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終わったならまた始めればいいじゃないか-推敲Ver-  作者: 朝倉新五郎
第一章 騎士
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2話 理解者

 いつの時代でもどこにでもおかしな人は居るものだ。


 オサムが連れて行かれたのは豪壮な甲冑を付けた中年の男のところだった。


 「閣下、此の者やはり怪しいと思われます」


 その時オサムが気づいた『何故言葉が通じるんだろう』

 そんなことはどうでもいい、命の危険だ。バカンスだったのに。


 「フム」とその閣下とやらの男がジロリとオサムを睨んだ。

 オサムはその眼光の鋭い閣下と呼ばれた男を見ながら

 「いや、あの、ですからね、事故か何かで吹き飛ばされたんですよ、本当ですこれ」

 『普通そんな睨まないでしょ、部長でもそこまで怖くなかったよ・・・』と縮まりながら答えた。


 「名はなんという?」その男が訊くので

 

 「オサムです、秋葉オサム。19才独身彼女募集中?です」

 『何故彼女募集中なんて言ったんだよ、俺』と慌てた。


 どうやらこの集団の最上位の奴だな、という考えがオサムの中に浮かんだ。

 ならばこの、閣下と呼ばれている人物が納得出来る答えをすればいい。


 「どこから来た」またその男が訊くので

 「日本です、日本の東京です。多分ですが大陸の東の端の海を渡ったところです」

 まずは正直に答えるべきだと判断した。

 それでも異世界であるのなら虚言だと思われるだろう。それはそれで構わない、嘘はつかないことが重要だ、とオサムは考えた。


 「ニホン?そんな国は聞いたことがない、この大陸の東の端はシャングール帝国だが」

 どうやら思慮深い人物らしい。年齢相応の懐の深さはあるようだ。


 『俺の方こそシャングール帝国なんて歴史で習ってないよ』と言いたかったが

 「どう考えれば良いのかわからないのですが、俺、いや僕は他の世界から来たのだと思います、それかこれは夢です」

 『また言っちまった、他の世界とか夢とか信じてもらえるわけねーのに』

 正直に話すと色々と誤解を生じる。嘘も方便とはこの事か、とは思ったがもう遅い。

 それに嘘で乗り切れる場面ではない。知識が足りなさ過ぎる。


 「ほう、異世界から来たと?それであれば納得出来るな」

 男は蓄えた髭をいじりながらも威厳のある声で、有り得ない言葉を吐いた。


 『納得すんのかよ!このおっさん話せる奴じゃねーか』と口に出来るはずもなく

 「はい、先ほどのシャングール帝国ですか、僕の習った歴史や地理にはないので」

 中国の歴史上シャングール帝国などという名前の国は出てきた覚えがない。


 「地理?」とその男が訝しみ「誰か書くものを持って来い」

 そうして、しばらくすると誰かの気配がした。

 やはり甲冑姿の若いイケメンが紙とペンらしきものを持ってきたようだ。

 紙は羊皮紙、ペンは羽ペンと磁器に入ったインク。時代的に考えて10世紀から17世紀位が混じっている。


 「お前の知っているだけ、この世界を書いてみろ」と言われたので頭の中で世界地図を描いた。


 「えっと、ちょっとだけ時間を下さい」

 『地理には強いんだ、世界を回ろうとしてたんだから』ペンを走らせた。

 日本を中心の地図を見てきたのでヨーロッパ中心の地図を書くのには苦労する。


 「これが大体の世界地図のはずです」と手渡した。


 オサムの書いた地図を見ながら、その男は

 「フム、この世界の地図とは違うな、しかし全くの嘘にしては出来過ぎている」

 そう言って一旦オサムの書いた地図を机の上に置いた。


 オサムは分かっていたので

 「そうですよね?何なら大体の国名も教えます。国境は曖昧ですが」

 頭の中で大体の国名と場所を思い浮かべた。


 じっとその地図を見ながら

 「そうか、では教えてもらおうか、まずここは」と指された場所はアフリカ大陸だった。

 

 オサムは苦手な場所だな、とは思いながらも

 「そこは混沌としてまして、この陸地だけで40ほど国があります、そこは確かスーダンです」

 中央アフリカの少し北東、恐らく合っているだろう。


 次にその男は

 「では、最強の国家は何処に有る」と訊いてきた。


 そんなものは簡単である、世界最強の国といえば決まっている。

 「それならここですね、アメリカ合衆国。世界の軍隊の半分以上を持っています」

 しかし、自信とは裏腹にその状況に対してオサムは冷や汗をかいていた。


 『こんなの信じてもらえるのかよ、もうやだよ胃がキリキリする』


 しかしその髭の男は

 「半分以上だと?では世界征服の最中か?そのアメリカとやらの帝国は」

 と訊いてきた。


 オサムは馬鹿丁寧に答えることに徹して

 「いや、帝国ではなく民主主義です。あと、国境が変わるような戦争は殆ど有りません、民族紛争で国が分かれる程度かと」

 『やっちまったかな、民主主義なんてこんな甲冑の時代にないだろうし』

 事実は事実だ、嘘をつけば嘘を補完するためにまた嘘をつかねばならない、そんな愚行はするべきではない。


 オサムの思った通り

 「民主主義?領土拡大は無いのか?戦自体はあるのにか?」と不思議そうに尋ねてきた。


 『このおっさん食いついてくるなー』と考えつつも

 「世界を調停する機関がありまして、国際連合というものです、俺は連合国と呼んでますが。他にも色々この世界とは違うものが」

 とオサムが言った。

 実際に日本では国際連合、と愚民を騙す言葉で飾っているが、

 ユナイテッドネイションとは連合国、つまりは第二次大戦の勝利国の集合体だ。


 「そうか、世界を調停する機関、グランパープル聖国のようなものだな」

 閣下と呼ばれた男はそう言って「一息つこう、誰か酒を2つ持って来い」


 オサムは20未満なのでほとんど酒を飲んだことはない、それに下戸だったが飲まないわけにはいかないだろう、そういう雰囲気だった


 酒をちびりちびりと呑みながら、水も飲みつつも詰問は続いていた。

 「具体的にはどういう世界だ?」と訊かれた


 オサムは少ない知識を総動員しながら

 「そうですね、例えば甲冑はもう使われていません。槍や剣も使わずもっと強力な銃などを使います」

 と答えた。


 すると髭の男は間髪を入れずに

 「ほう、その銃という武器は本当に剣より強いのか?」と訊いてきた。


 オサムは

 「はい、敵が100人居ても一人で倒せる武器です。鉄の鎧なら撃ち抜けます、たしか」

 『誇張しすぎたが、機関銃と小銃の違いがわからねーしいいや。鋼鉄も撃ち抜けるだろうし』

 ゲームで出て来る銃ってハンドガンとかライフルだよな、弾切れとか分からないからいいか、と考えていた。

 「作れるか?その銃とやらを」髭の男が体を乗り出してきて机の上に乗っていた。


 オサムは少し驚き椅子ごと体を後ろに引きつつ

 「あの、僕は技術者では無いので作るのは無理です、大体の構造はわかりますが」

 『俺は純粋なミリオタじゃねーし、構造なんて分かるわけがないじゃねーか。火縄銃くらいならわかるんだけどな』と考えた。


 すると「では魔法に頼るしか無いわけだ、威力を比べたいな」と言われ


 「魔法!?この世界には魔法が有るのですか?」

 『剣と魔法の世界でダンジョンアリ?マジRPGじゃんかよ!』

 その単語はゲーマーであるオサムの琴線を刺激した。


 髭の男はきょとんとして

 「世界は魔法で成り立っておるぞ?剣士や騎士は風の剣撃、只の戦士はそれすら使えんが」

 と、当たり前のように答えた。


 オサムはそれを聞き

 『やっべぇこれマジもんだ、バカンスどころじゃねぇし、こっちのがおもしれーし!』

 「み、見れますか?魔法を?」興奮してしまった。


 すると後ろに居た甲冑の一人の方を向きながら

 「構わんが?よし、外に行こうか。誰かヨーン魔法団から適当に何人か連れて来い」

 そう言うと1人がガシャガシャと走って宿舎から出ていった。


 オサムは

 『このおっさん話通じるぜー♪』

 胸を踊らせながら外に連れだされた。



 しばらくして数人のローブを着た背の低い者達が連れてこられていた。

 髭の男は

 「今から見せるのが魔法だが?とりあえず火と氷を見せてやる。」

 「おい、マーブ魔法士ファイアボール、その後レバーグ魔法士アイスコフィン」

 「あの木を狙ってな」

 男ははどうやらかなり適当な部分も有るようだった


 オサムはじーっと二人の魔法士とやらを見ていた。


 何かの呪文を唱え、空中に文字を書くような仕草をした後

 「ファイアボール!」と言うと木に向かって巨大な炎の玉が向かっていき燃え上がらせた。

 同じようにもう一人が

 「アイスコフィン!」と言うと燃え上がっていた木が氷に包まれた


 どう考えてもオサムには魔法にしか見えない、トリックだとすればこんな簡単には出来ないだろう。

 「スッゲ!スッゲー!ホンモノの魔法じゃんかよ、ホンモノじゃんか!」

 気が付くとオサムは変な踊りを踊っていた。


 すると

 「おい、オサムとやら、それは何かの儀式か?」と髭の男に言われた。

 オサムは

 「いえ、違います、初めて魔法を見て興奮しただけです」

 キリっと顔を作ったが、数秒も持たずに崩れた。


 剣と魔法の世界かぁ・・・人生が終わったと思ったらこんな続きが有ったとは。

 オサムの気持ちは180度変わり『これが夢じゃなければいいのに』という方向に傾いていた。



 しばらくの間オサムは顔の筋肉が緩んでいたのだろう

 「閣下の前で何をにやけておる!」最初の女性剣士が剣の鞘で突いてきた


 すると髭の男は

 「これこれ、待ちなさい。その驚きようは本物と見たが。これはどうかね?」

 男は自分の剣を抜きオサムに近寄ってきた。

 見る限り見事に装飾され、切れ味も良さそうな剣だった。

 オサムの知識に有る”切れ味の鈍い鈍器のような剣”とは違う。


 「け、剣はみたことはあります、槍や楯や甲冑も知ってます」

 オサムがゴクリと唾を飲み込んで刀身の向こうの男の顔を見て言うと

 「そうではない、これだ」と言い、氷に包まれた木に向かって剣を振った。


 男が何か呟き、ブオンと空気を斬る音がしたが

 『そんなに遠くからじゃ届かねーだろ、力自慢か?このおっさん』とオサムが考えていた時に

 木と氷が斜めに斬れ、滑り落ちた。


 髭の男は剣を鞘に収めながら

 「剣士が使えるのは風の剣撃だけでな、しかし切れ味は見ての通りだ」

 と言って少し笑ってみせた。


 オサムはしばらく呆然としていたが

 「すっげぇ・・・風の魔剣ってやつですか?それは」

 『また言っちまった、RPG慣れしすぎてるな俺』

 と頭を掻いた。


 しかし、返ってきた言葉は

 「魔剣?あぁ、一部の騎士は携えているが魔剣の中でも強力な剣は世界に殆ど無い、これは剣技だ。才能は必要だが」

 というものだった。


 オサムは少し興奮気味に

 「剣技でそんなこと出来るんですか?俺のやってたゲームでは無かったな」と言ってしまったが

 『ドツボだ。ゲームって言って通用するわけがねぇよ』と後の言葉を考えていた。


 すると髭の男は

 「ゲーム?剣闘か?数百年以上も前の残虐な娯楽だが、今の時代にそんなものはない」

 少し気に入らなかったようだ。

 古代ローマの剣闘士の競技のような事を言っているのだろう、この世界にも昔には有ったのだとわかった。


 ある程度の事を話し終わると話は元に戻るものだ。

 「そもそもお前は異世界から来たと言っていたな?精霊界や神の世界が有るのは知っている」

 そして、腰のバッグから何かを取り出してみせた。

 

 「それ、拳銃ですね?この世界に有ったんですか?」

 オサムが言うと


 「知っているのか?使い方は?」と訊かれた


 何故こんなものがこの世界に有るのだろうと不思議に思いつつ

 「触っても良いですか?」と聞き「構わん、使い方がわからんのでな」と手渡された。

 それを手にとって眺めると、少し錆は浮いているが十分に使える状態に見えた。

 ただ、前から見た限り弾丸は使い切っている。


 「これは、こう持って、この引き金を引きます」

 カチンと音がして撃鉄が空の薬莢を叩いた。

 「えーと・・・ここかな?」操作してシリンダーをスイングアウトさせた。


 オサムにはあまり得意といえる分野ではないが、一般人よりはよく知っている。

 「これが銃というものです、一番小型ですが。鉛の弾丸を火薬で発射します、これはもう弾丸を使いきっていますね」

 手首を振ってカシャンとシリンダーを元に戻した。

 「お返しします」


 髭の男は

 「ふむふむ、オサムの世界とやらでは一般的な武器なのか?」と訊かれ

 少し考えつつも

 「俺の住む日本では政府機関の一部の人間や軍が持つだけです。ただ、アメリカでは大勢が持っています」

 「小さくても、人を撃てば大怪我や死亡させたり出来るものなので、大体の国では禁止されている物です」

 『銃事情には詳しくないけど大体そんなもんだろう』とオサムは考えた


 すると納得したように

 「アメリカか、世界最強の軍事力を誇るだけ有る。一般の民草までこのような武器を持っているとは」

 『そういえばこのおっさんなんて名前なんだ?呼びづらいよな』とオサムは考え


 「すいません、お名前をうかがっても?」

 いつまでもおっさんと頭の中で言ってるといつ声に出るかわからない

 立場の有る人物に対してそういう無礼をはたらけば首が飛んでもおかしくはない。危険は取り除いておく必要が有った。


 すると髭の男は

 「おぉ、自己紹介がまだだったな。ルーハン・フルグリフだ、この地を王より預かる伯爵と覚えておいてくれ。

 お前はアキバ・オサムだったな。この拳銃とやらの事を知っているということは、アキバ・オサム。お前はこの世界の人間ではないと証明出来たことになる」


 『やっと信じてもらえたか、それにしても剣と魔法の世界ね。危険な世界ってことか』

 オサムは少し安堵して

 「信じてもらえたでしょうか?ところで俺の身はどうなりますか?」

 『ここで斬首とは言わないだろう、放り出されたら生きるのに苦労しそうだけどな』

 そう考えながら答えを待っていた。


 それに対してフルグリフ伯爵は

 「疑いは晴れたが、一人ではどうもできんだろう?しばらく我が軍に居れば良い、雑務はしてもらうが」

 受け入れの言葉だった。


 放り出されると考えていたが、予想外に良い状況になった。

 「ありがとうございます、一人では心細いので助かります」

 一人で生きるには情報が足りなさ過ぎる。しかもひらけてるとは言え、周りに建物は見えない。

 こんな場所で武器も持たずに放り出されれば飢えて死ぬか、何者かもしくは獣かモンスターに襲われて死ぬか、どちらにしても危険極まりない。


 『けど剣も魔法も使えない俺ってどうなるんだろう?』

 オサムは流石に不安を感じた。

 だが、当面ここが自分の世界になる。順応するしか方法はなかった。

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