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21・最初の復讐

【フーゴ騎士団長】


 ——近くの平野でベヒモスが大量発生しているらしい。


 そのような話を聞きつけ、フーゴはサザラントの王都——ヘブリッジから歩いて三日程のところまで遠征に来ていた。

 フーゴはサザラント王国随一の騎士団、そのトップでもあった。

 二十人程の騎士を引き連れ、報告のあったところまで来る。


 少し待ってみると、三十体程のベヒモスが現れた。

 ベヒモスは並の冒険者——Bランクくらいであろうか——ならばまず単独ソロで倒すことが出来ず、脅威のモンスターでもある。

 それが三十体も現れているのだ。

 普通なら二十人の騎士では対抗出来ないはずだが——。


「ぬるすぎる」


 ベヒモスの死体の山に座り。

 フーゴは風景を眺めながら、そう剣を突き立てた。


「つ、強すぎる……」

「ほとんどフーゴ騎士団長がやったじゃないか」

「さすが『鬼神』とも呼ばれる伝説の騎士はモノが違う」


 連れてきた騎士はほとんどが新人で、壁くらいにしか使わない。

 フーゴは剣で舞い、時には魔法を使い、傷一つ負うことなくベヒモスを全滅させたのである。


「ふん。今日はもう日が暮れる。野宿をして、明日にヘブリッジに帰るとするか」


 賞賛の声なんて気にしていない。

 ——という風な素振りを見せているが、フーゴは内心心地よさも感じていた。

 部下がキャンプの準備を終え、フーゴはたき火の前で考えごとをしていた。


(……そういえばあの異世界からの召喚者。もっとイジめ抜いてやろうと思っていたのに、すぐに死んでしまうとはな)


 異世界人の死は今のところ隠蔽されている。


 それはそうだ。

 多額の税金を使い、召喚した異世界人が騎士に殺された?

 そんなことが民にまで知れ渡れば、暴動になるかもしれない。


(暴動になったとしても、オレ一人で片付けてやるがな)


 実際。

 有象無象の連中が束になってかかろうと、フーゴには敵わない。

 自分の力に対する自信。

 だからこそフーゴは異世界人が死んでしまおうが慌てていなかった。


 一つの遊び道具がなくなった——。

 それくらいにしか思っていない。


(今回のベヒモス討伐で報酬金が出るか?

 その報酬金で街の女でも買いに行こうか。いや……もしかしたら、リュクレース王女もそろそろオレに惚れるんじゃないか?)


 ニヤリ、と口角を吊り上げるフーゴ。

 順風満帆な人生。

 曇りは一部たりとも見つからない。


 ——ああ、それにしても眠くなってきたな。


 瞼が重くなっていくのを感じ、テントの中へ戻ろうとすると。


 ズゴォォォオオオオオン!


 突如。

 フーゴの背後でとてつもない爆発音が聞こえた。


「な、なにごとだ!」


 その瞬間。

 フーゴはスイッチが入り、剣を手に取っている。

 テントから休息を取っていた騎士達が慌てふためいた様子で出てくる。


「な、なにものかが襲撃しにきたようです!」


「なんだとっ!」


 まさか全滅させたと思っていたベヒモスの残党か?


 いや——ベヒモスに爆発魔法なんて使えない。

 音が聞こえた方を見ると、大きな穴が空いていた。

 こんな穴を空けられるのは、メテオでも使わなければ不可能なはず——。


「ククク……平和ボケした頭に鉄槌をくらわせてやる」


 どこからともなく。

 闇に紛れるように低い声が聞こえた。


  ■


 時は《ネドトロス》を壊滅させた頃に遡る。


「……嫌だ、と言ったら?」


《ネドトロス》をくれ、リーダーにならしてくれ。

 そう言ったら、アリサは顔を歪めた。


「その時は仕方ない。どうなっても仕方ないよな?」


 こちらとしては、超能力で塔をぶっ壊して「もう《ネドトロス》って名乗るなよ」と言うくらいのつもりだった。

 だが俺の言い方が威圧的に聞こえたのか。

 アリサは身震いをして、


「……分かった。私達に選択肢はないんだしね」

「話が早くて助かる」


 と承諾してくれたのである。


 よし、ここまでは計算通り。

 これで今から俺は魔法結社ネドトロスのリーダーなのだ。


「でも……一つ気になるのがなんで《ネドトロス》なんだい?」

「ん? どういうことだ」

「だって君なら一人でもサザラントに復讐出来そうじゃないか。一つ言っておくけど——《ネドトロス》は優秀な魔法使いを集めているけど、それでもサザラントの騎士団には勝てないだろう」

「…………」

「《ネドトロス》の中でも私がぶっちぎりで高ランクの魔法使いなんだよ。その魔法使いに君は圧勝した。とても君の力になれると思わないけどね」

「お前等の言っている……その、ランクがどういう意味なのかは知らん」


 興味はないしな。

 ふむ、でもアリサの言いたいことは分かっていた。

 つまり「俺にとって《ネドトロス》はただの足手まといじゃないか」ということなのだ。


 確かに——。

《ネドトロス》はあくまで性欲の化物だけであり、俺にとっては戦力の一つには数えがたい。

 アリサくらいだったら、お手伝いさんくらいにはなってもらえるかもしれないが、他の連中は俺にとってはエコーに毛が生えた程度だ。


「……なんでしょうか。今、私のことすっごくバカにされたような気がしましたが」

「おお、お前もマインド・リーディングが出来るのか」

「まいんど・りーでぃんぐ? それってなんなんですか?」


 エコーがツッコミを入れてくる。

 エコーみたいに美少女なら目の保養にはなるかもしれないが、《ネドトロス》はむさい男連中が多い。


 俺にとってはなんらメリットもない。

 だが——俺にとってメリットでなくても、騎士団の連中にとってデメリットになると考えた。


「きっと騎士団のヤツ等もそう考えているんだろうな。

『どうせゴロツキ連中だ。いつでも滅ぼすことが出来る』

 って。

《ネドトロス》は騎士団にも注目されている、と言っているがそれは警察がそこらへんのポイ捨てする連中を注意するようなもんだ。

 そりゃあ、他の民に悪いことをしているんだから、例え《ネドトロス》がゴミでも注目するだろうさ」

「……けいさつ、ってのがなんなのか分からないが、私達のことをバカにしてくれるね」

「でも事実だろ?」

「はっ! その通りだね」


 アリサが自嘲気味に笑う。

 結局のところ、騎士団にとって《ネドトロス》は注目されているが、危険視まではされていないのだ。


「でも……これから戦力を整えていって、騎士団とも戦えるような集団にしていく予定だったさ」

「ハハハ、それじゃあ俺が《ネドトロス》のリーダーになったら戦えるどころか勝てる集団に早変わりだな」

「……君は本気でサザラントの騎士団に勝てると思っているのかね」

「当たり前だ」


 サザラントの騎士団は《ネドトロス》のことを侮っている。

 そんな連中が——ただのゴロツキの集まりだと思っていた《ネドトロス》に敗北したら?

 これ程、屈辱的なことはないだろう。


「もし騎士団が《ネドトロス》に負けたらあいつ等は悔しくて悔しくて仕方ないだろうな。それが俺の狙いだ」

「じゃあ君は騎士団の精神にもダメージを与えよう、と。そのために《ネドトロス》を使いたい、と」

「ああ」


 首肯する。

 これが俺の考えたサザラントへの復讐その一。


『絶対勝てると思っていたヤツに負けたらあいつ等はメッチャ悔しがるだろう作戦』


 だ!

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