喜びと後悔
“なんて綺麗な青だろう”
憲人さまを初めて見た時、あまりの美しい色に息を呑んだ。
そして、私を見つめる優しい瞳に吸い込まれそうだった。
望まない婚約の話だったはずなのに、憲人さまはそんな私の憂いをいとも簡単に吹き飛ばした。
憲人さまだけではない。
憲人さまのご両親である憲史さまや、玲子さまはとても優しかった。
一緒にいる時間が増えるたびに、私は3人の事がどんどん好きになった。
鷹司家にいる時の私は、誰かに疎まれる心配などしなくても良かった。
私はただの子供として誰の目を気にするでもなく笑う事ができた。
けれど今になって思うのだ。
鷹司家にいる時の私はあまりにも幸せで、だから神様が罰を与えたのだろう、と。
彼らと一緒にいる時、私はただひたすらに楽しんでいた。
病床にあるお母さまの事など忘れて、笑っていたのだ。
守られることの心地良さに身を委ねたから。
だから神様が私からお母さまを奪おうと考えたのだ。
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それまでも悪かったお母さまの容態が悪化するのは早かった。
憲人さまとお母さまが会った時には、かなり悪い状態だった。
それでもお母さまは憲史さまと玲子さまに感謝を述べて、私をよろしくお願いしますと何度も頭を下げた。
憲人さまには、私と一緒にいてあげて欲しいとお願いしていた。
自分の辛さは微塵も見せずに、私の事だけを考えてくれていたのだ。
これほどまでに愛してくれるお母さまを、いっときでも忘れるなんて。
これほどまでに愛してくれるお母さまに、なにもしてあげられないなんて。
世界で一番憎いのは、お母さまに会いに来ない父でも、お母さまを嘲笑した美里でもない。
愚かで無力な自分自身だった。




