お客様からのメール
本日二回目の更新になります。
視点が智子に切り替わります。
玲奈をあの家から出す。
そう決めた智子は昨日ゆっくりと休みつつ計画を立てた。
本当は玲奈の気持ちを知りたいところだが今は難しい。だから来たるべき日のために動こうと決めていた。
(まずは光さんを捕まえないと)
お昼休みに会いに行こうと意気込んでいたが、なかなか休みに入れないのが社畜の悲しいところだ。
13時を過ぎ、14時前にやっと入れると思った瞬間内線が鳴る。
智子は悲しい気持ちになりながら受話器をとった。
「はい。イベント企画の日永です」
『お疲れ様です。お客様相談室の室井です。先ほどお客様から日永さん宛にお礼メールが来てましたよ』
「え?」
智子は電話の内容に目を見開いた。
「私宛って名指しですか?」
『はい。以前店舗に行った際に、日永さんという女性スタッフに良くしてもらったという内容です』
確かにイベント時、智子はたまにお店に立つことはあるが、お礼を言われるほどの事はできていない。
接客に関してはプロの方々がメインで動いてくれているから、余計に覚えがなかった。
「いつのだろう……最近はあまり行けてないんですけどね」
『時期は書いてないです。でも各店舗を確認しましたが、同名のスタッフはいないので、たぶん日永さん宛だと思うんですよね』
「そうですか……」
納得しないながらも智子が返事をすると、次の瞬間とんでもない爆弾を投げられた。
『お名前は宮森玲奈さん、という方です』
「えええ!!」
思わずオフィスに響き渡るような声を上げた智子は咄嗟に手で口を覆った。
びくりと体を震わせた周りのスタッフに頭を下げつつ、受話器を握り直す。
「お、大声を出して申し訳ありません……」
『ビックリしましたが大丈夫です。お知り合いですか?』
「は、はい。あの、そのメール私宛に転送して頂いても大丈夫ですか? 嬉しかったので見たいです」
『大丈夫ですよ。お礼メールの返信はこちらからしておきますね』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
内線を切って、智子は息をついた。
(みやもりれいなって、玲奈ちゃん!? もしかして玲奈ちゃんなの!?)
バクバクと鳴る心臓を抑えつつ、メールの受信をカチカチと押し続ける。
すると他の新着に混ざって、問題のメールが受信された。
(こ…このメールを玲奈ちゃんが打ったの!?)
智子は心底震え上がる。
メールの文面はとてもじゃないが13歳が打ったとは思えないほど丁寧だった。
構成から文体まで、いったい何をしたらこんなものが送れるようになるのか。
(私が13歳の時なんて……ダメだ考えるのよそう)
すごいのは文面だけではない。
さり気なく玲奈の状況が書かれているのだ。
“不調で動けないから連絡が取れない”
これはあの壊れた端末を指すのだろう。ともすれば本当に体調を崩したのかとも思うが、それならメールを打てるわけはない。
玲奈がメールできるとすれば学校のはずだ。学校に通ってるうちは体調に関しては問題ないはずだ。
そしてメールアドレス。
転送であれば送り先もメールに入ってくる。
そこに表示されたアドレスが、玲奈からのメールだと語っていた。
アドレスはsutemasu_saya_takatsukasaになっていた。
智子が同姓同名を疑うのを見越して沙耶と鷹司の名前を入れている。玲奈にとって大事なものだ。
そこまで気がまわるのだからやはり玲奈はとんでもないお子様である。
そしてもう一つ。sutemasuは捨てます、という意味なのだろう。
玲奈は決意してくれたのだ。
智子の言葉を受け止めて答えを出してくれた。
それが切ないけれど、嬉しかった。
(絶対に私は諦めない! 待っててね! 玲奈ちゃん!!)