12話 リムルと武装と冒険と
オサムは食事も済ませ街へ行くことにした
換金所に寄ってから武器屋へ行って、その後に家具店等に行くことにした。
とりあえず平服を着て、レイピアを腰に下げ、グランパープルの革袋をベルトに通し、
向こうの世界から持って来た防刃素材のリュックに1500枚の銀貨の入った革袋を入れ背中に背負った。
『だいぶストレングスが上がってるな、この程度じゃ全然重く感じない、3万枚の銀貨も重くなかったし』とオサムは考えながら
「リムル、行くよ~?用意できた?」とリムルの部屋を開けた。
リムルはさっと体を隠し
「すみません、まだ服が選べないんです。エリトール様に買っていただいたのがどれも素敵で」
オサムは
「あ、ごめん!着替え中だったんだ、ほんとごめんね?」と謝った
リムルは
「エリトール様は私には謝らないで下さい、もうお部屋も一緒ですし・・・」
と体を隠していた服をベッドにすっと置いた。
「エリトール様には私は何も隠しません。謝られるのは嫌です、見られても平気です」
毅然とした表情でそう言われた。
一糸纏わず、手で隠すでもない、リムルにはこういう芯の強い部分がある。
『可愛すぎる!どうしよう俺ベタ惚れになってんじゃんかよ、しかし超スタイルいいなぁ』
などとオサムは不埒な事を考えたが。
「やっぱりごめん」と反対を向き見ないようにして「黄色い服が有ったでしょ?俺はあれがいいと思う」
それはオサムが気に入って買った服の一つであった。
平民が着る様な衣装ではなくかなり凝った作りだが着やすそうな服である。
そして扉を静かに閉めて
「ゲームとアニメとマンガの神様、ありがとうございます!秋葉オサムは幸せ者です!」
もう混乱しているのかどういう状態なのかオサム自身にもわからなかった。
わからないということですらわからない状態にオサムはどうすれば良いのかわからなかった。
オサムは暫くの間床に倒れて悶絶していた。
「あの、何をおっしゃってたのですか?」とリムルが部屋から出てきた
オサムは少し狼狽しつつも起き上がり
「いや、ちょっと神様に感謝してただけ。色々有ったけどこんなに幸せだからね?その服やっぱり似合うなぁ、リムルが可愛いからだね、きっと」
とごまかした
リムルはニコリと笑い
「エリトール様が幸せなら、私も幸せです。お仕え出来て。こんな素敵な服もいただきましたし」
『もうダメだ・・・俺は・・・ダメだ・・・萌え死にしそうだ・・・』
しかし、最後の理性を発揮しキリッと立ち直り
「まずは、屋敷の様子を見て、それから街に行くよ」と部屋から出た。
広い城の庭に出たが、屋敷はほぼ出来上がっているようだ。あくまでも外装だけだが。
「棟梁は居るか?」とオサムが言うと「へい、すぐ参ります」と声がして棟梁がやって来た
「こうやって見ると随分と大きな屋敷だな。そうそう、例の風呂の件だが図面を書いてみた、これでわかるか?」と棟梁に見せた。
オサムは簡単な文字程度ならビーツとのやり取りで書けるようになっていたので渡せばわかるだろう。
それに元々なんとなくこの世界の文字がわかるのだが、理由はわからない、基本的な知識が転移によって刻まれたのだろうか。
「石造りでこれを作るというわけですな?もう材料は揃えて運び込んでますんで、あとは石工が加工するだけになっとります。水も城の方から分けてもらえるように頼んでます」
と、棟梁は説明してくれた。
オサムはそれに気付いて
「水は閣下の許可をもらっているので大丈夫なはずだ。あと、雨水を溜める大樽はどうなった?」
と訊くと
「それでしたら、ちょっとこちらに・・・あの樽を5つ用意してますんで問題ありやせん。櫓を作って2階の高さに置くんでしたね」
棟梁が指差したのは巨大な樽だった。
城から分けてもらう水は貴重なものである。だからこそオサムの考えている水洗トイレには雨水を使うことにした。
そのためには相当量の水が必要なのでその確保のための大樽であった。
しかし、オサムには一つの考えが芽生えていた。
ビーツの持っていたマジックバッグを防水にすれば大量の水が入るだろう。湖や川で水を汲めば重さも無いため非常に便利に使えるはずだ。
ともあれそれは後々になるだろう。樽はオサムが思っていたよりかなり大きいので満足した。
「無茶な注文ばかりしてすまぬな」オサムは棟梁に感謝した
棟梁は
「やめてくだせぇ、これも仕事なんで。エリトール様の要件は不思議なものが多いですが、そのおかげか若い衆も技術が上がっとります、他にも何かあればなんでも言ってくださいや」
照れたようにそう言った。
オサムは
「恐らく出来上がった後も改築することになると思う、そのときはまず棟梁を指名するので頼んだぞ」と言ってその場は切り上げた
「さて、街に出るか」とリムルに言った
城から出て坂を下り、城の丘の真下にある建物が目に入った。
「ここが換金所?えらく立派な建物だと思ってたらそういうことだったのか」
そして入っていった。
「えっと、受け付けはどこだ?」と言うとリムルが
「あちらの方にあります、こちらですエリトール様」と案内してくれた
受け付けの前に来ると
「いらっしゃいませ、どういった御用でしょうか?」
と受付の娘が訊いてきた
「これの換金に来たのだが」とグランパープルの革袋から光る石をジャラジャラと出した。
拾った時は余り詳しく見てないのだから、よく見ると色や輝き、大きさがバラバラだった。
「モンスター晶石の換金ですね、えーと・・・レベル21剣士様、登録がお済みではないようですが、登録を先にさせていただいてよろしいですか?」
と受付の者に訊かれたので
「ああ、必要なら早く済ませてくれ」とオサムはわけが分からずに答えた。
「では額を出していただいて、魔法印を刻みますね」
オサムの髪をかきあげ、何かを唱えた。
「終わりました、えーとアキバ・オサム・エリトール・・・エリトール様でしたか!これは申し訳ありません!」
と受け付けの娘が慌てたのを見て
「知らぬのは仕方がなかろう?かまわぬ、早く換金せよ」
オサムは人前なので、苦手な口調だが街ではこれで通すつもりだった。
時々エリトールの名前に押しつぶされそうになる。
だが、それを支えてくれる者が居る。リムルだった。
「全て合わせて銀貨121枚になりますが、全額引き出されますか?」と訊かれオサムは
『銀貨121枚?レベル1からの冒険者だぞ?内容を訊かないと』と考え
「何故そんなに高額になる?冒険は初めてなので詳細を聞きたい」
事によっては冒険だけでかなりの銀貨を稼ぐことが出来る。
そうなればエリトールの領地の税を下げることも可能だろう。
オサムには領民がどのような生活をしているのかわからないが、中世の制度と同じならば”農奴”と言う者達が居るはずである。
21世紀の日本で安穏と暮らしていたオサムにとってはその制度は受け入れられない。
自分の領地だけでも領民を苦しみから開放したいと考えていた。
また、ある程度の強さを手に入れれば領内を周り、生活を見ていこうと考えても居た。
「このゴブリンなどがドロップする薄緑の小石はほとんど価値がありません、150個程ありますが銀貨15枚です。
次にこの薄赤はホブゴブリンがドロップするもので13個ありますので銀貨6枚と青銅貨50枚になります。
最後にこの大きな赤い結晶はフィールドボスがドロップするもので、この色と大きさはゴブリンナイトのものなので銀貨100枚の合わせて121枚です。
ご理解いただけましたでしょうか?エリトール様」
オサムは大体の内容を掴むことが出来た。
『そういうことか、やっぱボスドロップは高価なんだな、レアアイテムじゃなくても』
しかしゴブリン10匹で銀貨1枚。庶民が1ヶ月暮らせる額だ。あの程度なら簡単に稼げるだろうか?
それとも剣士や騎士、魔法士でないとモンスターは倒せないのだろうか?屈強な戦士ならばどうだろう?
「分かった、では全額を換金してくれ。」オサムは言った。
『これって、冒険者やってる方が余程稼げるんじゃないか?街の連中は冒険をしないみたいだし、冒険者って一体どういう位置づけなんだ?』
オサムは思ったが、それはおいおい分かることだろうと考えないことにした
「では銀貨121枚です、お受け取り下さい」と目の前に銀貨が差し出された。
オサムはそれを受け取り、腰にぶら下げた小物入れ用の革袋に全額をその中に入れた。
胸から下げた革袋に入れようかと引っ張り出したが、容量的に無理な量だった。
その時、最初に見た見慣れないペンダントが一緒に出てきたが、気にせずに一緒に胸元に入れた。
『そう言えばこのペンダント、ずっと付けてるけど最初からそれが当たり前のように思えてたよな?今気がついても全く違和感は感じないし、なんだろう?』
と考えたが、その考えは何故かすぐに消えた。
リムルはオサムの隣で
「冒険者ってすごいんですね、私の10年分の給金を1日で稼いじゃうなんて」
と言ったが、別段羨ましそうには見えなかった。これはなにか謎があるな、とオサムはゲーム脳で考えていた。
疑問に思ったなら時間を掛けてでも解き明かしたい。オサムはそういう性格だった。
武器屋に向かいながらオサムは
「えっとな、リムルは何故侍女をしているんだ?」と訊ねた
リムルは
「私には父母が居ませんので、身の寄せどころが無かった時にさっきの換金所でお城の召使を募集しているのを見て13才から働かせて頂いています」
「冒険者になろうと思ったことは?かなりの稼ぎになるのはさっき見ただろう?半日の金額が121枚だ」
オサムが不思議に思って尋ねると
「私には冒険者の資質が無いのです。換金所で鑑定してもらいました、魔法士ならばと思ったのですが」
『そういうことか、魔法団も庶民だと言っていたが、生まれついての資質が必要なんだな』
恐らく戦士というのも剣士になれない者が体を鍛えて兵士になったのだろう。
オサムは得心を得た。
だが同時にやはり疑問もはっきりした。戦士や一般の者にはゴブリンすら倒せないのだろうか?
今後解決すべき謎として置いておくことにしたが、近いうちにわかるだろう。
そうこうしている間に武器屋に到着した。
オサムは店中の剣を手に取りじっと見てみた。
マインゴーシュ Lv1アタック5ディフェンス5
クレイモア Lv15アタック50剣士
ファルシオン Lv1アタック10
ツヴァイヘンダー Lv15アタック40剣士
グラディウス Lv1アタック15
フランベルジュ Lv25アタック60剣士
バスタードソード Lv15アタック40剣士
とオサムは見ていき、店のカウンターの奥に飾ってある剣を見せてもらった。
明らかに普通の剣とは形も雰囲気も違う。
ドラケンソード Lv50アタック120騎士
ブラッククレイモアLv30アタック95騎士
レイデンソルブ Lv65アタック158騎士
フォールアクス Lv70アタック180剣士Lv30騎士
レイブンブレイド Lv60アタック145騎士
高レベル剣士や騎士しか使えないものらしいが下位の魔剣だという。
なんとなくオサムはわかった気がした。
剣士レベルや騎士レベルはそれを使いこなせるレベルだ。
アタックは攻撃力でやはりレベルが上がれば攻撃力も上がっている。これはゲームと同じだ。
しかし本来両手剣の方が攻撃力は高いはずであるのに、それ以上の攻撃力を持つ片手剣が存在する。
これは恐らく鍛冶師の腕が良いのか、質の良い魔剣なのかもしれない。
試しに店主に
「そのレイブンブレイドを取ってくれるか?」と訊くと
店主は
「お客様のレベルでは装備出来ませんがよろしいですか?」と答えが帰ってきた
『やはりな、この店主は客の職業とレベルが見えている。』
と、店主を見ると、Lv40、商人HP620と見えた
「いや、装備できぬ剣は要らぬ、俺にお薦めがあるなら3本選んでくれ、店の奥に置いてある剣でも構わん。今銀貨5万枚持っている」
とオサムはハッタリを使い、待っていた。
店主は少し考え、店の奥に入って3本の剣を持ってきた
「夜叉のカタナ、グレートソード、デレルドライヴです。どれも使用レベルは低いですが切れ味は鋭いですよ。全て魔剣です」
オサムはそれを一つずつ確認した
夜叉のカタナLv30アタック70剣士 付加スキル 闇の剣撃
グレートソードLv35アタック70剣士
デレルドライヴLv40アタック90剣士 付加スキル ハヤブサの舞い
付加スキルがどういうものかわからないが、剣士スキルのようなものなのだろう。
それとも魔剣というのがこれなのだろうか?
オサムは確かめることにした。
「この付加スキルというものは何だ?闇の剣撃とハヤブサの舞い、どういう効果がある?」
店主に訊くと
「グレートソードもですが、これらは下級の魔剣となります。付加スキルはこのレベルの魔剣ではウィンドソード程度のものと考えてください」
「腕の良い鍛冶師が素材を選んで打つと、時々このような剣が出来上がると聞いています。私も以前使っていましたが」
オサムは大体のシステムを知ることが出来た。
付加スキルやレベルは遠くから見ただけでは確認できない。手にとって初めて分かるものであるらしいことも。
「よし、夜叉のカタナとデレルドライヴ、それにバスタードソードとフランベルジュ、クレイモアを買おう。幾らになる?」と言うと店主は計算し始めた
「5振りで合計銀貨630枚になります。」
「内訳は?」と聞くと
「バスタードソード、フランベルジュが銀貨50枚、クレイモアが銀貨30枚、夜叉のカタナが銀貨200枚、デレルドライヴが銀貨350枚です」
オサムはそれを聞いて
「よし買った。品物は城に届けてくれるか?俺はアキバ・オサム・エリトールだ」
と言った時
「あ、伯爵様の筆頭騎士というエリトール様ですか、店を閉めてからになりますがお届け致します」
やはりここでもエリトールの名がオサムに圧し掛かる。しかし、慣れるしか無い。
「では、支払いを済まそう」と伯爵から貰ったマジックポーチをリュックから出し、ザラザラと広いカウンターに銀貨を出していった。
一緒に数えるか?と言おうとした時
ザラッと店主が銀貨の山を分け、あとは指でちょいちょいと自分の山に入れた。
「まずはその銀貨を革袋に仕舞って下さい。私の計算ではこれで丁度630枚のはずです」
そして
「30枚の山を21個作りましょう」とまた手のひらでザラザラと分けていった。
店主は
「これを数えて下さい」と言ったので数えることにした。
リムルも手伝い数えたが
「ぴったり630枚か、それは商人のスキルか?」とオサムは店主に聞いた
「そうです、もう剣士での冒険はやめて商人になりました。レベルは40です」
「ほほう、商人にもレベルはあるのだな」とオサムは言い
「お薦めの防具店はあるか?」と店主に尋ねた
「そうですねぇ、ここをまっすぐ南に行った”ラウル防具店”が初級者には良い品を置いています」
店主の言葉にオサムは
「そうか、感謝する」と言って隣の鍛冶屋に入った。
恐らくあの魔剣の幾つかはビーツが打った物だろう。
「店主は居るか?エリトールだが」
オサムが店先にあるカウンターで呼ぶと
「これはこれは、エリトール様、今日はどういった御用で?」と訊かれたので
「剣の1本位は出来上がって居るかと思ってな、どうだ?」
時間的には出来ているものがあるだろう。やはり気になるので見ておきたかった。
「1本は仕上がっております、見られますか?」と言われて
「そうだな、見ておきたい」
と、オサムは答えた
「少しお待ち下さい、持ってまいります」そう言い残しビーツは奥へ入っていった。
しばらくして
「これになりますが」と鞘を含め拵えが終わった剣を持ってきた。
オサムはそれを受け取り抜いて見ると
ダークブレイブLv40アタック350騎士 付加スキル 闇の剣撃 ダウンブレイク となっていた。
騎士レベル40の魔剣。オサムにとっては遥か彼方であったが、これでビーツの腕がわかった。
「これは魔剣だな、然るべき支払いをする。剣の銘はダークブレイブか、銘は自動で決まるんだな」と鞘に収めてビーツに返した。
ビーツはわけがわからないようで
「どういうことでしょうか?」と聞いてきたが
オサムは
「この剣は魔剣だ、それもかなり強力なものだ。剣の名はダークブレイブらしい。
これ1本で銀貨数百枚かそれ以上になる代物だと思う。なので追加で銀貨400枚を支払う」と言って鍛冶屋を出た。
ビーツはやはり一流の腕を持つ鍛冶師だった。オサムのデザイン通りに作ったものならこの世に二振りと無い剣だ。
もし自分のデザインが攻撃力に影響しているのならオサムは魔剣ばかりを使うことになる。それは良いことなのだろうか?
顔をしかめて道路に立つオサムにリムルはオロオロとしていた
「エリトール様?どうかなされましたか?」とリムルの声が聞こえてやっとオサムは思案の中から出てこれた。
「心配させちゃった?また?けど大丈夫、これは考えているだけだから、ね?」
とオサムは自分の肩より小さいリムルの頭を撫でた。
だがオサムは
「あ!」と言ってまたビーツの店に入っていった。
クライアンのマジックバッグを売っているという店の場所を訊くためだ。
普通のバッグはともかく、防水のマジックバッグを作れるものか聞き出しておきたい。
オサムはビーツからクライアンの店の場所を聞き出した。
「じゃ、近い順に、マジックアイテム店、防具屋に行って、その後家具屋に行こうか?」とリムルに言った
まずはビーツの店からすぐ近くだというクライアンの店からだった。
店に入ると、マジックバッグは置いておらず、ポーション等の安いアイテムが並んでいた。
オサムがバッグの事を聞いたところ、防水は可能だが素材がないと言う。
オサムの必要なだけの水を蓄えるには相当な量の革が必要らしい。
革は強力なモンスターのもので、ほとんど仕入れることが出来ないと言う。
自分で取ってきたものであるならば、工賃だけで作ってもらえると聞いた。
当分の間は難しいということがわかった。
クライアンの店を出て、次は防具屋に向かうことにした。
「確かこの南だと言っていたな?リムルは分かるか?」街モードで話したがこれは意識していなかった。
リムルは
「わかります、ラウル防具店ですね?何度か使いで行きましたので」
まだ心配そうにオサムを見ていた。
それに気付き
「そっか、じゃ、案内してくれるかな?可愛いリムル」といつものオサム語で話した。
リムルに案内されるまでもなく大通りを南に向かうと目的の防具店が見えた。
「ここかぁ、ラウム防具店」と言いオサムはずかずかと入っていった
「いきなりですまぬが、軽くて丈夫な鎧はあるか?」と唐突に店主に聞いた。
店主はいぶかしい顔をしてカウンターから出て
「ウチの商品は全て一級品ばかりですよ」と答え
「見たところ、騎士様ですか?」と訊かれたのだが
リムルが
「この方はフルグリフ伯爵様の筆頭騎士であるエリトール様ですよ」と先に答えてしまった。
何故か機嫌の悪そうな声だった。
『どうしたんだ?リムルちゃん、ストレスためちゃったかなぁ』とオサムはわからなかった。
「騎士様でしたらこちらの金をあしらったフルプレートアーマーは・・・」と店主が言い掛けたが
「冒険者用で頼む。軽く丈夫で動きやすいものだ」とオサムが遮った
「すまぬな、儀礼用のフルプレートはもうあるのだ。今は一冒険者として来ておる。何かあるか?」
とオサムは店主を見て言った。
ステータスが出ない、店主は普通の商人のようだった。
「でしたらこちらのハーフプレートはどうでしょう?内側が革鎧になっていて重要な場所に鉄の板を2重に打ち込んであります、少々重いですが、動きやすさと防御力を備えています」
「楯無しでも重要な部分を防御出来る造りとなって居ます」
店主が言うと
「それは良いな、で、他には?」と店主に訊くと
「スケイルアーマーかチェインメイルを所々に配置したハーフプレートアーマーもございます。」
店主が手のひらで
「こちらになりますが」と見せられた鎧は使い勝手が良さそうだった。
「ハーフプレートか、造りも良さそうだな。それに動きやすそうだ。少し重いか?」
オサムはある程度の強度があれば十分だった。
ビーツに打たせている甲冑はオサムがデザインしたもので、完全にPRGの世界に出てくるようなフルプレートをも凌ぐであろう甲冑だ。
「兜はあるか?視界の広いハーフタイプで良い」
リムルがそれを聞いて
「そんな傭兵のような兜などエリトール様には・・・」と言ったが
「それではこちらはどうでしょうか?」と持ってきた兜がさっきのハーフプレートアーマーに似合いそうなので
「試着しても良いか?」と訊くと
「どうぞ、その平服でしたらそのまま着込めると思います」と店主が答えた。
しばらくリムルの助けを得ながらオサムが試着を済ませ
「これは動きやすいな、革鎧と対して変わらぬ。兜も視界が広い、これを貰おう、幾らになる?あと、荷物になるので城に届けてほしいのだが」
オサムが言うと
「それは銀貨200枚でどうでしょう?兜を含めてですが」と店主が答えると
「高いです、せいぜい銀貨100枚でしょう?見た目は良いですが、これは高名な鍛冶師が作ったものでは無いではないですか」
「それに装飾もなく冒険者用に作られたものでしょう?」
オサムはリムルがこういう場で素で怒るところを初めて見た。
『こういう強気な面もあるんだなぁ、リムルって怒らせるとこうなるのか。ビーツにも食って掛かりそうだったしな』
などと考えていたが。こんなところで時間を潰しているヒマはない。
「ということだが、銀貨150枚でどうだ?また買いに来るかもしれんぞ?」とオサムが言うと
「エリトール様は浪費が過ぎます、ここは銀貨100枚で譲れません」
リムルはどうしても譲らないようだった。
「わかったわかった、ではこうしよう、この鎧と兜は銀貨100枚。次に買う時はもっと良い物を買おう。それには相応の金額を出す」
オサムは腹芸が得意ではなかったが、落とし所は間違わない。
「わかりました、では銀貨100枚で。店を閉じてから城にお届けします。エリトール様」
はっと店主が気が付き
「エリトール様ですか?伯爵様のお命を救ったという・・・失念しておりまして申し訳ございません」
『面倒くさくなりそうだな、さっさと済ませよう』オサムはそう考えて
「いかにもエリトールだが、気にするな。先程の条件で頼んだぞ」
と銀貨100枚を置いて店を出た。
「リムル・・・怒っているのか?」とオサムが訊くと
「いえ、エリトール様の知らないことにつけこんで、あまりにも吹っ掛けて来ましたので」
リムルは言うが
「俺のリムルはやわらかな女性であって欲しいんだ、我侭だとは思うけどお願いね?」
とオサムに言われてリムルの機嫌は一気になおった。
「エリトール様の私ですか?とても嬉しいです」とリムルは言い
「あ、申し訳有りません、エリトール様の侍女程度の私が・・・」と言い終わる前に
「俺のリムルだよ?俺の大好きなリムルだ。侍女程度とか思ってないからね?」とオサムが言った。
それで完全に機嫌が治ったようだった。
「それで、俺の用事は済んだんで、家具を見に行こうか」とオサムはキョロキョロと見回した。
「リムル、家具屋とか木工の場所って知ってるかな?」と訊くと
「私の育った場所なのでよく知っています、お城の東になります」
リムルが答えたので
「そっか、じゃあ街の東に行こう」とリムルの手を握ってオサムは歩き出した。
少し早目に歩いて行くオサムにリムルが
「あの、エリトール様?」と言ったので
「あ、早く歩きすぎた?用事が終わってあとはリムルの家具を買うだけだからさ」
とオサムは気が付かずに少しゆっくりと歩いたが
「いえ、そうではなく、手が」とリムルが言うと
「あ、そっか、引っ張ると痛いよね?ごめんね?痛いところはあるかな?」
オサムが言うと
「エリトール様に手を引かれるなど、侍女の立場ではございません、私は嬉しいのですが、主従の立場というものを気になさって下さい」
とリムルは言うが
「いいじゃん、城の外だし平服だし、恋人同士に見えるんじゃないかな?わからないけど?」
とオサムがあっけらかんと言うと
「恋人同士・・・」とリムルはうつむいて止まってしまった。
「この際いいじゃん、楽しもうよ、ね?リムル?」とオサムが言うと
「でも、侍女である私が筆頭騎士様のエリトール様と・・・」とぶつぶつ言い出した。
「いいからいいから」とオサムは少し強引にリムルの手を引っ張って東へと歩いていった。
「えっと、この辺かな?」とリムルにオサムが訊くと
「はい・・・このあたりの通りが木工の通りです」と小さな声でリムルが答えた
「どうしたの?どの店がいいのかなぁ、リムルの服かなり買ったし大きいクローゼットが欲しいよね?」
オサムが言っても、リムルは何か小声で言ってるだけで聞き取れなかった。
「あ、あそこの店大きいぞ?入ってみよう」とリムルを引っ張っていった。
「主人は居るか?クローゼットが欲しいのだが、出来れば大きめのものが」
と言ってオサムは気がついた、俺のも居るな、丈夫なやつが。
甲冑や剣はこれからどんどん増えるだろう、それを入れておく物が要る。
それにオサムの服もかなりの数がある。十分な容量のものが必要だ。
その時、奥から店の主人が出てきて
「はい、どのようなものをお探しですか?」と訊かれ
オサムはリムルに
「どのくらいのが要るんだ?俺はこういうのに疎くて、リムル?」
その言葉でブツブツと言っていたリムルがはっ!と気がついた。
「えーと、30着位入るクローゼットを二つと、武器防具を入れておけるものを一つ、どちらも大きな物をお願いします」
「30着かぁ、衣装持ちですねぇお嬢さん。剣を見たところ平民じゃ無いですね?騎士様ですか?」と店主は訊いてきたのでリムルが
「エリトール様は伯爵様の筆頭騎士様です。エリトール様ですよ?」と答えた。
店の主人もエリトールの名を聞き
「あ、これは失礼を致しました。えーと、騎士様でしたら甲冑も入るこれがお薦めです。
奥方様にはこのクローゼットはいかがでしょうか?」と店主が言うと
「ははははは、リムル、奥方様だってさ。やっぱりそう見えるんだね」とオサムは笑った。
リムルは真っ赤になり
「で、ではその3つを城まで届けて下さい。おいくらになりますか?」と言うと
「3つ買って頂けるんでしたら、銀貨30枚にしておきます。
こいつはウチの目玉商品でしてね、ちと値は張りますが、ご満足頂けると約束できます。」
オサムは「そうか、では城に運んでくれ、銀貨30枚だな」と手渡し「頼んだぞ?城のエリトールの部屋だ」と念を押して店から出た。
「奥方様・・・奥方様・・・」リムルは念仏のように繰り返していた。
「リムル?リムル?」とオサムが肩を揺すると「はい!」とリムルが反応した。
『なんだかリムルちゃんで遊ぶの面白いな』とオサムは考えたが。
「買い物は済ませたので城へ戻ろうか、荷物が届くのを待とう」と言うと
「そうですね、一旦お城へ戻りましょう、エリトール様」と笑ったつもりだのだろう
しかし、リムルの笑顔は少々引きつっていた。オサムはそれが面白かった。




