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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第一章 騎士
20/43

20話 戦の時

 オサムが朝、部屋でゴロゴロしていると、侯爵から呼び出しが入った。

 『何事だろう』と侯爵の部屋に行くと。


 「おぉ、来てくれたか。急用ですまぬな」と侯爵は言い

 「実はこの反対側、ムルトワ王国とレーラリア王国の連合軍が国境の山を越えてきたらしい、戦になるらしいと早馬が来た」

 と簡単に説明し、

 「すまぬがオサム行ってくれぬか?ここからは遠すぎて軍が出せぬのだ。陛下もオサムを指名してきている」そう言われたので


 今度は反対側の国が攻め込んできたか、全く戦争の好きな奴らばかりだ。しかも王は自分では戦わない。

 「わかりました、場所は?」と訊くと

 「この地図を持っていけ、場所はこの辺りの平原となるだろう」

 侯爵が指差したのはここから真反対、王都の向こう側だった。


 『せっかく平和になったのに、どうしてこう戦いが好きなのかなぁ』とオサムは考えて

 ムルトワは精兵が多い軍事国家で、レーラリアはそれほど軍事力はないがムルトワと血縁関係がある、だったかな?

 オサムはこの大陸のある程度の情勢を頭に入れていた。


 「村や町の被害は?」と侯爵に確認した。

 「まだ被害はないが、平原を越えられると村や町がある。どうしても平原で食い止めたい」


 「そうですか、わかりました。すぐに向かいます」オサムは答えて部屋を出た。


 屋敷に戻り甲冑に着替えて腰と背中に剣と楯を装備した。

 リムルは

 「そんなに急いでどうかされたのですか?」と訊いてきたので


 「どうやら王都の向こう側で戦があるらしい、間に合うのが俺だけなんで行ってくる」

 と答えた。

 『被害が出る前に追い返さないと・・・いや、全滅させるしか無いか』オサムは焦っていた。

 「じゃあ行ってくるから。1日で戻れると思う」すぐに部屋を出ていった。


 オサムは屋敷を出て、初めてドラゴン召喚の笛を使った。一番強いだろうからだ。

 空からドラゴンが舞い降り、オサムが騎乗して飛び立った。

 初めて使うがドラゴンはペガサスやグリフォンよりも速い、倍以上の速さで飛んでいた。


 一直線に飛ぶと1時間もかからず戦場が見えた。両軍とも軽く1万人は居る。


 オサムは敵陣に飛んでいってドラゴンのブレスを浴びせかけた。

 数度行うと敵兵達が混乱しだしたのでライツェン王国軍の陣地の前に舞い降りた。

 ドラゴンの首をポンポンと叩き空へ帰れ。と合図すると飛んでいった。


 次にナイトメア召喚の笛を使いナイトメアを呼び出した。

 空間が揺らめき炎のたてがみの漆黒の馬が現れたので騎乗した。

 その光景を見ていた兵士は全員が驚き、固まっていた。

 ナイトメアを知らないか、その強さを知っている者なのだろう。


 「黒騎士様、エリトール様」と言う声が聞こえたが「時間が無い、大将に会いたいので誰か案内してくれ」

 そう言うと

 「こちらです」と案内された。

 どうやら大将はフォルスト・シュワルツダレク公爵らしい

 ライツェン国第一の大貴族で名将でもある。

 

 オサムが公爵に近づき

 「失礼を承知で申し上げます、この場は私に任せていただけないでしょうか?出来る限り敵兵を減らしてからの総攻撃が良いかと愚策を申し上げます」

 と頼んだ。

 「うむ、では先鋒部隊の指揮を任せる」驚きながらだったが聞き入れてくれた。

 ドラゴンで来たのが功を奏したのだろう。ナイトメアにも目が釘付けになっていた。

 「ありがとうございます」とオサムが答えナイトメアに騎乗し先頭へ向かった。


 先頭部隊の隊長に理由を話し、オサムはまず一騎駆けで敵に突っ込んでいった。


 敵の正面に近づいた時に「セイヴァースラッシュ!ウィンドスラッシュ!デモンスラッシャー!オクタスラッシュ!ウィンドソード!」

 と、一瞬で1000人単位を屠った。

 そのまま突撃し、敵の中を縦横無尽に駆け回り剣を振るっていった。

 「ストラトブレイド!アクトクラッシュ!」また数百人が一瞬で吹き飛んだ。

 

 敵は混乱し逃げ回るばかりである。総大将らしき人物を見つけて向かっていくと回りの騎士達が密集して取り囲んだ。

 オサムは関係なくそれらを斬り伏せ、総大将も討ち取った。

 残る兵や騎士にも容赦なく斬撃を浴びせた。逃げる者も居たが、ナイトメアの脚から逃げられる馬など居ない。

 

 向かってくる敵、逃げる敵関係なく斬り倒していった。


 20分もするとほぼ全ての敵が大地にころがって居たが、まだオサムは止まらない。

 全滅させるつもりで戦ったが、数十騎に逃げられて戦闘は終わった。


 「クソ、気分が悪い・・・戦はこれだから嫌いだ・・・」

 周囲には敵兵が散乱していた。死んだ者、怪我で動けなくなった者、全てが倒れていた。

 しばらく足を止めて敵陣の真ん中でナイトメアに騎乗したまま呆然と眺めていた。

 「なんだよこの景色は・・・俺がやったのか?何人死んだんだ?何故攻めてきた?俺は何をしている?」ブツブツと呟いていた。

 しかし、はっと気が付き未だ動いていない自陣へと走り出した。


 オサムはシュワルツダレク公爵のもとへ戻り「終わりました、閣下」と報告したが

 公爵は何も答えなかった。


 「黒騎士の噂は本当だったのか・・・1万以上の軍が30分で全滅だと・・・」

 オサムに向かい、公爵は

 「お前がエリトール子爵だな?なるほど、軍神よのう」と言われた。


 オサムは

 「終わりましたか?この戦」と訊くと

 「言うまでも無いであろう、恐らく二度と攻めて来ぬわ。お主が味方で良かった」

 声を震わせてそう言った。


 「では、私は帰っても?」とオサムが言うと

 「好きにせよ、あとはこのワシが処理しておく」


 「それでは、よろしくお願いいたします」とナイトメアを帰し、グリフォンを呼び出して帰って行った。

 オサムは戦場の光景を忘れるようにした。思い出すと気分が悪くなる。自己嫌悪に陥ってしまう。



 屋敷の前にグリフォンで降り立ち、首を撫でて空へ帰した。

 「ただいまー」と言って、ケンテルを呼び出し、甲冑を洗うように命じた。

 3階の自分の部屋に上がり

 「かえったよーリムル」と言って「ちょっと侯爵閣下のところに言ってくるね、報告してこなきゃいけないから」

 「あと、今日は全員で食事がしたいからハロルドとカッシュに言っておいてくれるかな?」とリムルに頼んだ。

 素早く着替えて城の侯爵に報告に出かけた。



 「終わらせてきました、シュワルツダレク公爵が言うには二度と攻めてこないとのことです」

 オサムが言うと

 「何をした?」と侯爵が訊くので

 「一人で片付けてきました」とあっさり言った。


 侯爵は驚き

 「1万の兵をか!?」と言ってから「まあ、そうなるな、これで我が国の安全は確実になったな。レギオーラとは婚姻関係があるし」

 椅子に深くもたれかかった。


 「そうですね、戦を止めるには圧倒的な恐怖が一番ですから」とオサムは笑って言った。苦笑いだったのだが。

 侯爵に「我が騎士ながら恐ろしい奴じゃ」と真顔で言われた。


 オサムは戦のことを忘れたかったので話題を変えることにした。

 「話は変わりますが、ここ数日ダンジョンで強さを確認しておりまして、晶石を換金しただけで2500万枚を手に入れました」と言うと


 侯爵は驚いて

 「2500万枚だと?お前は何をして居るのだ?で、言いたいことは?」と訊かれた。

 オサムは少し考えて

 「つきましては、私の領地の税を2年間免除したいと考えております。子爵となった祝いということで」

 「この件、どう考えられますか?」と侯爵に尋ねた。

 今日死なせた敵兵の代わりではないが、何か誰かが喜ぶようなことがどうしてもしたかった。

 大勢を喜ばせる何かを。


 「ふむ、子爵となった祝いを領民と共有したいという建前だな?前例はあるので構わんだろう」

 侯爵は答えた。

 「では、今年と来年ということでお願いします。あと、その後も税を軽くしようと考えていますが」

 オサムが言うと


 「今の租税は、少し待て」とエリトール子爵領と騎士領の書類を机から出してきて

 「4割のようだな、それをどの程度に?」侯爵が言うと

 「そうですね、下げすぎるとそれに慣れてしまいますか?3割か2割で。無税でも良いのですが」オサムが言うと

 

 侯爵は

 「2500万枚というのなら100年は問題ないな、戦に備える必要も無いし2割としよう。無税はいかん」

 そして

 「オサムの領民は幸せ者よの」と言って笑った。


 「では、報告は終わりましたので戻ってもよろしいでしょうか?」とオサムは一礼した。

 侯爵は書類を机にしまいながら

 「構わん、疲れただろう、ゆっくりせよ」と言われ、オサムは屋敷に帰っていった。


 

 ケンテルはまだ甲冑を洗っていたが、自分はゆったりベッドに寝ていた。

 

 はじめに今日は全員で夕食を取ると言い付けていたので、料理長のカッシュも含め

 全員が大広間に集まった。オサムを入れて総勢で30名の大所帯である。


 オサムが

 「こうやって皆が顔をそろえるのは初めてだな、この中には新しく子爵になっただけの私に忠誠を誓えぬ者も居るだろう、それは構わぬ。

  しかし、私は皆を家族と考えている。外では困るが、屋敷内では何でも言ってくれて良い。

  変な遠慮は無しだ、仕事以外の気遣いも無用、若輩ゆえわからぬことも多いのでよろしく頼む」

 そう言うと


 クイードがすぐに

 「少なくとも私とタキトス、ハンビィはご主人様に絶対の忠誠を誓っております」そう答えた。

 オサムがタキトスとハンビィに目をやると頷いていた。


 オサムは

 「ありがとう、クイード、タキトス、ハンビィ。お前達は言い付けを守りよく鍛えている。これからもエリトール家を支えてくれ」


 少し時間を開けて

 「では、話しながらの食事にしよう」とオサムは食べだした。

 それを見て皆も一斉に食べだした。

 「戦いしか知らぬ武骨者なので、食事のマナーもわからん。ハロルドに訊くか」

 などと言いながら、皆で楽しく食事を始めた。


 だが、やはりと言うべきか、新入りの従者5名と執事のハワーズ、侍女2名と召使9名は面食らっていた。


 「お館様、あの、お館様やリムル様と同席しての食事などよろしいのでしょうか?それにメニューが同じです」

 ハワーズが執事としてオサムに尋ねた。それを見てハロルドは微笑んでいた。

 「今までの常識はこの家では捨ててくれと言ったのはこういう意味だ、他にもあるが」

 オサムが答えると今度はマリエールが

 「でもでも、ご主人様、私達は平民出身です。子爵様と同じ食卓なんて良いのですか?」と素直に聞いてきた。

 それに答えたのはリムルだった。

 「私も平民出身のお城付きの侍女でしたよ?旦那様はこういうことを区別なさらないのです」

 自分の戸惑いを含めてマリエールに話した。


 「いや、しかし、この風景はなんとも。下級騎士家の我が家でも召使や従者とは分けていましたが」

 今度はクラウドが言い出した。そしてそれにはクイードが

 「俺の家も下級騎士家だ。ご主人様はそういう別け隔てを嫌がるので覚えておくと良い。召使は従者の下僕ではないぞ」と諭した。


 「騎士の方はともかく、つい1年前まで街で下働きをしていた下民の私でもなのでしょうか、少し困惑しております」

 侍女のリーシャが申し訳なさそうに言った。よく見るとまだ食事に手を付けていない。

 オサムは少し強めに

 「下民とか言っちゃダメだからね?この屋敷に居る者は全員俺の家族、わかった?リーシャ」

 と言うと、ハロルドが

 「お館様は私共を下々の者などとは考えておりません。今までとは違う人生を得たと思いなさい。そしてその幸福のためにお館様に尽くしなさい」

 オサムの言いたいこととは少し違うが、答えを話した。なのでオサムは

 「んーと、尽くすとかはいいんだけどね。普通に仕事をしてくれればいいよ。今日は戦に行ってきたから特に皆の笑顔が見たいんだ」

 「それに、仕事は仲良く楽しくして欲しいし、俺やリムルに余計な気遣いは要らないよ?リーシャも遠慮せずに食べて良いんだよ」


 するとタキトスがリーシャの皿を見て

 「ご主人様はそういう遠慮のほうを嫌がる方だから、気にせずにほら食べろ食べろ、叱られる前にな」と言って緊張感をほぐした。

 「まったく、タキトスは遠慮と言う言葉を知らん男だからな、図々しいんだコイツは」オサムが冗談めかして言うと

 「そんなに図々しいですか?では今日はスープのおかわりはしないでおきます」と返して皆を笑わせた。


 「お前の遠慮はその程度か?」とオサムもやっと笑うことが出来た。

 「ということだ、皆楽しくやってくれ。俺の居ない時はリムルに皆と食卓を囲む時間を作ってもらうからね」

 その日の夕食は戦の痛みを癒やすのに十分な賑やかさだった。


 『これで新しい皆の気持ちがほぐれると良いんだけどなぁ、週に何回かやっていこう』

 そうオサムは考えた。



 「旦那様、今日の食事は楽しかったですね、ああいう雰囲気私は好きです」

 リムルが嬉しそうに話すと

 「そうだね、俺は留守にすることが多いから、リムルが仕切ってくれてるんだろ?いつも押し付けてごめんね?」

 とオサムが言った。


 リムルは

 「私は元々侍女ですから、手際は慣れてます。ハロルドも居ますし、クイード達も」

 続けて

 「皆が良くしてくれますので旦那様が留守の時に困ることは無いですけど、皆と食事しても私は寂しいです」

 そう言われたので

 「うん、出来るだけ家に居ることにするよ、大丈夫。でも時々は冒険に行かせてね?」

 とオサムは笑った。


 「じゃ、寝ようか、おいでリムル」とリムルと共にオサムは眠った。

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