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希望

本日三回目の更新になります。

端末が壊れてから1週間。

お母さまが亡くなった時ほど酷くはないけれど、あれから私は無気力になっていた。

頑張っていた勉強も習い事もどうでもいい。

その先には何もないのだと思うと、どうしても気力が湧かないのだ。


温める気になれずのろのろと冷えた食事を口にした。

(お食事ってこんなに味がしないものだったかしら)

元々お母さまが亡くなってから、あまり味を感じなくなっていた。

けれどここ最近は完全に味を感じられず、義務だけで食事をするようになっていた。

まるで機械になってしまったようだ。端末が壊れた日以来、涙も出ない。


(前に美里が言っていた。私は誰にも愛されず死ぬのだと)

それは本当なのかもしれない。

出会った人たちはみんな離れていってしまう。

それなら、私が頑張る意味は、生きる意味はあるのだろうか。


思考に靄がかかったまま自室に戻ると、無意識のうちに勉強を始めていた。

習慣は怖いものだと苦笑して、ただ文字を追っていく。


その時だった。

何故か、誰かに包まれているような温もりを感じた。

ふわりと頭を撫でられたような気がして、急に寂しさが沸き起こる。

衝動のままに机から端末を取り出せば、自然と涙が零れ落ちた。


「憲人さま……智子さん……」


2人の名前を呼んだのは無意識だった。

けれど呼んでしまえば寂しさに息が詰まる。

堰を切ったように、抑えていた感情が込み上げてきた。


(二度と会えないなんて、いや!!)


会いたい、と心から祈った。

会わなければいけない、と心から思った。


だって憲人さまや憲史さまや玲子さまから直接話を聞いていない。何が真実かなんて分からない。

それに、智子さんに返事をしていない。

あの人を捨てるのだとはっきりと言っていない。

智子さんがいれば、きっと一緒に戦ってくれたはずなのに。


(ダメでもいい。みんなに会いたい)


私は顔を上げて前を向いた。

何故か分からないが、突然気力が湧き上がっていた。

誰かが見守ってくれているような、背中を押されているような奇妙な感覚だ。


(でもどうやればいいのかしら。毎日送り迎えが厳重でどこにも寄らせてもらえない。端末もない)

婚約破棄の件から、私が勝手にどこかに行かないように監視が増えた。

私が感情に任せて鷹司家に乗り込むのを危惧したからだろう。


(でも連絡方法は他にもあるわ)


そこまで考えて、ふと思い立つ。

学校ならインターネットが繋がっている。

以前、智子さんが教えてくれた会社を調べたことがある。

そこから智子さんと連絡が取れないだろうか。


1人で鷹司家に電話をする勇気はない。

けれど、智子さんが一緒ならダメでも立ち上がれる。


「智子さん。私、頑張ります」


そう呟けば、どこかで智子さんが「偉いね」と笑ってくれた気がした。

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