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ぬくもりの答え

年齢にそぐわない大人びた顔をする子だとずっと思っていた。

無邪気に笑っている時ですら、幼いと感じたことはなかった。


「智子さん」


小さな、本当に小さな呟きが聞こえた気がして顔を向けた先に立っていたのは玲奈だった。

玲奈は驚いた表情で、どこか心細げに瞳を揺らしてる。

その時の智子には、玲奈が幼子に見えた。

迷子になって今にも泣きだしそうな小さな子供。


ああ、この子もこんな顔をするのか、と嬉しくなって智子は思わず微笑んだ。

すると玲奈がくしゃりと顔を歪めて駆け出した。智子は迷うことなく両手を広げて玲奈を受け止める。


玲奈の持つ熱が自分の体に伝わって、智子の胸が熱くなった。

ずっと会いたいと願っていた反面、会った時の自分がどう思うのか不安だった。

非現実的な巡り合わせに心が浮きたってミーハーな感情が先立っているのではないか。

根拠の無い自信で結局は玲奈を傷つけてしまうのではないか。


けれど玲奈を抱きしめて沸き上がる感情はひどく穏やかで智子は安心した。

(私はこの子を家族だと思える)

理屈ではなかった。

恋愛感情を抱けない、他者のためには生きられない自分は結婚はできないと知っていた。

だからその先にある子供を持つという事も全く考えていなかった。


それなのに、血を分けてもいない、直接会うのも初めての玲奈を抱きしめた瞬間に自分がこれから玲奈と共に生きるのだと確信した。

「玲奈ちゃん、今までよく頑張ったね。偉いね」

だから智子は目一杯の感情を込めて玲奈をきつく抱きしめた。

玲奈は震えながら嗚咽をこぼして縋るように両手に力をこめる。

「これからは私が守るから。玲奈ちゃんを守るから」

安心させるように智子は玲奈の背をポンポンと叩いた。

「…はい…」

そうしてしばらくして少しずつ落ち着いてきたのか、玲奈から掠れた声で返事があった。

智子は微笑んだまま体を離して玲奈と向き合う。

「ふふ、変な感じだね」

「はい」

玲奈は濡れた瞳を拭うと、こらえるように涙を止めた。


理性一つで涙を止める事ができる玲奈に智子は苦笑する。

「まだ時間あるんだから、もう少し泣いてもいいんだよ」

「いえ、もうすぐ誰かしら教室に来ると思います。まだ美里に智子さんの事を知られるわけにはいきませんので」

目は赤いが玲奈はすでにいつもの調子を取り戻していた。

13歳とは思えない切り替えの早さに驚きながらも、誇らしくて智子はにんまりと笑う。

「さすが私のかわいい玲奈ちゃん。でも全部終わったら覚悟してね。毎日抱きしめて頭も撫でまくるんだから!」

「はい。楽しみです」

玲奈の笑顔に智子は何度も頷いて、ふと大事な事を思い出す。

「あ、そうだ。これ渡しておくね」

智子は懐から可愛らしい柄物の巾着を取り出して玲奈に渡した。

「え?」

玲奈は目を大きく開いて巾着と智子を交互に見やる。

「この中に新しい端末が入ってるから。もう私の連絡先も登録してるから、いつでも連絡取れるよ」

「え、え!?」

「本当は帰り際に隙を見て渡すつもりだったんだけどね。あ、ポケットに入る?」

「入りますけど……あの、いいんですか?」

玲奈は戸惑ったように智子を見つめた。僅かに頬が紅潮して瞳が揺れている。

「もちろん! 受け取ってくれなきゃ泣いちゃうよ」

智子の返事に唇をきゅっと噛んだ玲奈は勢いよく智子に抱き着いた。

そして智子が抱きしめ返すより先に体を離し、踵を返して駆け出した。

「智子さん、ありがとうございます! 大好きです! 私、ちょっとこの顔直してきますね!」

そう言った玲奈はキラキラと輝くような笑顔だった。


その笑顔に安堵した智子は玲奈の後姿を見守って、おっといけない、と本来の目的を思い出す。

森川は現在、担当教師と理事長と職員室で打ち合わせ中だ。

研修室で書類のセッティングを終えた智子は、彼らを呼びに行くところだったのだ。

これから一度、簡単に研修の流れを確認しなければいけない。

「目的達成したから仕事に励むか~。玲奈ちゃんにかっこいいとこ見せなきゃ」

期せずしてミッションをクリアした智子は足取りも軽く歩き出した。

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