それは懐かしい味
先程の料理をする音もいつの間にか止み、寝ていた布団の傍にホクホクと湯気が上がっている、出来立ての食事が置いてあった。
‐…いつの間に置いたんだろ?こんな至近距離なのに気付かなかった…。
「もう昼時だ。腹が減っただろ」
「私、どれ位寝てましたか…?」
「さあな、知らん。とっとと食えよっと」
それだけ言うと彼、否、楠乃さんは立ち上がり、
ヒラヒラと手を振りながら、部屋を出て行ってしまった。
‐これ、食べ終わったらどうすればいいんだろう…。
そんなことが一瞬、脳裏に浮かんだが、腹減りから来る腹痛に耐えられず、御膳上の箸に手を伸ばした。
ご馳走になったご飯はとても美味しかった。
一個一個の料理は素朴なのに、味がとても深い。
‐お袋の味って、こんな感じなのかな?
なんて、くだらないことを考えてみたり。
…ご飯に突如、塩気を感じた。
それから、頬がヒリヒリする。
嗚呼、泣いているんだな、と分かったのは、出された料理を食べ終わる寸前。
小さな窓から入ってきた風が、頬に当たったときだった。
「っ…こ、んなの、人に見せられな、い……!」
空になった茶碗を膳に戻し、慌てて目を擦るが、腫れてしまう!と思い出し、
着ていた制服の袖で、軽く拭った。
それから数分。
スーッと襖が開く音がして、
「食べ終わったか」
楠乃さんが入ってきた。後ろに居るのは料理人だろうか…?
‐割烹着、着てるし、きっとそうだよね。
「あっ!あの、美味しかったです、有難うございます!!」
「………だとよ、奏」
「褒めていただけるなんて、光栄です」
男性なのに、料理がうまいなんて…っていうか笑顔が眩しいっ!!
「いえいえ、美味しい料理を褒めるのは、普通ですよ!!それに一切社交辞令は混じってないですからね?純粋に、美味しかったですっ」
何が可笑しかったのか、割烹着姿で、奏と呼ばれた彼は、クスクスと肩を揺らして笑った。
「何か可笑しかったですか!?」
まあ、当然、吃驚するわけで、理由を聞いてみると、
「いえ、つい…あなたがとても必死だったものですから…ククッ」
‐まだ、笑ってる…そんなに必死に言ってる様に見えたの!?
それとなく、楠乃さんに目を向ければ、
「まあ、確かにな。必死だったぞ。お前」
‐あ、さいですか。
否定してくれると思っていた唯一の人がまさか肯定してくるとは。
「ええ!2人して酷いっ…。心から言ったつもりだったんですよ…!?あれでも……」
ほら、反抗の言葉を口にしてしまったじゃないか!!!