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日永智子の憂い

視点が智子に戻ります

「「父親を、その家を捨ててほしいの」って自分で言っててもなんだかな〜」

智子は盛大に溜息をついて端末の画面を撫でた。

会社の休憩中、馴染みの秘密基地に身を潜めてストレンジTVを起動する。

しかしそこに「Strange space」の項目は無かった。

不思議な事に、玲奈と話せるようになってからは彼女の動向を見れなくなってしまった。

何故かは分からない。けれど智子は、玲奈と繋がったことが原因だろうと納得していた。


我慢をする事に慣れた玲奈の動向を追えないのは心配だが、最近では自分から今日あった事を話してくれるようになってきた。

心配はあるが、なにかあれば言ってくれるだろうと思えるくらいには親しくなれたと思う。


ーー玲奈と繋がってからもうすぐ2カ月が経つ。

その間、智子なりに真摯に玲奈に接してきたつもりだ。何しろ人様の生活を盗み見してきたのだ。

意図的では無いにしろ、罪悪感は拭えない。

だからこそ自分の人生や失敗も玲奈には話した。


そうしていくうちに、玲奈は少しずつ智子に心を開いてくれているようだった。

何より嬉しいのは、笑顔を向けてくれた事。

それでも翳りが消えないのは、問題が何一つ解決していないからだ。


先日、智子は玲奈にある決断を迫った。

父親も、あの家も捨てろ、というものだ。

幼い子供に迫るものでは無いかもしれないが、もし智子がこの問題に介入するならば相当慎重に動かなければならなかった。


そもそも智子は上場企業の社員ではあるが、平凡な家庭の生まれのそこそこ優秀な社畜に過ぎない。貯蓄はそこそこある方だが、金にものを言わせるほどでは無いし権力もコネも無い。

それでも人様の家の事情に首を突っ込もうとするならば、きちんと計画を立てなければならなかった。


その為に一番必要なのは玲奈の協力だ。

これが自分で判断がつかないような子供であれば致し方ないが、玲奈は聡い子である。

自分の意思を持ち、考える事が出来る子だ。

だからこそ、智子は玲奈に決断を迫った。


「ただ…時間は無いよねえ」

重い決断だから返事は急がなくていい、とは言ったものの智子は内心焦っていた。

雅紀と美織が籍を入れるのは時間の問題だ。

今は表向き喪に服しているが、そう遠くない未来に必ず婚姻を結ぶだろう。

その時、雅紀が玲奈をどう扱うのか智子には予想もつかない。

散々父親らしからぬ振る舞いをしてきた雅紀の考えは智子には理解できない。

碌な事はしないだろうとは思うが、雅紀は常に予想を最悪の状態で超えてきた。

早くに手を打たないと、何があるか分からない。


「でも玲奈ちゃんの言葉無しには動けない…」

玲奈と生きる世界が繋がっているという事は、法も同じなのだ。

桁外れの資産家の娘、しかも繋がりが無いとは言え母親は華族の生まれだ。

一般人の智子が勝手に動けば、警察のお世話になるかもしれない。

智子が持っている手札は殆ど無いのだ。

手札が無い以上、それを持っている人間を頼るしかない。

そして頼るためには、玲奈の協力が必要なのだ。


「今日改めて聞いてみようかな……」


ヒーローのように玲奈を救えたならどんなにいいだろうと、無力な自分に苛立ちが募る。

それでも智子は、社会人になって培ってきたもの全てを使って挑もうと決めていた。

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