フライパンの音は危険を知らせる
もう何を言われても仕方が無い状況を自分で作り出すとは、自分はMだったのか…とカルチャーショックを受けている間に、2人の間では、何やら難しい話が繰り広げられているようだった。
‐まあ、難しい話は右から左、がモットーなので気にしないでおこう。
その後、奏さんがお茶を淹れてくれたので、そのままの流れでお茶会をすることになった。
天気がいいから外にでも出るのか、と思いきや、同じ部屋の中のようだ。
共通の話題があるとは、とてもじゃあないが思えない。
は、そういえば!と、この耳や尾のことを聞いてみたが、特に何も情報は得ることが出来なかった。
生まれたときから付いている…らしいが、だとしたら、私は、皆にこんな恥ずかしい姿を晒していたという事になる。それでも誰も、何も言ってこなかったというのは、ありえない。
好奇心が小学生並みの友人達なら尚更。
それを聞こうか聞くまいか、悶々としていると、何処からとも無く
-カンカンカンカンカンカン!!
フライパンをお玉で叩くとこんな音がするんだろうな…という音がした。
それを機に、湯飲みを持ってなにやら、世間話の様なものをしていた彼らは、血相を変えて、目を合わせた。
‐ああ、なんかツイてない
直感的に悪いことが起きている、と感じた私は、慌てて
「あの!これは一体…?」
彼らに答えを求めた。
「あ、後でお話いたします!!篠宮様は、俺と一緒に来て下さい!!!」
名前なんで知ってるんだろう、という疑問の答えを考える余裕が無いことくらい、分かる。
今は、奏さんが掴んで走ってくれている腕に、身体ごと持って行かれないように、
部屋の中の隠し扉から外へ、飛び出して走る。
‐嗚呼、苦しいな。
そう思ったと同時に、奏さんが早歩きになった。腕はまだ掴まれたまま。
「こんな状況で申し訳ないのですが、簡単に説明致しますね、急いで、あそこの避難小屋の中へ行きましょう」
見えてきたのは、これまた木造の質素だけれど美しい建物。
屋根の上のほうが透けて、奥の木々が見えていた。
本能的にとても気味の悪い光景に感じたのか、
掴まれた腕が、張ってしまうほどの力が気付かないうちに、入っていた。
「どうかされましたか…?」
それを素早く感じ取ったらしい、奏さんに怪訝そうな顔をされてしまった。
どう説明したら良いのやら…。
‐私はここで生まれ育った人間だと思われているんだよね、なら、これは質問しちゃいけないことなんだろうな…奏さん、絶対に視界に入ってる筈なのに何も言ってこないし。
「いえ、何でもないです」
精一杯の笑顔を繕って、言えば、そうですか、と奏さんも引き下がってくれた。
渋々、といった感じだけれど。
ヒロイン、M疑惑です。




