とある日の昼下がり04
全くもってよくできているものだよ。本当に……
これが、これが人形だって!?
……いやまてまてこれは本当に人形なのかもしれない。
精巧に、精密に作られた生きているかと疑ってしまうようなものかもしれない。
考えても見ろそんなヤバイ組織が今この世界に存在できるものなのか?
人一人を衛生カメラや町中に張り巡らされた監視カメラの映像から特定するぐらい朝飯前なそんな世界に存在できるものなのか?
仮に存在しているとして何故それが俺のところに届いた?
手違い?
いやそんな初歩的なミスを人身売買出来るような組織がするとは思えない。
いやまてよ。そう考えるとさっき来たあの青年。
やけに中に入りたがっていたが……。
まさかとは思うが俺は利用をされているのではないか?
良くあるじゃないか。
そういった組織は直接会うのではなく、場所を指定して時間をずらして目的のものを手にいれる。なんてな事を。
「チッ」
ダメだな。
どう考えても人形なんて結論よりも人であるという結論の方に行き着く。
これは詐欺とかそういう問題ではない。
人身売買だ。
もちろん俺はそんなヤバイ組織的なものの存在に関わってはいない。
少なくとも今のところはそういう問題は問題ではない。
犯罪の被害者である一人が目の前にいるという事実。
本当に笑えない。
もしかしたら後々人がここに来る可能性だってあり得る。
はぁ~これはどうにも俺一人の手に負えるものではない。
まさか詐欺の方がマシと思える日があるなんてのは意外だった。
人生でこんなこと、いや何度転生しようと一度あるかないか、普通はないんだかな。
俺は大きく首を振ってから自室に戻るとケータイを手に取り電話帳からある知り合いを選択してケータイを耳元へともっていく。
『おう、久しぶりじゃないか?』
僅か数回のコールで受話器が上がり、懐かしい渋い声が耳に届く。
彼は『見名塚 シン』。
俺の元仕事仲間で友人。
一人暮らしを始める前、学生時代では部活動でよく競り合ったものだ。
彼は実家の近くに住んでいて俗にいう幼馴染みというもので年は俺よりも一つ下。
人生で親の次に長く寄り添い、最も信頼に置ける相手。
それが電話の向こうにいる男だ。
「もしもし?」
とはいえ久しぶりだからか?
どうも緊張してしまっている節がある。
親は巻き込みたくない。だがこいつはいいのか?
そんな葛藤もある。
が、それはこいつという存在の安心感的なものが相殺する。
だがやはりこれから伝えることになる物事について、巻き込んでしまう罪悪感のようなものがあるのは事実だ。
『おう、お前が俺に連絡を寄越すとは珍しいな』
懐かしい声。
すっかりと声変わりしてしまって低く、渋くなってしまった声。
子供の頃によく遊び、もしかしたら共働きだった親よりも聞いているかもしれない声。
そんな声に俺は安心感のようなものを産み出したのかもしれない。
緊張がほぐれていく。
「確かにそうだな……もう何年になる?」
『んーメールはそれなりにしているが、声を聞いたのは確か……お前がここを止めてから一度お前に仕事を頼まれて……だから3年ぐらいか?』
「もうそんなになるか」
『そうだな……それぐらいになるな』
時が経つというのは本当に早いものだ。
『それで、わざわざ俺に電話を寄越すってことはそれなりの事が起こっているということでいいのか?』
「あぁ、話が早くて助かる。実は折り入って話したい事があるんだが……今日は大丈夫か?」
「もちろん構わない。ちょうど今は手が空いていたからな。それで、何の用なんだ?」
「あぁいや、実は直接会って話したいんだが……」
「ふむ、一応確認するがそれはわざわざ出会う手間をかけるほどの事か?」
「あぁ、そうだ」
「速答か……オッケイ分かった。あぁもう一つ言っておくが、それはお前の仕事を手伝うとかそういうのではないよな?」
「あぁ……」
「了解したよ。正直なところ立て込んでて暇ではないが、なにしろ親友の頼みだ。今夜は居酒屋で一杯やるのを我慢してお前の所に寄ってやろう」
「ん?……それは結構暇なのでは?」
「んんっ!……あぁすまんなノイズが入ってよく聞こえなかったよ」
「それは結構――」
「えっ、何だって?」
「……悪いがこっちはマジで話してんだ。そんな頓痴はいらん」
「……すまん」
「いや、それで問題はないんだな?」
「あぁ、溜まってる仕事は出来るだけ部下にでも押し付けるさ」
「ひっでぇ上司だな」
「お前が言うな。お前がここを止める際に一切合切の物事を押し付けたお前がな」
「そうだな。すまないと思っている」
「いいさ、過ぎたことだし、仕方ないとも思っている……それじゃあまた後でな」
「あぁ……また」
よし、これで一応はなんとかなるだろう。