メール
休みを挟んだ翌々日、私はさっそく昼休みにパソコンのある教室に向かった。
智子さんの会社を検索すると、会社詳細やホームページなどの情報がズラリと並ぶ。
情報サイトには智子さんの会社がここ十数年で上場しているとあった。
(前にもちらっと見たけれど智子さんはすごいのね)
なんだか嬉しくなって今度は会社のホームページを見てみる。
(智子さんと連絡するなら……どれかしら……)
智子さんは菓子店の企画やイベントを担当していると言っていた。
とりあえずホームページの菓子店に関する案内を選択する。
菓子店の直営店舗紹介や通販ページ案内の下には客様ご相談案内のアドレスがある。
ここに連絡すれば智子さんに繋がることはあるのだろうか。
(でもこれを読むのは智子さんじゃないわよね……)
名指しで会社に私的なメールをするのは憚られた。
学校の授業では会社経営や経営の流れも学ぶが、こうしたお客様に関するサービスは専門の人がつくはずだ。
イベントを運営する智子さんとは違うだろう。
(どうしたらいいのかしら……)
悩みながらも、今度はリンクで繋がっている智子さんの会社のSNS記事を追ってみる。
ざっと記事をスクロールしていると、一瞬見覚えのある顔が見えて私は手を止めた。
「智子さん!」
そこにあるのは数ヶ月前の記事だった。記事の内容は有名企業のキャラクターとのコラボ商品を出したというものだ。
『店舗では社長とキャラクターの記念写真撮影も!』と書かれたコメントの下には、にこやかな男性と可愛らしい着ぐるみが写っている。
しかし私はその後ろに写っている人物を見逃さなかった。
そこには綺麗なスーツに身を包んだ笑顔の智子さんがいたのだ。
(そうだ。イベントの時にはお店にも立つことがあるって智子さんが言ってた……!)
それならお客として智子さんと会った、と言っても問題ないはずだ。
私はすぐにフリーのメールアカウントを取得して、文章を打つことにした。
急いで調べたお礼メールの例文を参考にして文章を打つ。
『突然のメールで失礼致します。
以前、御社のお店を訪問させて頂いた際に、日永さんという女性スタッフの方にとても良くして頂きました。
私の要望に親身になってご対応頂けました事、誠に感謝申し上げます。
現在、不調が続き動けない状態ではありますが、快復した際にはまた御社をご利用させて頂きたく思います。
日永さんにもどうぞよろしくお伝え願います。
今後とも益々の発展をお祈りいたします。
宮森玲奈』
「参考にはしたけれど、変じゃないかしら……」
不安に思ったが、参考文から引用しているし、お客様としてメールするのであれば多少の間違いは許されるはずだ。
私的な事は書けないが、私が智子さんと連絡を取りたいと思っているのは伝わるはずだ。
フリーメールはアカウント取得されればいつでも繋ぐ事ができる。
もし智子さんがこのメールを見る事があれば、返信があるかもしれない。
名前を名乗るだけでは不安だったので、メールアドレスの一部に私と智子さん共通の単語と、問いかけの返信を入れた。これで大丈夫なはずだ。
私はゆっくりと深呼吸して、メールの送信ボタンを押した。
ーーーーーーーーーー
翌日の昼休みになると、私はすぐにパソコン室に向かった。
メール画面を立ち上げると、2件ほど受信ボックスに新着がある。
一つは昨日送った智子さんの会社のアドレスで、お礼に対しての感謝と、快復を祈るという内容だ。
もう一つは個人端末のアドレスのようだった。
急いでメールを開くと、期待通り智子さんからの返信だった。
『玲奈ちゃん
昨日はメールありがとう! すごく嬉しかった!
13歳なのにあんなメールが打てるなんて、やっぱり玲奈ちゃんは天才だね!
アドレスもありがとう!名前だけだと同姓同名かと思ったけど、アドレスに鷹司とあって確信しました。
(玲奈ちゃんの憲人さまへの愛も伝わりました)
さて、本題に入ります。
玲奈ちゃんと突然繋がらなくなってとても心配しました。
そしたら一昨日、不思議な夢を見たの。
それは玲奈ちゃんの端末がボロボロになっている夢です。
ただの夢かとも思いましたが、端末が繋がらない理由に納得が出来るので本当じゃないかと疑ってます。
もし本当ならどこのバカにやられたのか教えてください。私が殴ります。
あと、もしかすると玲奈ちゃんと会う事ができるかもしれません!
これは社外秘……ええと、会社から外部には教えちゃいけないっていう意味なので詳細は省くけれど、来月に玲奈ちゃんの学校に行くことになりました。
恐らく近いうちに学校で案内が出ると思うので分かるはずです。志願してほしいけど、難しければ時間を決めてすれ違えないかなと思ってます。
その時に渡したいものがあるの。
それと、メールアドレスなんだけど、あれは私が言った問いの返信であってるかな?
実は、夢の中で泣いてる玲奈ちゃんを見て、返事関係なく動こうとしてました。(ごめんなさい!)
でも決めてくれて、ありがとう。
私は玲奈ちゃんをそこから出すために動き出します。
すぐに無理をする玲奈ちゃん。
きちんと食べて、寝てください。
そして絶対に一緒にお出かけしよう!
天使みたいな玲奈ちゃんを連れ回せる日を夢見て。
日永智子』
メールを読み終わって一息ついた時、頬が濡れてて自分が泣いているのだと気付く。
(智子さんはやっぱり智子さんだ)
これ以上泣きたくなくて上を向いたが、なかなか止まってくれない。
ふざけるような文章からは、安堵や心配が透けて見える。
自分が思われているのだと、実感できた。
そして一昨日、あの不思議な暖かさを感じたのは智子さんだったのだろうかと思うと、さらに涙が出た。
それでも返信をするために、私は歪む画面を見つめてキーボードを叩いた。




