エスペランザVSアラスト星人
「皆さん、作戦を開始します。」
鉄姫妖精とロシア情報部の混成チーム、エスペランザが行動を開始する。
有希が複数の電波を同時に発射し、成層圏付近にいる敵機に更新を試みる。
「これだけの種類を送るんだ。しかも相手はたくさん。どれか一つくらい
引っかかるでしょ。」
「そうですね有希さん。一つ見つければそこが点になります。そして点が打てれば
線が引けます。相手も私達と同じように各機体ごとがネットワークで繋がっている
でしょうから、ハッキングは無理だとしても何か情報はつかめるでしょう。」
「軍にいるときのすみれってクールだねえ。ロボット乗り回していたときが
嘘みたいだわ。」
「それは言わないでよ、ソフィアちゃん。」
少しむくれた顔ですみれはソフィアを見る。
「ごめん、ごめん。では仕事再開しますか。」
再び画面に集中するメンバー。しかし中々、交信が成功しない。
「すみれさん、なかなか当たりませんねえ。もしかして相手にばれているんじゃ
ないでしょうか。」
美咲が少し不安そうになる。作戦開始からすでに10時間が経過している。
「美咲ちゃんだっけ。大丈夫よ。こちらのダミー情報には異変がないわ。
量子暗号を仕掛けてあるから、もし相手がこちらに仕掛けていたら必ず分かるわ。」
ソフィアが自信ありげに言う。ただ一人の男性アレクセイも
「美咲さん、ここは我慢です。耐えることも戦いですから。」
「そ、そうですね、皆さん。私、もう少し頑張ります。」
アレクセイに励まされ美咲は再び画面に集中した。
「まあ、でもあれだね。こう長期戦になると疲れるからローテーション制にしないと
回らないね。ちょっと私、仮眠してくるわ。美咲もどう?」
有希が美咲を誘う。
「いいんですか。休んじゃっても。」
「そうね、休むのも戦いの一つでしょうから2時間後にまたお願いします。」
とすみれ。有希が元気に
「さすが、我らのリーダー。では、まずは買出しだ。アレクセイさんもどうですか」
「そうですね、荷物係も必要ですからね。よろしいでしょうかソフィアさん。」
「分かったわ。じゃあカップ麺買ってきて。」
「了解しました。」
3人が部屋から出てあたりは静かになる。エスペランザによる交信は依然として
繋がる様子はない。
その頃
「地球から盛んに電波の発信が確認されます。なんでしょう。」
アラスト星人側に送信していた電波の一つが届いていた。
「我々のネットワークに侵入し、コントロールを奪おうと考えているのだろう。
コンピュータの種類とその位置を割り出せ。」
「了解です。」
すぐさまアラスト星人側による解析が行われていた。数分後、
「判明いたしました。種類は量子コンピューター、場所は座標に示すとここ
になります。」
「量子コンピューターか。虫けらにしては過ぎたおもちゃだな。よし、X-よ。
地上に降りて遊んで来い。」
「了解。」
自分たちの交信がすでに読まれていることを知らないすみれ達。
「ただいま。少し買いすぎちゃったかな。」
3人が両手に袋を抱えて帰ってきた。
すさまじい衝撃が基地を襲ったのはこの頃だった。突如、天井が崩れ爆発が起き、
そこにいたメンバー全員が吹き飛ばされた。それはアラスト星人の宇宙船による
攻撃によるものだった。
「全く虫けら風情が情報を盗み取ろうなんて考えるからこういう目にあうのだ。」
光学迷彩を施した宇宙船がそこにはあった。
「あたたたたた。」
奇跡的に助かったすみれはあたりを見わたす。その様子に気づいたのか。
近くにソフィアが足を引きずりながらすみれのほうにやってくる。
「やられたわね、すみれ」
「どうやらばれていたみたいだね、ソフィアちゃん。ところで他のみんなは。」
分からないといって首を横に振るソフィア。
「そっか。少し探してみようっか。」
崩れそうになる建物の中で仲間を探す二人。何やら躓いて、すみれが転んだ。
ペンライトを用いてよく見ると、血まみれになって倒れている有希だった。
近くには美咲も倒れていて、周りにはつぶれたカップ麺などが散乱していた。
「有希さん、しっかりして。有希さん。」
すみれが有希を抱き起こす。
「あ・・・・す、すみれ・・か。」
「有希さん、私は大丈夫だから、しゃべらないで。今、救急車呼ぶから。」
急いで電話をかけるすみれ。それを拒否するか弱い力。
「あり・・・・が・・とう。」
ごほっごほっ。口から吐き出す血が止まらない有希。
「有希さん、有希さん。」
涙を流しながら叫び続けるすみれ。涙で濡れたすみれの頬を有希は残された力で
撫でると静かに瞳を閉じた。
「有希さん、嘘でしょ。目を覚まして、有希さん。」
すみれの叫び声が廃墟となった基地に響き渡る。すみれは有希の遺体に合掌した。
美咲のほうはソフィアが確認したが、そのときにはすでに息が無かった。
アレクセイにいたってはどうなったかすら分からない。
「すみれ、ここから逃げるよ。」
「そうだね、行こう。」
二人は外に出て基地から出ると、突如ビームが襲ってきた。
「待ちぶせして正解だったな。下等生物ほどしぶといからな。では少し
遊ぶとするか。」
二人は一目散に走り出す。足が痛いのなんて気にしていられない。ソフィアの
すぐ横にビームが襲う。アスファルトが抉れ、残骸がソフィアを襲う。今度は
すみれの横にビームが降る。続いて二人の後ろにビームが放たれる。その衝撃で
二人は前に吹き飛ばされた。
「ほらほら、早く逃げないと当てちまうぞ。」
宇宙船は二人が動き出すのを待つかのように攻撃を停止する。
「すみれ、私もう限界だわ。足がバカになっちゃって、動けない。だからすみれ、
あんただけでも逃げて。」
「そんなことできないよソフィアちゃん。」
そう言うと、すみれはソフィアを担ぎ出す。
「あんたバカ。これじゃあ、敵に当ててくださいといっているみたいなものよ。」
「私はソフィアちゃんを置いては逃げられないよ。」
すみれはふらふらしながら前へ進む。
「バカね、じゃあ二人で天国行きますか。」
「そうね、ちょっぴり悔しいけどね。」
そんな様子を見ているアラスト星人。
「追いかけるのも飽きたし、ここらで虫を潰すか。」
ビームの砲門が二人に向けられる。
「では、死ね・・・ん、何だあの光は」
アラスト星人達の目の前には赤く光る五芒星が現れた。二人の目の前に炎のように
赤い翼を持つ女性が立ちふさがり円盤を見据えていた。
「まっいいか。」
気にせずビームを発射する。だが五芒星がそのビームを鏡に当たる光のごとく
跳ね返す。
がらがらがらーん。
ビームを受けた近くのビルが音を立てて崩壊する。
「なにっ、シールドか。小ざかしいまねを。」
女性は指先から赤い光の球をいくつも出し、円盤に向けて投げつける。球が円盤の
周りをぐるぐる動きながら取り囲み、やがて止まる。そしてそこから赤い
レーザー光線のようなものを放出し円盤を光が囲む。それと同時に円盤の光学迷彩が
解け、無機質な銀色の機体が空に現れる。
「どうなってるんだ、身動きできないぞ。」
円盤は身動きしようと上下左右に揺れるが何もできずにその場で立ち尽くしている。
「無駄だ、貴様はこの空間束縛から逃れられない。失せろ。」
女性は炎を纏った剣を構え、円盤に剣を向けて突っ込む。剣先から竜のような形を
した炎が発せられ、炎が円盤を飲み込む。さらにそのまま円盤に横の一閃を浴びせる。両断された円盤は激しい爆発音とともに市街地に墜落した。
「あ、ありがとうございます。きゃあ。」
すみれがお礼を言っている途中で女性は二人を抱えて飛び上がる。眼下には東京の
町並みが広がっていた。それがだんだん遠くなり、そして辺りが真っ暗になった。
と、同時に見慣れない景色が現れた。そして巨大な戦艦らしき建造物の甲板に二人は
下ろされた。
「ちょっと、いったいここはどこなのよ。私たちをどうするつもりなの。」
ソフィアの質問に対し、
「この船はエスパレス海軍第一空母打撃軍の旗艦空母ヘラクレスの甲板だ。
そして私はその海軍の将軍を務めるマヤ・ルクレールだ。何も心配するな。ここは
世界で一番安全な場所の一つだ。二人とも、まずは怪我を治療するといい。特に
銀髪のお嬢さん。あなたは、かなりひどい骨折をしている様子だ。」
先ほどまでの出来事に加え、聞いたこともない国、そして船。
「少し混乱しているようだな。仕方がないか。おい、そこの者。この二人を医務室に
連れて行け。」
マヤの命令を受けて兵士が
「二人ともこちらへどうぞ。銀髪のお嬢さん、肩に手をかけてください。」
ソフィアは兵士の言われるまま肩に手を乗せると兵士はソフィアを軽々と持ち上げた。
医務室までは歩いて5分ほどで着いた。医務室のベッドに兵士はソフィアを
横にすると
「では私はこれで失礼します。」
そう言い兵士は医務室から出て行った。すると今度は白衣を着た軍医らしき人が
入ってきた。
「けが人ってあなたたちね。すぐ検査するからそこの黒髪の子もベッドに
横になってね。」
すみれは言われたとおりベッドに横になる。すると上からUFOみたいなものが
現れてすみれやソフィアの上を頭からつま先までをほんの数秒で駆け抜けた。
「はい、検査おしまい。二人とも何ヶ所か骨折しているけど内臓には異常なし。
運がいいわ。この様子だと二、三日もあれば完治するわ。」
二、三日ですって。そんなバカな。すみれは驚きの表情をする。
ソフィアも同じだった。
「二人ともどうしたの、そんなに驚いた顔をして。」
「骨折って治るのに普通一ヶ月はかかりそうなものだけど」
ソフィアの疑問に
「この回復プールの中に入ってもらうのよ。」
軍医はそういうと二人を案内した。それは巨大な金魚鉢のような形をしており、
液体がなみなみと入っていた。
「この液体は人工体液の一種で、この中に入ると怪我が通常より100倍近く早く
回復するのよ。」
「あの、呼吸器見たいのはつけるんですよね。」
すみれの質問に
「入ってみれば分かるけど、この液体の中で呼吸はできるから心配いらないわ。
他に質問ある?」
またもやすみれが
「あのお、この中って裸ですよね。」
「そうよ、でも大丈夫。カーテン閉めるから。それにこの医務室は女性専用だし。
あと一人一台ずつだから心配しないで。」
二人は別々に個室に入る。外からはかすかに衣擦れの音がする。ガタンと個室の
ひとつから大きな音が聞こえてきた。
「ソフィアちゃん大丈夫。」
「う~ん、何とか。片足で脱いでいたらバランス崩しちゃった。」
「ならいいけど。」
すみれは入ってきた扉とは別の扉をガラガラと開けるとそこには回復プールがあり、
さらに四角いボードがあり、ボードには手を表したようなものが書かれてあった。
「すみません。これどうすればいいんですか」
すみれが大きめの声を出して軍医に聞く。
「手が描いてあるところに手を置いて。そうすれば中には入れるわ。」
すみれは恐る恐る指示されたところに手を乗っける。次の瞬間、すみれはその
回復プールの中に移動していた。えっ、
いつの間に?
どうやって?
あっ、本当だ。息ができる。目を開けても痛くない。それに何かすごく安心する
気がするのは何でだろう。そうだ。
えいっ!
すみれは、くるっと宙返りをする。
楽しい。よしっ、もう一回。すみれは宙返りを何回もする。ふう、さすがに疲れたわ。眠くなってきちゃった。それから数分後、すみれは眠りについた。ソフィアのほうも
初めはすみれと同様に、いつの間にプールに入っていること、呼吸できること
そして目を開けても痛くないことに驚いた。何よこれ、どうなってんの。
でも不思議だわ。痛みがすうっと引いていく気がする。
そうだ!
ソフィアはクロールをやってみる。足は動かなかったが前には進む。だが、
泳ぐほどの広さはないのですぐに手は端っこにぶつかってしまった。ふと横を
見ると、反射された自分の体が映し出されていた。あ~あ、あざだらけだわ。
それに足は折るわ肋骨は折るわ、よく生きているな私。顔に傷がないから服で隠せば
問題ないわよね。よしっ、合格。生きていることにマジ感謝。すこし疲れたし
少し休むか。ソフィアは横になる。よほど疲れたのだろう。数分後にはすうすうと
寝息をたてていた。
「どうだ二人の様子は」
マヤが軍医に尋ねる。
「よほど疲れたのでしょう。二人とも寝ております。」
「そうか、では二人の面倒を頼むぞ。」
「かしこまりました。マヤ将軍はこれからどちらへ」
「オットー元帥から命令が下されてな。しばらく留守にする。」
「さようですか。ではお気をつけて。」
マヤは医務室を出ると命令を遂行しに目的地に向かった。オットー元帥の命令、
それはレベッカと共にアラスト星人の基地を制圧せよとのことである。




