決戦
「準備はいいか巫女。」
オットーはナギサに尋ねる。
ナギサは瞑想しているかのような雰囲気であったが、やがて
「・・・転移完了。対象物のブロック化も終了。・・・転移先と視神経のリンク
完了。・・・その他サブ機能のリンク完了。・・・すべての準備完了。
いつでも行ける。」
それを聞いて東郷は
「皆のもの、戦闘開始せよ」
ついにアラスト星人と人類の火蓋が切って落とされた。瞬間移動装置を用いて
アメリカ東西側に各国の艦隊が集合する。
「こりずにまた来たようだな、虫けらどもが。まあいい、滅ぼしてやろう。」
連合艦隊を眼下にして人間を見下すアラスト星人。西海岸側から戦闘機群が
空母から飛び立ち円盤に襲い掛かる。
「落ちろ、虫ども。」
円盤のレーザーが弾幕となって人類の戦闘機に襲い掛かる。命中。そして爆発。
いや、爆発しない。円盤をあざ笑うかのように戦闘機は悠然としている。
「どうなっている。すべて回避されたのか。レーザーを。」
先日とは違う状況に、にわかに焦るアラスト星人。
そして東海岸側。
「全戦闘機、不可視モード及びIRSTを展開する。」
戦闘機が人の目から消える。そして飛び立つ。
「こちらゼロ小隊、攻撃を開始する。」
「こちらJ21小隊、戦闘を開始する。」
人類の目の前に立ちはだかる円盤群。
「おい、こっちには虫けらは来ないのか。あっちには現れたのに。」
「ほっとけば来るだろう。どんな策を練っても結果は変わらない。」
余裕を見せているアラスト星人。ピカピカピカピカ。すさまじい閃光が円盤群に
襲い掛かる。
「閃光弾による攻撃成功。次の部隊の武運を祈る。」
閃光弾を撃ち込んだ戦闘機が宙返りをして戦闘空域から離れる。そこに第二陣が
間髪いれずにやってくる。
「こちらラファール隊。タール弾による攻撃を開始する。」
「こちらセイバー隊。攻撃を開始する。」
閃光弾による視界が奪われる円盤群にタール弾が直撃する。シールドごと真っ黒で、べっとりとしたタールが覆う。
「おい、何も見えんぞ。」
視界を奪われた円盤群の隊列は円盤同士の衝突による墜落、敵と逆方向に行く円盤や
味方に向かってくる円盤、そしてそれをよける円盤によって隊列は完全に
崩壊していた。ラファール及びセイバーはすぐさま、その場から離れ次の攻撃の
準備をする。
「こちらT―50隊、攻撃を開始する。」
有線式束縛弾が円盤に絡みつき高圧電流を浴びせる。電気系統を麻痺された円盤は
次々と墜落する。今度は
「こちらフレイヤ隊、攻撃を開始する。」
するとフレイヤ隊は高度を上昇させ円盤群を見下ろし、地中貫通爆弾を叩き込む。
一点を撃ち抜く弾頭が円盤を叩き落す。
「どうなっているんだ。くそ、奴らはどこから攻撃を仕掛けているんだ。」
巨大円盤内はトリッキーな攻撃に翻弄される円盤の様子を見て混乱していた。
「では、そろそろ地上部隊の出番だな。」
円盤が落ちてくるのを待っている戦車隊。そこに
「くそっ、虫けらどもめ。全く動きやしない。シールドは生きているみたいだな。」
墜落した円盤。
「では、まずは行かしてもらうぜ。そちらは逆サイドから頼む。
チャレンジャー部隊。」
「オッケー。死ぬなよ20式部隊よ。」
20式戦車がレールガンを墜落した円盤に浴びせる。主砲が命中するたび、
円盤のシールドが光り攻撃をはじく。
「シールドがあって助かった。虫どもに殺されたら死んでも・・・ん。」
ピキピキとひびが入る円盤。
「残念、タヌキども。こっちが本丸なんだよ。」
円盤に乗り上げるチャレンジャー3。その横に、その上に。ジェンガの用に円盤に
乗る戦車群。
グシャ。
戦車の重みで潰される円盤。
「よし一つ。さあ次にいくか。」
獲物を片付けた戦車部隊は次の獲物に向かう。西海岸側においても動きがある。
「分かったぞ、あれは幻影だ。だからいくら当てても当たらない。攻撃も来ない。
奴らはあっちに全戦力をつぎ込んでるんだ。みんな行くぞ。」
トリックに気づいた円盤群が東側に向かって移動する。
「孔明参謀長、気づかれたようですな。」
「大丈夫です。東郷司令官。」
アメリカ大陸の中央付近。そこは何もない空。だが円盤は次々と爆発する。
何もないのに。
「どうなっているのだ。どこから攻撃を受けている。」
円盤の動きが止まる。周囲を見わたすが敵影は見られない。
「孔明参謀長、どういうことですか。」
ヨハン・チェンロシア軍参謀長の質問に孔明は
「それはナギサさんが答えてくれるでしょう。」
とだけ言った。
「・・・アラスト星人の攻撃を防いでいるのは万里の長城。私があそこに転移した。
それにイギリス軍の光学迷彩装置と私の結界が少々加えることで遺跡そのものの
不可視化と防御力の向上が得られている。さらに長城そのものを数百に細分化。
その一つ一つをコントロールし敵機の前に配置することで敵の前進を阻むことが
可能。」
ナギサの抑揚のない説明にポカンとするヨハン。
「万里の長城が盾になっているということです。」
孔明がナギサの説明を補足する。
「さすがですね。こんな方法、私では到底思いつきません。」
とヨハン。
「そんな、恐縮です。それはそうと、そろそろ出撃お願いできますか。」
孔明がどこかに連絡する。
「天才に準備不足はない。俺様とオメガの勇姿をそこで指を咥えて見ているがいい。」
とグリセリド。
「問題ない。こちらはいつでも出撃可能だ。」
と岩本。
「そうですか。ではカムイ、ジークフリード出撃して下さい。」
フランス軍空母リシュリューから二体のロボットが射出される。2体は巨大円盤に
向かって一直線に進む。途中の円盤群を突き破って巨大円盤と対峙する。
「こいつはでかいな。行くぜ、岩本。」
「俺は問題ない。坂井こそ大丈夫か。」
「ああ、大丈夫だ。ちっこいのがおってくるな。これでも受けな。
フィンガーミサイル。」
カムイの指先から10発のミサイルが撃ち込まれる。そのすべてが円盤の前で閃光を
放つ。数十の円盤が視界を奪われ動きを止める。
「教授、イッキまーす。ロンギヌス射出。」
ジークフリードから青白く輝く槍が出てくる。
「俺様を敵に回したこと、なべの中で後悔するがいい。」
ジークフリードがロンギヌスを円盤に向かって投げつける。槍は円盤を貫通し
再びジークフリードの手元に舞い戻ってくる。
「やるな変態。」
「凡人の小細工もたまには役に立つな。」
いつもの坂井とグリセリドのやりとり。
「岩本、天叢雲を。」
「了解だ。天叢雲を射出。」
カムイから白く輝く剣が出る。
「ぶったぎるぜー」
巨大円盤に斬りかかるカムイ。巨大円盤のシールドがそれを阻む。凄まじい火花が
剣とシールドの間から放たれる。
「ぐわああああ」
坂井の叫び声とともにシールドの反動に吹き飛ばされるカムイ。
「どけ、凡人。ここはロンギヌスで突き破る。」
ジークフリードが巨大円盤に突進する。
「ぬおおおおおお」
吹き飛ばされるジークフリード。
「どうしたどうした虫けらども。そんな玩具で何がしたいのかな。」
アラスト星人の見下した笑い声が当たりに響く。
「なんなんだ。あの化け物は。」
「うろたえるな坂井。手はいくらでもある。あのシールドの弱点は電撃だ。
電撃を浴びせつつコロナプラズマ砲をぶっ放す。」
カムイの腹部からシェルターが開き砲台が現れる。砲台から発射された紫電の輝きを
帯びた電撃が巨大円盤に直撃し、円盤全体が放電に包まれる。それと同時に
カムイの口からプラズマ砲が放出される。
「教授、チャンスです。我々もぶっ放しましょう」
「凡人に遅れをとるとは情けない。だが乗りかかった船。今こそ天才を愚弄した
罪を償ってもらおう。反物質砲発射。」
衝突するものすべてを光に還元する必滅の攻撃が巨大円盤を襲う。
「まずいです、ボス。回路のあちこちがショートしております。シールドの維持が
困難であります。」
アラスト星人の一人が司令官に報告する。
「分かった。すべてをシールドの維持に回せ」
司令官の命令に
「了解であります。」
とアラスト星人のクルーたち。そして強化されるシールド。円盤全体を覆っていた
放電も消える。
「まだ壊れないぞ。あのシールド。」
「そうだな。ではカムイの全力をお見舞いしよう。電圧10億ボルト、
電流5万アンペアに設定。くたばれタヌキ。」
先ほどより一回りも二回りも太い紫電を巨大円盤にぶつけるカムイ。再び放電が
円盤を覆う。そして電撃を当て続けたところから爆発。
そしてシールドが消失。円盤のあちこちから小規模の爆発が発生する。その時、
坂井の腕輪が光りだす。
「こちら、マヤ・ルクレール。これから月面基地に襲撃をかける。」
突然の連絡に驚く坂井。了解と一言だけ告げグリセリドに連絡を取る。
「おい、変態。これから俺らは月に向かう。後は任せるぞ。」
「この天才に任せておけば問題は小学生の算数よりたやすく解決する。さっさと
行ってタヌキをつぶして来い。」
高度をぐんぐん上げるカムイ。
「では邪魔者もいなくなったし俺様とオメガの愛のステージをタヌキどもに
見せてやろう。」
「そうでございます、見せつけるであります教授。」
ジークフリードは巨大円盤の上に乗る。直径数十キロはあるであろう巨大円盤から
見れば全長数十メートルのジークフリードは非常に小さな存在だ。その巨大な存在に
ロンギヌスの槍を突き刺す。小爆発が続き円盤の装甲を徐々に溶かす。
「荷電粒子砲発射!」
先ほど開いた小さな穴が一気に広がる。そして、その穴から中に乗り込む
ジークフリード。
「大変です、ボス。敵が中に乗り込んできました。」
「なんだと。早く排除しろ。」
急いでレーザー銃を準備するアラスト星人。
しかし時すでに遅し。目の前に現れたのは自分よりはるかに巨大なロボット。
「あれがタヌキどもか。この天才と会話できたことに咽び泣くがいい。」
ジークフリードは問答無用で周囲の壁を殴る。轟音とともに破壊される壁、壁、壁。
崩れ落ちる瓦礫がアラスト星人を飲み込んでいく。そんなアラスト星人に
目もくれず突っ走る。壁を殴り、時には蹴りながら。そのたびにあちこちから
火災が生じる。道など分からない。でたらめに走り、そして破壊する。
「教授、ここは破壊済みでゴザイマスー。」
「また道に迷ったか。では上に行くぞ。」
「ハイハイハーイ。上ですね。」
ジークフリードは天井を頭突きして破壊する。そしてそのフロアーを同じように
破壊を繰り返す。破壊と迷走を繰り返すこと数時間。ついに中央制御室に
たどり着いた。体当たりで壁を破壊するジークフリード。崩壊した壁の下敷きに
なるアラスト星人。その上を歩くジークフリード。
「ここが司令室か。俺様の名は神に見初められし天才グリセリド。そこのタヌキ、
あの世に行く準備はできたかな。」
「ここまで来られただけで何をほざいておる。この船を落としたとて我々の本体は
月におるのだぞ。」
苦し紛れの発言をするアラスト星人。
「大変でございます、ボス。本部からの連絡があり、宇宙戦闘機群壊滅。および
月面基地が攻撃を受けているとのことです。」
声を失うアラスト星人のボス。そして目の前に立つジークフリード。その圧倒的な
威圧の前にアラスト星人は身震いすることすらできない。
「だ、そうだ。この星に来た自分の不運を呪うんだな、チャオ。」
ジークフリードから反物質砲が発射される。その一撃でアラスト星人の体は
光となり、跡形もなく砕け散った。
「天才に逆らうとこういう目にあうのだ。」
ご満悦のグリセリド。だがその時グラグラとコックピット内が揺れはじめた。
「教授、中央司令室を吹き飛ばしたおかげでこの船、制御が利きませーん。
つまり墜落します。」
「よろしい、ならば脱出だ。」
そのまま天井に激突するジークフリード。幾つもの天井を破壊し円盤から脱出する。
制御を失った巨大円盤は市街地に向かって落下する。
「まずいぞ、あれでは都市に直撃する。」
東郷が声を上げる。
「なにか手立てがあるはず。」
必死に頭を回転させる孔明。
「・・・問題ない。転移!」
次の瞬間、巨大円盤はエリアから消滅した。
「ナギサさん。あ、ありがとうございます。」
孔明がお礼を言う。
「・・・どういたしまして。とりあえずあの円盤は太平洋に転移させた。」
緊迫の司令室内から、ついに安堵の表情が見られた。
「我々の勝利だ。みんなありがとう。」
東郷の言葉に湧き上がる司令室。みんなが浮かれ始めている頃
「ふ~ん。馬鹿でかい魔力を持った人間がいるみたいね。この波長はあの子か。
ご主人様の邪魔になりそうだからとりあえず捕まえておくか。生かすか殺すかは、
ご主人様に任せよっと。」
水色の翼を持つ女が戦闘の様子を見ながらつぶやいていた。




