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【番外編】初対面の日

玲奈視点の智子と富永のおふざけです。

富永光さんと初めてお会いしたのは、宮森家の件が落ち着いてしばらく経ってからだった。

鷹司邸でのお食事会に現れた光さんは、智子とはまた少しだけ違うタイプの方だ。

華やかに装って明るい笑顔を振りまく智子さんに対して、光さんは落ち着いた装いで穏やかに笑う人である。

一見すると智子さんよりも印象が弱いはずなのに、存在感が凄い。

智子さんもそう感じているのか、お食事会では完全に光さんに場を任せきっていた。

玲子さまは智子さんとの会えてご機嫌で、光さんにも興味津々だった。


「富永さんにはとてもお会いしたかったの。主人から聞いた話では今回の件でかなり動いてくださったとか。本当にありがとう」

「恐縮です。ですがあくまで私は補佐でしたし、ご主人や家守さん、そしてうちの日永が動いた結果ですから」

「ご謙遜を。うちの家守はあなたにとても興味があるみたいですよ。彼が仕事に関して認める事は滅多に無い」

憲史さまが苦笑しながら言うと、光さんはにっこりと微笑んだ。

それが智子さんの「仕事モード」と少し似ていて、きっとこの笑顔も光さんの「仕事モード」なのだと思う。


「そんな、光栄です。私としましても、今回の件では色々勉強になりましたし、こうしてご縁が出来たことに感謝しているんです。お誘い頂きありがとうございました」

「まあ、嬉しいわ。それじゃあこれからもこうしてお食事にお誘いしても?」

「もちろんです。ただ仕事との兼ね合いがありますので、なかなかすぐにとはいかないのが心苦しいのですが…」

「気になさらないで! 智子さんも是非、ね? いつもお誘いしているのだけど、忙しいみたいだし。でもたまにはお会いしたいの。もう家族同然なんですもの」


急に矛先を向けられた智子さんは晴れやかな笑みを浮かべて頷いた。

「ありがとうございます。富永と予定を合わせて伺わせていただきます」

「やだ智子さん。玲奈ちゃんと二人で来てくださってもいいのよ」

「は、え、そうですね。ご予定さえ合えば…」

「もちろん智子さんに合わせますよ」

「ありがとうございます。わかり次第お伝えしますね」


智子さんは鉄壁の笑顔で言葉を濁した。

(ああ玲子さま…智子さんはたぶん予定を伝えません…)

私は玲子さまの言葉に内心ハラハラしていた。

智子さんは鷹司家の方々にお会いする時は前日から緊張していてあまり眠れていない。

それなのに頻繁に会う約束をしたら死んでしまうかもしれない。

不思議な事に、私は智子さんにこの状態を治して欲しいとは思っておらず、苦手ならば仕方ないと考えていた。

どうしよう、と悩んでいると、光さんが困ったように笑った。


「玲子様、我が社は業種がら、なかなか予定を確定出来ないのが悩みなのです。私もですが、友人と約束をしていても急遽仕事が入って断る、という事もあって。日永の部署は特にそれが多いので、なかなか合わせられないのだと思います」

「まあ、そうなの?」

「はい。日永も仕事を縮小したとは言え主任という立場ですし。これからもお誘いを断る事があるかもしれませんが、どうかご容赦を。その代わり、私がお伺いする時は日永の部署の上司にきちんとお話して連れて参りますから」


「ねえ、智子ちゃん?」と光さんが問いかけると、智子さんは目をキラキラ輝かせて「はい!ありがとうございます!」といつもの智子さんの笑みを浮かべた。


この後、食事を終えた私は憲人さまと別室でお話していたので、智子さん達がどんな会話をしていたから分からない。

けれど帰る頃には玲子さまはすっかり光さんを気に入って、「今度はもっとゆっくりお話を聞きたいわ」と笑っていた。


ーーーー


無事鷹司邸でのお食事会を終えて車に乗り込むと、智子さんは突然光さんに頭を下げた。

「光さん! マジでほんっっっっとおおおおおおおおおおおおおおおにありがとうございました!!一緒に来てくれただけでなく断りやすくしてくれるなんて!!女神ですか!!」

「ええ、まあ女神ではあるかもしれないわね。自覚はしてる」

「やはり…あ、眩しい…後光が見える…」

「今まで隠してたんだけど、やっぱり滲み出ちゃうものなのね、神のオーラって」

「出会った頃から疑ってはいたんですけどね。眩しいなあって思ってましたもん。そして今日で確信しました」

「困るわあ。神って知られるなんて…」

突然始まった不思議なやりとりに私が目をパチパチしていると、光さんと目が合った。

ふっ、と笑うと智子さん越しに軽く頭を撫でられる。


「ごめんなさいね、智子ちゃんが変で」

「ちょっと光さん、自分を抜かないでもらえます?どっちかと言えば光さんの方がヤバいですから」

「何を言ってるのよ。ねえ玲奈ちゃん、一緒に暮らしてる智子ちゃんは変でしょ?」

光さんの問いかけに私は反射的に「はい」と答えた。


「あ、でも、その、戸惑いはしますが、そんな智子さんが好きなので…」

「え、天使か…」

照れながら私が言うと智子さんが私を抱き締めた。


「光さん見てます!? ここに天使がいます! 私の! 可愛い!! 天使が!!!」

「と、智子さんやめてください! 恥ずかしいです」

「確かに可愛いわ…おいで玲奈ちゃん、チョコあげるからおじさんとデートしようか…」

「え、えええ?」

「ちょっと光さん! 玲奈ちゃんに変な事吹き込まないでください!! 玲奈ちゃんはこのまま清らかな天使として育てていくんですから!!」


智子さんは私を光さんから隠すように身を乗り出した。

「智子さん、そもそも私は天使ではないです…」

頬に熱が集まるのを感じながら私は智子さんを上目遣いで睨んだ。

「ぐっ……玲奈ちゃん…天使はね、みんなそう言うの…って痛っった!!」

智子さんが言った瞬間、ゴスっと鈍い音が聞こえた。智子さんの体を通じて振動が伝わる。

「ごめん智子ちゃん、イラッとしてつい…玲奈ちゃん、もし智子ちゃんにイラッとしたら殴っていいからね」

「…はい」

私が光さんの言葉にのったフリをすると、智子さんが「オーマイゴット!」と頭を抱えた。

「だから! 変な事教えないでください!! 玲奈ちゃんも!はいじゃないから!! ……いや待って、玲奈ちゃんに……殴られる……?」

突然真剣に考え込んだ智子さんが私を見つめながら「よろしくお願いします」と言った。

その瞬間再び光さんが智子さんの頭に手刀を入れていた。


この後から、私と智子さんの家に光さんがよく遊びに来るようになった。

二人のやりとりが面白くて、私はだんだん声をあげて笑うようになる。

そうして私はすっかり光さんの事が大好きになった。


玲子さまが知ったら寂しがってしまうので、お二人の晩酌会の事は私と憲人さまだけの秘密だ。


でも憲人さまが「これ以上ライバルが増えるのは困るなあ」と言っていたのは一体どういう意味なのだろうか。

番外編も一旦ここで終わりです。

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