始まりは夢という名のゲート
わいわいがやがや
(……なんだ?自棄に外が騒がしい…?)
俺は確か自分の部屋で横になって寝ていたはずだが……。何故こんなにも騒がしいんだ?
いつの間に俺は外に出たのだろうか?
そんなに寝相は悪くなかったはずだが……。
そう思い、俺は目を覚まして周りを見た。
「どこだ……ここ…?」
目覚めたそこはヨーロッパにあるイギリスロンドンを思い浮かべそうな石で出来たシックで格調高い建物の路地裏の間だった。
夢…なのだろうか?
それにしたって酷く現実感があるような気がする。時間帯は辺りを見る限り…夜か?
少し薄暗いが街灯が辺りを照らしているので、何とか足元は見えるようだった。
(本当にここはどこなんだ?)
俺は自らの疑問を解決するためなのかそれとも訳のわからないこの現実に呑まれて体を動かしているだけなのか路地裏から抜けようと表の道路へと足を動かした。
表から流れてくる騒がしい声が足を動かす度に段々と大きくなっていった。
そして、俺はそこでとんでもないモノを見た。
「…………!!!」
「……ぅ゛ぁあ」
それはゾンビ。顔がグシャグシャに潰れ、目に黒い空洞ができ、髪は血が固まっているせいでどうなっているのか分からない。
服はボロボロの上、血と肉が着いて気味が悪いどころかただただグロく気持ちが悪い。
しかも、何だか思わず鳥肌が立つようなそんな恐ろしさまであった。
俺は思わず、後ろに下がりそこから逃げ出した。
何故だろうか。あれを見た瞬間何故だか本能が恐怖を訴えてくる。
あれはヤバイ。気付かれたら襲われる。逃げても気付かれたら追い付かれる。
そんな荒唐無稽な恐怖が俺の頭を逼迫し、死にたくない死にたくないと心が大音声を喚きだしていた。
訳が分からなさすぎてとんでもない悪夢を俺は見てしまった。
パニックになった俺の頭はとにかく奴らから逃げて安全な場所へ遠いところへと逃げることしか頭になかった。
もはや頭の中はパニック過ぎて言語がゲシュタルト崩壊を起こし、ハイになったのか心が発狂していた。
頭がおかしい。狂い過ぎて自殺したくなる。奴らに一思い吹かせてやりたいと思うのに近付きたくないと思っている。死にたくないのに腕ごと持っていきやがれという思いと共に一撃パンチを食らわせたがる自分がいる。
走り続けていたら怖すぎる思いをしたら、どうしてこんな心境になるんだと突っ込む自分を自覚しながらやたら自爆したがる自分を制して俺はただ走った。
そうして、走っているといつの間にか辺りの風景が変わり、俺は夜の大草原で走っていた。
おかしい。俺はさっきまで都会の中で走り回っていたはずだ。
訳が分からない。
まさかこれは夢?いやいや、それにしては現実過ぎる。だが、ゾンビなんて夢の中くらいしかいない存在なはず。それに……気になることがある。何故騒がしかったはずのあの都会が、俺がゾンビの顔を見た瞬間に静かになったのだろう?
いや、静かというよりは音が消えた?
しかも、逃げている途中、BGMまで出てきていたような気さえしたのは気のせいか?
「……なんなんだここは」
現実すぎる風景なのに非現実的な存在が棲んでいて、リアルなはずなのにまるでゲームの中にいるような違和感がある……そんな場所。
異世界なのか……?
ファンタジー大好きな俺からすれば認めてもいいし受け入れても良いような気さえした単語ではあるが流石に今はそんな気分が起きなかった。だってホラー過ぎるから。
確かに異世界なのかもしれないが、こんな異世界はさすがの俺もノーサンキューとさせて頂きたかった。
そして、考えがちょうどいい区切りを迎えて、ふと周りを見てみるとまた景色が変わっていた。
今度は何故か夏祭りのなかだった。
気付けば屋台のおっちゃんの呼び掛ける声、仲良く喋る女の子達の会話、鬼ごっこか何かをしているのか俺の脇を駆け抜ける子供達。
(おいおい……どーなってやがんだここは……?)
さすがの俺も心がついていけそうになかった。
いや、理解も追い付かないし、風景が変わりすぎてただただ圧倒される自分を自覚せざる負えなかった。
ふと、空を見上げる。そこには黄色くて明るい満月に、その月の横を通り過ぎていく黒い竜の姿が何故か見えた。
「………………」
開いた口が塞がらなかった。
というか、なんで竜が空を飛んでんの?
しかも、西洋の竜が。
なんかもうこの世界、何でもありすぎじゃないか?
脈絡無さすぎるし。
そう思うと何だか笑いがこみ上げてきた。
いや、たぶん笑いたくなったのだろう。
おかしい現実に俺はたぶんおかしくなったのだ。しかも、黒いあの竜の姿を思い出しながらだ。
「あーっ!?もうッ!!訳がわっかんねぇわッ!!だーっはっはっはっは!!」
心の底から俺は笑った。
意味が分からなすぎて涙が出てきた。
服の袖で涙を拭おうとしたら何故か俺は黒い甚兵衛を着ていた。
どうやら景色とともに服装も変わったらしい。
本当に意味がわからなすぎる。
さらに笑いがこみ上げ大爆笑した。
周りの人は俺を変人でも見る目をして避けていたが、俺は全く気にしなかった。
心が愉快なのが止められなくて、笑ってる自分にきっとたぶん酔っていたのだ。
「あーもう訳が分からなすぎてさいっこうっの気分だわ!あっはっはっはっはっは!!」
俺はしばらく笑っていた。
そして数分が経って、笑いが落ち着いてきた頃、俺は屋台を周っていた。
何だか久し振りに童心に帰ったようで、はしゃぎたくなったのである。←笑いすぎるとこうなる
屋台は色んな物があった。
射的、焼きそば、わたあめ、型抜き、ヨーヨー釣り、イカ焼き、たこ焼き、くじ引きなどなど。俺が知ってる屋台の名前ばかりだった。
まあ、俺はお金なんて持ってないので全部見るだけだったのがちょっとあれだが……まあ、こういうのは気分で楽しむものだと自らを納得させていた。
そして、俺はその屋台の中で俺が知ってるようで知らないものを見た。
それはかき氷屋さんだった。
何故だか俺はそのかき氷屋を見たとき他とは違う何かを感じていた。
あの時の感情を口にするなら……胸がワクワクするようなドキドキするような……こうなんかふわふわした感情が浮かび上がったのだ。
俺はその違和感を確かめるために屋台を見た。
すると、明らかにおかしいものが見えた。
『イチゴ』
『メロン』
『ブルーハワイ』
『恐怖!怪奇現象の夜!』
『あの時の青春味』
『からあげのレモン』
「!?」
思わず俺は吹き出しそうになった。
横三つがなんかやたら違和感というか存在感放ってる。
しかも、なんか色合いがおかしいし。
俺はさらに目を進めた。
『七色の旅人』
『平和だサイダー』
『青鬼』
『トマト』
『アリアの夜』
『THE酒もどき!』
……
なんかどっかで見たことある名称が見えるなぁ。というか、これ俺が小説とかなりとかで設定したやつじゃないか?なんかやたらとそれを思い浮かべるものばっかりなんだが……。
しかも、トマト?
こんな味は設定したっけ?
……いや、待てよ。なんかトマトが由来のキャラがそういや作ったような……。
……まさか、いやまさか。
俺はさらに目を走らせた。
『肝凍る恐怖の館!』
『ハバネーロ君』
『マージカルピス』
『エリクッサー』
……
『ホルルトトマト』
「ぶはっ!?」
いやまあ、あるだろうなとは思ったけどまさかのダイレクトで来やがった!
ドストレート過ぎて大笑いするわ!
ホルルトトマト……それは俺が小説で設定して作られたとある伝説のトマトの名前だ。
そのトマトはとある元吸血鬼がとある馬鹿みたいな呪いに掛けられたのち、シハネというトマト農園の農場主に駄々をこねて作られたトマトの名前だ。
それがホルルトトマト。その元吸血鬼の名前が冠された伝説のトマトの名前だ。
(ああ、つまりこの世界は……俺の描いた小説の中か)
考えてみれば分かる。というか本人だからなおさら気付く。この夏祭りというシュチュエーション、ホルルトという名前のトマト。怪しいかき氷屋、何故か何処かで見た気がした黒い龍。
これだけ揃っているんだ。気付かないわけがない。妙に現実過ぎるのは不思議だがここは恐らく俺の小説の中に違いない。
まあ、まだ書いてないけど。だけど、いつかは書きたかった場面だ。恐らく俺が見ているのはその未来の理想の中なのだろう。
「夢にまで見るようになるくらい書きたくなっていたとは……。俺もついにここまで馬鹿になっていたのか」
こんなのは所詮、趣味の領域に過ぎない。けれどそれでも諦められなかった夢。それが今の状況を的確に表しているようだった。
「……はぁ。なんかよう……マジでよう。作家冥利に尽きるっつーか。なんつーか。……はあ。凄すぎる場所だよ…ここは」
しかしまあ、ここが俺の小説の中ねぇ…。
待てよ…もし本当にここが俺の小説の中だとすると……もしかしてもしかして…あいつらがいたりするのか?
夏祭りというシュチュエーションで出てくる俺のキャラと言えば、誰が出てくる?
それはもちろん決まっている。
あの四人だ。
……会えるのか?いやいやまさか……だが、でも……もし会えたとしたら……。
いる場所は分かっている。
候補としては三つある。
一つは歌のステージ。
もうひとつは神社。
そして最後は、奴らが最もいるであろうテトラポット上の決闘場。
そう……そうだ。まだ花火が上がっていないとしたら、ここが本当に俺の小説の中だとして設定通りであるなら…あいつらは多分、喧嘩を始めているはずだ。
年に一回行うタイマンをしているはずなのだ。
だが、そこに行くのは結構遠いのだ。
だから、最後に行くことにする。
俺はまず歌のステージがある場所へと向かった。
結果を言おう。どうやら最後の候補以外はないと判断した。
つまり、テトラポットであいつら戦ってやがる。
となると、マズイな……。俺は一般人だ。
そんなすぐにその場所に行けるわけかねぇ。
だってここからあの奴らの決闘場までは設定では三キロはあるのだ。
かなり遠い。
しかも、ある程度時間も過ぎてる。
もしかしたら、決闘が終わっているかもしれない。
だけど、それでも奴らがいると分かっているなら、俺は行こう。
もしかしたら、まだやってるかもしれないし、もし終わっていたとしても、奴らに会える。
それなら行くだけの価値はあるだろう。
俺はそう思って勢いよく走り出した。
……現実っぽい世界って意外とこうやって走っていると自らの体力が減るような気分がしてめんどくさい。
てか、どうせ走るなら自転車がいい。だってその方が絶対速く着くから。
「あー……しんどー……。俺ってこんなに体力無かったっけー?……ちっ、最近の運動不足が響いてやがるな……全く面倒だ…」
そんな愚痴をつい吐く。
まあ、あんな行けるぜヒャッハーな気分と勢いだったのに、走ると一気に削げるって……。
よくあるよねぇそういうこと。
しかし、マジで疲れたな……。
ちょっとはしゃぎすぎたか?
「ぜぇー…ぜぇー…。あーダメだ。なんか疲れたすんげーだるい。よし、歩こう。…休みたいけど」
現実の俺もはしゃぐとこんな感じによくなったっけか?
てか、なんか頭痛い。幼少期にあった知恵熱がぶり返してやがんのか?
なんかこう寝っ転がって休憩してぇ。
「俺…なにやってんだろ…」
…ああ、うん。多分俺は馬鹿なんだよ。
とまんねぇ気持ちを高ぶらさせ過ぎて全力疾走かます馬鹿だもん。そりゃ中学の時のマラソンで鈍足王になるのも訳ねぇよな…。
「あー…うん。大丈夫になってきた気がする」
歩いていると少しは息が整ったのか少し歩きやすくなった。
「どーでもいいが、なんかこう歩いていると色んなこと思い出すなー」
その中でも一番思い出すのは学校からの帰り道だった。
俺はよく一人で帰ることが多い。友達とか積極的に作ったりしなかったからそれは当然なのだが、まあ一人がとにかく多いのだ。
その時俺はこの暇で暇でしょうがない帰り道で何をしていたか。
景色を見ていた?いや、そんなの五日で飽きる。
じゃあ、何をしていたかと言えば、歌ってた。
え、何を歌ってたかって?
そりゃ、決まっている。合唱曲だ。
高校生になってからはボカロが聞けたからボカロ歌ってたことも多いが、まあ多くは手紙とかハナミズキとかの合唱曲だった。
有名曲じゃないのかって?いやまあ、そうでもあるんだが、俺が学校にいた頃、音楽の時間でよく三部合唱させられたからどうもそれの名残かなんか歌いたくなるのだ。
まあ、アニソンを歌わないのかって言われたらそりゃ歌ったりするが、帰り道で歌うとしたらどうしてか合唱曲を歌うんだよなこれが。
最近は歌詞忘れたせいかボカロオンリーになってるけど、昔はそう何故か合唱曲だった。
俺は何となく、歌ったりするがあれだろうか?
やっぱ歌うのは楽しいからだろうか?
まあ、そんな下らないことを考えていたら目的のテトラポットに着いた。
そして俺はそこでロケット花火が目の前へと接近しているのが見えた。
「って、おい!」
俺は後ろに倒れて慌てて避けた。
パァン!というまるで運動会のスターターが撃つクラッカーガンのような炸裂音が後方から聞こえた。
俺は、無言で立ち上がる。
(まだ戦ってんだねあいつら)
俺が言うあいつらとはトリスタと鋼のことである。
オリジナルキャラで、よく俺が使う主人公達。
それが多分ケンカしている。
まあ、このテトラポットの決闘はケンカではなく正式には決闘なのだが。
ただ、周りが見るとどうみてもじゃれあってるようにしか見えず、ただのケンカに見えてしまうので俺は喧嘩で通している。
というか、こいつら喧嘩多いしな。はあ…。