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たくさんの選択肢

玲奈視点です。

本日2回目の更新です。

「おかえり…玲奈ちゃん…」

家に帰ったら智子さんが死んでいた。


昨日私は鷹司邸にお泊りをしていたのだが、智子さんは会社の先輩の方とお酒を飲んでいたらしい。

お昼を過ぎて家に戻ると空気清浄機を全開にした智子さんが青い顔で毛布に包まってソファに寝ていた。

最初は何か悪い病気だと思って焦ったのだけれど、智子さん曰く“二日酔い”というものらしい。

お酒を飲み過ぎると具合が悪くなるが、命に別状があるわけではないようだ。

それにしても空気清浄機を目の前に置いているのに智子さんはお酒の匂いをまとっている。


「ごめん、今日の私はその辺に落ちてるゴミだと思って…。そして私を役立たずって、罵って……」

「そんな…」

よく分からない智子さんの懇願は無視をして、食べたいものを聞いてみると冷たくて喉ごしの良いもの、と言われたので冷蔵庫や冷凍庫を探した。

二日酔いで検索をしてはちみつが良いと書いてあったので、バニラのアイスにはちみつを垂らして渡すと、智子さんは「玲奈たん天使やけん」と涙を流した。


「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫だから心配しないで…私は玲奈ちゃんに心配される資格の無いダメ大人なの…」

何故かマイナス思考に陥っている智子さんはアイスを食べて薬を飲むともう一度眠りについた。


一緒に暮らし始めてしばらく経つが、智子さんの寝顔を見るのは初めてだ。

なんだかそれが新鮮で、私は勉強道具をリビングに持ってきて、智子さんの寝顔を見ながら勉強を始めた。

智子さんと暮らして分かった事はたくさんある。


智子さんは映画やテレビが大好きで、お酒も大好き。

そして料理がとってもおいしい。

食べたことのない料理がたくさんあって、それを言うと智子さんは「玲奈ちゃんが庶民料理を受け入れてくれて助かった」と笑っていた。


それと智子さんは、鷹司家の人たちが、ほんの少し、本当に少しだけ苦手だ。

以前にも「私は影のもので、彼らは光のものだからどうしても緊張しちゃうんだ」と分かるような、分からないような事を話していたので間違いない。

昨日も実は玲子様は智子さんともお泊りをしたかったみたいだったけれど、智子さんは「ご迷惑になりますし、翌日も仕事が控えておりますので…」とお断りしていた。

玲子さまも「智子さんとお話したいのだけど、ガードが堅いわ…」としょんぼりしていた。

私はどちらも好きだから一緒にいれたら嬉しいけれど、鷹司邸に行ってしまうと智子さんは「お仕事モード」になってしまう。

私はそのままの智子さんが好きだから、智子さんが来ないのは残念ではあるけれど、仕方ないと思っている。


だって、仕事モードじゃない智子さんは、とっても面白い。

「玲奈ちゃんはこんな言葉使っちゃ駄目よ」と言って少しだけ荒い言葉を使ったり、さっきみたいに「その辺に落ちてるゴミだと思って」と言ったり冗談が多い。

私の周りにはそんな人はいないのでたまに戸惑ってしまうが、聞いたり言われているうちに少しずつ慣れてきた。

智子さんの変なところは一緒にいる時間が増えるほど多くなっていったので、私といても気を使ってないのだと思えて嬉しかった。


こうして目の前で寝てくれる事も嬉しい。

智子さんは私といる時「大人の智子さん」なので、いつも私が寝てから寝るし、私が起きる前に起きている。

それがこんな風に弱いところを見せてくれたのだ。


時間をかけて、私と智子さんは“家族”になっている。

最近、私はそんな風に考えるようになった。


私が智子さんに遠慮してほしく無いように、智子さんも私に遠慮をしてほしくないと思ってくれている。

だから少し難しいけれど、私は自分の気持ちを話すようになった。


それに私が拗ねたとしても、智子さんは不快に思うどころか「拗ねた姿も可愛い」と言ってくれる。

正直に言えば、反省してくれていないのでちょっと怒っている。

でも私が怒ると智子さんが喜ぶので対処の方法が分からないのが悩みだ。


「智子さん、早く起きてくれないかな」


起きた智子さんに、今日食べたケーキが美味しかった話をしたい。

お土産も買ってきているから、早く見てほしいし、食べてほしい。

智子さんの喜ぶ顔が見たいのだ。

だから、早く目を覚まして。


「ふふ…」


こんな“我儘”を言えるようになったのは、私にとっての大きな進歩だった。

自分が誰かに何かを求める日が来るなんて思ってもいなかった。


あの時、父に本当の別れを告げた時から、私の世界は大きく広がった。

守られることを受け入れて、愛されることを受け入れた。

それだけで、世界はこんなにも美しく輝くのだと知った。


きっと私の運命は一つなんかじゃなくて、色んな選択肢が存在している。

あの閉ざされた家の中に閉じこもっていたら、きっと選択肢は殆ど無かった。

でも今の私はいくらでも自分で選ぶことが出来る。

私や、私の大好きな人たちと幸せになれる未来を、選んでいく事が出来る。


その未来をくれた人達のために、私は歩いていこうと決めたのだ。


「だから早く起きて、私の話を聞いてくださいね。じゃないと怒っちゃいますよ」


眠る智子さんに呼び掛けると、私は心からの笑みを浮かべた。

次でラストです。

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