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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第二章 国王と神
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2話 ロレーヌ

 「陛下、ロレーヌ様、おかえりなさい」

 ロレーヌが城の作りを覚えていたため迷わずに部屋まで帰ってこれた。


 「今夜はどうなさいますか?お話もあるでしょうしロレーヌ様とお休みになられますか?陛下」

 リムルは嬉しそうに言った。


 『やっぱりこの子どんな身分になっても中身は侍女のままだ。俺も同じだけどな』

 オサムは思った。


 「そうだね、ロレーヌの部屋を作って今夜は一緒に過ごすことにするよ。色々と聞くことや決めるべきことががあるから」

 そう言ってハロルドを呼んでロレーヌの部屋を4階の貴賓客用の部屋を改造してすぐに作らせた。

 家具の入れ替えだけのため改造と言っても半日も掛からなかった。


 ロレーヌは与えられた部屋をオサムに見せられて

 「子爵の屋敷の部屋と同じかな?狭かったら言ってね?広くするから」

 オサムの言葉に

 「父上の部屋より広いです。ベッドもこれは何で作ったものですか?ウールや綿ではないですね」

 ロレーヌが部屋を回りながら色々見て回っていた。


 「ベッドはね、俺が特別に注文したもので水鳥の羽毛を絹で挟んだものだよ、向こうの世界の高級品を真似した」

 オサムがそう言うと「絹ですか?シャングール帝国から?」

 ロレーヌが訊いてきた。

 貴賓客用の部屋なので立派な調度品や、絵画、シャングール製の花瓶等で飾られていたが、絹となると話は変わる。

 どこの国であろうと絹は王や王妃の寝室以外には殆ど使われていない。


 「うんうん、もう世界中どこにでもいけるから、俺が行って買い付けてきた、銀貨1000万枚位だったかなあ、他にも買ったから分からない」

 「この城のベッドはほとんどこれで、侍女の服とかも絹で作らせてるよ、綿も使ってるけど、

  この国は温かいから綿やウールだと重いし蒸れちゃうんで、ありったけの絹を買ってきた」

 オサムはさらりと言い

 「ベッドに寝てみて?絹の寝間着もあるはずだから着替えて」

 と続けた。


 そうするとオサムの目の前でロレーヌは着替えだした。

 「え?あ、そうか、ロレーヌって人目を気にしないんだったなぁ」とオサムが思い出した。


 「陛下、私の体を見て頂けますか?」

 とボタンを止めずにいた上着をはだけて背中まで見せた。

 「古傷は多いですがまだ男には触れさせて居りません。私でも陛下に抱いて頂けますか?」

 と言うので

 「綺麗だね、ずっと思ってたけど」

 オサムは正直に答えた。


 「では今すぐお願いしても?憧れていた陛下に早く私を知っていただきたいのです」

 そう言ってオサムをベッドに連れて行った。


 これはロレーヌなりの気遣いで、夜はリムルと過ごして欲しかったのだ。

 しかしできれば早く抱かれたかった。男として育てられたが、オサムへの想いがロレーヌを女性にしていた。

 夕食前にはロレーヌは騎士から女になっていた。


 少しの間ロレーヌはオサムと幸福な時間を過ごし、平服に着替えた。

 ベッドの上でオサムが

 「服はピッタリだね、でも明日洋裁師を呼んで30着ほど作らせよう。絹が良いだろう?外着やコートはウールも使おうか」

 オサムがクローゼットの大きさを見ながら言うと

 「そうですね、この肌触りに慣れると前の服は・・・」

 「しかし高価なのではありませんか?各国でも国王位しか絹は持って居ないと聞きますが」

 ロレーヌは遠慮がちに答えたが


 「直接買ってきたから倉庫一杯にあるよ、マジックボックスでね?大丈夫。心配要らないから」

 「あと、祝福の儀式の前に騎士位は取り上げるからね、伯爵位を上げるから」

 オサムはもうロレーヌを戦場に立たせたり冒険させたりするつもりはなかった。


 「俺の子を産んでもらう。大事な体になったから承知して欲しい。籠の鳥にするつもりはないから安心して?」

 一種の方便ではあるが、もう危険な目に合わせるわけには行かない。

 ロレーヌは65レベルの騎士になっていた、冒険をしていたのだろう。

 「私もそのつもりです、王妃陛下のお邪魔はしません。時々でかまいませんのでお願いします」

 ロレーヌは胸に抑えていたものが一気に取れて幸せだった。自分が女で有ることを感じていた。


 「儀式まではある程度話を固める必要があるけど、来週からはしばらく家で過ごすといいよ」

 オサムは優しく言った。


 式の大体の日取りと、招待客、場所等を決めるために少しの間オサムは忙しく動いた。

 とは言え全て家令であるハロルドが仕切り、執事達や侍従、侍女、事務官が手配するのだが。

 それが終わると準備もあるのでロレーヌを子爵の下へと返すことにした。



 ロレーヌを一旦帰した後、しばらくして領内にモンスターの群れが現れたと報告が来た。


 4人はすぐさま駆けつけグレートドラゴンのブレスで雑魚を片付けた後ナイトメアに乗り換え

 巨大なボスを次々と片付けていった。


 ダークドラゴンが現れるとグレートドラゴンに騎乗し直して次々に落としていった。

 最後の一匹を片付けた時にオサムは飛び降り、地上に居るカオスキーパーを叩き斬った。

 大地に亀裂が走るほどの一撃だったが、やはり手応えはなかった。


 「30分も掛からんようになったか、しかし久しぶりに見たな」

 オサムが言うと

 「やはり陛下はお強い、我々も強くなったと思っていましたが陛下は次元が違います」

 ハンビィが息を切らせていた。


 「あの戦いを汗1つかかずに済ませるのですから」

 クイードも肩で息をしていた。


 「俺は魔法が使えるので仕方ないだろう。お前達が居てこそこのように早く片付けられる」

 「俺はお前達に助けられていることを忘れたことはないぞ」

 そう言って3人の肩を叩いて

 「俺が留守にしても問題ないと思えるのはお前達のおかげだ」

 オサムは3人に感謝していた。


 

 オサムは久しぶりにビーツやクライアンに会いに行った。

 2人はビーツの工房に居り、どうやら共同して何かを作っているようだった。


 「これは陛下、また何か打ちますか?」とビーツは訊いてきた。


 「そうだな、実体の無いものを切れる剣は作れるか?」

 オサムはマジックバッグから大量のレアアイテムを出して見せ、そのままビーツにバッグごと渡した。

 「実体のないもの、ゴーストやガイラムのようなものですか?クライアンと相談しながら試してみましょう。神聖魔法石でなんとかなるかもしれません」

 「ただ、絶対にとはお約束できませんが、それでも良いのなら」

 ビーツの言葉にオサムは

 「構わんよ、いつもどおり無理を言っているのは承知しているからな」

 ビーツやクライアンはその”無理”に応えるのを楽しんでいたのだが、オサムは知らない。

 「あとは甲冑だな、4人分。このデザインだ、剣も頼む」とデザインした紙を渡した。

 「そうだ、黒狼騎士団に新しく2名入った。また言うので採寸に来てくれ、ビーツ」


 ビーツはオサムから渡された紙を手に取り

 「いつもながら素晴らしいですな、剣の方は例の大剣でしょうか?少々形を変えていますね?」

 デザイン画を見ながら訊いてきた


 「そうだな、あれが扱える限界ではないが装備しにくくなるので大きさは同じものを頼む。重さはどうでも良い」


 「あと、クライアン、何か新しい物は出来たか?」と聞くと

 クライアンは

 「今はHPとSP、MPを最大まで回復させるポーションと完全に無限に入るマジックバッグを試しています」

 と答えた。

 最大まで回復させるポーションが出来ればインペリアルセイヴァーであるオサムはほぼ無敵になる。

 もう戦闘ではほとんど傷は負わないのだが、持っておくべきポーションの数を劇的に減らせることになる。


 「それは助かるな、素材アイテムは足りているか?」

 オサムがマジックバッグやマジックボックスを覗き込みながら言った。


 「それが、ローレンダーク様、シュルツ様、ストワード様も素材アイテムを持っていらっしゃいまして

  倉庫代わりのマジックボックスに入り切らない位です。ヴァレスの革が考えているものを作るには足りないだけです」

 そう言ったので

 「ではまた集めてこよう、しばらく待ってくれ。作って欲しいものもあるし」とオサムは答えた。


 城に戻ると丁度ロレーヌがペガサスで降りてくるところだった。

 オサムにとってはタイミングが良かった、またバルコニーに飛び上がらずに済む。

 「ロレーヌ、早いな?」とオサムが言うと


 「これは陛下、屋敷での準備が終わりましたので戻って参りました」

 ロレーヌは儀式の準備を全て終わらせてきたようだ。

 「また陛下の腕の中で眠れます」幸せそうな笑顔だった。



 城の部屋に戻るとクイード達が待っていた。

 「どうした、何かあったのか?」

 オサムはどこかがモンスターに襲われているかと思ったが

 考えてみればそうなれば3人だけで片付けに行くだろうと考え直した。

 「用か?」と訊き直した。


 「いえ、用と言うほどでは無いのですが、王妃陛下のような女性と知り合うにはどのようにすれば良いのかと」

 クイードが答えた。


 「そうか、お前達もそろそろだなぁ、しかし俺はそういうことに疎くてな、正直わからん」

 オサムは剣士になるその前、最初の冒険の時からリムルだけを想っていたので恋愛には疎い。

 「ファシリアか城の侍女くらいしか思いつかん。ライツェンの方には誰か居ないのか?」

 オサムは正直な言葉を伝えた。


 「ですので王妃陛下にご相談しておりました」

 タキトスが言った。


 「この御三方ならば国王の姫君でも娶れますとお伝えしたのですが、他国と関わりたくないと、陛下のように生きたいとおっしゃられて」

 リムルがゆったりと話した。

 ハンビィが言うには、無欲で質素な女性を皆が望んでいるらしい。リムルを見ているなら当然だろう。


 「では侍女だな、リムルは心当たりないか?ヴィオラならもう年頃だろう?あいつは性格も器量もいいぞ」

 オサムはリムルに言うが

 「ヴィオラは陛下のことを想っているようで・・・」


 『また俺?もうそろそろ勘弁してくれ、ロレーヌだけでもリムルに気を遣うのに』

 オサムは長椅子に寝転んだ。いや、リムルの膝を枕にした。


 「そのうち見つかるとしか言えんなぁ、自分たちで探したほうが良いと俺は思うぞ」

 自分ではどうすることも出来ないので適当に答えた。



 一月程もするとリムルとロレーヌはかなり仲良くなっていた。

 そしてリムルに子が授かった兆候が見られたのでオサムは慌てて医学書を読み漁った。


 突貫で医学学校を城のすぐ近くに作り、オサムが読んで書記官に書かせていった。

 同時に全ての持ってきた書籍を翻訳するために翻訳係を数名作った。


 「完全に忘れてた、いちばん大事な事なのに。何のために買い集めたんだよ」

 そう独り言をして、他にも考えていたことを実行していった。


 王都外周部の水路及び水道設備や下水道の工事、ゴミ処理の施設、街の区分け、道路の整備、

 それを作るための土木や建築の技術を持った者達を集めての組織化、

 学校施設、兵士訓練所、警察組織と消防組織の構築等、

 全てを一度に作り上げ、国の組織を日本風に作った。



 1ヶ月も忙しくした頃だろうか「疲れた、もういやだ」とリムルとロレーヌに漏らした。

 ロレーヌは

 「あれだけの事業をお一人でご指示すればお疲れになって当然です。リムル様も私も陛下のお体が心配です」

 もうすぐ式を控えているが喜びよりも不安を語った。


 「私は大丈夫ですよ。陛下もおやすみ下さい。ロレーヌも私がお相手出来ない間はお願いします」

 リムルは今ほとんど部屋から出ず、侍女が24時間誰かが付きっきりになっていた。


 オサムはどうしたら良いのかわからない状態の中で精一杯動いた。

 ほとんど城から出ずに、用があるときはその担当者を呼びつけた。


 昼はずっとリムルの側に居り、ほとんど毎日隣の部屋で寝起きした。

 時々ロレーヌのところへ気遣って行くが「早くお戻り下さい」とロレーヌに急かされる。


 ロレーヌはロレーヌで式の延期を決めてマンセル子爵と連絡を取っていた。



 やっとリムルの体調が安定した時にオサムは安心した。

 「俺が慌てたせいで色んな人に迷惑掛けたなぁ」オサムがそう言うと


 「もう大丈夫ですよ、触ってみますか?」とリムルはオサムの手を取って腹に当てさせた。

 当然ながらまだまだ腹もほとんど目立たない。しかし確実に存在する命を感じることが出来た。

 「俺も父親かぁ」20歳過ぎのオサムは子供など全く考えていなかった。だがいざそうなると重圧がのしかかってきた。

 国を作った時よりも重いプレッシャーだった。


 リムルがそんな状態の時に常に傍でオサムを支えたのはロレーヌだった。

 オサムは間違いなくロレーヌに甘えていた。

 そしてロレーヌの大切さがよく分かるようになっていた。



 城下の工事は着実に進み、即席の医師も数人用意出来た。

 神聖魔法士を中心にした魔法団を作り治癒魔法を覚えさせて準備を整えた。

 この魔法団は神聖魔法の素質のある者を集めて、既存の魔法士ではなくゼロから作り上げた。

 将来的に王都を含め、各城塞都市に作る無料の医療施設に配置するのである。


 幸いなことにこの世界は魔法で成り立っている。


 精霊の力を借りる事も出来、

 オサムの去った世界の中世とは違い、出産で命を落とす者は極めて少ない。

 それでもオサムは100%の保証が欲しかった。

 グランパープルに行き、守護者に頼み込んで守護の腕輪というものも貰った。

 とにかく今出来ることを全てやったつもりだ。


 

 そしてようやくロレーヌの祝福の儀式の日がやって来た。

 しかしライツェン王国とグレイス王国の間にはグリオン王国とレギオーラ王国があった。

 レギオーラ王国はともかくグリオン王国とは単身城を砕き落とし領土を削り取った過去がある。


 「グリオン王と話を付けてくるか」とオサムは単身グリオン王国に飛んだ。

 「グレイスの王だが、頼みがあって参った。グリオン王陛下と話がしたい」

 そう言うとすぐに王の間に通された。


 「これはグレイス陛下」とオサムに膝を付き

 「どういった御用でしょうか?」とグリオン王は頭を垂れながら尋ねてきた。


 「過去の遺恨も有るかとは思いますが、我が側室の祝福の儀式のためライツェン国より約100名の者が来るのですが、貴国の領土を通らせて頂きたい」

 この100名はマンセル子爵家の者と、ロレーヌの姉やその関係者、フルグリフ侯爵とその関係者達のことだった。

 他の国や、それ以外のライツェン国の者が来るのであればそれはそちらで話をするだろう。


 「わかりました、グレイス陛下。警護が必要であればこちらで出しますが」

 グリオン王はそう言ったが

 「いえ、警護は我が家臣クイードに行わさせるので、領土の通過の許可だけを頂きたく参りました」

 クイードやクラウド達オサムの腹心の家臣とその従者が居ればドラゴンに襲われても安心である。

 仮に10万の軍と対峙しようとも、クイード一人で片付けてしまうだろう。


 「では、ご自由にお通りください。通り道の全ての者に伝えておきます。宿も手配致します」グリオン王は顔を上げない。

 「どうか顔をお上げください、私はグリオン陛下と同じくただの王です」

 オサムは説明したが

 「グリオンと陛下の国では全く格が違います、聖王様の国はグランパープル聖国に匹敵するのです」

 以前戦い、領土を削ぎ取った国の王がこの態度である。他国の国王はそれ以上に思っているのかもしれない。

 

 「少々お待ちを」と言いその場で直筆の通行証を書き上げてオサムに手渡した。

 「感謝します。この御礼は近いうちに」オサムは言い残しマンセル子爵にその通行証を持っていった。

 

 同じくハンビィを使者としてレギオーラ王国に遣わせて通行証を貰いマンセル子爵に届けさせた。



 「ふぅ・・・これで準備は整ったかな?」

 オサムはリムルとロレーヌに話した。


 ロレーヌは申し訳なさそうに

 「私の我侭から陛下にご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

 と言うが

 

 「俺は出来ることをしただけだから気にせず儀式を楽しみにしときなよ」

 と、身重のリムルの膝に頭を乗せるのは避けて、ロレーヌに膝枕をさせて横になっていた。


 「何人来るんだろうね?多分他国からの使者も来るだろうし・・・」

 「5~600人くらいなら大丈夫、カッシュやユゼム、トレモルが居るし、カッシュの弟子もかなり居るからね。100人は居たかな?もっとか」

 オサムはもはやこの城や王宮等で働いている人数を知らない。

 全ては家令のハロルドが中心にやってくれているが騎士だけで50人以上、執事や執事補佐も確か10人以上、侍従や侍女、召使になるともう数え切れない。

 王城には部屋が300以上あり、王宮の方はもっとある。迎賓館も相当な部屋数で、一体丘の上の建物だけで何人働いているのか想像も出来ない。

 


 案の定当日の昼にはライツェン王国から200名と少し、各国からも400名程が列席した。

 オサムはその様子を見て

 「新しく教えた料理喜んでくれるかな?」としか考えていなかった。


 儀式は無事に済み、ロレーヌの指は「ロレーヌ・デル・グレイス・アレンリソート」と刻まれたピンクゴールドの指輪が飾っていた。

 以前作っていたゴールドの指輪は既に「リムル・メル・グレイス・グレイシア」と刻んでリムルに渡してあった。

 ”デル”は第二王妃や第三王妃達をあらわす称号で、アレンリソートはオサムがロレーヌに与えた爵位の家名だ。


 祝いの夜会が開かれていたが、少し風に当たろうとオサムはバルコニーに出た。

 そこにはライツェン国の夜会で出会ったミーシャが居た。


 「このような宴はやはり苦手ですか?この国の風はライツェン程涼しくはありませんが良い風が吹きます」

 豪華な儀礼服に金の糸で刺繍されたマント姿で近寄っていった。

 「これはグレイス陛下。外に出たくて父に無理を言って参りました」と儚く微笑んだ。

 やはり美しい。一つか二つあの時よりは成長しているはずだが、それ以上に女性としての魅力を増しているように見えた。


 『これは偶然にしては出来すぎてるな』と考えて

 大広間に戻り「クイード、タキトス、ハンビィ居るか?」と言うとすぐに集まった。

 「バルコニーに来い、紹介する」と言って強引に連れ出した。

 3人も各国の姫君を紹介されて困っていたところだったので、これ幸いと出てきた。


 オサムは紹介のために「ミーシャ・ツォレルン男爵令嬢だ、美しい方だろう?」とだけ言った。


 ミーシャは

 「この御三方は?」と尋ねてくるので

 「我が家臣でありグレイス王国の礎の3名です。未だに正室も側室も居らず困っていまして」

 と3人に意地悪く言った。


 「では皆様聖なる騎士様ということでしょうか?」ミーシャの質問に

 「いえ、そう呼ばれていますが、本物の聖なる騎士は陛下ただお一人です。我々は遠く及びません」

 クイードがそういうと


 「お名前は?」と聞かれたので


 「私はクイード・ローレンダークと申します。こやつがタキトス・シュルツそしてハンビィ・ストワード」

 「陛下の御厚情により伯爵位を頂いております」


 雑談の間にオサムの指示でバルコニーにテーブルと椅子、食事と飲み物が運ばれてきた


 「まぁ座って少し話すと良い。広間では見たこともない姫君を押し付けられてお前達も落ち着かんだろう?」

 と言ってオサムは大広間に戻っていった。

 王には王のやるべきことがある。各国の王や使者達と話すべきことも多い。


 バルコニーの様子に気がついた若い娘たちが数人出ていった。


 オサムは給仕の召使いに指をさして見ておくようにと伝えた。

 そしてロレーヌのところへ戻り、歓談の相手を務めた。

 身重のリムルは儀式が終わるとすぐに部屋へ帰らせていた。



 「ロレーヌ、お前はこういうのは苦手だったんじゃないか?」と訊くと

 「いえ、陛下に感謝するばかりです」と答えて微笑んだ。

 実際にロレーヌは意中の男性を射止めたことになる。

 政略結婚が多いこの世界で、純粋に恋愛から結婚出来る喜びの中、ロレーヌは幸福だった。


 暫くすると楽器を持つ者たちが現れて曲を奏でだした。


 出席者が華麗に踊る中、クイード達も戻ってきてダンスをしていた。

 「ミーシャを射止めたのはクイードか」とオサムは嬉しそうに言った。

 ロレーヌも

 「シュルツ様もストワード様もお相手を見つけたようですね」

 楽しげに微笑んだ。


 「陛下」とロレーヌがオサムの手を握り

 「私は女として幸せです」とだけ言ったままオサムの手を優しく包んでいた。


 グレイス王国第二王妃の婚姻の宴はそれから3日の間続くことになった。

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