逆転への策
「まさか、これほどまでとは」
東郷はこぶしを握り締める。アーロンも
「ああ、強すぎる。手も足も出ない。このままではいたずらに兵を失うだけだ。」
と憔悴しきっている。作戦本部は暗い空気で満たされていた。ただ一人陸・孔明を
除いて。孔明は世界地図を広げ、地図上に指を動かしながら何かを考えていた。
そして何やらメモを書き始め、アーロンと東郷にそれを渡す。
「確かに可能だが・・・分かった。やってみよう。チャレンジャー3を応用する
だけだ。」
アーロンは孔明のメモを読み早速、どこかに電話をかけ始めた。東郷も
「SOMYの社長とは幼馴染でね。任せといてくれ。」
東郷のほうもすぐさま電話をかけ始める。数分後、アーロンから
「孔明参謀長、朗報だ。たった今、イギリスの全工場動かして例の装置を製造
することを決定した。またあれは他国の戦闘機にも流用可能であることが技術部の
報告で分かった。」
続いて東郷も
「こちらも朗報だ。今すぐあれを製造するという連絡があった。またあれは音速でも
ぶれないほどスペックが高いそうだ。」
二人の報告を受けた孔明は世界地図を見つめたまま
「ありがとうございます、二人とも。ところでオットー元帥。この建造物を移動
させることは可能ですか。」
孔明は中国の一点を指差しながらオットーに質問する。
「これをですか。私の力ではちょっと無理ですね。う~ん。少々お待ちください。
これをできそうな人物を一人だけ知っております。」
そういうとオットーは電話をかけ始めた。
「少々お待ちください。彼女はすぐに来てくれます。」
数分後、明るい紫色の魔方陣が現れ、その人物が登場した。黒髪でロングヘア。
服装は巫女の格好をしている。
「紹介しよう。エスパレス最高の天才魔術師悠久の巫女ことナギサ・ジブリールだ。」
「・・・ナギサ・ジブリールです。・・・よろしく。」
小さな声で挨拶をした彼女を見てそこにいる誰もが不安を隠しきれないでした。
だが孔明は気にせず
「ナギサさん。私、陸・孔明と申します。早速ですが、これを移動させることは
可能ですか。」
孔明は先ほどオットーにした質問をナギさにする。
「・・・可能。場所はどこに。」
「ここです。」
孔明は米国をなぞるようにして示す。
「・・・なるほど。ただこの建造物はあまりにも高さが低い。よってZ軸上の配置に
関しては敵の位置に応じて私が任意に変える。問題は。」
「ええ、お願いします。もちろんこれにはアーロン司令官にお願いした装置を
取り付けます。」
孔明の計略が着々と進んでいく。孔明にとって一番の不安材料はナギサの能力が
未知数であることだった。
「オットー元帥、ナギサさんは攻撃が得意ですか。」
「残念ながら彼女は攻撃魔法を使えません。」
「・・・すみません。姉がいればよかったのですが。」
ナギサは消えそうな声で返事をする。
「いえ、ありがとうございます。なぎささんの働きで敵戦力を半減できれば
大分違います。」
防御やかく乱の方法は何とかなりそうだ。あとは攻撃方法か。ミサイルもレーザーも
ダメ。高圧電流、押し潰しは効果あり。またタール弾も効果あり。決定的な方法が
見つからない。孔明は、それから三日後、朝日が昇る頃
もしや・・・あれが使えるかも。
何かを閃いた孔明は即、東郷に連絡を取る。
「もしもし孔明です。東郷司令官、突然で申し訳ないのですがカムイに武装されて
いる閃光弾を各戦闘機に武装させたいのですが可能でしょうか。」
「元々あれは戦闘機に搭載する予定でしたから装備は可能です。他国の戦闘機に
適合するかまでは不明でありますが。とりあえず担当のものに聞いてみます。
またこちらから連絡しますよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
数分後、孔明の元に電話が鳴り響く。
「はい、陸・孔明です。」
「東郷です。先ほどの件についてだが、備蓄量に関しては問題ないそうだ。
各機体との適合性は国際標準仕様なので問題ないだろうと言うことだ。」
「本当ですか、助かります。これで勝てます。」
「本当か。物資の輸送は例の装置を使用してすぐに送るそうだ。」
勝てるという孔明の自信のある声を聞いて東郷の声も弾む。
「本当です。では今夜、作戦会議を行います。」
その夜、東郷、アーロン、坂井、グリセリド、ナギサ、オットーが孔明によって
招集され作戦会議が開かれた。それぞれの部隊の位置を地図を用いて説明をする孔明。
「悠久の巫女をこう配置するとは。やりますね。しかし長期戦が予想されますが
巫女、大丈夫でしょうか。」
オットーの心配をよそに
「・・・問題ない。適度にオートモードに切り替える。直接戦闘よりはるかに楽。」
とそっけなく答える。
「そうか。では任せるぞ。」
彼女が問題ないというのだから大丈夫なんだろう。オットーはそれ以上ナギサに
質問をしなかった。再び孔明の説明は戦闘機の編隊について移っていく。
織田信長の三段構えを思わせる編隊、そして各列の兵装が完全に分担制になっている。
「このための閃光弾か。孔明の名は伊達ではないということか。しかし、
この方法では一つの部隊が壊滅したら総崩れになるぞ。」
東郷の質問に
「ええ、そのために各戦闘機にはすべての武装をしてもらいます。また、
そのときの予備隊を含めたため四段構えにしてあるのです。そして今回は敵の探索に
用いるIRSTを味方の位置確認に使います。」
孔明は答える。今度はアーロンから質問が飛び出る。
「なぜIRSTを味方の位置確認に。」
「はい、フレンドリーファイアーを防ぐためです。」
孔明が答える。
「なるほど、チャレンジャー3の武装の欠点を補うってことか。まったく君は
敵にしたくない男だ。」
アーロンは完全に孔明に脱帽したようだ。
「いえいえ、そんな私などたいした子とありません。」
孔明は謙遜する。そして作戦の説明の続きを始める。戦車部隊の配置、
カムイ、ジークフリードをリシュリューへの配備とどれもが各部隊の特長を
生かしきる内容となっていた。
「おい、孔明。俺様のジークフリードとカムイのことだが区切りがいいところで
別行動してもいいか?」
「それはどういうことでしょう、グリセリドさん。」
「カムイにタヌキの月基地を破壊してもらう。そして俺様は愛しのオメガと共に
あのデカブツを破壊する、ということだ。」
相変わらず態度の大きいグリセリド。そこにオットーが割り込む。
「それは名案だ。幸い彼らの月基地攻撃には特殊部隊を送り込む作戦がこちらには
ある。坂井といったな。君にこれを渡そう。」
そういうとオットーは坂井に腕輪のようなものを渡した。
「通信機のようなものだ。彼らには私からすでに言ってある。月基地には何があるか
分からない。協力し合うときには役に立つだろう。」
「そういうことだ凡人坂井。タヌキに化かされないように気をつけるんだな。」
「それはこっちのせりふだ、変態。」
コホンと孔明が咳払いをし、二人をにらみつけ黙らせる。そして
「この作戦には各国の惜しみない協力、とりわけエスパレスには感謝しなければ
なりません。オットー元帥、あなたがいなければこの作戦は立てられませんでした。」
「いえ、我々こそあなたがたにすべてを任してしまって申し訳ない。」
オットーは心底申し訳なさそうに頭を何度も下げる。そこに東郷がフォローを入れる。
「どうでもいいじゃないですかオットー元帥。今こうして我々は一つの脅威に
立ち向かっているのだから。」
「そうですよ。瞬間移動装置がなければ前回の戦いで我々は空母ごと沈められて
いました。あなた方は命の恩人です。」
今度はアーロンがオットーに感謝を述べそして肩をポンと叩く。すっと孔明が手を
前に出す。続いてアーロンがその上に手を重ねる。皆が次々と手を重ねあう。
最後に東郷が手を重ねる。
「この作戦は過去の遺産、偉人の知恵、現在の科学技術と魔法を結集させることで
可能になります。神に祈ることはやめましょう。私たちがやるのです。
生き残るために」
「孔明の言うとおりだ。今、我々人類は一つになる。今、母の中で育っている命が
産声を上げる未来の世界を守るために。みんな、今夜は休め、語らえ、そして笑え。
すべては人類のために。いくぞ!」
人類の存亡をかけた一大作戦が今始まる。




