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夜の空

本日2回目の更新になります。

社畜というのは哀しいもので、時間が経つのが異常に早い。

玲奈ちゃんからメールが来てから既に二週間が経過していた。玲奈ちゃんとは学校のない日以外、ずっとメールしている。

メールを読む限りは現状維持の状態が続いているようだ。

ただ、鷹司家に連絡を取ろうか迷っているらしい。智子としては先に連絡を取りたいが、止めるのも違う気がして、気持ちが落ち着いたらでいいだろうとだけ伝えた。

だがすぐには難しいだろう。

智子とは気持ちを確認し合っていたが、鷹司家とは連絡を取れていない。

愛情を貰うことに慣れていない玲奈には、かなりの勇気が必要だろう。


智子の方はというと、富永からの連絡を待ちつつ、玲奈の中学校とのコラボに積極的に関わっていた。

全学年から30人を上限として、希望者を募る予定だ。

花霞学院は複数の大手企業と連携して、いくつかのグループ研修を考えている。

学生たちは企業の特性に応じて一から十までの流れを体験する。

智子の会社のように商品開発案から販売までを行う経営に関する研修もあれば、外資系企業での契約の流れや有名な研究所での開発研修もあるらしい。

普通の中学校でも行う体験学習に近いが、それよりももう少し本格的である。


上から降りてきた内容は「バレンタインに向けたチョコレート商品の発案から販売まで行う」というものだ。

つまりそれ以外は決めていないから後はよろしく、という事だ。

急いで作成した資料は修正が有りつつも概ね承認された。学園からも一回目の研修日程が送られてきたので、それを元にスケジュールを組む。


開催日は今から一ヶ月後。

話が来てから三週間も経っていないのに一ヶ月後。

(相変わらずスケジュールが追っかけなの勘弁してほしい……)

学園で生徒に案内をかけるのは来週との事だ。

しかしこれで玲奈にも詳細を教えることができる。

言ったところで玲奈から漏れる心配はしてないが、情報解禁前にメールでのやりとりは憚られた。

(口頭なら言ってたかもしれないけどメールだと何があるか分からないしね)


ドキドキと胸が騒ぐのは気のせいでは無い。

画面越しでしか会えなかった相手と直接会える。

これが高揚せずにいられるだろうか。

逸る気持ちを抑えつつ智子は業務に勤しんだ。


あらかた作業を終えると、時刻は既に23時を過ぎていた。この時間から別の案件に手をつけると、終電を逃しかねない。

(大体の案件片付けたし、このメール送ったら今日はもう帰ろう……)

智子は急いでメールを打つと、バックアップを取りながら帰り支度を始める。


「お先に失礼しまーす」

「はーいお疲れさま〜」

「気をつけてねー」

「みなさんも程々にしてくださいね」

ちらほら残っている悲しい社畜達に挨拶した智子は鞄から端末を取り出した。


「あ!!」

智子は思わず声を上げた。

メッセージアプリを確認すると、一時間前に富永から連絡が来ていたのだ。


『先日の件、連絡先が分かりました』

端的なメッセージの後に、鷹司家の連絡先が書かれている。

(すごい……光さんの知り合いって何者なんだろう……)

智子は急いで富永に感謝のメッセージを入れた。


(これでまずは一歩、進むことができる)

鷹司家の反応は聞いてみないと分からない。けれど智子には彼らがーー彼らの持つ人脈が必要だった。


気付けば智子の手は震えていた。そんな自分に智子は苦笑する。


もし電話が繋がれば、物語が現実と繋がる。

彼らはドラマの登場人物ではないのだと知ることになる。

玲奈からお客様としてメールが来た時から、物語が加速するように現実になっていった。

玲奈の物語が智子の現実に繋がるのか、智子の現実が玲奈の物語に繋がるのか。

小さい頃、絵本を読むたびに様々な世界を体験した。

まるでその時に戻ったかのような不思議な気持ちだ。


会社から出るとオフィス街は少しだけ暗くて明るい。

夜空を見上げれば、うっすらと星が見える。

夏は終わりかけだ。時期に秋が来る。

忙しい生活は変わらない。現に今も会社の事ばかりで、玲奈との時間なんて僅かなものだ。

それなのに、玲奈と出会って何年も経ったような気がしてしまう。


「がんばれ」


呟いた言葉が、自分に向けたものなのか、玲奈に向けたものなのか智子には分からなかった。

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