三条義政
本日2回目の投稿になります。
「義政さま。昨日、沙耶さまがお亡くなりになりました」
三条義政がその報せを受けたのは3カ月ほど前だった。
娘の沙耶の訃報を聞いた義政はいの一番に舌打ちをした。
「クソ! 役に立たん娘だ。あれに死なれたら金が貰えなくなるだろうが」
血を分けた子供が死んだというのに、義政は悲しむどころか怒りに震えた。
政略結婚として沙耶を宮森家に渡したが、宮森雅紀はよりによって本宅に愛人を住まわせていた。沙耶は離れに住まわせているらしい。
義政にとってそんな事はどうでもいい話だ。大事なのは宮森家が三条家を金銭的に支援しているという事実だけである。
恐らく宮森雅紀は愛人と結婚をするだろう。成立してしまえば金銭援助を切られるに違いない。
前当主と違い宮森雅紀は三条家の血にこだわりがないのだ。
「クソガキが、忌々しい。高貴な血を分けてやったのにそれが分からんとはな。下賤な血が流れている奴等はこれだからいかんのだ」
何か対策は無いか、と思案して孫の玲奈を思い出す。
しかし宮森雅紀は玲奈を疎んでいるらしく効果は薄いだろう。
まだ援助を打ち切られていないからと、義政は対策を後回しにしてしまった。
それが悪かったのだ、と3カ月後に義政は歯ぎしりした。
「お義父さん、お久しぶりです。いや、今は三条さまとお呼びしましょうか」
アポイントも取らず突然やって来た宮森雅紀は笑いながら義政に言いやった。
「何を言う。沙耶が死んだとはいえ、儂が君の父親である事は変わらんだろう」
「ああそうでしたね、今はまだ。ただお義父さんには残念な話をしなければいけません。これまで月に一度、お義父さんの会社に行っていた援助を来月から打ち切る事になりまして。今日はそれをお知らせにまいりました」
「なんだと! そんな急な話があってたまるか!」
椅子から立ち上がった義政の激昂に雅紀はやれやれと首を振った。
「私も本意ではないのです。ただ私事で恐縮ですが来月再婚する事になりましてね。社内でも関係の無い会社へと援助はどうなんだ、と問題になりまして。しかも非常に言いにくいのですがそちらの会社の業績は赤字ですし」
「そんな急に、こ、困る! 考え直してくれ! 第一沙耶の喪が明けたばかりなのに再婚など外聞が悪いだろう!」
赤字の話をされて義政は顔を青くするが、雅紀は侮蔑を瞳に込めて笑顔を作る。
「私の考えではなく、私の会社の考えですので。せめて早めにお知らせに来た事に感謝して頂きたいものだ。それにもう我慢出来ないのですよ。あなたと父で交わされた不本意な婚約には軽蔑しかありません。私は血などどうでもいい」
話は終わったと雅紀は立ち上がった。
「き、貴様! 前当主が知ったら嘆くぞ!」
「アレはもう死にましたし、名前ばかりで金をたかる事しか出来ない家の名前などいりませんよ。ーー乞食が」
「なんだと!!」
「では失礼します、お義父さん」
「待て貴様! 名誉毀損で訴えるぞ!」
雅紀は義政の制止の言葉を鼻で笑って退室していった。
義政は茫然と閉まった扉を見つめて杖を投げつける。
「許さん、許さんぞ……! しかし金をどうやって工面すればいいんだ!」
その後、義政は伝手を使って資金援助をしてくれる会社を探したが、どこからもすげなく断られてしまった。
今でもある借金がこれ以上膨れ上がれば破産してしまう。
義政の焦りは日に日に募り、ちょっとした事で家の人間にも会社の部下にも当たり散らした。
そんな時、ある男が義政を訪ねて来た。
「お初にお目にかかります。私、鷹司憲史の秘書の家守と申します。三条さまに、有益なお話があって参りました」
にっこりと、人好きのする笑顔で男は微笑んだ。




