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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第一章 騎士
22/43

22話 魔法国グランパープル聖国と調律者

 グランパープル聖国は守護者という者の治める国家らしい。

 いや、国家というより、この世界の機関といった方が正しいのだろう。


 オサムはペガサスでグランパープルの地に降り立った。

 王宮と言うより神殿が丘の上にそびえている。


 その神殿を囲む都市は王都程大きくはなかったし、そもそも城壁が無かった。

 オサムは儀礼用に似せた甲冑と装飾された剣を腰と背中に装備していた。


 王の紹介状を持って、そびえる神殿の前に辿り着いた。

 衛兵は居ないが、代わりに儀礼官のような者達が周りに居り、その中のひとりに尋ねた


 「ライツェン王国のクラッセといいますが、国王から紹介状を預かっております」

 そう言うと

 「その件は聞いております、では中へお連れしましょう」と開け放された門から入った。

 中は広く、天井が高い。内部も光が通り外と同じように明るかった。

 広いのだが扉が一切無い。


 奥へと連れて行かれると、祭壇のような場所におそらく女王と思われる人物が居た。

 ゆっくりと階段を登らされ、その人物の近くに行くと

 「インペリアルセイヴァーのアキバ・オサムか、700年ぶりとなるな。まだ若いままじゃな」


 「この世界の者では無いのであろう、以前のお前もそうであった」

 「神々に選ばれたのだ、アキバ・オサムよ。この世界に危機が訪れる前兆だ」


 響き渡るような澄んだ声でその女性は話した。


 「グランパープルは世界の調律者、干渉は出来ない。グランチューナーを介して世界を導く」

 「選ばれし者、アキバ・オサムよ、それは騎士には出来ぬのだ」

 「魔法を身につける必要がある」


 「魔法ですか、私は剣士なので魔法は身につけられませんが」

 オサムがそう言うと


 「アキバ・オサムよ、その首に掛かる神々から賜りしエンフォーセ、その力を知るや?」

 「それは無限の力を秘め、全ての壁を取り除く」

 「グランチューナーとなるのだ、アキバ・オサムよ」


 「それは何でしょうか?」

 オサムは尋ねた


 「世界に調律をもたらすもの、この世界の者では決して成れぬ者。神に選ばれし者」

 「アキバ・オサムよ、お前に魔法を教える」

 女王らしき人物が言うとオサムの体が輝き出した。


 オサムはゆっくりと意識を失っていった。



 オサムは起きた。いつものように。

 「ん、なんか変な夢だったような。まぁいいや。」


 オサムはプロジェクトが終了したため無職になっていた。

 ほとんど外に出ず、遊びといえばオンラインゲーム。それも最高レベルのキャラを複数持っていた。

 たまにレンタルDVDを借りに行ったりマンガを買うくらいで給料のほとんどは余っていた。


 残業や休日出勤を繰り返してほとんど休んでいなかったので、使う暇が無かった上にファッションや外食にも興味がない。


 食事会ではその容姿のため女性に興味は持たれるが、話題が偏っているので当然彼女が出来たためしもない。

 まだ若いし貯金もかなりあるので1年程海外を回ろうと考えていた。


 『バックパッカーで世界を回るのが良いな。オタクだからフランスならモテたりして?』とか考えていた。


 早くに両親を亡くしたオサムは高校を卒業するとすぐに働き出した。

 派遣でプログラマーの仕事があったので、自分で作ったプログラムを見せると、すぐにでも、ということでゲーム会社の仕事を得た。


 その時はまだ名前も無いゲームだったが、なかなか面白そうな内容だった。

 世界観は中世ヨーロッパ、そこに魔法を加える極普通のものだがシステムが面白い。


 CADウィンドウを開き自分で装備が作り出せ、よく出来た武器や防具は魔力が付く。

 自分でデザインしたアイテムを装備できるというわけだ。

 しかも、それを実際の金銭で売り買い可能でゲームをしながら稼げる。

 半分は運営会社の取り分だが、上手くやればゲームで生活が出来るというのだ。


 『これは画期的だな、装備の売買も可能で運営の押し付け装備じゃないところが良い』

 上級装備になると素材も集めないとならないのでやりこみ系のオサムにも楽しめそうだ。


 武器屋でもそういった魔剣が売っているが、デザインとつぎ込んだアイテム等で世界でただ一つの装備が作れる。


 今はαテスト中なので社内でアカウントを作り評価を兼ねて遊んでいた。

 会社を退職した後も特別にアカウントを持てていたのでそのゲームを楽しんでいた。

 まだ初級騎士の段階だが、装備を作るのが面白いのでかなりハマッて遊んだ。


 しかし、そろそろ生活を変えるためにまずはオーストラリアに行き、

 そこからヨーロッパの国々を周り、最終的に北米で仕事を見つけようと一月後の飛行機を予約した。


 しがらみがないため、どこでも生きていける。

 日本での生活は終わりだ。

 これから本格的に求めていた生活が始まる。


 いよいよ新しい人生が始まる、とワクワクしながら飛行機に乗った。

 しかし南に向かって飛んでいる時にそれは起きた。


 オサムが窓の外を見ているとエンジンから煙が出て、暫くすると火を吹いた。


 

 「うわ!」オサムが驚くと他の客も見ていたのか気がついたのか


 「エンジンから火が出てるぞ!」

 「右も左もだ!!」

 「太平洋の真上だぞ?ヤッベー!」

 「きゃああああああああ!」

 等々阿鼻叫喚の嵐が機内に吹き荒れた


 『あーあ、俺の人生これで終わりか、思ってたより短かったな』

 オサムは慌てず騒がず窓の外で火を噴くエンジンを見ていた

 「あ、落ちた」

 そしてエンジンが機体から外れ落ちていった。


 「ありえねー、飛行機って安全なんじゃなかったのかよ」

 極めて沈着冷静に物事を考える癖のあるオサムは


 『しかし、せっかく貯めたのに使うこともなく働いただけか』そう考え

 キャビンアテンダントが走り回る中

 「あの、これで最後だろうしなんか食い物と飲み物もらえます?」

 無理だろうな、と思いつつも注文をした。



 オサムは見慣れない場所で目が醒めた。

 「あれ?俺助かった?けどここはどこだ?」


 周りを見るとどこかの神殿のようだった。

 へ?天国って本当にあったのか、と考えて立ち上がると、目の前に不思議な女性が居た。

 『天使かな?すげぇ美人だけど神聖な雰囲気があるなぁ』とオサムは考えていた。


 「お前の人生の終わりを見てもらった」

 その女性は言った。


 「人生の終わり?じゃあここはホントに天国ですか?」

 オサムが尋ねると


 「少々記憶が失われているようだな」

 と言い、何か聞いたことのない言葉を言うと急に眠くなった。


 

 オサムはまた神殿で目覚めると不思議な感覚に襲われた。

 まるで自分が自分ではないような、他人の体を借りているような感覚だ。


 「起きたか、アキバ・オサム」


 「はい、それで魔法とは?」

 オサムが言うと


 「グランチューナーよ、それは己自身で探すのだ」


 「この国にはいくつか神殿がある。ここは神聖魔法の神殿」

 「地、水、火、風の神殿を巡りまた戻ってくるが良い」

 そう言われ、オサムは神殿から出された。



 オサムは歩きながら、地の神殿へと向かった。

 ペガサスもグリフォンもドラゴンもナイトメアでさえ召喚出来ない。

 

 この国の雰囲気と関係があるのだろう。モンスターは一切近づけないのかもしれない。

 最初にペガサスで降り立ったときは何だったんだろうか?


 とは言え、そう遠くもない。

 オサムは1日も歩くと神殿についた。


 中に入ると前の神殿ほど明るくない。エターナルライトで照らされているようだ。


 「アキバ・オサムですな?どうぞ」

 と言われ、また祭壇のような場所に連れられていった。

 「ここは大地を統べる魔法の祠、アキバ・オサムよ、地の魔法を望むか?」

 そう問われ


 「必要であれば、望みます」

 オサムはそう答えた。

 「グランチューナーとなるためだな?では儀式を行おう」

 

 神官らしき者がそう言うと

 またオサムを光が照らし、その光の中で威厳のある声が聞こえた。


 「これで地の魔力を得た、アキバオサムよ、次は水の神殿に行け」

 そう言われ、神殿を出て水の神殿へ向かった。


 そこでも同じような事が行われ、風の神殿、火の神殿でも同じように儀式らしきものが行われた。



 最初の神殿に帰ってくると、以前の女性神官が座っていた。


 「4柱の神に認められたようだな、では神聖魔法の儀式を行う」

 そう言われ、4つの神殿での儀式と同様に行われた。


 「アキバ・オサムよ、これで全ての儀式が終了した」

 「これらの力を使いこの世界を守るが良い」


 オサムは

 「貴方はどなたですか?」

 と言うと


 「私に名前はない。グランパープルの守護者と呼ばれている」


 「では守護者様、私はこの後どのようにすれば良いのでしょうか」

 オサムは何もわからずに尋ねた


 「アキバ・オサムよ、その猛々しい行いはお前の優しき心より起きるもの。その心のままに生きよ、そしてこの世界を守ってくれれば良い」


 「神々が導いてくれるであろう。

  今よりアキバ・オサムはグランチューナーとなった

  全てのしがらみより解き放たれる存在だ」


 「これを持て」

 と言われ、石笛を渡された。


 「これは?」とオサムが尋ねると


 「聖獣リーファの笛だ、この国で呼び出せる唯一の聖なる者。決して獣として扱うな、リーファには心があるゆえにな」


 「わかりました」とオサムは答え神殿を後にした。

 リーファの笛を吹くと空から音も立てず舞い降りてきた。

 

 「君がリーファか」

 オサムはその姿の神々しさに息を呑んだ。


 ユニオーンとペガサスに似ているが青く輝くたてがみ、柔らかな翼

 何よりもその目が思わず惹きこまれてしまうように美しい。


 「乗れ」と言われたような気がしたので

 オサムは乗った。鞍も手綱もないが問題無かった。

 オサムの行きたい方向に向かってくれる。


 「まるで心を読まれているようだね」と言うと

 リーファは頷いたような気がした。


 大陸側に戻り、一旦リーファを降りて空へ返すことにした。

 「ありがとう、リーファ」そう言うとオサムの顔に頬ずりして空へ帰っていった。


 オサムはペガサスを呼び出し、今度はペガサスに騎乗して王都へ向かった。



 王都へ着き、屋敷へ入り王に報告をした。


 グランチューナーのことを話すと王は静かに立ち上がりオサムの前に跪き

 「世界の調律者グランチューナー様、お会い出来て光栄です」

 と頭を下げた。


 「陛下、立ち上がって下さい、困ります」

 と言ってオサムが慌てると


 「王は静かに立ち上がり、私の目の前に伝説の調律者が居られる」

 続けて

 「貴方はもはやこの国の者ではない、世界の救済者となりましょう」

 そう言ってうやうやしく礼をした。


 オサムはなんだかわからなかったが、この雰囲気でいつものように聞けるわけもなく

 「では、失礼致します陛下」と言って屋敷を出た。


 『これは駄目だなぁ、誰にも言えないぞ?当面は隠しておこう、何かが起きるまで』とオサムは考えた。



 侯爵の城の屋敷に戻り、自分の部屋の居間で鎧を脱ぐと

 「旦那様、どちらに行かれてらしたんですか?」と脱いだ鎧を見て

 「冒険やダンジョンではありませんね?」とリムルは気がついた。


 「そう、グランパープル聖国に行ってきた」

 とだけ言ってオサムは黙った。


 リムルはオサムの顔を見てそれ以上は問い詰めなかった。



 次の日、召使いの魔法士ルークリエ・ティルムとマリエール・ミルスを呼んだ

 オサム自身も完全武装で城外へと出ていった。

 

 暫く歩き「この辺で良いだろう、モンスターは出ないな」と二人を見た


 「ご主人様、冒険ですか?それでしたらクイード様達と行っていますが」

 ルークリエが言った。


 「魔法を教えてもらいたい」

 オサムがそう言うと

 「剣士様や騎士様に魔法は無理ですが?」と答えられたが

 「一番簡単な魔法で良い、教えてくれ」

 どうしても、とオサムが引かないため


 「マリエール、ファイアボールをご主人様に教えなさい」

 ルークリエが言った


 マリエールが詠唱を始め「ファイアボール!」と言うと火の玉が掌から出た。


 それを見て

 「詠唱を教えてくれ」

 と言うとマリエールが腰のバッグから魔法書を取り出し

 「この行です、短いですがそれを唱えて、掌から炎が出るのを想像してファイアボールと言って下さい。ファイアボールと言う必要はありませんが意識しやすくなりますので」

 マリエールの言うとおりにすることにして「分かった、やってみよう」とオサムは魔法書を詠唱し、マリエールの言うとおりにやってみた。


 するとファイアボールが出た。

 それを見て二人は驚いた。


 「ふむふむ、では次だ、神聖魔法を」

 オサムが言うと

 「魔法は力の根源である精霊が違うので、火の魔法が使えても神聖魔法は・・・」

 ルークリエが言うと

 「かまわない、教えてくれ」

 オサムは有無を言わさずルークリエに言った。


 「では、一番簡単なヒールを」

 と言い、ルークリエが魔法書をオサムに見せ

 「このページです、見ていて下さい」


 詠唱を始めて「ヒール!」と杖をオサムに向けた。

 すると光の輪が煌めき、オサムにヒールがかかった。


 「ふむ、分かったやってみる」

 オサムは魔法書を読みながら詠唱し掌をルークリエに向けて「ヒール!」と唱えた。

 すると、ルークリエにヒールが掛かった。


 「火の魔法と神聖魔法を両方!?杖もなしに」と二人は驚いた

 「でもでも、エリトール様は騎士様ですよね?」マリエールが言うと

 「グランパープル聖国に行って5つの神殿で儀式を受けてきた。全ての魔法の神殿だ」

 「お前達もか?」

 オサムは二人に尋ねた


 「いえ、私たちはこの国の神殿で儀式を行いました。

  私は神聖魔法を、マリエールは炎の魔法を選びました」

 ルークリエはそう言いながら

 「魔法は地、水、火、風、神聖の5つありますが、使えるのは一つだけです。

  剣士は使えませんし、ご主人様のように2種類を使えるわけがありません」

 「しかも魔法には剣士同様に適正があります、ご主人様のような方は居ないはずです」


 ルークリエの言葉に

 「そうか、このことは内密に頼む。あと5種類の魔法書を買ってきてくれ、いくら位になる?」

 魔法書は今まで読んだことはないが、かなり高価だろう。

 

 「私の魔法書は書き込みながら使うので銀貨2枚ですが、全ての魔法が記されたものなら1000枚位は必要かと」

 ルークリエは答えた


 「では、このマジックポーチに銀貨2万枚入っている、今買える最上等の魔法書を5種類買ってきてくれ」

 「あ、必要なら二人の分や必要な魔法具を買ってもいいからね、遠慮はなしだ。2万枚全部使うこと」

 と小さなマジックポーチを渡した。


 「わかりました、マリエールと共に早速魔法店に行ってきます」

 

 「うん、頼むよ、何故使えるのか知りたいからね」

 と3人は街へ帰っていった。


 その日の内に魔法書が届いた。オサムはそれを書棚に入れ、時間のある時に読むことにした。



 ある日、城外に出て魔法の練習をするため気まぐれに歩いていると、冒険者たちが争っていた。

 オサムは近づいてゆき何事か確かめようとした。


 どうやらレアアイテムをめぐっての口論から剣を抜いたようだった。


 「どうしたんだ?冒険者同士仲良くすればいいじゃないか」

 オサムはつい口出ししてしまった


 「なんだぁてめぇ?」

 じっと見られて

 「冒険者でもない街の人間風情が口出ししやがるな!」

 と言われた。


 オサムはハイドステータスの指輪をしており、服も平服のため誰だかわからないらしい。

 「けどほら、仲間割れは良くないと思うよ、俺は」

 そう言って止めようとした。


 「だから何なんだよてめぇは!」オサムに剣を向けてきた。

 とっさにオサムはその剣を握りへし折った。

 「あ、ごめん、つい力が入っちゃったね、弁償するよ」

 オサムはそう言って銀貨を取り出そうとしたが

 

 責められていた者以外が全員オサムの方を向いた。


 オサムはやれやれ、と首を振ってレイピアを投げて渡した。

 「戦うなら俺はそれを使う。よく見てみろ、レベルだ」


 「あ!?レイピアごときで俺のクレイモアと戦うのか?笑っちまうぜコイツ!」

 一番大きな冒険者が長大な剣をオサムに向けた。


 その時

 「オイ、この剣、やべーぞ、こんなレイピア持てる奴居ねぇはずだ」ともう一人が言った


 「あぁん?たかがレイピアが?」と大男がオサムのレイピアを抜いて見た。

 ロードナイトのレベル80。刀身はシルバードラゴンの鱗や角で作られたものだ。


 「な、なんだてめぇ!?誰だ!」と訊かれたので


 「あぁ、俺か?エリトールという。よろしくな」と言うと


 「エリトールぅ?エリトール・・・黒騎士エリトール様!」

 と言って全員武器を降ろして這いつくばった


 「お許し下さい、どうか」

 と皆が言うが、オサムは別に怒ってはいない。


 「どうしたの?なんで喧嘩してたの?」

 オサムはレイピアを取り返して言った。

 「あ、あいつがパーティで狩った敵のレアアイテムをこっそり持ち逃げしようとしてたんで」

 と答えたが

 「これはお前達が寝てる間に襲ってきた敵を倒した時にドロップしたアイテムでしょ」

 責められていた冒険者はどうやら女性らしい。


 「そういうことならアイテムはあの人の物になるんじゃないかな?」

 オサムが言うと

 「その通りになりますが・・・いえ、異存はありません」

 大男は言った。


 「俺はいつもソロなんでルールはよくわかんないんだけどね」

 笑いながら剣を収め

 「ほら、皆立ち上がって」と立ち上がらせた。

 「その人は?」とオサムが訊いた


 『剣士レベル65か、ダンジョンに入れるレベルだな、パーティなら弱いボスも倒せる』オサムが考えた。


 「剣士を募集してたらパーティに入った知らない奴です、腕は立つから入れました」

 4人の内魔法士らしき者が言った。


 「なるほど、レベルは一番上だな。」

 「おい君!この街の冒険者か?」と女剣士に訊くと

 「いえ、クラッセ伯爵領で冒険していましたが腕を磨くためにこの辺境に来ました。昨日です」

 と答えた。


 「ちょっとそのレアアイテムっての見せてくれる?取りはしないから」

 オサムが近づくと

 「これです、ユニコーンの角」大切そうにオサムに見せた。


 「確かにレベル65の剣士だと貴重だね、ちょっとまって」

 とマジックバッグの中をゴソゴソして

 「あ、今は2本しか無いや」と4人に近づいて

 「これ、上げるからもう喧嘩はやめなよ」と言って渡した。

 「あと、これ、剣の代金ね」と銀貨200枚も袋に入れて渡した。


 振り向いて

 「君、クラッセ伯爵領から来たって言ったよね?」

 と言うと

 「はい、そうですが」

 と答えた。


 「俺がそのクラッセ伯爵なんだけど、面倒なんで前のエリトールを名乗ってるんだ」

 「女性の剣士って珍しいね?」

 といいながら

 「あ、君たちはもう行っていいよ、俺はあの子に用があるから」

 そう言うと女性剣士にまた近付いて行き

 「俺の領地から来たのなら歓迎するよ、フルグリフ侯爵領にようこそ」

 「困ったことがあれば城のエリトールの屋敷に来ると良いよ、女性剣士ならロレーヌ様と気が合うかもしれない」

 オサムが言うと


 「マンセル子爵様のロレーヌ様ですか?」

 と女性剣士は訊いてきた。

 「う、うん・・・そうだけど、近くの屋敷だね」

 オサムは答えると


 「お会い出来ますでしょうか?」

 「あ、申し訳ありませんクラッセ伯爵様」

 申し訳無さそうな顔をしたので


 「エリトール、ここではエリトールね?ロレーヌ様に会いたいなら言ってあげようか?」

 多分嫌とは言わないだろう、いや、わからないな、まあいいや。オサムは適当に考えた。

 

 「ありがとうございます」

 女性剣士は礼をして自分の荷物を拾い上げた。

 「今から?んー・・・まいっか、行ってみよう」

 とオサムは城へ向かった。


 「こんにちはー」マンセル子爵の屋敷の扉を開けた。

 オサムは伯爵になってから子爵に気を使わなくても良くなっていた。

 「これは、クラッセ伯爵様、今日は?」

 と執事に訊かれて

 

 「えーと、ロレーヌ様居るかな?」

 オサムが言うと

 「しばらくお待ち下さい、お呼びして参ります。

 と言って階段を上がっていった


 暫くすると

 「どうされました、クラッセ伯爵様」

 とロレーヌがやって来た。


 「あ、ロレーヌ様、城の外でこの子と出会いまして」

 と言うと

 「ロレーヌ様はやめてください、クラッセ様」

 「で、その子は?ん?見たことのある顔だな」

 

 その時

 「ロレーヌ様、私です、ファシリアです」

 とその子が言った。


 「あぁ、ファシリアか、どうした?男爵令嬢だろう?あ、クラッセ伯爵の領地だったな、確か」

 ロレーヌが言うと

 「強引に見も知らぬ相手に嫁がされそうになり逃げてきました、匿って下さい。立派な騎士になるまでは嫁ぎたくありません」

 とファシリアという剣士は言った


 「そうは言われても私ではどうにも・・・」とオサムを見て

 

 「そうか!ユーリヒ男爵家はクラッセ伯爵家直属だったな、クラッセ伯爵様に頼もう」

 ロレーヌは不気味な笑みを浮かべた



 「で、俺は何をすれば良いんですかー?ロレーヌ様ぁ」

 不貞腐れたようにオサムが言った。


 「ですから、一筆書いていただければ男爵も納得せざるを得ません」

 「それに、貴族といえどもファシリアもクラッセ伯爵様の領民とはいえませんか?」

 ロレーヌは畳み掛けてきた。


 オサムはしばらく考えて

 「わかったよ、もう。じゃあ本文は書いて?サインと封は俺がするから」

 また面倒事に巻き込まれた、もうたくさんだ。オサムはソファに寝ていた。

 こんな態度が許されるのは自分がクラッセ伯爵と言う特別な人間だからである。しかし積極的にその力を使うことはない。



 次の日の朝早くに早馬で手紙を出した。

 どういう内容なのか見ずにオサムはサインと封をしたのだが、それはどうでも良かった。

 ロレーヌならば上手い文面を考えて書いただろう。


 マンセル子爵の屋敷に一晩泊まったファシリアを訪ねた。

 「じゃあ、これで君も帰れるね、なんなら送っていくけど?」オサムが言うと

 「いえ、もっと剣の腕を磨いて騎士になります。その間は伯爵様のお屋敷に居てもよろしいでしょうか?」

 ファシリアが言うとロレーヌが

 「な、伯爵は私の・・・いや、厚かましいぞファシリア」

 と言った。

 どうやらファシリアは一人で冒険するくらいに中身も豪胆なようだった。


 『私のなんなんだ?ロレーヌは時々わけがわからん。けど仲は良さそうだな』オサムは考えた。


 「俺は別に構わないけど、部屋もかなり開いてるし」

 オサムが言うと

 「黙っていて下さい、話がややこしくなります」

 とロレーヌに叱られた。


 「じゃあロレーヌに任せるよ、俺はまだ眠い、ちょっと寝てくる」

 オサムは屋敷に戻っていった。

 『魔法と剣をあわせる攻撃が出来ればもっと強くなれるから練習したかったのにな』

 オサムは階段を登りながら考えた。



 この世界の守護者って一体どういう意味なんだろうな?

 それにこのエンフォーセ?

 オサムは考えるのをやめた。

 出来ることをするだけでいい。


 結局ファシリアはオサムの家で預かるということになった。

 クラッセ伯爵領の客人という待遇だが、大所帯になったとはいえ部屋が相当余っているからだ。


 それにクイード達が立派な騎士になったので、護衛にも丁度良かった。

 新しく従者になったクラウド達も剣士レベルは既に60を越えている。同行するには丁度いい。


 貴族の令嬢のため、部屋は一番大きな客間の1つをあてがうことにした。



 その頃、大陸は王位継承や領土拡大などの戦争が各地で起きていた。

 幸いライツェン王国は3方の隣接する王国が手出ししてこないため、大陸の中でも最も平和な国であった。


 そのためか人々が王国に流れ込み、人口は増える一方だ。


 そして奇妙な噂も人々と共にもたらされた。

 大陸の南の大国グリーシアが何者かに攻撃されていると言う。

 具体的には、モンスターが湧き出してきているとのことだった。


 グリーシア帝国交易路の重なる場所にあるため、豊かで平和な国である。

 周囲に敵対する大国も無いので比較的安全なはずだ。

 各地にあるダンジョンや塔についての話も今までそんな話は出てこない。

 大国故に強力な騎士や魔道士の数も多い筈で、低級ボス程度が幾ら出てきても問題はない。


 オサムは気になって様子を見に行くことにした。

 いや、何かが起きているのなら見に行かなければならない、守護者として。


 オサムはリーファを呼び

 「少し長旅だけど頼むね」とグリーシアへ飛んだ。

 リーファはドラゴンより早く空を駆ける。

 考えていたより早くグレーシア帝国の帝都に到着した。


 見たところ帝都に異変は無いようだったが、なんとなく活気がない。

 オサムは指輪を外し、グリーシアの帝都に降り立った。


 騎士や剣士、戦士に取り囲まれたが「俺はグランチューナーだ、戦意はなく皇帝に会いたい」と言うと、

 まず庭園で待つように言われた。

 当たり前であるが、ライツェン王国の一伯爵と大国グリーシア帝国皇帝とは格が全く違う。


 流石に大国だけあって、広大な庭園である。城が20は建つだろう。

 鎧のまま寝るのは慣れているので、庭園の芝生に寝ていた。


 1時間程経った頃だろうか、飽きて帰ろうかと思っていた時

 行列を従えてグリーシアの皇帝がやって来た。


 「グランチューナー様。アキバ・オサム・クラッセ様ですな、お待たせして申し訳ない」

 そう言われ、何故知っているのか疑問だったが訊かないことにした。


 オサムは

 「この国で異変が起きているとか聞きましたのでやって来たのですが。問題無いならこのまま帰ります」

 そう言うと


 「いえ、問題がありまして、ここより南の方、辺境の洞窟から強力なモンスターが地上に出てくるようになりました。既に数百の兵や騎士が殺されています」

 一息置き

 「世界の均衡が崩れているのやも知れませぬゆえグランチューナー様、頼めますか?」

 そう言われたので

 「それが私の神々に仰せつかった役目ですので、調べてきます」


 地図をもらいリーファでその洞窟を上空から見るとモンスターがゾロゾロと出てきていた。


 「おいおい、真っ昼間からこんな大量にでてくるか?」

 「リーファ、俺飛び降りるから少し低く飛んでくれる?」

 と言うと下降し、洞窟前でオサムを下ろした。


 すぐにオサムは戦闘態勢を取りターゲットスイングで周囲の敵のヘイトを煽った

 わらわらと押し寄せるモンスターを倒しながら、

 『ボスクラスの敵が居ない?これだけで数百の兵や騎士がやられるとは思えない』

 そう考え、ダンジョンに入ることにした。


 地上のモンスターは見える限りほぼ片付け、オサムは洞窟に入っていった。

 そこはまさにモンスターハウス状態で「こりゃヤバイわな」と斬り込んだ。

 見る限り単純なダンジョンのようなので一直線に剣を振るい続けた。

 しかし目の前の階段からどんどんと上がってくる。


 中にはハーピーやゴブリンキング、イビルデーモン等のかなり強力なボスクラスの敵も居る。

 オサムは強引に道を作り、2階層へと降りた。


 相変わらず大量のモンスターが広間を埋め尽くしていたが、スキルを使い全滅させた。

 そして、3層目に降りた時違和感を感じた。


 普通ダンジョンは暗闇ではない、ぼんやりと光る鉱石等である程度は見えるはずである。

 オサムはナイトウォーカーの目も装備しているので明るく見えるはずなのだが、

 奥の方が全く見えない。どうやらモンスターはその暗闇から出現しているようだった。


 斬り進んでいくとその暗闇、というより暗黒の空間からモンスターが出てくる。

 『出てくるってことは入れるのか?』

 オサムは入ろうとした。その瞬間光が散り、その暗闇が消えていた。

 「なんだぁ?」と驚き周囲を見回しても晶石以外何も無い。

 モンスターも少数残っているだけだ。

 オサムの考える限り、数百人の兵や騎士はオーガキングやイビルデーモン、ブラッドハウンドキングやマンティコアにやられたのだろう。

 グリーシアの高レベルの騎士であってもこんなボス達に囲まれれば全滅してしまう。

 むしろ命を懸けて、このダンジョン周辺だけで被害の出るのを食い止めたのは立派だ。


 オサムはリジェネレートしないように晶石を集めた後、グリーシア帝都の城に戻り詳細を話した。そして

 「グランパープルに行ってこの現象を確認してきます」と言い残しリーファで向かった。


 

 グランパープルの神殿に降り”守護者”に説明すると

 「予想より早く穴が空いたようじゃな」と言われた。

 

 「穴ですか?どこにつながっているのでしょう?」オサムが訊くと


 「わからぬ、しかし700年前には巨大な穴からダークドラゴンが襲来した。その時は以前のグランチューナーが片付けたが、世界の不均衡がもたらすものだと言っていた」


 『え?この人一体何歳?』とオサムは思ったが

 「ダークドラゴンね、来るなら戦いますよ、それが務めなら」

 オサムの言葉に”守護者”は反応し

 「気を抜かず世界を見ていてくれ」とだけ言って黙った。何か隠し事をされているようだったが訊いても教えてくれないだろう。

 


 オサムは王都へ行き、今回の皇帝の態度や言葉の理由を王にも訊いてみた。

 「おそらくグランパープルから全ての国に連絡が行っているのだろう」と言われた。

 ライツェン国王にもグランパープルからオサムがグランチューナーになったと連絡が来たと言う。

 「すべての国、か」と呟きオサムは屋敷へ帰っていった。


 「しかし、700年前。自分とも関係ありそうな言い振りだったよなぁ」

 そもそも何故自分が選ばれたのかもわからない。


 答えが出ないときは寝てしまおう、それがオサムのストレス解消法だった。

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