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2・魔力ゼロ

 視界が戻ったかと思えば、いつもの帰り道の風景ではなかった。


「おお! 勇者召喚に成功したのか!」


 なんだなんだ?

 俺の目の前には豪華な椅子に座り、白髭を生やしたおっさんが。

 いや、それ以外にも人がいる?

 ってか多くないか? 大勢の人が俺を取り囲んで、視線をこっちに向けているみたいだぞ。


「……ここは?」


 少なくても、日本には見えなかった。


「ふむ。ここは知っての通り、サザラント城じゃ」

「いやいや、みなさんご存知の、って感じで言われてもね……」

「おお、そうじゃったな。そなたは『異世界からの召喚者』じゃったな。平民なら足を踏み入れるだけで、感涙で前が見えなくなると言われるサザラント城を知らなくても無理はない」


 まるで怒られているように感じた。

 うーん、サザラント城?

 それに『異世界からの召喚者』ってどういうことなんだ?


 ぐるりと辺りを見回す。

 確かにお城の中っぽい。ということは、あの椅子に座っているおっさんは王様といったところだろうか。

 剣を腰に携えたり、「ヒヒヒ」と謎の声を発しているロープを着たヤツ。

 物騒なヤツしかいないじゃないか。

 あっ、美少女もいました。王様の横にいる子なんだけど、白色のドレスに身を包んで、こちらにニコッと微笑みかけてくれた。


 うーん、もしかして俺に惚れたのだろうか。


「どういうことだ? 異世界からの召喚者、って。説明を求めたいんだが」

「よしよし、よかろう……儂に対して無礼な言葉遣いはこの際許してやろう。じゃが二度目はないぞ? もし儂に無礼なことを宣った場合は……」

「早くしてくれよ」


 周囲が殺気立つ。


「よ、よい……仕方あるまい。この者は文明が遅れている異世界から来たのじゃからな」


 と顔を引き付かせながら、王様が手で制した。


「ここからは私目わたくしめが説明いたしましょう」


 どこからともなく、老人が歩いてきてそいつが淡々と説明を始めた。

 まとめると、


・ここは俺が住んでいる世界とはまた違う世界らしい。魔法が発達している世界で、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界といったところだろうか。

・そこに俺は召喚された。どうやら異世界からの召喚者は魔力が高かったり、特殊な才能を持っている者が多いらしい。

・俺は『勇者』としてモンスターを倒したり、他国を侵略する兵士として期待されているらしい。


「マジかよ」


 ぼそっと呟く。

 異世界とかに転移されないかなー、とは思っていたが、まさか本当にされちまうなんてな。

 それにしても、意外にあっさり転移されたものだ。


「どうじゃ? そなたの低い知能でも理解出来たかのう?」


 ってか、この王様。どんどん口が悪くなっていってるな。

 まあこれくらいだったら気にしないけどよ。王様ってやっぱ生まれてから他人にへりくだる経験とかなさそうだしな。


「まあ理解出来たさ。それでこれから俺はどうなるんだ? 早速、モンスター討伐にでも行かされるのか」

「ふむ、やる気があっていいではないか。その前に——まずはそなたの魔力鑑定を行わせてもらうぞ」

「魔力鑑定?」


 また異世界っぽいワードが飛び出したな。


「おい、ワルツ。その者の魔力鑑定を行え」

「承知いたしました」


 と先ほどから「ヒヒヒ」と声を漏らしている怪しげな男が歩み出た。

 マジかよ。こいつ、ただの変質者だと思っていたが、重要な登場人物だったりしたのかよ。


「では早速……」


 ワルツ……失礼、変質者が俺に手を当てる。


「おお」


 思わず声を上げてしまう。

 変質者の手が青白く光っているのだ。ここに召喚される前に見た魔法陣と同じ光だ。もしかしてこいつの力で俺は異世界に召喚されたのだろうか?

 それにしてもどういう仕組みなんだろうか?

 手を発光させる超能力とか? いやいや、そんなわけがない。多分、『魔力鑑定』を行う魔法だったりするのだろう。


「こ、これは……!」


 変質者が後退する。

 なんだ? もしかして、俺の魔力が高すぎてビックリしているのか。


「い、いや! まさか! こんなことが!」

「どうしたのじゃ、ワルツ。もしや……桁違いの魔力が測定されたのか」

「それが……」


 なんかドキドキするな。

 気分としては結構自信のあるテストが返却される時と同じだ。

 変質者が声を詰まらせながらこう言った。


「……こ、この者の魔力はゼロです!」


「ゼロ?」


 えーっと、それって凄いんだろうか?

 周囲がざわざわと音を立てる。


「ゼロ? ゼロじゃとっ?」

「はい、ゼロです」

「なにかの間違いではないか?」

「い、いえ……何度見返しても魔力ゼロ。魔力ランクGの役立たずです」


 役立たずなんて言われてるよ。


 そりゃそうだよねー。

 ゼロに近付くほど、強くなるって考える方が不自然だし。

 それにしてもゼロか……普通、こういう異世界転移ものってチートな能力を授かって出来るもんじゃないのかよ。


「ふ、ふむ……役立たずか」

「どうしますか? お父様」


 王様の隣に控えていた女性が声を上げる。

 女性の声はキレイでとても通りやすく、周囲に響き渡った。


「リュークレスよ……そうじゃな。折角、大金を払って異世界から召喚したのじゃ。役立たずと決まった瞬間、外に放り出すわけにもいかぬ……」


 困惑したような王様の声。


 おやおや?

 ちょっと雲行きが怪しくなってきましたよ?


「陛下」


 近くにいた鎧を着た四十歳台くらいの男が声を上げた。


「陛下——魔力ゼロでは魔法使いとしては無能です。しかし、もしかしたら剣術の達人かもしれぬかと思いますが」

「いくら剣の達人でも魔法使いには勝てぬ。いくら剣が強くても、遠距離から魔法を放たれれば終わりじゃろう」

「ですがこのままゴミ箱に捨てるわけにもいかないでしょう。今回の異世界召喚は民の税金も使われれています」

「それはそうじゃが……」


 おうおう、なんか色々と話し合ってるな。

 うーん、もしかして俺このまま死刑にされちゃうんだろうか?

 いまいち危機感が湧いてこない。

 だって元の世界で『命の危機』にさらされたことなんて一度もなかったからな。

 いや、普通の男子高校生に比べれば何回もあったと思うが、相手が弱すぎてそこまで危機感を抱いてこなかったのだ。


「さてさて、どうしたものか……」


 後頭部に手を回して呟く。

 まあなるようになるさ。

 ぼーっと突っ立てて、知らない間に殺されているっていう事態は回避したいがな。


「そこで……わたくしにこの者を任せてくれませぬか?」

「フーゴ? 騎士団長にか?」

「はい。私がこの者を一流の剣士に育て上げましょう」

「そなたが言うなら……」


 おっ、話がまとまりかけてきたぞ。

 それにしても騎士団長? 一流の剣士?

 今から俺、剣を握らされてひたすら特訓をやらされるのか。


 成る程。まあそれも面白いだろう。

 魔力ゼロと思われていた少年が、騎士団長の指導もあって天才剣士として名を馳せる。

 これはそういう『努力もの』『成り上がり系』の異世界転移だったのか。


「ふむ、そのようにしよう」

「ああ、俺もそれで結構だぞ」

「そなた……どうして、そんなに偉そうなのだ? 元はといえば、お前が魔力ゼロなのが悪いのじゃぞ?」


 ギロッと王様が目を向ける。

 おお、怖い怖い。

 ってかいつの間にか『お前』って呼び出してるじゃねーか。それに元々、お前等が勝手に俺を召喚させたのが悪いんじゃねーか。


「よし……そのようにいたそう。そういえば、聞くのを忘れていたが貴様の名前はなんと言う?」


 ってかやっとここで聞かれるのかよ。

 俺はコホン、と一つ咳払いをしてからこう答える。


蓮浦真はすうら まこと——いや、ここではマコト・ハスウラか。マコトって呼んでくれ」

今日中にもう一話投稿いたします。

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