとめ全軍北へ!」
フルグリフ伯爵が指令すると、簡易テントやその他のものが片付けられ馬車へと積み込まれた。
整列はしていないが、装飾の施された甲冑の恐らく騎士であろう者が50人程度、
無骨な甲冑の剣士が100人程度、その他雑兵と思われる剣士が100人程度
あとは魔法団と呼ばれていたローブの者達が50人程度、総勢300人位のようだ。
『しかし何をしに行くんだ?目的聞いてなかったな、ま、良いけど』
「あー、確かアニメかマンガであったな、この数だと小さな町の攻撃か。いや、ダンジョンも考えられるな」
オサムが思った事を口に出してしまった。
が、誰も聞いてなかった。
『大体アニメだとこういうのを受け入れられずにバカみたいにパニクるんだよな、
あれを見ててストレスがクソ溜まったわ、訳の分からねぇ事が起きても即座に順応しろよってーの。
キャラ毎に性格作る必要は有るんだろうけど、そういう奴から何も出来ずに死んでくんだよなぁ
俺はそういうの見てムカつくからバカみたいにパニクらないだけか?俺が異常なのか?』
オサムが自問自答していたが、進軍が始まった。
『しかし、昔の戦争もこんな小部隊なのかねぇ?攻撃力は魔法があるからいいのか?』
「考えるのやーめた。まず動いてからだな。危なくなってもやられる前にやるしかないな、こんな剣振れるのか?俺」
腰の剣に左手を置いてオサムは少しにやけていた。
「足手まといにならない程度に順応すっか」
オサムは以前見たマンガかアニメの登場人物程馬鹿ではなかった。
「よし!今日中にダンジョンの入口まで行くぞ!」
フルグリフ伯爵が言った
『あ、やっぱダンジョンなのね、りょーかいしました』
「ダンジョンで何するんですか?」オサムが尋ねると
「人探しだ」クリューズと呼ばれている人が答えてくれた。
『あれか、ダンジョンに入ったままでてこない人とかの救出ね、多分だけど』
「行方不明の人が中に?」と聞くとすぐに「そうだ、6名。我が主の末の弟君が含まれる」
と言うとそれっきり黙ってしまった。
「えーと・・・」
『まあ良いか、それ以上は軍事機密ってやつだろうし、そのうち分かるさ』
オサムはそれ以上訊くことはなく、集団と共に歩いた。
流石に革鎧とは言えコレだけの重量を持って歩くと疲れる。
かと言って進軍は止まらない。
『疲れたなんて言えないしなぁどうしようかなぁ』と考えていた時
「全軍小休止!」と号令がかかった
「助かったぁ~」オサムはつい口が滑った。
しかし、誰も聞いていなかった。
「目的地まであと数時間だ。日が暮れてからの移動は避けたい。30分の休息の後、出発する。
『たすかる~~軽装歩兵でこんなに疲れるのかよ、重装歩兵だとどうなるんだよコレ』
馬車の車輪に背凭れてオサムが考えていると
「アキバ・オサム!閣下がお呼びだ、こっちへ来い!」
『まじっすか、疲れが取れねぇー』などと思いながら少し歩き
「秋葉オサムです・・・あの、何か御用でしょうか?」と出来るだけ元気に答えた
フルグリフ伯爵が
「まあ座れ、水筒を渡し忘れていた、これだ」と革製の水筒を差し出し
「喉が渇いただろう?先ずは飲め」と小さな樽に取っ手の付いたジョッキを差し出された。
『これ、アニメでよく見るやつじゃんかよ、もう衝撃の連続なんですけど?』
オサムは考えながら飲み干した。
「それで、オサムよお前は、剣が振れんな?ダンジョンは危険が多い。
とは言え、今回の規模で入ればほぼ安全だ。だが、お前は私の傍から離れるな。我が軍の精鋭10人が私と共にお前も守る」
「わかりました、ありがとうございます」
『安全確保か、ありがたいが外で待機とかはナシかよ』オサムは当惑しつつも受け入れた。
「30分ゆっくりしておけ、あと4時間は掛かる」
『どこまで遠くまで行ってんだよ、遭難者はもぅ。馬に乗れればなぁ』
騎乗すれば楽なのだろうが、オサムは馬になど乗ったことがない。
「4時間ですか、随分と遠くまで行くんですね」
「そうだな、今回は我が領土の端に当たる土地で発見されたダンジョンだからな」
その日4時間掛けてたっぷりと歩き、たどり着いたのはやはりダンジョンだったが
オサムは
『なんか思ってたのとかなり違うんですけど!』と見上げていた。
そのダンジョンは洞窟ではなくそそり立つピラミッドだった。