巫女の拉致
「お久しぶり、ナギサ。元気そうね。」
突如目の前に水色の翼を持つ女が現れる。
「・・・姉さん。どうして地上に。」
「さあね、どうしてでしょうねえ。」
女は一歩、また一歩ナギサに近づく。
「ごめんね。」
女はにっこりと微笑みながらそう言うと、きょとんと突っ立っている
ナギサの腹部に拳を喰らわす。突然の痛みに襲われたナギサは声を上げる
間もなく意識を失い、その場に倒れこんだ。
「ほんと相変わらずもろいわね。そうだ、置手紙を置いてこうっと。人間ども、きっと慌てるわ。」
女はナギサを抱え込むと、置き手紙を残し、その場から消えた。
それから数分後、ナギサが事件に巻き込まれたことが発覚した。
『ナギサ・ジブリールは私が預かった。返して欲しければソウルまで来い。
byアスタロテ』
「安っぽい脅迫文ね。本当だとしたら黒いカーテンを何とかしないといけないわ。」
飛鳥がそう感想を言う。
「彼女の能力を恐れた何者かの仕業かもしれません。一刻も早く彼女を救出するべきです。」
とオットー。
「使い走りの間抜けな三下らしい文章だ。だが俺様は雑魚にも容赦はしない。
無慈悲なお仕置きが俺様の趣味だからな。それよりオットーとやら、俺様が
直々に携帯の番号を交換してやろう。」
とグリセリド。
「ああ、かまわない。グリセリド君。君の頭脳は何かと心強い。」
とオットーは快諾する。交換が終わった頃、
「まあ、祝勝会は打ち切りにしてナギサさんの捜索を開始しましょう。」
飛鳥がそういい捜索が始められた。しかし、彼女は発見されることがなかった。
連れ去られてから数時間後、ソウルの某所。
「う、う~ん。・・・ここは。」
ナギサは意識を取り戻した。腹部はまだズキズキと痛む。手足の自由も利く。
周りを見わたすと自分は巨大な鳥かごに監禁されていることが分かった。
「お目覚めかね眠り姫。気分はいかがかな。」
中性的な顔立ちをした男がナギサに話しかける。
「・・・最悪。」
「そんな怖い顔しないでおくれよ。僕は君に悪さしようなんて思っていないんだから。」
そういいながら男は柵の間から腕をいれナギサの頬をなでる。力をこめるナギサ。しかし力が入らない。
「無理だよ。この檻は特別でね。魔力の類を一切封じることが出来るんだよ。
まあ、力づくで壊せないこともないけれど、君のそのか細い腕じゃ無理
だろうね。」
クスクスと薄気味悪い笑みを男は浮かべる。
「駄目ですよ、ご主人様。手を出しちゃ。大事な人質なんですから。」
ナギサはその姿を見てハッとする。自分をさらった女がそこに現れたのだ。
「おお、ごめんよアスタロテ。うっかり壊してしまうところだったよ。」
そういって、そっとアスタロテに口づけをする。恍惚な表情を浮かべる
アスタロテ。ふと明かりが消える。暗闇の中から聞こえてくる衣擦れの音。
抑えようとしてもこぼれ出てくる桃色吐息。何をしているかはナギサにも
当然分かる。だがそれを見せ付ける意図までは分からない。疲れと混乱の中、
ナギサは再び眠りに付いた。




