38・会談
領主、ギルドマスター、《ネドトロス》——の全てのリーダーを務め、名実共にグーベルグを支配した俺。
忙しくも充実した——ってか仕事なんてほとんせずに、フランとかアリサに任せているけど——そんな日々を過ごしていると、
「サザラント王から手紙が来ているっ?」
部屋まで奴隷のフランが入ってきて、耳を疑うようなことを言った。
「うん——まだ信じられないけど、君はグーベルグの領主であることは間違いないからね。グーベルグというとサザラント王国の主要八都市に数えられる」
「そうなのか?」
「そうだよ。その主要八都市では年に一度——主要都市会談というものが行われる。差し詰め、その日程と出席確認のための手紙だろうね」
俺はフランから手紙を受け取り、封を切って中身を見る。
『○月△日 サザラント城にて主要八都市の会談を予定している。サザラントの大いなる発展、そして情報交換のためにも是非出席すべし』
短い文であるが、内容は伝わる。
「……拒否することは出来ないかな」
「どうして拒否する必要がある。それに一応出るかどうか聞いているけど実質強制だよ。断った場合、なにをされるか分かったもんじゃない」
そうだよな……。
「うーん」
俺は頭の後ろに手を回し、唇を尖らせて考える。
——俺、忘れそうになるけど異世界からの召喚者なんだしな。
城から脱走する時に死んだことにしているし。
それなのにノコノコと城に顔を出すのは自殺行為とも言える。
「いや、これはチャンスか……?」
——サザラント王、そしてリュクレース王女とも顔を合わせる貴重な機会とも言える。
最終的な目標はその二人に復讐をなすことだ。
だが——同時に時期が早いような気もする。
「確かにチャンスだよ。この会談でグーベルグの存在感をアピール出来れば、自ずと実入りも大きくなるだろうから」
「ん? あ、ああそうだな」
俺は「二人に復讐するための」チャンスだと捉えたが、フランはそうじゃないらしい。
「顔を変えることが出来れば……な」
——まあそれについてはなんとかなるだろう。
チャンスであることは間違いないんだし。
「フラン。じゃあ俺、出席するよ。出席の意志を伝えるためにはどうすればいいかな?」
「それだったら、使いの者に……」
取り敢えず出席してみることにしました。
なんとなく面白そうだしな。
改めて日程を見ると、どうやら一ヵ月後先に行われるらしい。
会談のことを思いつつ、慌ただしく動き回るフランの『胸』や『尻』を見る。
あいつ、最初は文句言ってたくせに、今では立派に奴隷兼秘書を務めてるよな……。
「ん? 君からなにか邪な視線を感じるけど……」
「気のせいだ」
■
——そしてあっという間に一ヵ月。
この間、ギルドではマリーズが暴れ回り、高ランクのクエストを次々と成功させていった。
そして冒険者が多く——同時に荒くれ者の多いグーベルグの治安は表では『領主』として守り、裏では『《ネドトロス》のリーダー』として守っていった。
サザラント王国までは走って行っても良かったんだけど、たまには休みたい欲求もあり用意してくれた馬車でゆっくり行くことにした。
そしてサザラントに辿り着くやいなや、早速会談場所に通され、
「ククク……グーベルグの新領主は若いと聞いていたが、まさか十代だとは思っていなかったぞ」
いきなり口髭を蓄えたおっさんに絡まれた。
「若かったらダメなのか?」
「いやいや、そうとは言っておらん。しかしそれだけ若ければ市民を上手く統率出来ないのでは?」
「うーん、今のとこそうじゃないと思うけどな」
「若ければ舐められる。儂も若い頃は……」
適当に受け流していたら、なにか語り出したのでその場から離れる。
——会談はサザラント城にて行われる。
まだ二ヵ月くらいしか経っていないものの、今となっては懐かしい。
会談場所はサザラント城の中では『会議室』と称される場所であった。
でかいテーブルがあり、椅子が九人分用意されている。
サザラント王が来るまで、会談場所に集められた領主達は各々が自由に行動している。
談笑したり。
じっと椅子に座って一点を見つめていたり。
さっきのおっさんみたいに、絡んでくるヤツもいる。
「ねーねー、君。強いのー?」
領主達を観察していたら、死角から服の裾を引っ張られる。
「強い?」
「うんうん。知ってると思うけど、僕の街では力こそが全てなんだ。君が僕より弱かったら……グーベルグを喰っちゃおうかな」
「あっ、そ。まあお前よりは強いと思うぞ」
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
そいつは年端もいかぬ子どもに見えた。
俺なんかよりも何倍も若い。六歳くらいの男の子に見えるぞ?
そいつは右手に持ったキャンディーを一舐めして、そのまま他の領主へと話しかけにいった。
「さっきのも領主……なんだよな」
「そうよ」
「ぬおっ!」
独り言のつもりだったが、後ろから応じる声が聞こえてきて思わず驚いてしまう。
「さっきのはクナピニュのアルヴィンね。気を付けなさい。領主になったばかりで分からないと思うけど、あの子がこの中で一番ヤバいから」
「ただの子どもに見えたんだけどな」
「ふふふ、歳で相手を判断するのは最も愚かな行為よ」
どっかでおっさんのくしゃみの音が聞こえた。
俺に忠告してきたヤツは、この部屋の中で唯一の女性であった。
さっきの子どもとは違い、『大人』を感じさせる容姿で妖艶でそしてとっても胸がでかい。
三角帽子を深く被っており、鍔で目元がよく見えない。
その女の人は名前も告げず、それだけ言ってどっかに行ってしまった。
「うーん……なんというか、一方的に話を告げるヤツが多いってか一癖二癖あるようなヤツ等ばっかりだな」
頭を掻きながら、呑気にそう思う。
明らかに強キャラ感を醸し出している。
まあそうじゃないと、一個の街を任せられる領主になんてならないか。
全く。グーベルグの元領主がなんで領主になれたのか分からなくなってくる。
意外に面白そうな会談になりそうだな。そう思ってワクワクしていると、
「ふむ——待たせたな」
扉から入ってきた人物を見て、俺以外の領主の背筋がピンと伸びる。
「皆の衆、久しぶりじゃな。儂の顔を覚えているかのう?」
ああ——覚えているよ、忘れるわけがないだろうが。
「王様——」
誰かのそんな呟き声が聞こえた。
そう。
俺達の前に現れた人物こそ、俺を異世界に召喚させた元凶でもサザラント王であった。




