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39・久しぶりの再会

「——全員出席しておるかな?」


 サザラント王は上座——つまり部屋の一番奥の椅子に座り、そう口を開いた。

 この会議室にある長方形の机に一定の距離を開けて、俺と王様を含め九人の人物が座っている。


「今更説明しなくても分かると思うが、今日は新顔がおる。グーベルグの領主から自己紹介をしてもらおうかな」


 ギロッ、と王様の目がこちらを向いた。

 特段逆らう意味もないので、椅子を引いて立ち上がって、


「……グーベルグの領主、フェイクだ。諸事情があって、少し前に領主を交代した。よろしくな」


 と手短に紹介を済ませた。


「ふむ……フェイク、そなたの名前は秘書から聞いておるぞ。なかなかに優秀な領主らしいな」

「お褒めに預かり光栄です」

「それに奇術都市の領主の次に若い。サザラントの発展のためには、そなたのような若い力が必要じゃ」

「…………」


 一応褒められているんだよな?

 王様の本性を予め知っているので、一つ一つの言葉が胡散臭く感じた。


「次は僕の紹介だね。僕は——」


 俺の右隣にいたヤツから順に自己紹介を始めた。

 それによると、反時計回りで王様を除いたらここにいる人物はこういうことらしい。



 奇術都市クナピニュ——アルヴィン領主

 迷宮都市ゼンツィア——ヘンミンキ領主

 他民族都市タニッセート——トゥオマス領主

 騎士都市オルペティア——ヴァロ領主

 魔法都市メンルレル——ブラホスラフ領主

 平原都市ハーデテック——ヒューバート領主

 近代都市アヌトゥス——マドレーヌ領主



 そして我がグーベルグは『冒険都市』と呼ばれているらしい。

 ちなみに一番最初に絡んできたおっさんは騎士都市オルペティアのヴァロという。

 フーゴと同じような臭いがして不快な気分になる。


「よし、これで紹介が済んだな。早速じゃが——」


 王様が気分良く話しているが、俺の正体に気付いている様子はない。


 何故か?

 さすがに異世界から召喚させておいて、もう俺の顔を忘れることはないだろう。多分だが。

 もし王様が忘れていても、この会議室に来るまでに何人かの兵士とすれ違ったのでその途中で気付かれてもおかしくはない。

 それなのに、自然な形で会談が始められようとしている理由。



 ——変装の超能力。



 今回、使った超能力がそれだ。


 ……いや、だんだん超能力がショボくなっているなって思わないでくれよ。


 この超能力、地味ながらなかなか使い勝手がいい。

 今の俺——金色の髪でとんでもないイケメンの顔になっている。

 体つきも少し作り替えて、細身ながらもちゃんと筋肉が付いているような——所謂いわゆる細マッチョになっているのである。

 こんな容姿に変装させているものだから、ここに来るまでに何人かの女の子のジロジロとこちらを見られた。


 この顔と体のままだったら、モテモテハーレム生活が実現する?

 いや、俺にはエコーとかフラン、マリーズがいるから今のままでいいだろう。

 三人に飽きたらどうするかは、これからゆっくり考えよう。


「サザラントの財政状況は——農業は——」


 おっとこうしている間に会談が進んでいる。


 内容はとても退屈で欠伸が出そうであった。

 ありきたりで平凡で瞼が重くなっていく。


「隣国の状況は——軍事費は——」


 ——ダメだ、意識が途切れてしまう……。


 眠気が限界にきて、眠りに落ちそうな瞬間であった。



「陛下。少し聞いてもいいですか?」



 のんびりと間延びしたような男の声。


「なんじゃ?」

「——なんでもサザラントの騎士団長が何者かに殺されたという不穏な噂を聞いたのですが? 騎士団長フーゴ殿は一騎当千の実力を誇っており、一人で百人の魔法使いをも相手にする、と他国から恐れられています。そんな騎士団長が殺された、となったらサザラントの防衛上良くないのでは……」


 騎士団長——フーゴの名前が聞こえてきて、一気に意識が覚醒する。


 そうそう、ちょっと気になっていたんだよな。

 無論、騎士団長フーゴは俺によって夜空の星となった。

 普通騎士団長がいなくなったら、もっと騒ぎになるはずだろう?

 それなのに、あれから変わった様子がなかったことに疑問を抱いていたんだ。


「そのことじゃが——」


 王様は表情一つ変えず、毅然とした態度でこう言う。


「まず『騎士団長死亡』という噂は全くのデマじゃ」

「デマ? 間違った情報が流れているということですか?」

「そうじゃ。フーゴが簡単に殺されるわけもあるまい」

「それじゃあ、どうしてそんな噂が流れたのかなぁ」


 そうキャンディーを舐めながら尋ねたのは、会談前に話しかけてきた例の子どもであった。

 奇術都市の領主だっけな? そいつは王様を前にしても臆さず、目も合わせないで問う。


「最近、フーゴは遠征に出掛けておる。そのせいでなかなか戻ってこれないのじゃ。大方おおかた、騎士団長の姿を見ていない者が無責任に言い始めたことじゃろう」


 それに対して、王様は淀みない言葉でそう続けた。


 ……成る程な。

 結局、王様——ってかサザラントとしては騎士団長死亡のニュースを隠蔽いんぺいするつもりなのだ。

 騎士団長が何者かに殺された——。

《ネドトロス》の可能性が高い、ということも伝わっているのだろう。

 騎士団長が一介の不良集団に殺されたなんて出回ってみろ。

 あっという間に国は混乱状態に陥り、他国から侵略されてしまうに違いない。


「それだったら良いのですが……」


 最初に質問した男もそれを聞いて口を閉じる。

 とはいっても顔はあまり納得しておらず、腑に落ちないって感じだ。


「ふむ……なので安心して欲しい。サザラントは盤石だ」


 そう王様は「フン!」と鼻息をして、自信満々にそう締めた。


 うーん、あまり実入りのない会談だったな。

 この状況で王様に復讐しちゃうのは、なんか違うような気がするし。

 騎士団長のフーゴの時と同じく、愉快な状況で復讐は果たしたい。


 内心そう肩を落としていると、



「……お父様。会談は順調ですか?」



 ギイィ、と扉が開いて女性が中に入ってきた。

 煌びやかな衣装に身を包んだ女性だ。服だけではなく、顔やスタイルも絶品で思わず見とれてしまう程であった。

 輝きを放つ女性。その女性が声を発しただけで、全員がそちらの方を見やる。


「第一王女……」


 その中の誰かがそう呟いた。


 ——そう。

 みんなの視線を一瞬にして釘付けにした女性は、サザラント王の娘でもあり王女でもあるリュクレースであった。


「おぉ、リュクレースよ。勝手に会談の途中に入ってくるな、と言ったではないか」

「あら、わたくしだって興味がありますもの。それに国を想う気持ちは皆様と一緒ですわ」


 優雅に歩き、そのまま王様の隣に立った。


「む、むぅ……」


 王様はそれ以上反論しようにも、リュクレース王女にタジタジであった。


「……そうだ。俺はこいつの顔を見てみたかったんだ」

「んー? お兄ちゃん、なんか言った?」


 思わず呟いてしまった言葉を、隣にいる奇術都市の領主が拾う。


「なんでもない。リュクレース王女は稀代の美しさだと言う。一目見てみたかったと思っても不思議ではないだろ?」

「んー、んー。毎年見ているけどね……あっ、そっか。お兄ちゃん、この会談初めてなんだよね」


 どうやら納得してくれたみたいだ。

 ここで正体がバレてしまうことは避けたかったしな。変なところに気が付く子どもだぜ。


 奇術都市の領主か——。

 顔だけは覚えておこう。名前はすっかり忘れてしまったが。

 未だキャンディーを一生懸命舐め続けているそいつを見て思った。


「とはいっても会談はもう終わりに近いのじゃ。リュクレースが面白いと思うような話はないと思うが……」

「あら、残念ですわ」


 口元に手を当て、クスクスと笑うリュクレース。

 一つ一つの動作が精巧なお人形のようで、目を奪われてしまう。

 奇術都市の領主は別であるが、他の領主達は口を半開きにしていた。


「では——みなさん。わたくし、美味しいお菓子が好きですの。どうせですからお菓子について話し合いませんか?」

「こらこら、なにを言っておる……」


 天真爛漫なリュクレースの発言に周りは苦笑する。

 とはいっても、みんなリュクレースに好感を覚えているようで、一気に場が和やかになった。


「…………」


 だが、俺だけは腕を組んでリュクレースと目を合わせない。

 ——何故なら俺はこのリュクレースがとんだ腹黒王女だということを知っているからである。



 ——とうとう姿を現したなリュクレース。



 俺が退屈な会談にわざわざ出席した理由。

 それはあわよくばリュクレースに対して復讐を遂げようと考えたからだ。

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