邂逅 ~四人の仲良し~
とりあえず、近付いてみるか。
そう思い、俺は二人の少年のいるテトラポットに向かった。
が、そこで、後ろから肩を叩かれた。
え、誰?
後ろを振り返ってみる。
そこには、銀髪のツインテールのエルフの女の子がいた。
俺はその女の子を見て酷い既視感に襲われた。
シルフィ・セハリア。恐らくこの少女の名前だ。
身長160センチ前後、瞳はエメラルドで、肌は白く、腕は細い。
雰囲気は儚げというよりは優しく穏やかな感じのお姉さんだ。
俺よりも背はやや低めとはいえ、やはり目線が同じくらいだとなんか迫力が違うな…。
まあ、どうでもいいか。
「ここは危ないわよ」
凛としたソプラノボイスが風鈴の音のように俺の耳を打つ。
なるほど確かにエルフは声が美しく見目も麗しいものらしい。
まあ、設定した俺が言うのもあれなんだがな。
俺が一人納得しながら彼女を見詰めていたら、「どうしたの?」と訝しげな眼で見られた。あ、すいませーん。
「いや、ちょっとビックリしてね……」
「……もしかしてエルフを見るのは初めてなのかしら?」
「ああ、初めて見るな」
「そう……。それならいいわ。でも、あんまりじろじろ見ないで」
「お、おう」
あー、駄目だ。こういう人相手にどう接すればいいかさっぱり分からん。いや、まあトリスタ達との会話を知ってるからどういうことをするか分かってはいるんだが……。なんか怖いんだよなー。
うん。なんか緊張してんのかめっちゃ怖い。相手が人外ってのもあるんだろうけど、こう……なんてーの? あまりにも住む世界が違いすぎる相手が近くに居るのってなんかこう落ち着かない。
……いかんな。どうにも気持ちがふわふわしてくる。
あー、あかん。色々ヤバイ。なんだこれ。
俺が一人、顔を下に向けて考え込んでいるとシルフィが痺れを切らしたのか俺の手をいきなり掴み出し(え?)、そのまま走り出した(ちょっ!?ええぇぇぇーー!?!?)。
俺は一般人その他大勢くらいの脚力しかないのに強制的に自転車の走ってる速度で走られたらキツい。あ、ヤバイ、女の子の匂いがする。って何を考えてるんだ俺は。ついに頭がイカれたか。あ、本当にヤバイ。バカなこと考えてる場合じゃねえ。なんか頭ん中真っ白になってきやがった……。
あ、駄目だ。目が白黒してくる。やべぇ、なんもかんがえらんねぇ。
「はぁ……はぁ……」
息が荒くなる。心臓の音が……てか、胸が痛い。さっき走りまくったせいだ。げほげほ!とにかく、足を動かさないと、はあはあ……。変質者みたいな息吐きかただな……。げほげほ!……なんか口んなかが鉄の味になってるような……。てか、頭の中が真っ白…でなんか見えない…。
あかん、眠るにはまだ速い……。でもなんか足に力が入らなくなってきて……意識が明滅してきて……。………………………………。
バタッ。
「え?あれ、ちょっと!?」
「………………」
俺の視界はホワイトアウトした。
目が覚めたらそこは何処かの和風宿の中でした。うん、ここどこ?
とりあえず、ボケるか。
「ここはだれ?私はどこ?」
「……頭だいじょーうぶかー?」
「人いたのか…て」
「うん?どうした?」
黒く短い髪、低い身長、らふな服装に、腰にはナイフに水鉄砲。
どんな悪がきだよ。てか、宿の中でこいつは何を始めようとしてるんだ。まあ、いいか。いや、よくねぇけど突っ込んだら何かいけない気がするから気にしない。そして、見た目は大体…
「…中学生?」
「…一応学生の身分ではあるが、なんだその中学生ってのは?お前何処出身なんだ?」
「あれ?中学生を知らない?なんでだ…?」
「は?」
何故か二人揃って首をかしげていた。
いや、そのくらいの年なら中学生が何か普通分かるだろうがよ。
てか、なにそのナイフ。何と戦ってんの。
「…お前もしかして」
ガラ!
「――そろそろ目を覚ましたのか?」
目の前の悪がきが何か言いかけたところで、誰かが襖を開けて入ってきた。
俺は思わず振りむく。
入ってきたのは黒い甚兵衛を着た背の高い大人の男性だった。
この人は見てすぐ俺はなんか…本物って空気を感じた。
この人の雰囲気を言い表すなら…そうだな。なんか…柔道とか剣道とかしてそうな体育会系の…なんかこう思わず剣の師匠と呼びたくなるような…穏やかな海のように優しげな雰囲気を持つ男性とでもいうのかな…。
一言で言えばなんか頼りになる背中をしてそうな青年って感じだ。
そんな大人が団扇を片手に立っていた。
間髪入れずこの子供の親かな?と思った。だって二人とも髪黒いし、目も黒いし、なんか日本人風な顔してたから。
でも、そうじゃなかったんだ。
目の前の少年が大人の若い男性にニヤリとした顔を浮かべて何やら報告をした。
「ああ、起きたみたいだぜ」
「そうか。そいつはよかった」
「全くな」
どうやら、心配をかけてしまったようだった。
そのことに心がぽかぽかするようなチクチクするような複雑な気分になった。
それが感情となって俺は思わず苦笑した。
「なんか心配かけちゃったかな…悪いね」
「大丈夫なのか?」
目の前にいる男性になんかそんな顔されると俺の心が汚れてるみたいで…なんか凄まじく心が痛い。…しかし、それを横で見ている少年のニヤニヤ顔を見ると、なんかムカムカしてきて、なんかどうでもよくなってきた。
「問題ないな。というかそこまで心配してくれると、なんかお父さんを思い出しちまうじゃないか」
「お父さん?」
「良かったなおとーさん」
「茶化すなバカ」
少年が悪い笑みを浮かべてクククと笑い、それを嗜めるように男性が半眼になった。
なんだろうな…こういうのを見ると何だか心が暖かくなるな。
微笑ましいつーかなんつーか…ねぇ?
「ククク…」
「おい…」
「いや、悪い。でも駄目だ。思わず顔が…ククククク」
「笑いのどつぼに入ったぞこの人」
「…あー」
あー、なんか悪いとは思うんだが、駄目だ顔がニヤける。いかん、マジで大笑いしたい。大声出して笑いたい。あかん、マジであかん。
アハハハハハ!!
「抑えきれてないぞ…」
「しょうがないんじゃね?」
「はぁ……。まあ、とりあえず無事ということだけでも良しとするか……」
俺が笑いを堪えるのには数分の時が必要であった。
「結局大爆笑してたな…」
「いや、悪いって。でもどうしてか堪えきれなくてさ」
「鋼ー、いい加減拗ねんの止めろよー」
「拗ねてない」
「あはは……あ、ごめんごめん!睨まんといてくれ!」
俺達は俺を心配していたというシルフィに報告するため廊下を歩いていた。
それと、俺は紹介されてやっと気付いたんだが、こいつら親子じゃなかった。てかあり得ないことにこいつら同い年だった。
こいつら、あのトリスタと鋼さんだった。
いや、二人ともインパクトが凄かったし、何より日本人のような顔してたからさ。気付くのに遅れた。
ここでシルフィが近くに居たら紹介されるより先に気付いたかもしれないが、まあ今となっては詮なきことか。
「てか、本当に何から何まで悪いな……」
「いいよいいよ。このまま何もしないってのも悪い気分になるだけだからさ」
「あんまり気にするな」
「あー、うん。そう言ってくれるとなんか……助かるよ」
つか、こいつら本当に優しいな。服から宿代まで何とかしちまったよ。
あ、うん。なんか俺、文無しのようだったらしくてな…。元着ていた服は砂で汚れて洗わにゃいけなくなったっぽいようで…うん。なんかこう情けないというか、あー…なんか無償に甘えたくなるっていうかなんつーか。
いや、駄目なのは分かるんだが……うーん何だろうな…。
……ぽくぽくぽくちーん。
よし、考えないことしよう!こんな難しいこと俺にはわからーん!
「…よし」
「何が『よし』なんだ?」
「気にするな。これは俺の問題解決法だから」
「気のせいか?とてつもなく駄目な解決方法な予感がするが…」
「大丈夫大丈夫だって!大抵これで何とかなってるから!」
「そうか……」
なんか苦笑してる鋼さん。
なんか信頼されてない気がするのは果たして気のせいか。
まあ、考えても分からないから思考放棄するが。
「それで、これからどうするんだったっけ?」
「…お兄さんやー。それ、さっき説明したのにもう忘れたのかーい?」
「おー、トリスタさんやーい。申し訳もへったくれもないくらいにド忘れしちまったぜーい」
素直に返事をしたら「oh…」と演技メッチャ入ってる悲しげな表情を浮かべて『太陽に叫ぶポーズ』をした。
鋼さんはそれを見て『また意味不明なことを始めやがった』みたいな顔して呆れていた。
「oh…神よ。何故にこのお兄さんの頭を残念な鳥頭にしてしまわれたのですか?何故…?」
なんかそのまま天にでも祈りそうな雰囲気を醸し出しながら無駄に大袈裟に語り始めた。
どうでもいいが、こいつをこのままにしておくのはちょっと面倒な気がする。ので、俺はハリセンを取り出した。
「はぁ……って、おいお前それどっから出した?」
俺は心の赴くままハリセンをトリスタの頭に叩いた!
バシーン!
このハリセンって意外と響くんだなー。
「いってー……何しやがる!」
「……いや、なんか凄く叩いてほしそうな頭だったからつい」
「ついではたくなよ!」
「ごめんごめん、悪気はなかったんだ」
「もぉぉおおお!」
いつのまにか トリスタ が うし に しんか していた!
トリスタ は なきごえ を おぼえた!
おもわず あたま を なでた!
「頭撫でてんじゃねええええ!!!」
「あ、怒った」
「怒るわ!俺を何だと思ってやがる!」
「生意気な弟的な何か」
「俺はこれでも16なんだぞ!」
「そういう風には見えねぇな。あと、俺は19だ。俺の方が年上だからやっぱりトリスタは弟的な存在だと思う」
「むきゃー!」
トリスタが残念な奇声を上げた。
悔しいのは分かるがその奇声はやめれ。
そこに鋼さんが意外そうな顔をして口を挟んできた。
「19なのか。俺より年が上なんだな」
「あれ、鋼さんって、俺より年下なのか?」
「ああ。俺はこう見えてこのバカと同い年だからな」
「マジかよ……」
鋼さんが俺より年下ってなんかすっげぇ違和感があるぞ。
だってこいつ俺よりなんかしっかりしてそうだもん。見た目的にも中身的にも。
いや、俺がちゃらんぽらんな性格してるのは認めるけど、それ抜きにしても鋼さんは俺より大人だと思うし。
だがまぁ、確かに事実なのだこれは。小説通りに書いたなら鋼さんとトリスタは同じ歳なのだ。だから分かってはいるんだが…。なんだろう…実際見ると違和感半端ねぇ。
「……ふむ、そうだな……とりあえず、俺より年上だからナレコ兄さん、とでも呼んでみようか?」
「いや、止めて。違和感が凄いから」
「冗談だ」
「ほどほどにしてくれ」
俺達はそんな風に雑談しながらシルフィ達のいる部屋へと向かった。
「着いたぞ」
鋼さんはそう言って、部屋の中へと入っていった。
部屋はさきほど俺がいたところと同じ和室だった。
(なんか…修学旅行みたいな気分になってきたな…)
中学の時に京都へ行ったせいだろうか?この部屋を見ると余計にそんな気分になってくる。
「あ、鋼さん。お湯加減どうでしたか?あ、トリスタも来たんですかっ!?きゃっほー!」
なんか桜色のポニーテールをしている若くて鋼さんと同じくらい背が高い女の子が凄いハイテンションでトリスタに向かって突撃をかましてんだが…。……誰だったかな。
「のわっ!ちょ、だっ!お、落ち着け!」
「はー♪トリスタだー♪可愛くて格好いいトリスタだー相変わらず癖になるいい匂いだよー♪すりすり」
「待て!俺としてはお前のそんな過剰なスキンシップは慣れたも同然だが、俺達四人以外にも人がいるんだから少し自重してくれ!」
「ほへっ?」
女の子はその言葉でトリスタの奥にいた俺を見つけた。
そして、俺と女の子は何故か見つめあった。うん、何故だ。
ぽへーっと俺を見詰めるマリンブルーの瞳が何だか妙に気になる。まぁ、俺、なんだかんだ言って瞳が黒じゃないやつ初めて見るしな。なんか気になるのも仕方ないよな?
「「じー」」
「いつまでそうしてるつもりだ?」
「「あ」」
痺れを切らした鋼さんが少し不機嫌そうに言った。
あはは…ちょっとやらかしたかなー…。
「はぁ、ナレコ。お前もお前でなんで何時までもレトアと見詰めあってたんだ?そんなに珍しいものでもないだろう?」
「いや、目が黒くない奴は初めて見る。それにこんな積極的な女の子自体も初めて見た」
「…そうか。びっくりしたか?」
「ああ…」
と、頷いて見せたら、なんかレトアが悲しそうな顔してこちらを見てきた。え、なにその顔。
「私のこと、嫌いですか?」
いやいや!そんな訳あるかぁー!
「初対面でさっきのあれ見てレトアさん嫌う奴なんて女性不信の奴以外いませんよ!」
「それ…フォローになってるのかしら?」
あ、こんだけじゃ駄目か!?
わ、やべ、レトアさんがなんか泣きそうな顔になってる!?
「ええい、こうなったら自棄だ!とりあえず思ったまま伝えてやる!」
「自棄になるの早くないか?」
「まあ、待て鋼。このままほっといた方が面白そうだ」
なんか外野が気になることを言ってるがこのまま目の前の女の子を泣かせるのは駄目だ!
とにかく何とかしよう!
「うぅ、私嫌われてるんだ…」
「違いますよ!俺、レトアさんをひとめ見て素敵な女性だなと思いましたもん!」
「ふぇ!?」
あ、俺なに言ってんだ!?い、いやこのまま行こう!
「ほほう。具体的には?」
「ま、まず、レトアさんは笑顔が良い!見ていると何故かこっちまで嬉しくなって笑顔になるようなそんな笑顔が素敵だと思った!」
「ふわぁ!?」
「へぇ…他には?」
「ほ、他か!?えっとだな!そ、そうだ!レトアさんはリアクションが可愛いんだ!嬉しい顔以外にもさっきの悲しい顔や困った顔、不思議そうな顔を見て愛らしいと思った!」
「あのぅ…は、恥ずかしい…」
「ふぅん?なら、レトアのことは好きなのね?」
「ああ!大好きだ!」
「ぼふん!」
俺は胸に拳を置いてレトアさんを見ながら堂々と言った。言ってやった!
レトアさんが顔を覆って凄く恥ずかしがっている。
あれ、なんか失敗したかな…?
俺が不思議そうな顔をしているのを見かねてか鋼さんが声をかけてきた。
「ナレコ…。フォローするのは良いんだが…」
「なんだ?」
「やりすぎだ」
「やりすぎ…?」
「ああ」
そうか俺はやりすぎたのか。…なるほどなるほど。
まあ、分かっていた。分かってはいたんだ。途中からなんかタイミングがいい質問が入ってくるからついそれに乗ってしまったんだけども。途中から俺が何を言ってるかは分かっていたんだ。だが、話すのを止めて恥ずかしがったら何も言えなくなると思って頑張ったんだ。だけど、鋼さん。
俺は顔を畳に着けて突っ伏した。
それ言わんといてくれぇ…。分かっていたんだぁ。俺がなんかおかしなこと言ってたのは…。だけど、勢いに飲まれたんだぁ!なんか失敗したって分かっていたんだぁ!
でも、止まらなかったんだよちくしょう!
それもこれも
「あうあうあー」
「あー、レトアが恥ずかしさで真っ赤になっちゃったかー」
「シルフィさん!」
「なにかしら?」
めっちゃ、いい笑顔でこっちを見てくるシルフィさん。
そういや、この人はトリスタ程ではないが結構いたずら好きだったな。忘れてたよ。
俺はぷるぷる震えて非難の目を向けるだけで何も言えなかった。
というかなんか言ったら自爆しそうな気がした。
シルフィさんはその笑顔のままクスクスと笑っていた。
ちくしょう……可愛い。
俺はバカだった。
「いやー、若いわねー♪流石青少年って奴ね。私もこんな青春したいなー♪」
「うおわぁぁ……」
「『素敵な女性だなって思いましたもん』…いい台詞ねー。言われてみたいなー」
「あぁぁあぁ…」
「ふふふ…」
「のぉおおおおお!!!」
ああ、あ、あの時の俺もう少し考えても良かったんじゃないか?
だが、こんなコミュ障な俺が他に言葉に出来ることなどなかった。
ボキャブラリーが少ないって不便だ! と思った瞬間だった。
またいつか続きを書きます