表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第一章 騎士
21/43

21話 反逆の伯爵

 その日いつものようにゴロゴロしていると、オサムは侯爵に呼ばれた。

 早速城へ行くと、侯爵が頭を抱えて考えているようだった。


 オサムが

 「閣下、どうかなされましたか?」と言うと


 「うむ、国王がお前に用があると伝えてきた、どうしたものか・・・」

 と侯爵が言うので

 オサムは屋敷を離れるのを嫌がると侯爵が思っているのだと考え

 「飛んでいきますよ?今日中に行って戻ってこれます、ご安心を」とオサムが答えた。


 侯爵は

 「いや、そういうことではなく、恐らく戦だろう、レーラリアかムルトワに仕掛けるのかもしれん。数ヶ月前に攻め入られたからその報復か」

 オサムを見ずに言った


 その瞬間オサムは態度を変え

 「報復戦?他国に侵略ですか?そんなこと絶対に俺はやりません」オサムは言い切った


 侯爵はその言葉で

 「そこだ、お前は絶対に断るだろう?下手をすると反逆になってしまう」

 と頭を振った

 絶対王政の国家では王に歯向かうことは許されない。

 ましてやライツェン国王は暗愚な王ではなく聡明で通った名君と呼ばれている。

 国内の諸侯の信頼も厚く、王の命令に背く者は居ない。


 しかしオサムはそうではなかった、王とは拝領の時に会っただけで恩もない。

 「反逆ですか、別に俺は構いません。閣下、今の俺を見て下さい」

 と言って右手の指輪を外した。


 侯爵がじっとオサムを見ると

 「インペリアルセイヴァー?インペリアルセイヴァーだと!?いつの間に!?」

 と驚愕した。


 オサムは右手に指輪をはめ直し

 「ロードナイトから転職しました。しばらく前のことです。」

 静かに言った。


 「神々に守護者として認められたというのか?聞いたこともないぞ」侯爵が驚き言葉を失った。


 「守護者云々はわかりませんが、精霊界に入って神々の世界に行きました」

 なんの感慨もなくオサムは言った、そして

 「反逆というのなら王の城を破壊します。この国を壊します」

 続けて

 「どこの国でも俺とリムル、それに俺の好きな人達は生きていけますから。侯爵閣下の城の者全て。グリーシアで戦功でも上げて領地をもらいましょうか?」

 そんな矛盾することはするつもりではないのだが、固い決意を言葉に表した。


 侯爵は黙ったまま何も言わずに考えていた。

 オサムは優しい、そして権威に対して何の価値も無いと決めつけている。

 侯爵に付いているのは自分が恩人だからだ。

 しかし、王に対しては何の恩義も感じていない、むしろ今回のことで怒りさえ感じている。

 実際に城を3つ破壊している、手がつけられない者であることは間違いない。

 それにインペリアルセイヴァー、神々の守護者というのであれば一つの国家に属する必要はない。言い伝えでそうなっている。

 この世界ではインペリアルセイヴァーが仕える主人は神のみであるということになっていた。


 侯爵は腹を決めた。

 「王に会ってこい、そして今私に言ったことを王にも言うが良い。気に入らぬなら城も壊せ、王を殺しても良い。好きにせよ」

 本当にこの国が無くなるかもしれないが、周囲の国が攻め込んでこようとオサムが撃退するだろう。

 グリオン、ムルトワ、レーラリアが恐れているのはオサムの力であってライツェンの軍ではない。

 「わかりました」とオサムは出ていった。


 侯爵は我が王よ、オサムを怒らせてくださるな・・・と祈った。



 オサムはドラゴンで王の城の庭に降りた。


 何事か!と騎士や戦士が出てきて取り囲んだ。

 オサムはドラゴンを撫でて空へ帰した。


 「エリトールだが、王に呼ばれて参った」オサムは鎧を付けず、武器も持たず、あえて儀礼服でやって来た。

 隊長らしき者が

 「剣を納めよ!」と言い

 「エリトール様でしたか、陛下がお待ちです、ご案内致します」

 「どうぞこちらへ」と王の間に通された。


 『さて、なんて言ってくるんだろうな、戦争を仕掛けるというなら断ってやる』

 オサムは覚悟を決めていた。


 王の間に通されると部屋の四隅に騎士が武装して立っていた。

 王の従者、騎士だろう。

 4人を見ると全員がレベル50以上のパラディンだった。


 オサムが何も言わずに立っていると、王が口を開いた

 「以前のムルトワ王国とレーラリア王国軍との話は聞いておる」

 「ワシはこのまま一気に両王国を叩こうと思っているのだが、エリトールよ、軍に加われ。大将としてだ」

 それは予想通りの言葉だった。


 大将だろうが先鋒だろうが兵卒だろうがオサムは他国に攻め入って領土を荒らすつもりはない。

 「他国に攻め入るのはお断り致します、民に被害が出ます。私抜きでならお好きにどうぞ」

 オサムは少々怒り、思ったことをそのまま口にした。


 その言葉は不遜だ、王に向かって家臣であるオサムが言えるような言葉ではない。

 「言葉遣いは赦そう。しかしこれは要請ではない、命令であるぞ?」

 王がオサムを睨んだ


 「申し訳ありませんが、私が民を害することに加担することはありません」

 同じように答えた。


 「わかっておらぬようだな?皆の者、エリトールを囲め!」

 王が命令すると4人の騎士がオサムを囲んで剣を抜いた。


 「我が王、私を見て頂けますか」と指輪を外した。


 王はオサムをじっと見

 「インペリアルセイヴァーだと!?」と言って黙った。

 周囲の騎士も少し反応した。


 オサムは指輪をはめ直し

 「我が主フルグリフ侯爵が言うには”神々の守護者”だと」

 オサムは4人の騎士に剣を向けられながらも静かに言う。


 「しかし、それがどうした?王の言葉が聞けぬか?」

 相変わらず睨みながら言ってくる。


 「その命令だけは、聞き入れられません」

 オサムは頑固に答えた。


 「領地を取り上げ獄につながれても良いのか?エリトール、お前には妻が居たな」

 王はオサムを脅迫してきた。

 しかしそれが逆効果だとは王は知らなかった。

 リムルのことになるとオサムはどんなことでもやってしまう。言ってはいけない一言だった。


 オサムは王に一歩近づいた。

 その途端に一人の騎士がオサムの首に剣を当てた。


 オサムはその騎士を素手で殴ると、部屋の壁を突き破り外の廊下の次の壁も半分破壊してぐったりとしていた。


 「手加減はしました。恐らく死んでいますが。いや、死ぬように殴った、かな?そんなことは今はどうでもいい。リムルをどうするつもりだ?」

 敢えて感情を全く込めずにオサムは言った。

 騎士の鎧にはオサムの拳が突き抜けた跡があった。


 「エリトール!反逆か!」

 王の怒号が部屋に響いた。


 オサムは怒りを抑えながら

 「反逆の心など一切持ち合わせない、あやつは俺を切ろうとしたので殴っただけのこと。それで俺の妻をどうすると?」

 首筋に剣を当てただけだが、怒っているオサムにそんなことをすれば結果は目に見えている。


 残った3人の騎士の持つ剣がカタカタと震えている。恐怖しているのだろう。


 だが、王は分かっていなかった。

 「これで終わりにする。ムルトワとレーラリアを叩く、その軍に入れ」

 王は再び脅してきた。


 瞬間オサムは3人の騎士を殴り3人共が別々の方向に吹き飛び王の部屋の壁は殆どなくなってしまった。

 後ろに居た騎士は20メルト程向こうの壁に打ち付けられ倒れていた。

 今度は完全に手加減せずに殴った。鎧を着ているとは言え無事ではすまないだろう、恐らく死んだはずだ。


 「出来ねーな」オサムは王を睨み

 「そのような蛮行を行うのであればお前を殺しこの城を瓦礫に変え、国を滅ぼすが、いいのか?どうなんだ?」

 王はオサムの目の中にある怒りと本気を読み取った。


 「この国の貴族で我が家臣であるエリトールよ、何故逆らう?」

 王は震えながらオサムに訊いた。


 暫くの間黙りながらオサムは一旦深呼吸して気分を冷ました。

 「俺は守るためにのみ戦います。攻めるためには剣を振るいませぬ。それでもまだ言いますか?」

 逆上しそうになる自分を必死に抑えた。今すぐにでも斬ってしまいそうになっていた。


 「私を殺し、この城を崩し、国を滅ぼすというのも本気か?」

 先程のような声ではなく、オサムの怒りを沈めるような言い方だった。


 「試してみますか?出来るかどうかを?」

 オサムははっきりと王を脅した。何かを壊さずにはいられない。


 「やれるものならな、やってみよ!」

 王はオサムの言葉に激怒した。家臣に脅されたのである。


 瞬間、オサムは窓のある壁を殴り壊し下に飛び降りた。

 ドラゴンを呼び、大きなマジックバッグの中から甲冑と剣を取り出して着替えた。今持っている最強の黒騎士装備だ。

 ドラゴンを空に返して、再び王の間へと戻ってきた。


 オサムの後ろには完全武装の騎士や戦士が何十人も剣を抜き着いて来ている。

 「そいつらみたいに死にたいなら付いてこい」倒れている騎士を指差し、オサムが剣を抜くと騎士達は立ち止まった。


 「エリトール、戻ってまいりました。この城から女子供、戦闘の出来ぬ者を避難させて下さい」

 「今からこの城を砕きますので、少々時間はかかりましょうな」

 きっぱりと意志を伝えた。


 「く、黒騎士か、エリトール・・・本気なのだな?」

 王に訊かれ

 「はい」と答えた。


 「早く避難を」

 と言いながら城内の壁を切り壊していった。

 後ろの騎士は慌てふためき王を守るか逃げるかで動けなくなっていた。


 「女子供を巻き込みたくありませぬ!」天井を突き破り物見の塔を切り崩した。

 ガラガラと音を立てて崩れ落ち、地上でバラバラに壊れた。


 オサムは王の間に戻り

 「早く避難を、王は城を完全に崩したあと、最後に私が斬ります」

 その声には何の感情もこもっていなかったが王はそれが恐ろしかった


 「わかった!エリトール!剣を収めてくれ」

 「今回のことは無かったこととする。それで良いか?」

 慌てて止めようとした。オサムの力を今はっきりと見た。この城は崩される。


 「いえ、もう反逆してしまいました、戻れません」

 オサムは慌てる王の言葉を本気と受け取れなかった。それにまだ壊し足りない。


 「我が家族、我が主、それに連なる者全てを守るためには王に死んでいただかねばなりませぬ。罪に問われぬように。王族、諸侯全て俺が斬ります。レギオーラも滅ぼしましょう」

 その間にも城の最上階を壊し続けた。


 下を見ると避難が始まっているようだった。物見の塔の音で気がついたのだろう。


 オサムは今度は床を突き破り下の階を壊していった。

 ガラガラと音を立てて城が崩れていく。


 オサムはもう一度、動けないままの王の前に戻った。


 「私は神々の守護者、王の守護者ではありませぬ、これは神々の意志とお考え下さい。あなたは言ってはいけない言葉を口にした」


 ボロボロになった城を見て王は何も言えず、ただ破壊者となった黒い甲冑を見ていた。


 「王にはこの城の崩れ行くさまを見届けていただきます、一旦庭の方へ、早く」

 オサムが剣を振るいながら言った


 「わかった。エリトール、我が首を取れ。これ以上城を壊すな。皆が住む城じゃ、城が落ちれば民も安心して眠れぬ」

 「この首1つで赦せ、頼む」

 王は覚悟し、オサムの前に膝をついた。


 その姿を見てオサムは少し冷静になれた。

 兜のシールドを上げ

 「王たるものが家臣の前で膝を付きなさるな、我が王の覚悟、伝わりましたゆえ。これ以上は壊さないでおきましょう」

 オサムを見上げる王に微笑んだ。


 剣を床に突き立て、王の手を取り立ち上がらせた。


 「今そなた、我が王と言ったか?」王が言うと


 「はい、我が王陛下」

 と今度はオサムが膝をついて右腕を胸に当て、忠誠の姿を見せた。

 

 「ワシは王という立場ゆえ、家臣の気持ちを考えず驕って居ったようじゃ」

 「ことに、エリトール、そなたの強さを知った時からはな・・・赦せ」

 王がそう言うと


 「いえ、私の方こそ、主の城を壊すなどという行為、決して許されるものではありませぬ。領地を返し、グリーシアかどこかにでも移ります」

 オサムは答えた。しかしこれは脅しである。いつでもライツェン国を滅ぼせるぞと言うのと同じだ。


 「いや、かまわぬ、ワシも目が醒めた。感謝する、エリトールよ」

 という王の言葉には損得勘定も何も無かった。本気で反省している。

 「もったいなきお言葉です」

 オサムは形式上の答えを述べた。


 「私めの反逆の処分は如何ようになりますでしょうか?私を繋いでおける監獄はありません。追放と言われればどこへなりと去ります」

 と王に尋ねた。どこであろうと自分であれば生きていける。グリオンなら自分を欲しがるだろう。


 「処分はない、反逆など無かった。お前は今となっては我が師のようなものよ、民を幸福にするのが王の務め、それを教えてくれた」

 「大広間へ降りよ、ワシもすぐに向かう」

 と言って、机の引き出しから紙とペンを取り出した。


 オサムは言われたとおり大広間で甲冑姿のまま腰掛けていた。

 椅子がきしむが壊れることはないだろう。

 それにしても何をするつもりだろうか?罪に問われることは無いだろう。

 安心して待っていた。

 しかし今回は4人罪の無い騎士を殺してしまっている。何らかの償いはしなければならない。


 30分ほどして王が入ってきた、続いて文官や司祭、様々な者達が集まって来ていた。

 「何が始まるんだ?わけがわからん」オサムは呟いた。


 そして

 「略式だが、新たな爵位を与える、エリトールよ、壇上に」

 と王が直接言うと


 オサムは兜を取り、左腕に抱えて壇上に上がった。


 「皆の者、今日エリトールに頼んで城の落とし方を見せてもらった。驚いた者も居るであろうが、ワシが命じたことだ。この堅固な城も落とせるか、とな」

 「先のムルトワ、レーラリア両国連合軍をただ一人で全滅させた力は子爵では不足である」

 「そして、見事に城を落とせる事を証明したゆえ、エリトールに領地を与える」


 「どこへなりとも去ります」と自ら言わせてしまった王は完全に失敗している。オサムを国に縛り付けるものはもう無い。

 だがオサムの力を他国に渡す訳にはいかない、自国に止めておくためには相応の身分が必要である。

 それも理由の一つだが、名君と呼ばれる国王である。やはり民の事を考える切っ掛けをくれたオサムに感謝をしていた。


 『王様、それちょっと無理があるんじゃ?城落としのデモンストレーションって』

 オサムは考えたが、あとは王に任せることにした。


 「エリトール子爵に新たにクラッセ伯爵領を与える。シュワルツダレク公爵に次ぐ名家である」

 「エリトールよ、今後はクラッセの名を継ぎ、この国を守ってくれ」

 と言い、領地の内容の書かれた王直筆の書を渡された。


 オサムはその書状を受け取り

 「我が主、ライツェン国王陛下、我クラッセはこの命の続く限りこの国の守護者となります」

 と口上を述べた。


 「では、よろしく頼むぞ、クラッセ伯」と王が言い

 書状を入れる筒を儀礼官が持ってきて丸めて筒に仕舞い、オサムに渡した。


 「直ちにフルグリフ侯爵の下へ戻り、この事を伝えよ」

 王がそう言い、早目に切り上げた。


 「はっ、」と立ち上がり静かに後ろへ下り、振り返ると大広間を出て、城も出ていった。


 オサムはグリフォンを召喚し、自分の屋敷に飛んで戻った。



 侯爵はその頃気が気でなかった、オサムなら本当に王を殺すだろう。

 そして何十万人の軍でもオサムを止めることは出来ない。

 唯一の救いは、そうなったらオサムが代わりに王となれば良いということだ。


 そうこう考えていると、オサムが戻ってきた。

 侯爵は急いでオサムを呼びつけ、仔細を聞き出そうとした。


 オサムは王都でのことを大体説明すると、侯爵は顔を手で覆っていた。

 「それで?最後はどうなった?」と聞きたくなかったが訊いた。


 「こんなものをもらいました。」書状の入った筒を手渡した。


 侯爵がそれを開いて見ると、王直筆の書状で玉璽も押されてある。

 「ん?これはクラッセ伯爵領か?」侯爵がオサムに訊くと


 「そうですね、名家だとかクラッセを名乗れとか言われました」

 オサムが訳を知らずに言うと


 「クラッセ伯爵家といえば王国屈指、国王陛下一族、シュワレツダレク公爵家に継ぐ3位の王位継承権を持つ名家だぞ?」

 「城を壊した上でこの扱いか、一体何をしたんだ?」侯爵に訊かれたが

 

 「なんだかわかりません、王位継承権を俺が持つことになるんですか?」

 と相変わらず無頓着に答えた。


 「身分上はこの私よりも上になる、クラッセ伯と言えばただの諸侯ではなくなる。王家に連なる家系だ」と言われたが

 オサムは

 「侯爵様は侯爵様です、身分には興味がありませんし、扱いも変えないで下さい。俺は引き続きエリトールを名乗ります。必要な時にクラッセの名前を使います」

 と呑気に答えた。


 「わかったわかった、オサムの好きにして良いわ」

 侯爵に呆れられてしまったが、いつものことだった。



 屋敷に帰り、3階に上がり

 「リムルー帰ったよー」と呼んだ。


 「おかえりなさい旦那様、いかがなさいました?疲れているようですが?」

 リムルが心配そうにすると

 「ちょっと頭を使いすぎて参った。あと、俺伯爵になっちゃったみたいだね」

 と軽く言った。


 「まぁ、子爵様になったと思ったら伯爵様ですか、よかったですね」

 とリムルが喜んでくれた。


 リムルに手伝ってもらいながら鎧を脱ぎ

 「んー・・・王位継承権3位の家らしいけど、俺には関係ないしクラッセ伯爵じゃなくエリトール子爵のまま居ることにするよ。

  どう名乗るかは自分で決めて良いんだってさ。みんなはクラッセ伯爵って呼ぶみたいだけどね」

 そう言ってベッドにダイブした。


 「もう何も面倒なことに巻き込まれたくない!リムル、来てー」

 とベッドに呼んだ


 「はいはい、鎧を片付けたら行きます」とリムルが言うと


 「それ、すごく重いから持てないよ。あとで片付けるから放っといていいよ、早くー」

 とオサムは駄々をこねた


 「仕方のない人ですね、もう・・・」とリムルはベッドに寝た。


 「なんだかねーまだまだやることがあるらしいんだ、けど全部侯爵閣下に頼んできた」

 といってリムルに抱きついた。

 実際は頼んだのではなく押し付けてきたのだが、オサムにとっては同じことだ。



 夕食前に部屋がノックされた

 「ヴィオラ?入っていいよー」と言うと

 

 見覚えのある2人の騎士がヴィオラに連れられて入ってきた。


 「クラッセ伯爵様、主の命により参じました」

 うやうやしく二人は頭を下げた。


 部屋着に着替えていたオサムはベッドから起きて居間の方に座った。

 「二人共座って?」

 「ヴィオラ、紅茶3つお願いね」


 オサムは

 「えーと、確か侯爵閣下のレンデルフと」

 「ブライトン・ザビックです」ともう一人が答えた

 「で、何か用かな?急ぎ?」

 オサムが訊くと


 「いえ、この度エリトール子爵領の城とクラッセ伯爵領の城の城代として赴任することになりましたのでご報告に」

 二人が言うと

 「あぁ、そっか、閣下が言ってたな。うん、お願いするね」

 オサムは二人に言った。それにしても侯爵の手配は早い。


 「伯爵様の城代を務めさせて頂けるのは光栄の至りです」レンデルフは言うが


 「うーん・・・そんなに固くならなくていいよ、何かあればすぐ俺が駆けつけるから」

 オサムは政治には疎いので最低限のこと以外は領地経営を侯爵に一任している。

 「じゃあ、二人に渡しておくよ、えーと」

 とマジックバッグをゴソゴソして呼び笛を取り出した。


 「ペガサスの呼び笛。これならすぐにでもここまで戻ってこれるから」

 と二人に渡した。

 「ペガサスの呼び笛ですか!?こんな貴重なものを・・・」

 レンデルフは言ったが


 オサムは

 「いいよいいよ、俺の分はまだまだ持ってるから。二人のレベルなら使えるでしょ?」

 と受け合わなかった。


 「何かあったら戻ってきてくれればいいよ、ペガサスなら30分もかからないし」

 「用事はそれくらい?」とオサムが訊くと


 「あ、はい、それだけですが」

 二人は笛を眺めてポーチに入れた。


 「リムルー」とオサムが呼ぶと

 「はい、いかがされました?」とリムルが奥の部屋から出てきた。


 「この二人が子爵と伯爵のあの貰った城のね、城代になってくれるんだって」と2人を紹介した。


 「そうでしたか、ありがとうございます、お二人には旦那様の我侭でご苦労をおかけします」

 と頭を下げた。


 二人は驚き

 「そ、そんなおやめ下さい、クラッセ伯爵夫人様」と慌てた。


 「だって、お二人は私がお城の侍女の時からの騎士様ですし、今でもリムルですよ?」

 ニッコリと笑ってリムルは「リムルと呼んで下さいね?」と言った。


 「いや、しかし今ではもう身分が全く違いますので、ク・・・リムル様」

 レンデルフとザビックは

 「お二人にはかないません」と笑った。



 しばらくすると困ったことにまたオサムの冒険癖が出てきてしまった。

 侯爵の城周辺のダンジョンは全て攻略してしまっているため、最近では離れた辺境まで行っている始末である。

 ペガサスやグリフォン、ドラゴンに乗っていけばすぐだが、見つけるのに時間がかかりリムルが寂しがる。


 どうしたものかと夜一人で考えていた。


 そうだ、王に頼んでこの国のダンジョンの地図をもらうことにしよう。

 などと、自分のしたことを全く考えずに図々しく考えた。


 明日になったら王のところに行って貰おう。

 王なら国土全ての地図を持っているはずであり、危険性を知るために調査も行わせているはずだ。



 オサムは次の日、小さ目だが上等なマジックバッグを別に持って換金所に向かった。

 「これに銀貨1000万枚入るかな?」とカウンターで見せた。


 「こちらはマジックバッグですね?この大きさなら入ると思います。しばらくお待ち下さい」

 そう言って受付の女性は奥へ行った。

 そして「入りました」と言って持ってきてくれた。


 「え?もう入ってるの?それ?」

 オサムが尋ねると


 「はい、もう1000万枚入っております、見てください」

 と蓋を開けるとたっぷりと銀貨が入っている。


 「へぇ、早いね」と言いながらオサムは受け取った。

 「で残りはどれくらい預けてるか分かる?」と訊くと


 「少しお待ち下さい、えーと・・・3200万枚程です」


 「わお、自分で考えてたよりだいぶ多かったね、そっか、ありがとう」

 と行ってオサムは次の目的地、クライアンのマジックアイテム店に向った。


 今までにかなりの数の品物を作ってもらったり買ったりしているが、今日もマジックバッグを頼むのだった。


 「こんにちは、エリトールだけど、クライアン居るかな?」

 と呼ぶと

 「これは、エリトール様。本日は?」

 クライアンが尋ねると

 「うん、またマジックバッグ。普通のを3つと俺がいつも使ってるこのお気に入りを2つ。一番上等のを頼む。

 それからグランパープルのもう少し大きいのが欲しい」

 そう言ってヴァレスの革を大量に渡した。

 「あ、そうだ、首から下げられるような小さいのも1つね」

 と言うと

 

 「はい、わかりました。出来上がりましたらお屋敷に届けます」

 クライアンはヴァレスの革の量にはもう驚かなくなっていた。

 「うん、じゃあ頼むよ」とオサムは街を出た。


 すぐにペガサスを呼び、王の城へと向かった。



 王都の城に到着すると、城は修理の最中だった。

 「あちゃー、やりすぎちゃったな」と見下ろしてから庭に降りた。


 城に入ろうと衛兵に

 「クラッセだが、王陛下はいらっしゃるか?」と訊くと


 「屋敷の方に移られております」と答えられた。

 庭と言っても相当広いので案内してもらうと、巨大な屋敷が見えてきた。王宮である。


 『さすが王様になると城以外に屋敷までものすごく大きいな』と思い

 「国王陛下はあそこに?」と侍従に聞いた。


 「はい、城の修繕と改装のため現在は屋敷で執務をされております」

 その侍従の言葉で自分がやってしまった事の大きさを思い出した。


 そのまま屋敷に入り王の執務室に着き

 「こちらでございます、少々お待ちを」とノックし


 「クラッセ伯爵様がいらっしゃいました」と侍従が言うと

 「良いぞ、入ってもらえ」と声がした。

 待たされもせずにすぐ入れてもらえるとはオサムも思ってなかったが、やはり気に入られたのだろうか?


 「では、どうぞ」と部屋に入れられた。

 王は開口一番

 「屋敷まで壊さぬでくれよ?」と笑ったが

 「どうした?何か用か?」そう言われて


 「机の前までよろしいでしょうか、陛下。」

 オサムがドアの近くから言った。

 「よいよい、クラッセは無礼講じゃ、我が師よ」

 冗談っぽく王は言って「はよう来い」と促してきた。


 「では」とオサムは王の直ぐ側まで行き、マジックバッグからマジックバッグを取り出し

 「机の上に置いてもよろしいでしょうか?」と訊いた。

 王は

 「それは何だ?」不思議そうな顔だった。


 「銀貨1000万枚入っております、城の修繕にお使い下さい」

 多すぎるのはわかっているが自分の出来る最大限で詫びる必要がある。

 「ん?城の修繕費なら国庫から出すが?1000万枚もか?」

 王は言ったが。


 「国庫の銀貨は領民の税です。これはモンスターの晶石を換金したものです。」

 オサムはバッグを開けて中を見せた。


 「ほう、中は相当広いな?マジックバッグとか言うものだな?して、何故このような大金を?」

 王はまた尋ねた。


 「私が壊したものを領民の血税を使っていただきたくなくて、お持ちしました。使って下さい」

 オサムはそう答えると

 「領民の血税か、どこまでも民の事を考えるのじゃのう。ワシも見習わねばならぬな」

 「ともあれ、銀貨1000万枚も掛からんが良いのか?」

 王はオサムを見て言った。


 「私の殺してしまった4人の騎士のためにも使ってください。彼等に罪はなかった。それでも余るようなら風呂でも作って下さい」とオサムは答えた。


 「わかった、クラッセからの見舞金として遺族に渡そう。しかしフロ?なんじゃそれは?」と訊かれたが

 

 「詳細は侯爵にお聞き下さい、大きなものは私ではわかりかねますゆえ」

 と侯爵に丸投げした。


 「あとは、何か用があるか?」王に訊かれ、本題に入った。

 「実は、近くのダンジョンは全部攻略してしまいまして、出来れば王国のダンジョンを教えていただければと」

 オサムは王に頼んだ。


 「そういうことか、では地図を持ってこさせよう。あと、インペリアルセイヴァーならば一度グランパープル聖国に行ってみよ。ワシが紹介状を書いてやる。少し待て。」

 そして何やら書き始めた。

 オサムは一旦外で待つことにした。やはり気まずい。

 

 オサムが隣の部屋で待っていると再び王の部屋へと入れられた。

 「こちらが我が国のダンジョンで、こちらが紹介状じゃ。持ってゆけ」

 大きな地図と紹介状とか言うものを筒に入れて渡された。


 オサムは

 「ありがとうございます。」

 と王に礼を述べて出て行こうとした時

 「クラッセよ、いつでも気軽に来るが良いぞ、お前には助けられたのでな。お前が居なければワシは後世の歴史家に愚王と書かれたであろうよ」

 と王が言うので、改めて礼を述べて出ていった。


 『何故か気に入られてるな、あんなことしたのに』とオサムは考えた。


 オサムは王国内のダンジョンを回って行くことにした。

 まだ見知らぬモンスターと戦うのが目的のため、週に1日程度だけ飛んでいった。


 3ヶ月ほど経っても全ては攻略していなかった。

 だがゆっくりとやっていけばいいさ、と考えていたので問題はなかった。


 日本のようにはっきりとした四季の無いこの世界ではつい忘れてしまっていたが、リムルの誕生日がやって来た。

 オサムの誕生日は過ぎていたがリムルのは忘れてはいけない。


 本人に訊いても欲しいものは無いと言うだろう。

 オサム自身も日々の暮らしで満足しているため、元侍女であるリムルは祝い事など拒否するのはわかっていた。


 そのため、デートと称してグリフォンで空をとぶことにした。

 ペガサスでは二人は乗れないし、ドラゴンでは怖がるだろうという判断だ。


 リムルは

 「この子可愛いですね、旦那様によく懐いています」と空中散歩を楽しんでいるようだった。


 オサムは「本当に欲しいものはない?」と訊いたが「ありません」の一点張りだ。

 高価なアクセサリーにも綺麗な服にも興味を示さない。

 オサムはクラッセ伯爵領を得て、身分は王族に次ぐ地位となり、領地も5倍に増えた。

 クラッセ伯爵領はエリトール子爵領と比較してかなり広大だった。侯爵の領地よりも広い。


 そんな立場にありながらも

 「空を飛んでみたい」それだけがリムルの希望だった。


 一通り色んな場所まで飛ぶと、庭に戻った。

 「楽しかったです」と笑顔のリムルを見てオサムは納得した。

 リムルにとっては夢だったのだろう、時間があるときはまたグリフォンに乗せようと決めた。

 オサムは国土全て、それ以上を見ているためまだまだ美しい景色を知っていた。



 だがオサムはグランパープル聖国にはまだ行ってなかった。

 場所はライツェン王国の北西、海を渡った大きな島全体がそれだ。

 

 一度上空から見たが、明らかに大陸側の国々とは違っていた。

 神聖な何かが国土全体を取り巻いているようだった。


 オサムはそろそろ行かないとな、と考えつつもあまり屋敷を離れていたくは無かったのである。

 それに、まだ行くべき理由が見つからない。

 そういう事情で先延ばしにしていた。


 ダンジョンを全て攻略してからで良い。そう考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ